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通報者側の主張書面

控訴理由補充書(2)

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控訴理由補充書(2)

令和7年7月14日

東京高等裁判所第7民事部 御中

本書では、特に断らない限り、一審判決、控訴理由書、控訴理由補充書(1)及び本件規程で定義された用語を用いる。

目次

第1 本補充書の作成趣旨

第2 本件における主要争点の再整理

第3 争点は「判断の妥当性」ではなく「通知義務の不履行」である

1 「判断」と「通知」の整理のあり方

2 通報・判断・通知を区別する必要性

3 争点は通知義務の履行の有無である

第4 結語

第1 本補充書の作成趣旨

本補充書は、審理の明確化を図る観点から、控訴人の令和7年6月6日付控訴理由書の主張を踏まえ、争点を簡潔に整理する。

第2 本件における主要争点の再整理

本件における控訴人の主張は、被控訴人が、本件調査報告において、控訴人に対し、「コンプライアンス違反となる事項ではない」と判断した対象事項の具体的内容を明らかにせず、実際に実行した本件規程に基づく是正措置及び再発防止策、又は対応策(JXA送金措置、本件返金措置及び本件契約締結)を通知しなかった点にある。

一審判決は、「被告社内の内部通報制度は、基本的に、被告が不正行為等を早期に発見し、自らそれを是正して被告等の業務の適正化を図るために設けられたもの・・・」と判示している ※1 。仮にこの判断に基づき、「調査の実施」それ自体については、被控訴人と通報者との間に権利義務関係又は信義則上の義務が存在しないと解されるとしても、実名通報者に対して本件規程に基づく「調査結果等の通知」を行うことは、制度上当然に予定されていた通報者保護の一環であり、この点については、両者の間に、少なくとも信義則上、又は規程に基づいて効力を生ずる義務として、具体的な権利義務関係が成立していたと解すべきである。

しかしながら、一審判決においては、通報者に対する通知義務の有無という本件の本質的な争点について、正面からの判断が示されていない。したがって、控訴審においては、まず本件規程に基づく「調査結果等の通知」に関する法的義務の有無を検討し、さらに、当該通知において具体的に何をどこまで通知すべきかについても検討する必要がある。

第3 争点は「判断の妥当性」ではなく「通知義務の不履行」である

1 「判断」と「通知」の整理のあり方

一審判決は、次のとおり判示している ※2

「原告は、要するに、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実が存在したのに、本件各調査報告において、被告がその事実がない旨判断し、それを前提とする対応をしたことが本件規程及び行動基準の違反である旨を主張しているから・・・」

しかし、控訴人が本件で問題としているのは、被控訴人の「判断」の妥当性ではない。本件各調査報告において行われた「通知」の内容が不適切であり、本件規程に基づき通報者に対してなされるべき「調査結果等の通知」を行う法的義務が果たされなかった点に問題があると主張している。

なお、念のため付言すれば、調査報告において行われるのは「判断」ではなく「通知」である。もっとも、通報を受けた側が判断を行っても、その内容を通報者に通知しない場合もあり得る。一審判決における「原告の主張」の整理は、「判断」と「通知」とを明確に区別しておらず、その理解にはやや困難を伴う。

本件は、通知義務の有無について争っているので、調査における判断の内容と通知された内容を区別すべきである。したがって、控訴審においては、これらを明確に区別し、検討し直す必要がある。

2 通報・判断・通知を区別する必要性

また、一審判決は、次のとおり判示している ※3

「被告がGSTを支払ったことがコンプライアンス違反となる事項ではない旨(本件調査報告)、GSTの還付をするかは任意であり、還付を受けないままでも不正行為等には当たらない旨(本件追加調査報告)の各判断をしたことが不相当であると認めるに足りる的確な証拠もない」

しかしながら、控訴人は、「被控訴人がGSTを支払ったこと」自体について、「コンプライアンス違反となる事項ではない」と判断されたとは主張しておらず、証拠上もそのような判断がされた事実は確認されない。

また、被控訴人の主張に照らすと ※4 、一審判決は、通報の内容、調査における判断の対象、通報者に通知された調査結果の対象とを区別せずに判示しているといわざるを得ず、その点が判示内容の理解を困難にしている。

そもそも、通報の内容、調査における判断の対象、通報者に通知された調査結果の対象は、それぞれ一致しない場合もあり得る。したがって、控訴審においては、これら三者を明確に区別した上で、改めて検討する必要がある。

3 争点は通知義務の履行の有無である

一審判決は、「原告の主張」の整理の際に、「その事実がない旨判断し」「各判断をしたこと」など、「判断」という表現を用いている。

しかし、控訴人が本件訴訟において問題としているのは、被控訴人が本件通報に受けて、実際に本件規程に基づく是正措置及び再発防止策、又は対応策(JXA送金措置、本件返金措置及び本件契約締結)を実行したにもかかわらず、その対応内容を通報者である控訴人に対して適切に通知しなかったという点にある。

したがって、本件における争点は、被控訴人の「判断の妥当性」ではなく、控訴人に「通知すべき事項を通知しなかった」という通知義務不履行である。

第4 結語

以上のとおり、一審判決には控訴人の主張の理解に齟齬があり、争点の捉え方にも不十分さが認められる。控訴審においては、控訴人の主張構成に基づいた審理が尽くされ、実名通報者に対して「調査結果等の通知」を行う法的義務の有無が正面から判断されることを求める。

以上

控訴理由補充書(1)

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控訴理由補充書(1)

令和7年7月14日

東京高等裁判所第7民事部 御中

本書では、特に断らない限り、一審判決、控訴理由書及び本件規程で定義された用語を用いる。

目次

第1 本補充書の作成趣旨

第2 各通報に対する公益通報者保護法の適用

1 「指針の解説」における「指針の趣旨」の適用

2 改正公益通報者保護法第11条第2項の適用

3 控訴人の主張は改正法の遡及適用を意味するものではないこと

第3 「責任ある調査・フィードバック」の記載時期と本件規程の解釈

第4 対外的公表と制度運用実態に照らした通知義務の存在

1 対外的公表に関する被控訴人の指摘と事実関係の整理

2 CGコードの全原則応諾と信義則に基づく通知義務

3 実名通報者に対して「調査結果等の通知」を行う義務の根拠

第5 「調査結果等」として控訴人に通知すべき事項の存在

1 GST支払をめぐる事実関係と本件規程上の位置付け

2 事実関係の整理に基づく本件規程上の該当性の検討

第6 調査対象及び通知内容の明確化に関する検討の要請

1 被控訴人の反論の不十分性

2 通知の在り方に関する制度趣旨と実名通報者の法的利益

3 裁判所への検討の要請

第1 本補充書の作成趣旨

本補充書は、被控訴人の令和7年7月10日付控訴答弁書における主張を踏まえ、控訴人の主張を補足するものである。また、本件通報に対する被控訴人の対応に関し、争いのない事実を時系列で整理した上で、本件規程に基づき、「調査結果等」として控訴人に通知すべき是正措置及び再発防止策、又は対応策が存在したことを明確にする。

第2 各通報に対する公益通報者保護法の適用

1 「指針の解説」における「指針の趣旨」の適用

控訴人による各通報と公益通報者保護法との適用関係は、以下のとおりである。

➀ 本件通報(平成28年) ・・・ 改正前の公益通報者保護法が適用される。

➁ 本件追加通報(平成30年) ・・・ 同上。

➂ 本件再追加通報(令和6年) ・・・ 改正後の同法及び法定指針が適用される。

また、消費者庁が公表した資料のとおり ※1 、「指針の解説」は、指針を遵守するための考え方や具体例及びその他の推奨される考え方や具体例を示すものであり、指針等検討会報告書の内容に、民間事業者向けガイドラインを統合して作成されたものである。 

確かに、同解説には「改正法施行時から適用される」旨が明記されているが、たとえば同解説第3Ⅱ3⑵「是正措置等の通知に関する措置」の➁「指針の趣旨」に示された内容は、上記➀ないし➂の各通報に対する対応に共通して当てはまる考え方であり、本件規程に定められた「調査結果等の通知」の解釈にあたっては、改正法施行前後を通じて「指針の解説」を参照することは合理的である。

また、消費者庁の「公益通報ハンドブック」(甲37)の発行年は令和4年であるとの被控訴人の指摘については ※2 、実際の発行年は平成29年である ※3 。同書に記載された「通報への対応状況を通報者へ伝えることは、通報者の通報窓口への信頼を確保するためにも必要と考えられます。」との記載も、上記①ないし③の各通報に対する対応に共通して当てはまる考え方である。

2 改正公益通報者保護法第11条第2項の適用

被控訴人も認めるとおり ※4 、控訴人は、令和6年5月22日、本件再追加通報において、被控訴人に対し、本件GST支払の事実を告げている。

しかしながら、被控訴人は、控訴人に対し、実行していた本件返金措置及び本件契約締結を本件規程に基づく是正措置及び再発防止策、又は対応策として通知しておらず、この点は改正後の公益通報者保護法第11条第2項(法定指針第4の3 ⑵ )に違反するものである。

3 控訴人の主張は改正法の遡及適用を意味するものではないこと

控訴人は、各通報時点における適用法令を前提としつつ、本件規程に定められた「調査結果等の通知」が改正法施行前後を通じて実質的な変更が加えられていないないことを踏まえ、本件規程の解釈にあたり、法定指針及び「指針の解説」を参照することが合理的であると主張している。

したがって、控訴人の主張は、改正法の遡及適用を意味するものではない。

これに対して、被控訴人の主張は ※5 、控訴人が改正法の遡及適用を主張しているかのような印象を与える表現であり、裁判所に誤解を招く可能性がある。

裁判所におかれては、単に改正法の施行時期といった形式的事情にとらわれることなく、継続的な運用実態、通報者に対する通知を定める趣旨、ならびに実名通報者における合理的期待といった実質的要素を踏まえ、本件規程に定められた「調査結果等の通知」を行う義務の有無を判断されるよう求めるものである。

第3 「責任ある調査・フィードバック」の記載時期と本件規程の解釈

被控訴人は、「従業員向け制度説明資料」において「責任ある調査・フィードバック」の実施を記載していたのは一定期間に限られる旨を主張する ※6

しかしながら、資料に記載された被控訴人による「責任ある調査・フィードバック」の実施とは、本件規程の解釈を示したものである。

本件規程は、当該記載が従業員に周知される前から既に存在しており、当該記載が周知された時点を含む前後の期間においても、本件規程における調査及びフィードバックに関する規定に実質的な変更は加えられていない。

加えて、被控訴人が、当該記載による本件規程の解釈を撤回又は修正したことを周知した事実も存在しない。

したがって、当該記載の時期をもって制度趣旨や実施義務の有無を左右することはできず、「責任ある調査・フィードバック」との本件規程の解釈は、本件通報、本件追加通報及び本件再追加通報に対する対応にも適用されるべきである。

第4 対外的公表と制度運用実態に照らした通知義務の存在

1 対外的公表に関する被控訴人の指摘と事実関係の整理

⑴ 被控訴人は、「本件通報及び追加通報並びにこれらに係る調査結果の回答又は通知は、控訴人の指摘するENEOSHDによる「対外的公表」の前になされたものである。」と指摘する ※7

正確には、控訴人が例示した「JXTGエネルギー CSRレポート2017」の発行日は2017年11月であり、その対象期間は、「2016年4月から2017年3月まで(ただし、一部2016年3月以前や2017年度以降の活動や予定も含まれます。)」と明記されている ※8

⑵ 被控訴人は、「「コンプライアンスの徹底」に関し、ENEOSHDが「コミットメント」を社外に公表したのは、令和5年以降のこと」と指摘する ※9

正確には、被控訴人等は、「新日本石油グループCSRレポート2005」においても ※10 、トップコミットメントとして「コンプライアンスの徹底」を表明しており、以降継続的に「コンプライアンスの徹底」を表明している。

2 CGコードの全原則応諾と信義則に基づく通知義務

被控訴人は、企業ホームページにおいて、「ENEOSグループのコーポレートガバナンスに関する基本方針」を公表し、その中で、CGコードの全ての原則に応諾することを基本方針とし、これを実践すると明言している。

企業ホームページにおける公表は、被控訴人が法令遵守の実現に真摯に取り組む企業であるとの印象を従業員を含むステークホルダーに与え、被控訴人自身の信用向上を図る目的を有することは明らかである。

こうした公表に接した従業員は、本件規程に基づいて適切な対応がなされるとの信頼から、実名で通報した場合には、本件規程に基づき、「調査結果等の通知」が行われる際には、実際に実行した是正措置及び再発防止策、又は対応策等、一定の情報が通知されるものと期待するのが自然かつ合理的である。

にもかかわらず、被控訴人は、本件のように制度運用の誠実さが問われる場面において、CGコードについて「法的拘束力がない」「罰則はない」「公表措置にとどまる」と述べ、実質的な履行を軽視し、通報者への説明責任を否定する態度を示している ※11

このような主張は、被控訴人が自ら掲げた「全原則に応諾する」との方針と明らかに矛盾しており、少なくとも、被控訴人は、信義則に基づき、実名通報者に対して調査結果等を通知すべき義務を負うものと解すべきである。

