Skip to content
メニュー

PDFで表示 でシェア

問題の概要

1 通報者による提訴とその判決

私は、ENEOSの従業員であり、勤務先の内部通報制度を利用した通報者です。その過程で、通報者に誤解を与えるような、選別的・誘導的な通知がなされるという問題に直面しました。

この問題を正面から問うため、通報に対する調査結果や是正措置等を通報者に適切に知らせなかったことを「通知義務違反」として訴訟を提起しました(東京地裁)。

しかし、裁判所は、「通報制度は通報者のために設けられたものではない」「通報者は調査結果に対して法的利益を有していない」として、私の訴えを棄却しました。

令和7年3月31日判決(3月19日終結 坂巻陽士裁判官) 

2 判決が示す制度の限界

この判決から明らかになったのは、通報者が「自らの通報がどのように扱われたのか」を知る権利や利益が、法的に保護されていないという制度の実情です。

その結果、実際の運用においては、選別的・誘導的な通知だけが通報者に示されたりするといった事態が現に発生しています。こうした不誠実な対応は、業務上で発生した不正と向き合う通報者の心理的安全性を損ないます。

通報者が不誠実な対応を受けて不安を抱き、自力で証拠を収集するしかない状況に追い込まれる例も見られます。しかし、本来、通報制度とはそのような過度な負担を通報者に強いる制度であってはなりません。

3 CGコードと会社の主張

ENEOSは、自身の「コーポレートガバナンスに関する基本方針」において、東京証券取引所が定める「コーポレートガバナンス・コード(CGコード)」のすべての原則に応諾すると公表しています。

ところが、私の指摘に対し、ENEOSは、「CGコードには法的拘束力がない」「実施しない場合の罰則がない」「実施しない説明を行わない場合は公表措置にとどまる」と主張しました。

これはつまり、罰則等がないことにより、「守ると宣言しても、実際には守らなくてもよい」という態度を示しているに等しいといえます。

  • 東京証券取引所 コーポレートガバナンス・コード 【原則2-5.内部通報】
    上場会社は、その従業員等が、不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。

4 法制度の不備が生む問題

CGコードだけではありません。公益通報者保護法も、通報窓口の整備を企業に義務付けてはいるものの、調査を行わない場合の理由説明や調査結果の通報者への通知については、罰則が存在しません。

ENEOS側の主張にも表れているとおり、こうした制度上の不備は、企業に対し、通報者への誠実な情報提供を回避する余地を与え、ひいては内部通報制度そのものの形骸化を招く要因となっています。

その結果、通報者は、「調査結果について何が調査対象とされたのかが不明」「調査が行われない場合の具体的理由が不明」といった不透明な状況に置かれています。

5 導かれかねない逆転論理

公益通報者保護法は、「匿名による通報」や「報道機関への通報」も一定の要件のもとで保護対象としています。

そして、本件の判決が示したとおり、現行の法制度のもとでは、「通報者のために設けられたものではない」といった理由により、通報者に対する対応が不誠実か否かは問われないのが実情です。

このような状況のもとでは、「不誠実な通知を受けたくなければ匿名で通報すればよい」「適切な対応が得られないなら報道機関に通報すればよい」といった逆転した論理が導かれかねません。

6 結論として伝えたいこと

従業員による公益通報・内部通報の多くは、通報者が日々の業務を通じて発見した不正を報告するものです。

そうした通報に対し、通報者を情報から排除したうえで、選別的・誘導的な情報のみを提供する対応は、通報者の職場における心理的安全性に深刻な影響を与えます。

制度が形式的に運用され、調査に関する説明も不十分なまま処理される現状、そして、それを可能にする余地を与えてしまう法制度のあり方こそが、問われるべき問題だと考えています。

サイトマップ

 Home

問題の概要

背景と事実

主張と判決文

ENEOS側の主張

通報者側の主張

東京地裁判決

主張と認否(主張書面全文)

株主総会