3 実名通報者に対して「調査結果等の通知」を行う義務の根拠

実名による通報を行った者に対して「調査結果等を通知する」旨は、本件規程に明記されており、従業員向けの制度説明資料では赤字で強調されている。さらに、被控訴人自身が、企業ホームページやESG/CSRレポート等において、内部通報制度の運用を対外的に繰り返し公表してきた事実も存在する。

また、被控訴人も認めるとおり ※12 、控訴人が一貫して公表してきた「コンプライアンスの徹底」には、被控訴人が、本件規程に基づいて内部通報制度を適切に運用することが当然に含まれる。

以上の事実に照らし、本件規程の継続的な運用実態、通報者に対する通知を定める趣旨、そして実名通報者における合理的期待等を総合的に考慮すれば、被控訴人は、実名通報者に対して「調査結果等の通知」を行う義務を負っていたものと解すべきである。

第5 「調査結果等」として控訴人に通知すべき事項の存在

1 GST支払をめぐる事実関係と本件規程上の位置付け

まず、控訴人が一審で述べたとおり ※13 、オーストラリアのGST法38条の1及び関連論文に照らせば(甲33及び甲34)、本件取引先に対するGST支払は、同法又は契約に違反する可能性があり、本件規程に基づく「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」に該当する。

そして、本件取引先に対するGST支払が法令等に違反する事実である場合、本件返金措置及び本件契約締結は、本件規程3.6 ⑴ イに基づく是正措置及び再発防止策に該当する。また、違反のおそれがある場合であっても、同ウに基づく対応策に該当する。

さらに、JXAが、平成29年7月31日に本件GST支払(平成27年11月6日のGST支払分)と同額の金銭を被控訴人に送金していることも(以下「JXA送金措置」という。)、上記と同様に、本件規程に基づく是正措置及び再発防止策、又は対応策に該当する。

なお、本件GST支払と同額の金銭をJXAが被控訴人に送金した事実については、控訴人が一審で主張しており ※14 、その事実は被控訴人の会計システム上で確認されている。そして、これに対して被控訴人が争わなかったことから、当該事実については自白が擬制されている。ただし、その金銭の具体的な流れについては、証拠等により確認されていない。

また、本件調査報告書における「還付可能であることを確認している付加価値税の還付を含め、今年度上期を目途に対応完了予定であることを確認した」との記載については、当該確認事項が本件取引先に対するGST支払に関する対応を指すのか否かが明確でない。そのため、当該記載をもって控訴人に対して、本件取引先に対するGST支払に関する対応の通知が行われたとはいえない。

2 事実関係の整理に基づく本件規程上の該当性の検討

一連の経緯について争いがない事実を整理すれば、表10のとおりである。

表10の内容を踏まえると、被控訴人は、控訴人の通報を受けた後、上司Aとの協議を経て、次の措置を講じている。

➀ 平成27年11月分のGST支払分について:JXA送金措置

➁ 平成29年1月から4月にかけてのGST支払分について:本件返金措置

➂ 従前の契約終了後、GSTに関する定めを含む契約の締結:本件契約締結

控訴人が本件通報を通じてGST支払の存在を告げた後、当該支払に相当する金額が被控訴人に返還され、さらに契約内容の見直しが行われていることからすれば、被控訴人は、控訴人の通報を契機として、本件取引先に対するGST支払の適正性に関する一定の検証を行い、その結果に基づいて是正措置及び再発防止策、又は対応策を講じたものと推認するのが自然である。

したがって、本件取引先に対するGST支払には、オーストラリアのGST法又は契約に反するなど、その適正性に問題があった可能性が高い。そして、上記一連の対応は、本件規程に基づき、「調査結果等」として控訴人に通知すべき是正措置、再発防止策又は対応策に該当する。

表10.本件通報に対する対応に関する経緯(争いのない事実)

平成27年11月6日 ( 支払➀ )控訴人は、本件取引先に対してGSTを支払う手続をした。
平成28年9月14日 控訴人は、本件通報及びこれに関する控訴人と被控訴人とのやり取りを通じて、被控訴人に対し、本件GST支払の存在を告げた。
平成29年1月~4月 ( 支払➁ )控訴人は、本件取引先に対してGSTを支払う手続をした。
平成29年2月7日 被控訴人は、本件通報を受け、調査補助者と上司Aが協議を行うという対応を行った。
平成29年3月9日 被控訴人社内で、「GSTの業務」を控訴人が所属するグループから他のグループに移管する旨を通知する電子メールが送信された。なお、控訴人は、「GSTの業務」の具体的内容を知らされていない。
平成29年5月 ■本件返金措置
被控訴人は、平成29年5月の本件取引先の請求から同年1月から4月にかけてのGST支払分( 支払➁ )を差し引くという措置を講じた。
平成29年7月31日 ■JXA送金措置
被控訴人は、JXAが平成27年11月6日のGST支払分( 支払➀ )と同額の金銭を被控訴人に送金するという措置を講じた。
平成30年3月31日 被控訴人と本件取引先との間で締結したGSTに関する定めが存在していない契約の契約終了日。
平成30年9月13日 ■本件契約締結
被控訴人と本件取引先との間で「オーストラリア国外の顧客に対するサービス提供費用には、オーストラリアGSTを課さない。なお、本件取引先がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する」との新たな契約条項が明記された契約を締結した。

第6 調査対象及び通知内容の明確化に関する検討の要請

1 被控訴人の反論の不十分性

控訴人は、被控訴人が本件調査報告において「コンプライアンス違反となる事項ではない」と判断した対象事項の具体的内容を明らかにしていないと主張している ※15 。これに対し、被控訴人は、通報フォームや調査補助者への提供情報のうち「不正行為等」に関する情報が判断の対象であった旨を述べているが ※16 、調査事項が具体的に示されているとはいえない。

したがって、この被控訴人の反論は、控訴人の指摘に実質的に応答したものとはいえず、主張の核心に正面から応じたものとは評価しがたい。

2 通知の在り方に関する制度趣旨と実名通報者の法的利益

「指針の解説」第3Ⅱ1⑶「公益通報対応業務の実施に関する措置」➂には、「公益通報者の意向に反して調査を行うことも原則として可能である」との記載があり、通報を受けた側が調査事項を決定することが予定されている。

このような制度構造のもとでは、調査の結果を通報者に通知する際、通報に係る情報のうち、どの部分が調査事項とされたのかについて、一定程度具体的に示すことが求められる。これを欠く場合、通報者は自らの通報がどのように扱われたのかを把握できず、結果として心理的安全性が損なわれるおそれがある。

特に、実名で通報を行った場合には、その通報が適切に調査され、必要な措置が講じられたか否かを知ることについて、通報者は正当な関心を有する。

前記第5の2で述べたとおり、本件においては、本件取引先に対するGST支払に関して一定の対応が講じられているところ、実名で通報を行った控訴人には、これらの対応内容と併せて、GST支払の適正性に関する判断の有無及びその内容について、通知を受ける法的利益があると解すべきである。

3 裁判所への検討の要請

以上を踏まえ、控訴審においては、通報者に対する調査結果の通知の在り方、特に実名通報者に対して「何を」「どこまで」通知すべきかという点について、本件規程において実名通報者に対する「調査結果等の通知」を定めている趣旨に照らした一定の判断又は見解を示されるよう求めるものである。

以上

控訴理由書

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控訴理由書

令和7年6月6日

東京高等裁判所第7民事部 御中

目次

第1 はじめに

第2 控訴の理由

1 「調査結果等の通知」は法的義務であること

⑴ 「調査結果等の通知」は、法令に基づく被控訴人の義務である

⑵ 本件規程の解釈及び被控訴人自身の表明から導かれる義務及び責任

⑶ 実名を開示して通報を行った者に対する義務の発生と合理的期待の形成

⑷ 被控訴人等の対外的表明による合理的期待の形成

⑸ 小括

2 「調査結果等の通知」に違反する行為の存在

⑴ 一審判決の読み替えによる誤り

⑵ 通知義務は契約違反及びその違反のおそれにも及ぶ

⑶ 本件返金措置及び本件契約締結は、本件規程に基づく対応策等である

⑷ 本件規程に基づく是正措置及び再発防止策、又は対応策の不通知

⑸ 小括

3 「調査結果等の通知」に違反する行為が控訴人に及ぼした影響

⑴ 控訴人の認められるべき法的利益

⑵ 控訴人の法的利益の侵害

⑶ 控訴人の心理的安全性の侵害

⑷ 小括

第3 結論

第4 控訴人の主張と一審判決の解釈との相違について

文末脚注

第1 はじめに

本書では、令和6年(ワ)第24718号の令和7年3月31日判決については、「一審判決」と略して記載し、一審判決を引用する際には「一審判決〇頁」のように記載する。また、特に断らない限り、一審判決が用いたのと同様の用語及び本件規程(乙1)で定義された用語を用いる。

被控訴人が控訴人に対し、人事部長承認済みのメールで、被控訴人の社内文書を証拠として提出する行為が、会社との信頼関係を損なうものとして、懲戒処分に該当する可能性があるとの通知をしている。加えて、被控訴人は、控訴人に対し、代理人を通じて、控訴人が主張する社内規程や社内文書の内容について、被控訴人が否認や主張を行っていない場合には、当該事実に争いがないものとして立証は不要である旨を告げている。

控訴人としては、社内文書を証拠として提出することが懲戒処分の対象となり得る旨の被控訴人の指摘を踏まえ、まずは、各事実関係について争いの有無を整理した別紙(文末脚注)を作成し、被控訴人の認否を確認した上で、必要に応じて追って証拠を提出する予定である。

第2 控訴の理由

1 「調査結果等の通知」は法的義務であること

⑴ 「調査結果等の通知」は、法令に基づく被控訴人の義務である

一審判決は、「通報者との関係においては、通報を行ったことを理由とする不利益な取扱いを禁止し、調査結果等を通知することとされているにとどまることが認められる。」と判示している。※1

しかしながら、一審判決において「とどまる」とされている「通報者に対する不利益取扱いの禁止」及び「通報者に対して調査結果等を通知すること」(以下、本件規程3.6 ⑴ に基づく「調査結果等の通知」及び改正後の本件規程に基づく「調査結果等の通知」を総称して「調査結果等の通知」という。)は、公益通報者保護法及び同法に基づく法定指針(以下「法定指針」という。)に事業者の義務として規定されている。

加えて、被控訴人は、ENEOSホールディングス株式会社(以下、被控訴人及びそのグループ会社を総称して「被控訴人等」という。)の企業ホームページにおいて、被控訴人における内部通報制度(以下、単に「内部通報制度」という。)が公益通報者保護法に則した制度である旨を公表している(以下、このような企業ホームページ上の表明を「対外的公表」という。)。※2

このような対外的公表に照らせば、本件規程は、単なる企業内部の自律的規範にとどまるものではなく、公益通報者保護法、法定指針、指針の解説及び民間事業者向けガイドラインに準拠して制定された規程であることが明らかである。

したがって、内部通報制度における「調査結果等の通知」は、被控訴人自らが「法令に則した制度」と位置付けてる制度における法令に基づく被控訴人の義務である

⑵ 本件規程の解釈及び被控訴人自身の表明から導かれる義務及び責任

前記 ⑴ で述べたとおり、被控訴人は、自らの内部通報制度が公益通報者保護法に則した制度であると公表している。 令和4年の改正公益通報者保護法(以下「改正法」という。)施行に伴い、本件規程にも新たに「従業員等」や「レポーティングライン」の定義等が追加されたが、「調査結果等の通知」に関しては、通知事項など特段の変更が加えられていない。※3

したがって、法定指針第4の3 ⑵ に規定された「是正措置等の通知に関する措置」は、改正法の施行前後を通じて、本件規程に基づく「調査結果等の通知」と整合するものであり、「調査結果等の通知」の解釈にあたって指針の解説を参照することは合理的である。

そして、指針の解説20頁第3Ⅱ3 ⑵ ➁「指針の趣旨」に照らすと、事業者から情報提供がなければ、通報者が対応状況を把握できない場合が多いため、事業者は、対応結果及びこれに関する措置を通報者に通知する必要があるとされている。

さらに、被控訴人は、改正法を内部通報制度に反映させる以前、➀従業員向けに設けられた被控訴人社内のイントラネット上の内部通報制度専用ページ、➁制度に関する研修資料、➂制度の利用件数を定期的に公表する文書(以下、これらを総称して「従業員向け制度説明資料」という。)において、いずれも被控訴人による「責任ある調査・フィードバック」の実施を明記していた。また、本件規程の各項番を示して解説する資料においても、本件規程3.6の解釈として、「通報後は責任ある調査・フィードバックを行います。」と明記されていた。※4

以上のとおり、「調査結果等の通知」を行う義務及び責任については、法定指針及び指針の解説から導かれる解釈のみならず、従業員向け制度説明資料にも明示されており、被控訴人は、改正法の施行前から、「責任ある調査・フィードバック」を実施する責任を自らに課していたことが認められる

⑶ 実名を開示して通報を行った者に対する義務の発生と合理的期待の形成

従業員向け制度説明資料には、「クリックして内容を必ずご確認下さい。」との赤字表示付きで示したリンクが記載されており、そのリンク先には、「通報後は責任ある調査・フィードバックを行います!」との文言が明記されている。このフィードバックの対象については、「(実名で通報した場合のみ)」との赤字による注記が付されており、加えて「匿名の場合、通報窓口からあなたへの通知(通報を受け付けたこと・調査結果など)は行うことはできませんのでご注意ください。」との注意書きも併記されている。さらに、上記以外の従業員向け制度説明資料においても、被控訴人が「責任ある調査・フィードバック」を実施する旨の記載とともに、「実名通報の場合は、調査結果のフィードバックを実施する」旨が明記されている。※5

さらに、被控訴人等の内部通報制度に関する対外的公表において、「実名での通報者に対しては調査結果をフィードバックしています。」と記載しており、本件通報当時の「JXTGエネルギー CSRレポート 2017」における「 コンプライアンスホットライン 通報フロー図」にも、「調査結果等の通知(実名通報者のみ) 」との記載がある。※6

本件規程3.6 ⑴ にも実名通報者に対して「調査結果等」を通知する旨の規定があり、通報者が「調査結果等の通知」を受けるための具体的な要件が明確に規定されているといえる。さらに、同アないしエには、実名通報者に対する「調査結果等の通知」の際の通知事項も明確に規定されている。

このように、被控訴人は、自ら社内外に対して、実名通報者に対する「調査結果等の通知」を行う旨を表明している。これにより、通報者においては、実名を開示して通報を行えば「調査結果等の通知」を受けられるとの期待が形成されているといえる。

したがって、通報者があえてリスクを負ってまで実名を開示して通報を行うのは、本件規程に基づく「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」について、その事実の有無及びその事実に対する措置の有無について、適切な通知がなされるとの合理的な期待に基づくものと評価すべきである

仮に、被控訴人に対して実名通報者への「調査結果等の通知」を行う義務が認められないとすれば、通報者があえて実名を開示して通報を行うことに対する合理的な動機は失われることになる。

⑷ 被控訴人等の対外的表明による合理的期待の形成

ア 被控訴人等が表明する「ガバナンス・コードの実践」について

被控訴人等は、社内外に対して公表している「ENEOSグループのコーポレートガバナンスに関する基本方針」第2章の2において、東京証券取引所が定める「コーポレートガバナンス・コード」(以下「ガバナンス・コード」という)の全ての原則に応諾することを基本方針とし、これを実践する旨を明記している。そのガバナンス・コードの【原則2-5.内部通報】は、従業員等が不利益を懸念することなく疑念を伝えることができるような運用を含めた体制整備を企業に求めるものであり、企業にその責務が課されている。※7

そして、消費者庁が公表した「公益通報ハンドブック」における記載のとおり、「調査結果等の通知」は、通報者の通報窓口への信頼を確保するために必要であると解される。※8

したがって、ガバナンス・コードの全原則への応諾を社内外に対して自ら宣言している被控訴人は、原則2-5に基づき、通報者が制度を信頼して通報を行えるよう適切に「調査結果等の通知」を行う責任を負う立場にある

イ 被控訴人等が表明する「コンプライアンスの徹底」について

被控訴人等及びその社長・役員は、社内外に対し、「コンプライアンスの徹底」に関するコミットメントを公表している。これについては、2010年(平成22年)に制定されたコンプライアンス規程6 ⑴ に、「社長は、業務上のあらゆる場面において、常に法令等を遵守し、これに違反する行為を一切行わない旨を社内外に表明し、コンプライアンスの実現に責任を持って取り組む。」との規定が置かれており、被控訴人の「コンプライアンスの徹底」ための取組みは単なる理念にとどまらず、具体的な規程にまでその責任が明示されている。また、ENEOSグループコンプライアンス活動基本規程にも同旨の内容が規定されている。※9

さらに、被控訴人等の企業ホームページの「コンプライアンス」のページには、「適切な内部通報対応」が順調に達成している旨が公表されており、被控訴人等が社内外に対して表明する「コンプライアンスの実現に責任を持って取り組む」には、被控訴人が本件規程に基づいて、その内容を適切に実施することも含まれている。※10

したがって、被控訴人自らが社内外に対し、「コンプライアンスの徹底」を表明したことにより、通報者が適切な「調査結果等の通知」を受けられると信頼することは、十分な根拠を有する自然な期待であるといえる

ウ 被控訴人等が表明する「心理的安全性の確保」について

被控訴人等及びその社長は、社内外に対して、職場における従業員の「心理的安全性の確保」のためにで「01 相手を尊重する」「02 相手の話を聞く」「03 言うべきことを伝える」という3か条を徹底的に実践することを表明している。これは、被控訴人の職場における「双方向の建設的なコミュニケーション」のための取組みである。※11

職場におけるコミュニケーションに関連して、被控訴人等の企業ホームページの「ステークホルダー・エンゲージメント」の項には、内部通報制度が従業員との「主なコミュニケーション手段」の一つであることを記載しており、本件通報当時の「JXTG REPORT CSRレポート 2017」においても、これと同様、以下引用①の記載がある。※12

従業員

JXTGグループでは、従業員を経営における重要ステークホルダーとして位置づけ、一人ひとりが安心して働き、能力を最大限発揮できるように、各種制度を 整備しています。

[主なコミュニケーション手段]

● 労働組合と経営層との定期的なコミュニケーション

● グループ報、イントラネットによる情報発信

● 従業員意識調査の定期実施

● 内部通報制度

引用➀「JXTG REPORT CSRレポート2017」14頁より

また、被控訴人等のグループCCOマニフェストにおける被控訴人等が目指すべき絵姿は、「コンプライアンスの重要性が組織の隅々までに根付くことにより、従業員が安心し、誇りを持って働ける環境を実現する。」である。※13

このように、被控訴人自身が、内部通報制度を従業員との「主なコミュニケーション手段」と位置付け、その制度運用を通じて従業員の心理的安全性を確保する姿勢を社内外に対して示している以上、通報者が制度を利用することにより、通報者が適切な「調査結果等の通知」を受けられるとの合理的期待を抱くのは当然である

エ 合理的期待の形成

以上に挙げた被控訴人による対外的公表及び制度運用に関する継続的な表明は、いずれも、通報者に対し、本件規程に基づく「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」について、その事実の有無及びその事実に対する措置の有無について、適切な通知がなされるとの合理的な期待を形成させるものである。

かかる期待は、単に通報者個人の主観的信頼にとどまらず、被控訴人の一貫した制度の運用や対外的公表に基づいて客観的に形成されたものであり、信義則上も保護に値するものである。

⑸ 小括

以上により、改正法の施行前後を通じて、

➀ 被控訴人自身の対外的公表及び従業員向け制度説明資料に明示されているとおり、被控訴人は、実名通報者に対して「責任ある調査・フィードバック」を実施する義務及び責任を自らに課し、これを表明していること

➁ 通報者においては、本件規程、従業員向け制度説明資料及び被控訴人自身の対外的公表に基づき、実名を開示して通報を行えば「調査結果等の通知」が受けられるとの合理的期待が形成されていること

との事情に照らせば、被控訴人には、実名通報者に対して「調査結果等の通知」を行う法的義務が認められるというべきである。

2 「調査結果等の通知」に違反する行為の存在

⑴ 一審判決の読み替えによる誤り

一審判決は、「被告がGSTを支払ったことがコンプライアンス違反となる事項ではない旨(本件調査報告)GSTの還付をするかは任意であり、還付を受けないままでも不正行為等には当たらない旨(本件追加調査報告)の各判断をしたことが不相当であると認めるに足りる的確な証拠もない」と判示している。※14

しかしながら、控訴人及び被控訴人のいずれも、「被控訴人がGSTを支払ったこと」自体について、「コンプライアンス違反となる事項ではない」と判断されたと主張しているわけではない。

加えて、被控訴人は、一審において、控訴人が被控訴人と本件取引先との契約の内容について調査が行われたかどうかについて確認できない状況であったことを認めている。※15

さらに、被控訴人は、未だに、本件調査報告における「コンプライアンス違反となる事項ではない」と判断した対象事項の具体的内容を明らかにしていない。

したがって、「被控訴人がGSTを支払ったことがコンプライアンス違反となる事項ではない旨の判断をした」との一審判決の判示は、当事者双方の主張及び証拠の内容を読み替えたものであり、誤りである

一審判決は、上記判示に続けて、「不相当であると認めるに足りる的確な証拠もない」とも述べているが、そもそも被控訴人が判断対象となった具体的事実を明示していない以上、控訴人に対し、不特定の判断対象について「不相当性」を立証することを求める一審判決の構造自体が不合理である。

また、「GSTの還付をするかは任意であり、還付を受けないままでも不正行為等には当たらない旨(本件追加調査報告)」について、還付の任意性の点は、そもそも不正行為等の評価の対象になり得ない。

ちなみに、本件の争点ではないが、念のため、以下を補足する。

「還付を受けないまま」との状態が不正行為等として評価され得るのは、控訴人が上司Aに対してGSTの支払(以下「GST支払」という。また、本件通報の内容であり、かつ本件の発端となったGSTの支払を以下「本件GST支払」という。)について相談した際に、上司Aの対応が、行動基準11 ⑶(「私たちは、業務上必要なすべての記録および報告を、事実に基づき、正確に、遺漏なく、かつ適時に作成します。」)に違反していたか否かが判断される場合である。本件調査報告の後、上司Aらは、控訴人に対し、GSTの還付に関する情報を共有したが、その「還付」の対象に本件GST支払が含まれていたか否かは不明確であった(甲20)。

⑵ 通知義務は契約違反及びその違反のおそれにも及ぶ

従業員向け制度説明資料においては、「法令等」について、「「法令等」には、法令のほかに社内規程類や契約なども含まれます」と明記されており、この文言には黄色のマーカーによる強調が施されている。※16

また、本件規程1.2 ⑴ においても、これと同旨の規定が存在する。

加えて、本件規程3.6 ⑴ アないしエは、「調査結果等の通知」について、通知事項を明確に規定しており、被控訴人は、「法令等に違反する事実が確認された場合」に限らず、「法令等に違反するおそれのある事実が確認された場合」においても、本件規程に基づく「調査結果等の通知」を行う義務がある。

このように、本件規程上の「法令等」には、法令に限らず社内規程や契約も含まれ、また、「調査結果等の通知」の対象も「違反の確認」に限られず、「違反のおそれ」についても及ぶことが明示されている。

したがって、「調査結果等の通知」を行う義務は、対象事実が法令等に違反するおそれのある場合にも生じるものであり、その義務の有無は、対象事実が法令違反であるか、社内規程違反又は契約違反であるかという違反類型の違いによって左右されるものではない

⑶ 本件返金措置及び本件契約締結は、本件規程に基づく対応策等である

控訴人は、本件通報及びこれに関する控訴人と被控訴人とのやり取りを通じて、被控訴人に対し、実名で本件GST支払の存在を告げていた。※17

そして、一審で述べたとおり、本件GST支払は、オーストラリアのGST法又は契約に違反する事実に該当する可能性があり、本件規程に基づく「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」に該当する。※18

被控訴人は、本件通報を受け、平成29年2月7日に調査補助者と上司Aが協議を行うという対応を行った。※19

その後、被控訴人は、同年5月の本件取引先の請求から同年1月から4月にかけてのGST支払分を差し引くという措置(以下「本件返金措置」という。)を講じた。※20

さらに、本件調査報告の後、本件取引先との従前の契約の終了後に、本件取引先と新たに契約を締結した(以下「本件契約締結」という。)。本件契約締結では、「オーストラリア国外の顧客に対するサービス提供費用には、オーストラリアGSTを課さない。なお、本件取引先がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する」との新たな契約条項が明記された。※21

この新たな契約条項は、本件取引先に対するGST支払について、従前の契約において明文化されていなかったGST支払義務の有無を明確化するものであり、本件通報及びこれに関する控訴人と被控訴人とのやり取りを契機として、GST支払に関する契約内容が見直されたことを示すものである。

以上の経緯からすれば、本件返金措置及び本件契約締結は、いずれも本件規程に基づく是正措置及び再発防止策、又は対応策に該当する

⑷ 本件規程に基づく是正措置及び再発防止策、又は対応策の不通知

前記1 ⑵ で述べたとおり、指針の解説に照らせば、本件規程に基づく「調査結果等の通知」は、事業者から情報提供がなければ、通報者が対応状況を把握できない場合が多いため、事業者は、対応結果及びこれに関する措置を通報者に通知する必要があるとされている。

そして、本件規程3.6 ⑴ エに基づく通知事項は、「本通知後、不正行為等が是正されない場合、不正行為等が再発するおそれがある場合、または通報を行ったことを理由とする不利益な取扱いを受けた場合には、再度、通報窓口に通報することが可能であること」と規定されている。

また、同3.9は、「フォローアップの実施」について規定しており、被控訴人が同3.6 ⑴ エに定める内容を含む再通報を受けた場合は、同3.1ないし3.6に基づいて対応する旨を規定している。

したがって、同3.6 ⑴ アないしウに基づく通知事項は、通報者が、契約違反及びその違反のおそれも含む「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」について、その事実の有無及びその事実に対する措置の有無を自ら判断し得る程度に、行動基準11 ⑶ が求める「正確性及び遺漏のなさ」を満たすものでなければならない。

しかし、被控訴人は、本件調査報告において、控訴人に対し、「コンプライアンス違反となる事項ではない」と判断した対象事項の具体的内容を明らかにせず、実際に実行した本件規程に基づく是正措置及び再発防止策、又は対応策(本件返金措置及び本件契約締結)を通知しなかった(乙11)。

本件返金措置については、本件メールにより控訴人と共有されたものの、同時に共有された「平成28年11月以降GSTの法改正」については、実際に当該法改正が存在したか否かが、いまだ明らかでない(甲20)。そのため、「本件GST支払を含むGST支払の法令上又は契約上の適正性(以下「GST支払の適正性」という。)」についても、不明確なままである。

なお、通報者側の通報の態様に関して、本件規程又は従業員向け制度説明資料では、通報者が本件規程に基づく「調査結果等の通知」を受けるための要件として実名通報であることを求めているが、通報者側が「不正行為等」に関連する法令等の条文や問題行為の法的構成などを特定することまでは求めていない。

また、既に述べたとおり、消費者庁が公表した「公益通報ハンドブック」や消費者庁のウェブサイトにおいても、通報に求められるのは、その後の調査や是正等が実施できる程度の具体性であり、法令等の内容を指定する必要がないとされている。※22

ちなみに、一審判決は、「調査結果等に対する不服申立てに関する規定が置かれていない」と判示しているが、本件規程3.6 ⑴ エに基づく通知事項は、同アないしウに基づく通知事項と一体として実名通報者に通知されるべきものであり、「フォローアップの実施」についても同3.9に規定している。一審判決はこの点を考慮していない。したがって、「不服申立てに関する規定が置かれていない」という状態は、通知を受ける法的利益の有無を否定する判断の一要素にはなり得ない。なお、被控訴人は、本件各調査報告において、同3.6 ⑴ エに基づく通知事項の通知も行っていない(乙11、乙12)。

⑸ 小括

以上により、まず、「被控訴人がGSTを支払ったことがコンプライアンス違反となる事項ではない旨の判断をした」との一審判決の判示は、当事者双方の主張や証拠の内容を読み替えたものであり、誤りである。

被控訴人は、本件調査報告において、控訴人に対し、「コンプライアンス違反となる事項ではない」と判断した対象事項の具体的内容を明らかにせず、実際に実行した本件規程に基づく是正措置及び再発防止策、又は対応策(本件返金措置及び本件契約締結)を通知しなかった。

したがって、被控訴人に本件規程に基づく「調査結果等の通知」に違反する行為が存在する。

3 「調査結果等の通知」に違反する行為が控訴人に及ぼした影響

⑴ 控訴人の認められるべき法的利益

従業員向け制度説明資料には、「実名通報の場合は、調査結果のフィードバックを実施する」旨の記載とともに、以下引用➁の記載がある。※23

例えばこんな時に、コンプライアンスホットラインはあなたの力になります!!

・職場で話し合っても解決できる見込みがない…

・職場全体が不正に関わっていて、とても話し合う雰囲気じゃない……

・面と向かって違反行為を指摘する勇気がない……

・ENEOSグループの別の会社の不正を見つけたが、どこに相談すればいいか分からない……

通報窓口では、「法令等違反に該当するのかよく分からない・内部通報制度の内容についてより詳細に教えてほしい」といった相談も受け付けています。 お気軽にご連絡ください。

引用➁ 「コンプライアンスホットライン(内部通報制度)とは?」より

本件GST支払は、経費支払業務に従事する控訴人の手続を経て実行されたものである。※24

控訴人は、GST支払の適正性について疑義を抱き、上司Aに相談したが、解決には至らなかった。※25

控訴人にとっては、支払業務の適正性や誤請求されやすい事項を把握しておくことが、その業務の性質上、業務を円滑に遂行し、かつ業務の正確性及び信頼性を担保する上で不可欠である。そして、本件取引先に対するGST支払が契約違反及びその違反のおそれを含む法令等違反に該当するのか否かを確認するため、控訴人は、あえて実名を開示して本件通報を行った。

前記2の ⑶ で述べたとおり、本件通報の内容に関して具体的対応が講じられていた以上、あえて実名を開示して通報を行った控訴人には、その講じられた具体的対応(本件返金措置及び本件契約締結)とともにGST支払の適正性に関する通知を受ける法的利益があると解すべきである。

⑵ 控訴人の法的利益の侵害

本件調査報告のその後、控訴人は、GST支払の適正性を確認し得ない状態に置かれたまま、平成30年11月27日及び令和6年5月22日、本件GST支払及びこれに関連する事実について、実名を開示して本件規程に基づく通報(以下、令和6年5月22日の通報を「本件再追加通報」という。)を行った。控訴人は、本件追加通報、本件再追加通報及びこれに関する控訴人と被控訴人とのやり取りを通じて、被控訴人に対し、本件GST支払の事実を告げていた。※26

しかし、被控訴人は、本件追加通報及び本件再追加通報に対しても、控訴人に対し、講じられた具体的対応(本件返金措置及び本件契約締結)とともにGST支払の適正性について通知しなかった。※27

このように、控訴人は、本件調査報告においてのみならず、その後においても、GST支払の適正性及びこれに関する本件規程に基づく是正措置及び再発防止策、又は対応策(本件返金措置及び本件契約締結)に関する通知を受ける法的利益を引き続き侵害されている。

⑶ 控訴人の心理的安全性の侵害

前記1 ⑷ ウで述べた被控訴人等の社内外に対する表明のとおり、職場における「心理的安全性の確保」には、「双方向の建設的なコミュニケーション」が必要不可欠であり、また、被控訴人自身が、内部通報制度を従業員との「主なコミュニケーション手段」と位置付けている。また、消費者庁が公表した「公益通報ハンドブック」に記載されているとおり、通報への対応状況を通報者へ伝えることは、通報者の通報窓口への信頼を確保するためにも必要である。

被控訴人は、控訴人の通報を受けて本件返金措置及び本件契約締結を実施しながらも、控訴人に対してGST支払の適正性を秘匿した。このような対応は、控訴人の制度に対する信頼を損ない、控訴人の心理的安全性を損なう結果をもたらしたものである。

⑷ 小括

以上により、被控訴人が、本件調査報告において、控訴人に対し、「コンプライアンス違反となる事項ではない」と判断した対象事項の具体的内容を明らかにせず、実際に実行した本件規程に基づく是正措置及び再発防止策、又は対応策(本件返金措置及び本件契約締結)を通知しなかったことは、その通知を受ける控訴人の法的利益を侵害したものというべきである。

さらに、このような被控訴人の対応は、内部通報制度に対する控訴人の信頼を損ない、ひいては心理的安全性をも損なう結果をもたらしたものと評価すべきである。

第3 結論

以上により、原判決は取消されるべきであり、さらに相当の裁判を求める。

第4 控訴人の主張と一審判決の解釈との相違について

一審判決では、控訴人の主張に対して控訴人の意図とは異なる解釈がなされている箇所が見受けられる。以下では、その具体的な相違点を示す。

➀ 一審判決における「➀法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実があるのに、」及び以下の枠内に示す文言について(一審判決1頁19行目以下等)、控訴人は、単に法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実のみを根拠として主張しているのではなく、被控訴人が是正措置及び再発防止、又は対応策を実行したという事実に基づいて主張しているので、「➀法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実に対して是正措置及び再発防止、又は対応策を実行したのに、」とする方が、意味の上ではより正確である。

一審判決の該当箇所

・1頁19行目以下「➀法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実があるのに、」

・6頁11行目以下「➀法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実が存在するのに、」

・7頁6行目以下「法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実であるのに、」

控訴人主張の該当箇所

・訴状11頁23行目以下、第2の5 ⑵ 「被告の本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウ違反の存在」ウないしオ

・原告第5準備書面22頁1行目以下、第2の7 ⑶ 「被告は、通報されたGSTの支払に対して是正措置及び再発防止策等を講じたにもかかわらず、原告に対しては、調査報告において、「コンプライアンス違反ではない」と通知した」他

➁ 一審判決における「被告の掲げる行動基準に違反した等と主張して、」及び以下の枠内に示す文言について(一審判決1頁25行目以下等)、控訴人は、「本件規程に基づく調査結果等の通知又はこれと同等の場面において、従業員(通報者)に対し、調査の過程において確認された事実に関して誤った認識を促すなど、行動基準第11項 ⑶ に違反する行為が存在した場合、本件規程3.6 ⑴ の違反として評価される。」(原告第5準備書面7頁7行目以下)と主張しているので、単に「被告の掲げる行動基準に違反した」とするのではなく、「被告の掲げる行動基準に違反するものであり、この違反により本件規程に基づく「調査結果等の通知」に違反する行為が存在したと評価される」とする方が、意味の上ではより正確である。なお、控訴人は、本件メールについて、「本件規程に基づく調査結果等に実質的に該当する。」(原告第5準備書面23頁22行目以下)と主張している。

一審判決の該当箇所

・1頁25行目以下「被告の掲げる行動基準に違反した等と主張して、」

・6頁16行目以下「行動基準11 ⑶ に違反したことを債務不履行又は不法行為と主張している。」

> ・6頁26行目以下「本件規程及び行動基準に違反することは、その信義則上の義務違反となる。」

・7頁17行目以下「行動基準11 ⑶ に違反したから、直ちに債務不履行となる。」

・8頁26行目以下「行動基準11 ⑶ に違反したことが契約上の義務又は信義則上の義務に違反するとして、」

・10頁5行目以下「原告は、本件規程及び行動基準の違反が直ちに被告の債務不履行又は不法行為を構成する旨主張する。」

・11頁7行目以下「原告は、本件規程及び行動基準に違反した場合、本件規程に基づく具体的な行為を行うべき信義則上の義務に違反する旨主張する。」

控訴人主張の該当箇所

・原告第5準備書面3頁5行目以下、「調査報告の内容は、行動基準第11項 ⑶ が求める「正確性及び遺漏のなさ」を満たすものでなければならない。」

・同7頁7行目以下、「本件規程に基づく調査結果等の通知又はそれと同等の場面において、従業員(通報者)に対し、調査の過程において確認された事実に関して誤った認識を促すなど、行動基準第11項 ⑶ に違反する行為が存在した場合、本件規程3.6 ⑴ の違反として評価される。」

➂ 一審判決における「行動基準は、本件規程1.2 ⑴ に定める「法令等」に含まれるから、本件規程及び行動基準に違反することは、契約上の義務違反となる。」(一審判決6頁25行目以下等)との文言について、確かに控訴人は、行動基準が本件規程1.2 ⑴ に定める「法令等」に含まれる旨を主張していたが(原告第2準備書面4頁2行目以下)、この主張は、行動基準違反が本件規程に基づく調査の対象となり得ることを理由づける趣旨で述べたものであり、当該違反が直ちに契約上の義務違反に該当するとの主張ではないので、一審判決は、控訴人の主張の趣旨と異なる解釈をしている。

➃ 一審判決における「➀支払義務がないGSTを支払ったことがコンプライアンス違反ではない又は不正行為等に該当しない旨の事実に反する内容を原告に通知し、」及び以下の枠内に示す文言について(一審判決8頁20行目以下等)、前記第2の2 ⑴ で述べたのと同様、控訴人及び被控訴人のいずれも、「被控訴人がGSTを支払ったこと」自体について、「コンプライアンス違反となる事項ではない」と判断されたと主張しているわけではないので、意味の上では異なる。

一審判決の該当箇所

・7頁7行目以下「それがコンプライアンス違反ではない又は不正行為等に該当しない旨の事実に反する内容を原告に通知し、」

・8頁20行目以下「➀支払義務がないGSTを支払ったことがコンプライアンス違反ではない又は不正行為等に該当しない旨の事実に反する内容を原告に通知し、」

・11頁9行目以下「法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実が存在したのに、本件各調査報告において、被告がその事実がない旨判断し、」

・12頁4行目以下「被告がGSTを支払ったことがコンプライアンス違反となる事項ではない旨(本件調査報告)」

以上

原告第5準備書面

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原告第5準備書面

令和7年1月30日

東京地方裁判所民事部民事第19部に係 御中

目次

第1 はじめに

第2 原告の主張

1 原告の主張の要旨

⑴ 違反の存在

⑵ 原告の損害

⑶ 結論

2 本件規程3.6 ⑴ の違反は被告の債務不履行を構成する

⑴ 本件規程違反は、法人たる被告の違反として評価される

⑵ 被告には、従業員(通報者)に対し、調査報告をする債務が存在する

⑶ まとめ

3 前回訴訟の既判力は本件訴訟に及ばない

⑴ 行為の性質及びその対象が異なり、訴訟物の同一性は認められない

⑵ 責任が生じる原因も異なり、訴訟物の同一性は認められない

⑶ 請求の法律構成も異なり、訴訟物の同一性は認められない

⑷ 被告が主張する法律構成等は、訴訟物が同一であるとの根拠にならない

⑸ まとめ

4 本件訴訟における原告の主張は、信義則に反せず、許される

⑴ 前回訴訟の判断について、事実上覆そうとするものではない

⑵ 被告の主張は、紛争の蒸し返しを裏付ける根拠として不十分である

⑶ 前回訴訟において、本件規程3.6 ⑴ の違反を主張していない理由

⑷ 原告に共有した内容が、前回訴訟における争点化に影響を及ぼした

⑸ 前回訴訟において、契約に関する文書が証拠調べされなかった経緯

⑹ まとめ

5 調査報告は、違反の有無を評価できる程度の内容を通知することが求められる

⑴ 本件内部通報制度は、従業員が安心して働ける環境を構築する目的もある

⑵ 制度の目的を実現するためには、適切な調査報告であることが不可欠である

⑶ 本件内部通報制度は、目的を実現するための具体的手段として機能している

⑷ 調査報告は、一定程度の内容を通知することが求められる

⑸ まとめ

6 本件規程3.6 ⑴ に違反する行為を正当化することはできない

⑴ 法令等や問題事項を特定していない情報であったとしても、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの通知事項を通知しなかったことの正当化にはならない

⑵ 通報者が通報情報として扱われない情報を告げていたとしても、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの通知事項を通知しなかったことの正当化にはならない

⑶ まとめ

7 被告の調査報告において、本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する

⑴ 本件通報及び追加通報は、その通報の内容だけでも、調査の過程において該当するGSTの支払を特定できる程度の具体性を有する

⑵ 本件豪州企業に対するGSTの支払自体が、少なくとも違反するおそれのある行為であり、当該行為は不正行為等に該当する

⑶ 被告は、通報されたGSTの支払に対して是正措置及び再発防止策等を講じたにもかかわらず、原告に対しては、調査報告において、「コンプライアンス違反ではない」と通知した

⑷ 被告は、GST支払自体の適正性に加えてGST還付の任意性(法令上問題とならない事項)の調査を行い、原告に対し、GST還付の任意性に関する調査結果を結論として通知した

⑸ まとめ

8 本件部長報告においても、本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する

⑴ 本件部長報告の内容は、本件規程に基づく調査結果等に実質的に該当する

⑵ 「2016年11月以降の法改正が施行された」との内容を原告に共有したが、現在に至るまで、当該法改正の存在自体が不明確である

⑶ 豪州子会社が被告のGST還付請求を代行して解決したとの内容を原告に共有したが、豪州子会社が当該代行した証拠が存在しない

⑷ GST支払分が被告に返金されたとの内容を原告に共有したが、返金された理由を曖昧化している

⑸ まとめ

第3 被告準備書面(4)及び被告準備書面(5)に対する認否

文末脚注

第1 はじめに

1 本書に用いる用語の意味

本書に用いる用語の意味を次のとおり定義する。その他の用語については、本書に別段の定義のない限り、本件訴訟において提出された被告等が定める規定類、及び本件訴訟における主張書面に定義するところによる。

➀ 本件規程2.1の通報窓口に通報を行った従業員等又は通報を行おうとする従業員等を総称して、「従業員(通報者)」又は「通報者」という。

➁ 本書における「通報情報」は、同2.6に基づく事項による通報を除外した通報にかかる情報であることを前提としている。

➂ 同3.6 ⑴ に基づく通知を「本件規程に基づく調査結果等の通知」又は「調査報告」といい、同アないしウに基づく通知事項を「本件規程に基づく調査結果等」又は「調査報告」という。

➃ 原告が、原告第1準備書面第1の3 ⑴ において定義した「調査補助者に対する追加通報」の「調査補助者に対して本件規程1.2 ⑸ に定める「通報」をした行為をいう。」とあるのを「調査補助者に対して本件規程1.2 ⑸ に基づく「通報」、通報情報の追加、補足説明、付随情報又は関連情報を告げた行為をいう。」に改める。

2 本件規程3.5等の違反について

これまでの本件規程3.5等の違反に関連する主張を取り下げ、争わない。

3 「甲27」の未提出について

裁判所より指摘を受けた「甲27」の未提出について、その理由は、被告が原告に対し、人事部長承認済みのメールで、被告の社内文書を証拠として提出する行為が懲戒処分に該当する可能性があると通知したためである。

4 原告が開設したウェブサイトについて

本書は、ChatGPT を活用して作成しており、プロンプト及び応答をリンク先( https://minnanosaiban.github.io/eneos-saiban/chatgpt )に掲載している。

第2 原告の主張

1 原告の主張の要旨

⑴ 違反の存在

被告には、本件内部通報制度の活動において、従業員(通報者)に対し、調査報告をする債務が存在する。そして、その調査報告の内容は、行動基準第11項 ⑶ が求める「正確性及び遺漏のなさ」を満たすものでなければならない。( 後記2 )

原告の通報内容は、豪州企業に対してGST(消費税に相当する税)を支払っていたという内容である。( 後記7 ⑴ )

これは、豪州GST法や契約に違反する行為、又は少なくとも違反するおそれのある行為である。( 後記7 ⑵ )

なお、原告は、上司AがGSTの支払について契約内容を確認しないことに疑問を抱いてはいたものの、通報の際は、上司A個人の行為に問題があるとされないようにと配慮し、通報用フォームの「法令等違反を行った者・部署等」の欄を空欄にした。

被告は、原告の通報を受け、「≪ 本件豪州企業 ≫ がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する( 甲21 )」との契約を締結するほか、その他の措置を講じた。( 後記7 ⑶ )

これにもかかわらず、被告は、調査報告において、原告に対し、「コンプライアンス違反ではない」と通知し、通報されたGSTの支払に対して講じた是正措置及び再発防止策等を何ら通知せず、被告において原告に共有した内容は表9のとおりであった。

表9に列挙して示した内容を踏まえると、その内容には、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させないという方向性が一貫しており、被告に行動基準第11項 ⑶ に違反する行為が存在する。

そして、調査の過程において確認された「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」を表面化させない目的で、原告に対して不適切な情報を共有した行為は、本件内部通報制度を信頼して利用した原告に対し、精神的苦痛を生じさせるものであり、「通報者に対する不利益取扱い」に該当する。

以上により、被告に本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する。

表9.被告において原告に共有した内容(時系列順)

被告は、通報されたGSTの支払に対して是正措置及び再発防止策等を講じたにもかかわらず、原告に対しては、調査報告において、「コンプライアンス違反ではない」と通知した。 後記第2の7 ⑶
GSTの支払に関して、「2016年11月以降の法改正が施行された」との内容を原告に共有したが、現在に至るまで、当該法改正の存在自体が不明確である。 後記第2の8 ⑵
豪州子会社が被告のGST還付請求を代行して解決したとの内容を原告に共有したが、被告に対する豪州子会社の送金は確認できるものの、豪州子会社が当該代行した証拠がない。 後記第2の8 ⑶
GST支払分が被告に返金されたとの内容を原告に共有したが、「返金」という表現を用いず、「精算」という表現を用いることで、返金された理由を曖昧化している。 後記第2の8 ⑷
その後に講じた「≪ 本件豪州企業 ≫ がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する(甲21)」との契約を締結するという措置について、それを原告に通知しなかった。 後記第2の7 ⑶
被告は、GST支払自体の適正性に加えてGST還付の任意性(法令上問題とならない事項)の調査を行い、原告に対し、GST還付の任意性に関する調査結果を結論として通知した。 後記第2の7 ⑷
原告が問題提起の趣旨が還付手続きに関することではなく契約内容の確認にある旨を告げた際、調査補助者は、原告に対し、契約書の記載について調査を行わない旨を通知した。 後記第2の4 ⑶
調査補助者は、原告に対し、GSTに関する定めがない契約に基づいて発注が行われたとの通知をしたが、支払済みのGSTが契約に基づいているか否かについては明言を避けた。 後記第2の4 ⑶

⑵ 原告の損害

被告のCCOが、全従業員が閲覧できるイントラネットで、「コンプライアンスの徹底は不幸な社員を生まないためにも大切だと考えている」と表明し、被告の社長もこれに同調している。

すなわち、本件規程の遵守を含め、被告におけるコンプライアンスの徹底は、被告の従業員が安心して働ける環境を構築することでもある。

そして、適切な職場環境の構築は、本件内部通報制度の目的でもある。( 後記5 ⑴ )

原告が、原告自身が従事する業務に関する不安を解消すべく、本件内部通報制度を利用したところ、表9のとおり、被告の対応には、調査事項のすり替え、調査結果の隠蔽、不適切な情報提供といった複数の問題が存在した。

このことは、原告にさらなる不安感を与え、精神的苦痛を生じさせた。

このような被告の対応は、本件内部通報制度の趣旨に反するのみならず、従業員が安心して働ける環境を損なうものである。

以上により、被告に行動基準第12項 ⑶ の違反及び労働契約法第5条(安全配慮義務)の違反が存在する。

結果として、原告に対して不利益を及ぼし、損害賠償請求の根拠となる。

⑶ 結論

よって、被告は、原告に対し、民法第415条(債務不履行)に基づく損害賠償責任を負う。

2 本件規程3.6 ⑴ の違反は被告の債務不履行を構成する

⑴ 本件規程違反は、法人たる被告の違反として評価される

本件規程を包括する上位規程であるENEOSグループコンプライアンス活動基本規程(以下「コンプライアンス活動基本規程」という。)は、法人である被告を主語とし、「自己が制定するコンプライアンスに関する規程類の定めを遵守し、コンプライアンスを徹底する。」と定める。

したがって、被告自身が制定する規程類において、法人たる被告の行動基準及び本件規程を遵守する義務が明確に定められていると解される。

仮に本件規程と上位規程との関係性を考慮しない場合であっても、本件規程は本件内部通報制度の運用を具体的に定めるものである。そして、その主語が被告の役員または従業員である場合であっても、本件内部通報制度における行為や判断は、法人としての被告の業務執行行為の一環といえる。

したがって、本件規程の主語が法人たる被告でない場合であっても、その遵守義務は法人たる被告に帰属する義務である。

よって、本件規程違反は、法人たる被告の違反として評価される。

⑵ 被告には、従業員(通報者)に対し、調査報告をする債務が存在する

労働契約法第7条により労働契約の内容となる「就業規則」は、就業規則という名称のものに限られず、労働条件を定めるもので規則規程として周知されているものであれば該当しうる。

労働基準法第89条の事項には、10号の「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」もあり、本件規程も被告の労働者たる従業員すべてに適用されている。

したがって、本件規程は、被告のいう就業規則として使用者たる会社と労働者たる従業員との間に効力を生ずる場合である。

本件規程は、労働者の側からは職場環境の改善の側面があり、労働条件に関わるものである。特に、労働者が法令等に違反する事実に関与するおそれを減少させる役割を果たしており、これは、労働契約法第5条(安全配慮義務)とも関連し、労働者の心理的安全を確保するために重要である。

仮に規程の趣旨が労働条件に関係しないとした場合であっても、会社が自ら一定の場合に一定の行為を具体的に行うことを定めて公表した以上、労働契約法第3条第4項に基づく誠実対応義務により合理的期待が生じる。

したがって、被告は、自ら定めた規程に基づき、要件に該当する者に対してそれを行う債務が存在する。

よって、本件規程3.6 ⑴ に基づき、被告には、本件内部通報制度の活動において、従業員(通報者)に対し、調査報告をする債務が存在する。

なお、本件規程に基づく調査結果等の通知又はそれと同等の場面において、従業員(通報者)に対し、調査の過程において確認された事実に関して誤った認識を促すなど、行動基準第11項 ⑶ に違反する行為が存在した場合、本件規程3.6 ⑴ の違反として評価される。

⑶ まとめ

被告には、本件内部通報制度の活動において、本件規程3.6 ⑴ に定めるとおり、従業員(通報者)に対し、調査報告をする債務が存在する。そして、その調査報告の内容は、行動基準第11項 ⑶ が求める「正確性及び遺漏のなさ」を満たすものでなければならない。

よって、本件規程3.6 ⑴ の違反は被告の債務不履行を構成する。

3 前回訴訟の既判力は本件訴訟に及ばない

⑴ 行為の性質及びその対象が異なり、訴訟物の同一性は認められない

前回訴訟争点1において問題とされた事項は、「本件通報及び追加通報について調査を行わなかった行為(不作為)による本件規程3.4 ⑴ の違反」等であるのに対し、本件訴訟において問題とされている事項は、「調査の過程において確認された事実に関して誤った認識を促す行為(作為)による本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反」である。

したがって、行為の性質(不作為と作為)及びその対象が異なり、本件訴訟と前回訴訟の訴訟物の同一性は認められない。

⑵ 責任が生じる原因も異なり、訴訟物の同一性は認められない

前回訴訟争点1において問題とされた事項は、被告が通報者に対して「通報を受け付けた旨及び調査を開始する旨」を通知したことよって生じる責任であるのに対し、本件訴訟において問題とされている事項は、被告が通報者に対して調査の過程において確認された事実に関して誤った認識を促す行為が存在したことによって生じる責任である。

したがって、責任が生じる原因も異なり、本件訴訟と前回訴訟の訴訟物の同一性は認められない。

⑶ 請求の法律構成も異なり、訴訟物の同一性は認められない

前回訴訟争点1における請求の法律構成は、原告に対する信義則上の義務に違反したことを理由として債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求するものであるのに対し、本件訴訟における請求の法律構成は、本件規程に違反したことを理由として直接的な債務不履行に基づく損害賠償を請求するものである。

したがって、請求の法律構成も異なり、本件訴訟と前回訴訟の訴訟物の同一性は認められない

⑷ 被告が主張する法律構成等は、訴訟物が同一であるとの根拠にならない

 被告は、通報者に対して信義則上の義務を負う場合があることを理由に、本件訴訟も前回訴訟と同様に「信義則上の義務違反に基づく損害賠償請求」であると主張する。※1

しかし、既に述べたとおり( 前記2)、従業員(通報者)に対する義務は、信義則上の義務に限られず、本件規程及び本件規程の上位規程に基づく義務も存在する。

仮に本件訴訟が信義則上の義務違反を問うものを含む場合であっても、既に述べたとおり( 前記 ⑴ 及び ⑵ )、前回訴訟と本件訴訟で問題とされている事項は、行為の性質(不作為と作為)、その対象、および責任が生じる原因のいずれも異なる。

したがって、被告の主張する「本件訴訟と前回訴訟の訴訟物が同一である」との主張は、根拠を欠き、誤りである。

 本件訴訟と前回訴訟は、確かに同一の通報に端を発している。しかし、その通報の内容には複数の問題事項が存在する。その問題事項のそれぞれが独立して調査・判断の対象となる性質を有する。

したがって、通報が同一であることをもって、本件訴訟に既判力が及ぶとはいえない。

さらに、前回訴訟の控訴審判決では、以下の点について事実認定を行っていない。

● 被告が、本件豪州企業に対するGSTの支払自体が、法令等に照らして「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」に該当するか否かについての検証(以下「GST支払の適正性検証」)を行ったか否か

● 本件豪州企業に対するGSTの支払に関する契約において、契約終了日前後でGSTに関する表示に違いがあったか否か

以上の点について、前回訴訟控訴審判決は判断を下しておらず、本件訴訟の主要な争点とは異なる。

したがって、前回訴訟控訴審判決が本件訴訟の訴訟物の同一性を基礎づけるものとはなり得ない。

⑸ まとめ

本件訴訟と前回訴訟は、以下の点で異なる。

➀ 行為の性質(前回訴訟は不作為、本件訴訟は作為)

➁ 対象(前回訴訟は調査を行わなかった行為、本件訴訟は誤った認識を促す行為)

➂ 責任が生じる原因(前回訴訟は調査開始の通知、本件訴訟は調査過程での誤認誘導)

➃ 請求の法律構成(前回訴訟は信義則上の義務違反を理由とする損害賠償請求、本件訴訟は本件規程違反を理由とする直接的な債務不履行責任)

また、本件訴訟と前回訴訟が同じ通報に端を発していたとしても、その通報の内容には複数の問題事項が存在し、それぞれが独立して調査・判断の対象となる。さらに、前回訴訟控訴審判決は、GST支払の適正性検証の存在について事実認定を行っていない。

よって、前回訴訟控訴審判決の既判力は、本件訴訟には及ばない。

4 本件訴訟における原告の主張は、信義則に反せず、許される

⑴ 前回訴訟の判断について、事実上覆そうとするものではない

本件訴訟において問題とされている事項は、「調査報告を行った事実(作為)」における問題であるから、前回訴訟で問題とされた事項である「調査を行わなかった事実(不作為)」等に対する判断について、事実上覆そうとするものではない。

⑵ 被告の主張は、紛争の蒸し返しを裏付ける根拠として不十分である

被告は、本件訴訟が信義則に違反する紛争の蒸し返しであるとの主張を展開しており、その根拠は次のとおりであると思われる。

➀ 前回訴訟は、主張書面の頁数や期日の回数が相当数に及び、原告には、その過程において、本件通報に関連する本件規程違反については、十分過ぎるほどの主張の機会が与えられていた。※2

➁ 原告は、前回訴訟を提起する前に、被告と本件豪州企業の間の契約の記載内容について、2015年(平成27年)に締結されたものと2018年(平成30年)に締結されたものとの違いを明確に認識していた。※3

➂ 本件部長報告は、原告の所属していた部署の担当者が当該部署の部長に対して報告をしたものに過ぎず、被告又は被告の調査補助者が原告に対して本件通報に関して通知又は情報共有をしたものではないので、被告又はその履行補助者が原告の主張を困難にしたわけではない。※4

しかし、上記の主張だけでは、本件訴訟における主張と同様の主張を前回訴訟において容易に主張できたことを裏付ける根拠として不十分である。

⑶ 前回訴訟において、本件規程3.6 ⑴ の違反を主張していない理由

本件訴訟で問題とされている事項が前回訴訟で争点化されなかった理由は次のとおりである。

原告は、調査補助者に対し、原告の問題提起の趣旨が還付手続きに関することではなく契約内容の確認にある旨を告げた。これに対し、調査補助者は、原告に対し、結論に関係がないとの理由で契約書の記載内容について調査を行わない旨を明確に通知した。※5

また、調査補助者は、当該GSTの支払に関する契約における契約終了日前後のGSTに関する表示に違いを通知した際、GSTに関する定めがない契約に基づいて発注が行われたとの通知をしたものの、支払済みのGSTが契約に基づいているか否かについては明言を避けた。さらに、調査補助者は、原告に対し、支払済みのGSTが契約に基づくものであるかどうかを検討したか否かについては言及しなかった。※6

原告は、調査補助者が原告に通知した内容により、調査の過程においてGST支払の適正性検証が行われなかったという誤った認識をしており、前回訴訟において、本件規程に基づく調査結果等の真偽に焦点が当たる余地がない。

そのため、原告は、前回訴訟において、本件通報及び追加通報に対する対応事項に関して網羅的に主張すべく多数の本件規程違反を主張したものの、本件規程3.6 ⑴ の違反については主張しなかった。

以上の事実を踏まえると、調査補助者の言動は、原告に対し、調査の過程においてGST支払の適正性検証が行われなかったという誤った認識を促す行為であり、被告に行動基準第11項 ⑶ に違反する行為が存在する。

表9に列挙して示して述べたとおり( 前記1 )、調査補助者が原告に通知した内容には(甲21、甲25)、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させないという目的が認められ、被告に本件規程3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する。

⑷ 原告に共有した内容が、前回訴訟における争点化に影響を及ぼした

表9に列挙して示した内容を踏まえると、その内容には、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させないという方向性が一貫している。

このことから、被告においては、原告に対し、調査の過程において確認された事実に関して誤った認識を促す意図が存在したと考えられる。

結果として、原告は、共有された内容に基づき、調査の過程においてGST支払の適正性検証が行われなかったという誤った認識を持つに至った。

これにより、前回訴訟における争点化に影響を及ぼした。

⑸ 前回訴訟において、契約に関する文書が証拠調べされなかった経緯

確かに、原告は、前回訴訟を提起する前、令和2年6月25日付及び同年7月9日付の文書により、当該GSTの支払に関する契約における契約終了日前後のGSTに関する表示に違いは認識していた。

しかし、当該文書は、支払済みのGSTが契約に基づいているか否かについては明言を避け、契約期間中に契約内容を変更できるかどうかについて示していなかった。さらに、その補足説明は、契約におけるGSTの支払に関する表示の違いを通知する文書であるにもかかわらず、GSTに関する定めがない契約に基づいて発注が行われたとの説明であり、誤認を引き起こしかねない補足説明である。※7

そのため、原告は、上記の通知を受けた時点およびその後においても、契約におけるGSTに関する表示の違いの理由を認識できなかった。

その後、被告は、原告に対し、訴訟に関する全ての行為についてオフィススペース及び会社貸与パソコン等を使用することを禁じていた。このことは被告も認めている。※8

上記の制約があったことから、原告は、前回訴訟において、会社貸与パソコンから令和2年7月9日付の文書を探し出して証拠として提出するという行為を行うことができなかった。

さらに、被告は、原告が被告と本件豪州企業との契約書の送付を求める文書送付嘱託申立書を裁判所に提出した際、証拠調べの必要性の不存在を主張し、契約書を送付しなかった。このことは被告も認めている。※9

以上の経緯により、前回訴訟において、契約に関する文書についての証拠調べがなされなかった。

ちなみに、前回訴訟控訴審判決が言い渡された後、原告は、令和2年7月9日付の文書を発見し、前回訴訟における「通報ではなく相談として取り扱った」との被告の主張に虚偽が含まれていたことを認識した。

この認識をきっかけに、原告は、上司Aのみならず、調査補助者が告げた内容にも虚偽が含まれる可能性を疑い、同時に提供されなかった様々な情報を整理して分析するに至った。

⑹ まとめ

本件訴訟は、前回訴訟で問題とされた事項である「調査を行わなかった」等に対する判断を事実上覆そうとするものではない。

状況としても、少なくとも前回訴訟を提起する前までに、調査補助者が原告に通知した内容に疑念を抱かない限り、前回訴訟において本件訴訟における主張と同様の主張をすることは困難であった。

よって、本件訴訟における原告の主張は、信義則に反せず、許される。

5 調査報告は、違反の有無を評価できる程度の内容を通知することが求められる

⑴ 本件内部通報制度は、従業員が安心して働ける環境を構築する目的もある

被告等の企業ホームページでは、過去に発行したものも含め、「ESGデータブック(旧CSRレポート)」を公表している。これらは、過去から現在に至るまで、一貫して以下の内容が記載されている。

「JXTGグループでは、従業員を経営における重要ステークホルダーとして位置づけ、一人ひとりが安心して働き、能力を最大限発揮できるように、各種制度を整備しています。」

さらに、従業員との主要なコミュニケーション手段として本件内部通報制度を設置している旨も記載されている。※10

また、被告等のグループCCOマニフェストにおける被告等が目指すべき絵姿は、「コンプライアンスの重要性が組織の隅々までに根付くことにより、従業員が安心し、誇りを持って働ける環境を実現する。」である。

以上に照らすと、以下の関係性がある。

本件内部通報制度の適切な運用

被告等のコンプライアンス体制を強化

従業員が安心し、誇りを持って働ける環境を実現

したがって、本件内部通報制度は、本件規程1.1にその目的として定められている「被告等における不正行為等を早期に是正し、もって被告等のコンプライアンス体制を強化すること」とともに、従業員が安心して働ける環境を構築することにも寄与することを目的としていると解される。

⑵ 制度の目的を実現するためには、適切な調査報告であることが不可欠である

被告が引用している消費者庁が公表した「事業者における内部公益通報制度の意義」は、被告が省略した部分も示すと、「事業者が実効性のある内部公益通報対応体制を整備・運用することは、法令遵守の推進や組織の自浄作用の向上に寄与し、ステークホルダーや国民からの信頼の獲得にも資するものである。」である。被告の引用は、「事業者が実効性のある内部公益通報対応体制を整備・運用すること」という重要な前提条件が省略されている。※11

本件規程には、本件内部通報制度の目的が明確に定められているが、その実効性が欠けていれば、制度そのものが機能しない。どれだけ理念や目的が優れていても、実効性がなければ意味をなさない。そして、この実効性を確保するためには、従業員が制度を信頼できることが不可欠である。

この信頼を得るためには、調査報告において、従業員(通報者)が違反の有無を評価できる程度の内容を適切に通知することが不可欠である。

⑶ 本件内部通報制度は、目的を実現するための具体的手段として機能している

被告等が内部統制システムの一環で定めている規程類は、上位の規程から順番に示すと次のとおりである(以下を総称して、「被告内部統制システム」という。)。

➀ ENEOSグループのコーポレートガバナンスに関する基本方針(甲29)

➁ ENEOSグループ行動基準(甲2の1)

➂ 内部統制システムの整備・運用に関する基本方針(甲28)

➃ ENEOSグループコンプライアンス活動基本規程

➄ コンプライアンス規程(乙13)

➅ ENEOSグループ内部通報制度基本規程(乙14)

➆ コンプライアンスホットライン規程(乙1)、

以上の規程類は、被告等におけるイントラネットに掲示されており、被告等の全従業員が閲覧することが可能である。

また、上記 ➀ ➁ ➂ は、被告等の企業公式ホームページで公表されている。

行動基準第14項 ⑴ 、「コンプライアンス活動基本規程」及び「コンプライアンス規程」に基づくと、本件内部通報制度の利用は、コンプライアンス規程第4項の「コンプライアンスに関する行動規範」を実現するための具体的手段として機能していると解される。

なお、「コンプライアンスに関する行動規範」及び被告等における「コンプライアンス活動」は、コンプライアンス活動基本規程にも定められている。

⑷ 調査報告は、一定程度の内容を通知することが求められる

被告内部統制システムにおける「コンプライアンスに関する行動規範」では、被告の役員及び従業員等が業務を遂行するに際して、

● 遵守すべき法令等を調査し、その内容を確認すること

● 法令等に照らし、当該法令等に違反した場合のリスクを把握すること

などを定めている。

既に述べたとおり( 前記 ⑶ )、本件内部通報制度の利用は、「コンプライアンスに関する行動規範」を実現するための具体的手段である。

また、被告は、従業員に対し、職制を通じて問題解決を図ったうえで解決できない場合に、本件内部通報制度を利用することを推奨している。

以上により、調査報告は、従業員(通報者)が違反の有無を評価できる程度の内容を通知することが求められる。

たとえば、被告が従業員(通報者)に対して次の内容を通知することで、従業員(通報者)は、業務を遂行するにあたり、法令等に照らして適切であるかどうかを自ら確認することが可能となる。

➀ 通報内容に関連する法令等、又はその有無

➁ 違反の有無を評価できる程度の根拠

➂ 通報内容に関連する是正措置及び再発防止策等

⑸ まとめ

本件内部通報制度は、「被告等における不正行為等を早期に是正し、もって被告等のコンプライアンス体制を強化すること」とともに、従業員が安心して働ける環境を構築することにも寄与することを目的としていると解される。

その目的を達成するためには、制度が十分に実効性を備えていることが不可欠であり、実効性の確保には従業員からの信頼が重要である。

また、本件内部通報制度の利用は、「コンプライアンスに関する行動規範」を実現するための手段でもある。

本件内部通報制度の趣旨を踏まえると、調査報告は、従業員(通報者)が違反の有無を評価できる程度の内容を適切に通知することが求められる。

6 本件規程3.6 ⑴ に違反する行為を正当化することはできない

⑴ 法令等や問題事項を特定していない情報であったとしても、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの通知事項を通知しなかったことの正当化にはならない

本件規程は、従業員が通報する際に、通報者個人が「不正行為等」に関連する法令や問題事項を特定することを求めていない。

さらに、消費者庁が公表した「公益通報ハンドブック」においても、通報に求められるのは、その後の調査や是正等が実施できる程度の具体性であり、法令等の内容を指定する必要がないとされている。※12

実際、通報者が関連する法令や規則に精通していない場合や、該当する法令等を検索できない環境にある場合、通報情報において法令等を特定することは現実的に困難である。また、業務プロセスに問題があると感じていても、具体的な問題事項を特定することは難しい場合がある。

このような場合、通報者が無理に問題事項を特定しようとした結果、たとえば「部署内で何か怪しいことがあるようです」や「上司が嘘をついているようです」といった主観又は憶測に基づく通報となるおそれがある。

これに対し、被告は、調査の過程において、通報者が告げた具体的事実から関連する法令や問題事項を特定する手段を有している。また、被告がその特定に困難を感じた場合には、本件規程第2.5 ⑵ に基づく「通報情報に関する情報の照会、追加または補足説明」を求めることができる仕組みが整備されている。

以上を本件通報にあてはめると、原告がGSTの支払に関する事実を告げた本件通報において、「豪州のGST法に違反している」や「被告と支払先との契約に反する」などの具体的な法令や問題事項を原告が特定する必要はない。

仮に被告がGSTの支払に関連する法令等や問題事項の特定に困難を感じた場合でも、被告は調査の過程で同2.5 ⑵ に基づき原告に「通報情報に関する情報の照会、追加または補足説明」を求める対応を取ることが可能である。

以上により、通報者が通報の際に告げた情報が、法令等や問題事項を特定していない情報であったとしても、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの通知事項を通知しなかったことの正当化にはならない。

⑵ 通報者が通報情報として扱われない情報を告げていたとしても、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの通知事項を通知しなかったことの正当化にはならない

まず、本件規程で定義されている用語について整理する。

本件規程1.2 ⑸ に基づく「通報」とは、不正行為等を是正する目的で不正行為等の内容を告げる行為をいう。

同 ⑹ に基づく「通報情報」とは、通報にかかる情報をいう。

同 ⑼ に基づく「調査」とは、通報情報に関する事実を確認するための調査をいう。

既に述べたとおり( 前記 ⑴ )、通報情報において法令等や問題事項が特定されている必要はないが、その内容は、調査の過程において、通報情報に関する事実について、その事実の存在を確認できる程度の具体性が求められる。

被告が調査を行う流れとしては、次のとおりである。

➀ 通報者が告げた通報情報に関する事実の存在を確認する。

➁ 確認された事実が「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」に該当するか否かを検証する。

➂ その事実に該当する場合、被告は、通報者に対して、本件規程3.6 ⑴ アに基づく通知事項を適切に通知し、同イまたは同ウに基づく通知事項を通知する。これらの通知は、被告の通報者に対する債務である。

通報者は、調査の過程で、様々な通報情報に関連する情報を告げることがあるものの、これらが必ずしも通報情報として扱われるわけではない。

ここで重要なのは、仮に通報者が調査の過程で調査補助者に対して告げた情報に通報情報として扱われなかった情報が存在したとしても、そのことが被告の本件規程3.6 ⑴ に基づく通知する義務に影響を及ぼさない点である。

次に、以上を本件通報に当てはめる。

本件通報は、GSTの支払の事実を告げた通報である。※13

本件通報を受け付けた被告は、調査の過程において、当該GSTの支払の事実の存在を確認する。そして、その存在が確認された事実が「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」に該当することが確認された場合は、被告は、原告に対し、同イ又は同ウに基づく通知事項を通知する義務がある。

また、原告は、本件通報の後、調査補助者に対し、被告と本件豪州企業との間で締結した契約の確認に関する状況や疑問事項を告げていた。※14

この情報や疑問事項は、通報情報として扱われなかったもようである。

しかし、このことが、原告に対する被告の本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウに基づく通知事項を通知する義務に影響しない。

以上により、通報者が通報情報として扱われない情報を告げていたとしても、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの通知事項を通知しなかったことの正当化にはならない。 

⑶ まとめ

調査の過程において通報情報に関する事実の存在が確認され、その事実が「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」に該当することが確認された場合、被告は、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウに基づく通知事項を通知しなかったことを正当化することはできない。

7 被告の調査報告において、本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する

⑴ 本件通報及び追加通報は、その通報の内容だけでも、調査の過程において該当するGSTの支払を特定できる程度の具体性を有する

 本件通報及び追加通報は、次のとおり、その通報の内容だけでも、調査の過程において該当するGSTの支払を特定できる程度の具体性を有する。

 原告は、平成28年9月14日の通報フォームに(本件通報の内容)、

「海外取引で支払った当社宛の請求書の金額について、付加価値税が含まれていた。(豪州、当時の為替で650万円)

その付加価値税の還付は豪州関連会社の ≪ 豪州子会社 ≫ に納付された。

なお、付加価値税分の金額は経費で計上されたままである。(コンサルタント費用・法人税に影響?)( 乙2 )」

と記載した。

原告が本件通報で告げた内容には、次のとおり、複数の問題事項が存在していた。※15

➀ 経費支払における、本件豪州企業に対するGSTの支払

➁ 上司Aの言動における、行動基準第11項 ⑶ に違反する行為

➂ 会計処理における、返金予定金額を費用勘定科目で計上する処理

これらのうち、➀ について、被告が豪州企業に対して約650万円の付加価値税(GST)を支払い、その後、その金額が経費計上されたという具体的事実が確認できる。

本件通報の後、原告は、調査補助者に対し、GSTの支払に該当する証憑台紙及び請求書を提出しており、被告は会計帳簿を調査することで、当該GSTの支払の事実の存在を確認することできる。※16

ちなみに、「納付された」との記載は、同月10日の原告と本件事業部の担当者との会話の中で、「豪州子会社が還付請求をした後、還付を受けていないが、納付をし、当該金額が入金された」との曖昧な内容が存在しため、その言葉をそのまま記載した。

 原告は、平成30年11月27日の通報フォームに(追加通報の内容)、

「記載ミスのある請求書の額を支払ったことが原因と思われる経費の過払い( 75.473.10 豪ドル以上)に気づき、その旨を ≪ 上司A ≫ へ伝えた。( 乙9 )」

と記載した。※17

これについては、被告は、調査の過程において、該当するGSTの支払を特定している。※18

⑵ 本件豪州企業に対するGSTの支払自体が、少なくとも違反するおそれのある行為であり、当該行為は不正行為等に該当する

被告は、GSTの支払について、「GSTについて定める法令に基づいて支払う必要があるものであって、契約に基づいて支払う必要が生ずるものではない」と主張する。※19

しかし、豪州のGST法38条の1(以下「豪州GST法」という。)によれば、免税取引又はゼロ税率取引に課税することは許されず、取引そのものにGSTを課すことは法令に反すると解釈するのが適切である。

そして、「還付請求が可能だからGSTを請求しても問題ない」との解釈は、豪州GST法上適切でない。輸出取引では、豪州企業がGSTを請求すべきでなく、取引相手(海外の顧客)からGSTを徴収することなく、税務当局からGST還付を受ける仕組みが原則である。※20

ただし、契約で「実際に納税する支払義務者(pay)」を変更することはできないものの、「誰がその税を負担するか(bear)」については、契約に基づいて決定されることがある。※21

この点に関して、被告の主張は、GSTの課税における「支払義務(pay)」と「負担義務(bear)」の区別を無視している点で問題がある。

加えて、商慣行としても、実務においては、海外企業が日本企業である被告に対してGSTを請求することは、特殊な場合を除き、ほとんどない。このことは被告も認めている。※22

以上のとおり、本件豪州企業に対するGSTの支払自体が、豪州GST法や契約に違反する行為、又は少なくとも違反するおそれのある行為であり、当該行為は不正行為等に該当する。

⑶ 被告は、通報されたGSTの支払に対して是正措置及び再発防止策等を講じたにもかかわらず、原告に対しては、調査報告において、「コンプライアンス違反ではない」と通知した

平成29年2月7日、被告は、本件通報の後、調査補助者と上司Aが協議する形で調査を実施した。このことは被告も認めている。※23

この後、被告においては、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させていないものの、平成29年5月の本件豪州企業の請求から同年1月から4月にかけてのGST支払分を差し引くという措置を講じ、さらに、当該GSTの支払に関する契約の契約終了日の後、「≪ 本件豪州企業 ≫ がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する( 甲21 )」との契約を締結するという措置を講じた。※24

これは、本件豪州企業が被告にGSTを請求し、それを被告が支払っていたことが、豪州GST法上又は契約上適法ではないから、本件豪州企業が被告に返金するという是正措置を講じ、また、「本件豪州企業がGST込みで請求する権利を有する」という契約を締結することで違反が生じないよう再発防止策を講じたと考えられる。

すなわち、被告は、本件通報で通報されたGSTの支払に対して本件規程3.5に基づく是正措置及び再発防止策等を講じている。

これにもかかわらず、被告は、同年8月14日の調査報告において、原告に対して「コンプライアンス違反ではない」と通知し、通報されたGSTの支払に対して講じた是正措置及び再発防止策等を何ら通知しなかった。※25

⑷ 被告は、GST支払自体の適正性に加えてGST還付の任意性(法令上問題とならない事項)の調査を行い、原告に対し、GST還付の任意性に関する調査結果を結論として通知した

令和元年10月25日、被告は、追加通報に対する調査報告において、原告に対し、「GSTの還付は納税者の「権利」であり、「義務」ではない。したがって、GSTの還付をするか否かは任意であり、還付を受けないままであったとしても、不正行為等にはあたらない。( 乙12 )」と通知し、追加通報でも通報されたGSTの支払に対して講じた是正措置及び再発防止策等を何ら通知しなかった。※26

本件通報及び追加通報で通報されたGSTの支払は、GSTの還付の有無ではなく、被告が本来支払う義務のないGSTを支払ったこと自体が問題である。

被告は、GST支払自体の適正性に加えてGST還付の任意性(法令上問題とならない事項)の調査を行い、原告に対し、GST還付の任意性に関する調査結果を結論として通知した。

⑸ まとめ

平成29年8月14日及び令和元年10月25日の調査報告において原告に通知した内容は、原告に対して調査の過程においてGST支払の適正性検証が行われなかったという誤った認識を促す内容であり、被告に行動基準第11項 ⑶ に違反する行為が存在した。

表9に列挙して示して述べたとおり( 前記1 )、調査報告の内容には、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させないという目的が認められ、被告に本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する。

8 本件部長報告においても、本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する

⑴ 本件部長報告の内容は、本件規程に基づく調査結果等に実質的に該当する

本件部長報告は、形式的には調査補助者が通報者に対して通知するという本件規程3.6 ⑴ に基づく通知の形式を採っていないものの、平成29年8月14日の調査報告の後に、メールのCCに原告を含める形で共有されており、本件通報で通報されたGSTの支払に対する是正措置及び再発防止策等を報告するものである。このことは被告も認めている。※27

したがって、本件部長報告の内容は、本件規程に基づく調査結果等に実質的に該当する。

本件部長報告の内容は、次のとおり、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させないという方向性が一貫している。※28

⑵ 「2016年11月以降の法改正が施行された」との内容を原告に共有したが、現在に至るまで、当該法改正の存在自体が不明確である

本件部長報告においては、GSTの支払に関して、「2016年11月以降の法改正が施行された」との内容を原告に共有したが、現在に至るまで、当該法改正の存在自体が不明確である。

また、どのような法改正なのかも明らかではなく、オーストラリア税務局のウェブサイトで該当する情報を検索することも困難である。

原告は、当該法改正の具体的内容を明示するよう求釈明を行ったが、被告はこれに一切回答しなかった。※29

仮に法改正が実際に存在するのであれば、被告は合理的な説明を行うことが可能なはずである。しかし、これを避けていることから、当該法改正が存在しない可能性が高い。

したがって、被告は、存在しない法改正を持ち出すことで、GSTの支払がそもそもの法令等に基づかないものであるにもかかわらず、あたかも法改正によって生じたものであるかのように装っていた疑いがある。

⑶ 豪州子会社が被告のGST還付請求を代行して解決したとの内容を原告に共有したが、豪州子会社が当該代行した証拠が存在しない

本件部長報告においては、豪州子会社が被告のGST還付請求を代行して解決したとの内容を原告に共有したが、被告に対する豪州子会社の送金は確認できるものの、豪州子会社が当該代行した証拠がない。

この点、豪州子会社がGSTの還付請求を実際に行ったのか、あるいは被告の指示による不正な資金移動であるのかが問われるべきであり、現時点では後者の可能性が強く示唆される

なお、豪州子会社が被告分のGST額戻し入れとして送金した金額は、79,315.52 豪ドルである。このことは被告も認めている。※30

そして、その金額の内訳は、

● 被告が平成27年11に本件豪州企業に支払ったGST 75.473.10 豪ドル

● 被告が過去年度に豪州子会社に支払ったGST 3,842.42 豪ドル

である。

⑷ GST支払分が被告に返金されたとの内容を原告に共有したが、返金された理由を曖昧化している

本件部長報告においては、平成29年5月の本件豪州企業の請求から同年1月から4月にかけてのGST支払分を差し引く形で精算したという内容を原告に共有した。しかし、被告は本件豪州企業に対してGSTを支払う義務がない以上、この「精算」は実質的に返金にほかならない。

本件部長報告において報告した「精算」は、支払うべき金額と請求額と相殺しているのではなく、本件豪州企業が一度受け取った金銭を被告に返しているのであるから、「精算」よりも「返金」のほうがより的確な表現である。

したがって、被告は、「返金」という表現を用いず「精算」という表現を用いることで、本件豪州企業から返金された理由を曖昧化している。

⑸ まとめ

本件部長報告において原告に共有した内容は、行動基準第11項 ⑶ が求める「正確性及び遺漏のなさ」を満たしているとはいえず、その真実性に疑義が生じる。そして、その内容は、本件規程に基づく調査結果等に実質的に該当するし、原告に対して調査の過程において確認された事実に関して誤った認識を促す内容である。

本件部長報告は実質的に調査報告であり、また、表9に列挙して示して述べたとおり( 前記1 )、その内容には、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させないという目的が認められ、被告に本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する。

これに対して、被告は、「原告の所属していた部署の担当者が当該部署の部長に対して報告をしたものに過ぎず、被告又は被告の調査補助者が原告に対して本件通報に関して通知又は情報共有をしたわけではない。」と主張する。※31

しかし、仮に本件部長報告が本件規程3.6 ⑴ に基づく通知の形式を採っていないことを理由に、本件規程に基づく調査結果等と同等であるものとして認められず、本件規程3.6 ⑴ の違反を免れるのであれば、これは、本件規程3.6 ⑴ の実効性を損なうおそれがある。

そのため、単に通知の形式が規定された方法と異なるという理由をもって、実質的に本件規程の適用を回避することは、本件規程の趣旨や実効性に反するものであり、到底許容されるべきではない。

第3 被告準備書面(4)及び被告準備書面(5)に対する認否

1 被告準備書面(4)第2の1 ⑴ エ及び同 ⑵ イ(3頁以下)について

争う。原告の主張は、前記第2の2のとおりである。

2 同第4(6頁以下)について

争う。

3 被告準備書面(5)第2の1(4頁以下)について

原告第4準備書面までの主張の要旨としては、認める。

4⑴ ア 同第2の2 ⑴ ア(8頁以下) について

第1段落「本件規程は、各規程の」以下について、争う。

第2段落「本件規程が被告と」以下について、認める。

第3段落「よって、本件規程」以下について、争う。

 同イ(9頁) について

「行動基準は」以下について、争う。

 同ウ(10頁) について

「内部統制基本法氏は」以下について、争う。

以上について、原告の主張は、前記第2の2のとおりである。

⑵ 同第2の2 ⑵(10頁以下) について

「答弁書第3の3」以下について、争う。原告の主張は、前記第2の3のとおりである。

⑶ 同第2の2 ⑶ (11頁以下)について

「答弁書第3の4」以下について、否認ないし争う。原告の主張は、前記第2の4のとおりである。第3段落「また、原告は」以下についての原告の主張は、前記第2の8のとおりである。

⑷ ア 同第2の2 ⑷ ア (12頁以下)について

第1段落及び第2段落「そもそも、一般に」以下について、否認ないし争う。

「支払済みのGSTの還付申請がされなかったりしたとしても、直ちにコンプライアンス違反となるわけでもない。」については否認する。これに対する主張は次のとおりである。

原告は、被告又は調査補助者に対し、「支払済みのGSTの還付申請がされなかった」こと自体を不正行為等として問題視する旨を一度も告げていない。※32

したがって、被告の主張には、原告の意図や事実関係を正確に反映しておらず、誤解を招くなど、不必要な混乱を生じさせる主張が存在する。

念のために説明すると、原告が平成28年1月7日に、上司Aに対して支払済みのGSTについて相談し、これに対して上司Aが対応する旨を告げていた。 ※33

その後、実際に対応がなされたのは、平成29年2月7日の調査補助者と上司Aとの協議の後である。このことは、被告も認めている。※23

以上のとおり、「還付申請がされなかった」に関して何らかの不正行為等が存在するとすれば、それは、原告が上司Aに対して本件豪州企業に対するGSTの支払について相談した際、上司Aの言動に行動基準第11項 ⑶ に違反する不正行為等が存在したことである。

その余に対する原告の主張は、前記第2の7 ⑵ のとおりである。

第3段落「したがって」以下について、「被告が効果的な再発防止策を実行しなかったとしても、本件規程3.5に違反するものではない。」については争わない。その余は否認ないし争う。原告の主張は、前記第2の6ないし8のとおりである。

 同 イ(13頁) について

「答弁書第3の5」以下について、否認ないし争う。原告の主張は、前記第2の6ないし8のとおりである。

 同ウ(13頁以下) について

「前記1➀(c)に」以下について、否認ないし争う。原告の主張は、前記第2の8のとおりである。

⑸ 同第2の2 ⑸ について(14頁)について

「答弁書第3の6」以下について、争わない。

⑹ 同第2の2 ⑹ について(14頁以下)について

「以上からすると」以下について、争う。

5 同第3-1(15頁以下)について

「通報情報は」以下について、不知である。

6 同第3-2(16頁)について

「原告の求釈明の」以下について、争う。原告の主張は、前記第2の7 ⑷ のとおりである。

7 同第3-3(17頁)について

「そもそも」以下について、否認ないし争う。原告の主張は、前記第2の6ないし8のとおりである。

8 同第3-4 1(17頁以下)について

「前記第2の2」以下について、否認ないし争う。原告の主張は、前記第2の7 ⑵ のとおりである。

9 同第3-4 2(17頁)について

「原告の求釈明の」以下について、争う。原告の主張は、前記第2の8 ⑵ のとおりである。

10 同第4(18頁以下)について

第4の2 ⑸ (20頁以下)「しかも、被告内部通報制度は・・・目的としているわけではない。」ついては、争う。原告の主張は、前記第2の5のとおりである。その余は、認否を留保する。本書に対する被告の反論の後に認否を行う。

11 同第5の2 ⑴ オ(22頁)について

「乙第11号証の」以下について、否認する。被告が「容易に理解可能である」と主張しているので、本来は、被告が、「付加価値税_GMへの確認.xlsx」と題する Excel ファイルを提出すべきと考えるが、原告から補足説明をする。

平成29年7月25日に原告と調査補助者が面談を行い(甲16の4)、その後、原告は、同月27日、調査補助者に対し、「面談でお話しさせていただいたとおり、経緯を整理した内容を、後日、送付させていただきたいと存じます。(甲16の5)」と告げ、同月28日に「面談でお話しさせていただいた件について、確認する内容をまとめましたので送付いたします。(甲16の7)」と告げて、甲17のファイル及び当該 Excel ファイルを送付した。

甲17のファイルと当該 Excel ファイルは同様の形式であり、左側に事実を時系列でまとめ、右側にはその時系列に対応して洗い出した確認事項を記載している。「質問票」というよりも、チェックリストに近い形式である。※34

以上のとおり、平成29年8月14日の調査報告における「質問票」という記載しただけでは、「質問票」に該当する文書が特定できない。

12 同第5の2 ⑶ エ(24頁)について

「甲第20号証の」以下について、否認する。既に述べたとおり( 前記第2の8 ⑵ )、本件部長報告において「精算」と表現された措置は、実質的に「返金」の性質を有する措置であるにもかかわらず、「返金」の性質であることを伏せているため、GSTの支払が行われていた原因が曖昧化されている。

以上

文末脚注

1 答弁書第3の3、被告準備書面(2)第2の1 ⑵ イ、被告準備書面(5)第2の2 ⑵

2 答弁書第3の4

3 被告準備書面(2)第2の1 ⑸ キ

4 被告準備書面(5)第2の2 ⑶

5 甲25の2、令和元年12月2日、原告と調査補助者とのやり取り、「私が行った2016年1月7日の問題提起は「還付手続きに関すること」ではなく、「契約書の内容確認や ≪ 本件豪州企業 ≫ への照会で、請求書の記載に間違いがないかを確認をすること」です。」甲25の5、令和元年12月20日、原告と調査補助者とのやり取り、「したがいまして、契約書上のGST条項の有無や記載内容については、結論に関係がありませんのでお調べしませんし、また ≪ 本件事業部 ≫内でそうした確認をしなかったことも特に不審なこととは認定いたしません。」

6 甲21の1、令和2年6月25日付の文書、「2015年1月にJXTGエネルギーと ≪ 本件豪州企業 ≫ との間で締結された契約書には、GSTに関する定めはありません。⑵ の契約が締結されるまでの間は、⑴ の契約に基づき発注が行われていました。」

7 以上につき、甲21の1及び甲21の3、令和2年6月25日付及び同年7月9日付の文書

8 原告第1準備書面第2の1 ⑸ 第1段落、被告準備書面(2)第2の1 ⑸ ア

9 原告第1準備書面第2の1 ⑸ 第4段落、被告準備書面(2)第2の1 ⑸ エ

10 以上につき、甲31、平成29年11月、JXTG REPORT CSRレポート 2017(14頁)

11 以上につき、被告準備書面(5)第4の2 ⑸

12 甲32、平成29年9月、公益通報ハンドブック(21頁)

13 乙2、平成28年9月14日の通報フォーム、「海外取引で支払った当社宛の請求書の金額について、付加価値税が含まれていた。(豪州、当時の為替で650万円) その付加価値税の還付は豪州関連会社の ≪ 豪州子会社 ≫ に納付された。なお、付加価値税分の金額は経費で計上されたままである。(コンサルタント費用・法人税

14 甲8ないし甲18 平成28年9月21日から平成29年7月31日まで、原告と調査補助者とのやり取り

15 乙2、平成28年9月14日の通報フォーム

16 甲8の4、平成28年10月3日、「Wordファイルのここに、本件GSTの金額が請求金額として記載されている請求書(甲3)や原告と上司Aとのやり取りが記載されているメールファイルを添付(甲4)を添付している。」の箇所に、本件豪州企業に対するGSTの支払に該当する証憑台紙と請求書を添付している。 

17 乙9、平成30年11月27日の通報フォーム、「記載ミスのある請求書の額を支払ったことが原因と思われる経費の過払い( 75.473.10 豪ドル以上)に気づき、その旨を ≪ 上司A ≫ へ伝えた。」

18 乙12、令和元年10月25日の調査報告(5頁)、「ヒアリングの結果、≪ 本件事業部 ≫ 内で以下の費用については、JXAから返金を受ける形で還付対象GSTの精算を行ったことを確認できた。」

19 被告準備書面(5)第2の2 ⑷

20 以上につき、甲33の1、オーストラリアGST法38条の1、甲33の2、「オーストラリアの物品サービス税(GST)法制の分析」白鷗法学 第22巻2号(通巻第46号)(2016)(7頁、8頁、42頁)

21 甲34、平成28年6月29日、弁護士法人クレア法律事務所「英文契約書に関するQ&A」

22 訴状第2の4 ⑴ 、答弁書第4の4 ⑴ イ

23 原告第1準備書面第2の1⑶ 表6、被告準備書面(2)第2の1 ⑶

24 甲20の1、平成29年10月16日、本件部長報告の内容、甲21の1及び甲21の3、令和2年6月25日付及び同年7月9日付の文書

25 乙11、平成29年8月14日の調査報告

26 乙12、令和元年10月25日の調査報告(6頁)、「一般に、GSTの還付は納税者の「権利」であり、「義務」ではない。したがって、GSTの還付をするか否かは任意であり、還付を受けないままであったとしても、不正行為等にはあたらない。」

27 原告第2準備書面第1の3 ⑷ イ 、被告準備書面(3)第2の2 ⑸ イ

28 甲20の1、平成29年10月16日、本件部長報告の内容

29 令和6年11月25日付求釈明申立書第4の2、被告準備書面(5)第3-4の2

30 原告第2準備書面第1の2 ⑷ ア 、被告準備書面(3)第2の2 ⑸ ア

31 被告準備書面(5)第2の2 ⑷ ウ

32 乙2、平成28年9月14日の通報フォーム、甲8ないし甲18 平成28年9月21日から平成29年7月31日まで、原告と調査補助者とのやり取り、乙9、平成30年11月27日の通報フォーム、甲23、平成30年11月28日~平成31年3月20日、原告と調査補助者とのやり取り、甲25、原告と調査補助者とのやり取り、令和元年10月27日~令和2年1月24日

33 甲4、平成28年3月31日、原告と上司Aとのやり取り、「先日、1月7日にご説明させていただいた海外取引の付加価値税について、確認しなければならないことや必要な対応はありますでしょうか。」、「GSTの支払額をインボイスとともに当局に届けると、支払うべき税金(源泉税)からそのGST分減額されるとのことで、主な過去の支払い分については対応してもらっています。」

34 甲16の4、甲16の5、甲16の7、甲17、平成29年7月24日から同月28日、原告と調査補助者とのやり取り

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