黒葛原歩弁護士の解説#

さざんか会事件の解説、原告本人のコメントもあります

控訴審判断の注目点#


2024年8月23日

昨日、読売さんの記事が出たので少し呟きます。社会福祉法人さざんか会事件(雑誌では社会福祉法人A事件とされます)において控訴審は地裁判決を破棄し、労働者側の請求を全面的に認容しました。一審が夜勤時間の単価を最低賃金以下の金額で合意していたという判断を破棄したものです。

控訴審ではもっぱら、夜勤時間帯について賃金時間単価750円の合意があったか否かという点だけが問題になりました。控訴審判決は、法人側がそもそも夜勤時間の労働時間性そのものを争っていたことに鑑みると、この時間帯について別段の賃金額の合意をしていたとは認められないと判断しました。

別段の合意については「趣旨と内容」が明確である必要があるとしています。仮眠時間等の賃金額について別段の合意をしてもよいというのは大星ビル事件最高裁判決に沿うものなので、それ自体は新規性のある判断ではないでしょう。その判断要素がごく僅かながら判示されているところは一応注目できます。

学説においては、事後的に仮眠時間等の労働時間性が認定された場合の賃金額の認定に関し議論がありましたが、本件は使用者が労働時間性を争ったこと自体を、別段の賃金額合意の存在を否定する中核的な間接事実に位置付けました。この判断構造は注目されて良いと思います。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

さざんか会事件解説①

いつの間に黒葛原先生のさざんか会事件の解説が始まっておった。

★ポイント

社会福祉法人A会事件=さざんか会事件

千葉地裁判決 ⇒ 原告(私)は、時間単価が750円となぜか最低賃金以下の計算方法だったので、納得いかず控訴

東京高裁 ⇒ 原告全面勝訴

さざんか会事件解説②

★ポイント

さざんか会は控訴せず

控訴審=東京高裁は賃金単価のみの争い。

地裁判決8時間 → 夜勤手当6000円で夜間帯は8時間だかた1時間750円の合意のはず。

原告側の主張 → 夜間は1時間以外は休憩時間なんだからそんな約束はしてない。

8時間6000円の合意の有無が基本争点

さざんか会事件解説③

難しくなってきました。類似事件の大星ビル事件、本裁判はこの続編のようにみられているようです。

時間帯によって基礎賃金を変更はありなのか?東京高裁は、「趣旨と内容」を明確しなくてはならない。= 後付けはダメとして地裁判決を覆しました。

大星ビル管理事件 最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決

さざんか会事件解説④

より難解です。さざんか会は裁判開始当初、夜間勤務実態の有無を争点にしています。地裁判決で原告の請求した全時間が認められたあと控訴しませんでした。

賃金単価は争点にしていないので、特別な合意云々という議論は成り立たないという判断が特筆すべきとのことですかね。

福祉分野における労働法#


2024年8月24日

昨日に続き社会福祉法人さざんか会事件について。高裁勝訴判決を受けて7月4日に記者会見しましたが、そこでは必ず法人側コメントも取って下さいとお願いさせて頂きました。これは、報道の公平性という見地もさることながら、障がい者グループホームへの残業代請求という事件の性格を考慮したものです。

普通の会社への残業代請求であれば、これは労基法を守らない会社が悪い、法律を守れ、是正しろと言えば足ります。資本主義はルールの中での競争ですから、競争を逸脱したこと自体非難されるべきで、労働法を守れない会社は退場して結構で良い。しかし医療や福祉はそうも言えない面があります。

医療・福祉はにおいてサービスの対価を幾ら貰えるかは基本的に公定されており競争原理が働く余地は狭められています。そしてそれが最終的に賃金原資になる。労働法を守ると経営が厳しい、労働法を守れないというのであれば、それは国の制度設計そのものがどこかおかしい可能性があります。

労働組合が政治運動をやるのはおかしいという言説をよく目にしますが、これは競争資本主義の世界しか見ていない狭いもののの見方だと私は思います。労働事件の現実においては政治を動かさないと労働条件が好転しないという場面は幾らでもあります。福祉の労働はその一つといえるでしょう。

障がい者グループホームにおける夜勤(夜間支援)については、これに対応する「夜間支援等体制加算」というものがあります。この加算は現状6種に区分されています。その内容は全て国が定めていますが、この話は改めてすることといたしましょう。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

さざんか会事件解説⑤

黒葛原先生のコメント3連続で載せました。先生の想いは記者会見時には教えてくれなかったなw

私も公定単価の問題や加算制度のいい加減さ、市の指導のあり方等この事件を公の問題としても捉えています。

読売新聞に載った理事のコメントはう〜んでしたwまた触れます。

さざんか会事件解説⑥

昨日の黒葛原先生のPOSTの続きです。福祉は公定で報酬単価、利用者負担額が決まっており、労働運動は、対会社だけでなく対国が不可欠なわけです。

給与が増えても利用者の負担額は変わりません。1つの争議より最低賃金改善の方が影響力があります。

障害者グループホーム(共同生活援助)の報酬単価について解説

判決を動かした判例評釈 ①#


2024年8月26日

さざんか会事件について今日は学術的な話を。この事件の判例評釈のうち、千葉地裁判決についての橋本陽子学習院大学教授の評釈は重要です(ジュリスト1593号4頁)。橋本教授はこの評釈で、最低賃金法の規制は単位時間の単価にまで及ぶとされています。これは労働側は事件で使うことがあり得ると思います。

橋本教授がこの評釈をお書きになられた背景には、おそらく同教授の近時の論文「最近のドイツにおける労働時間法の展開について」(和田肇古稀441頁)で紹介されている近時のドイツの判例(連邦労働裁判所2021年6月29日判決)なども念頭にあったのではないかと思います。

当該ドイツ判例の概略は、橋本論文で引用されている小俣勝治名誉教授の論文で読むことができます。

※ 小俣勝治「ドイツにおける労働時間法に関する最近の判例(3)」85頁以下

ドイツにおける労働時間法に関する最近の判例(3)

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

さざんか会事件解説➆

下記の「学術的」な話しは、素人の私では、理解が難しく「判例評釈」という言葉すら初めて聞きました。

黒葛原先生によるとさざんか会事件が、高裁判決で支払い額が5倍増となる「劇場型」展開を演出したのが、実は数々の『評釈』だったそうです。

本裁判は「癖」の強い地裁判決後、法曹界で議論呼び評釈も多く書かれたようです。

先生が5月30日の高裁判決前に準備書面を提出し、紹介した評釈の1つが橋本教授もので、この後、判決は1ヶ月延期されたのです。思わぬ援軍、世論の力でに判決が動いていったわけです。

判例評釈

判決を動かした判例評釈 ➁#


2024年8月27日

さて、今日もちょっとだけ。さざんか会事件の関係で今一つ重要な判例評釈は、土岐将仁「労働密度の薄い夜勤時間帯の労基法上の労働時間性及び割増賃金の算定基礎」(季刊労働法284号)です。

特集 2023年重要裁判例の検討

土岐先生は執筆当時岡山大の准教授で、この4月から東大准教授に移って来られた先生です。業界内にいないと中々分からないことですが、土岐先生は近時の著作『法人格を越えた労働法規制の可能性と限界』で学界の三冠を取った凄い先生です。

三冠とは何ぞやというと、日本労働法学会奨励賞、労働政策研修・研究機構の労働関係図書・論文優秀賞、労働問題リサーチセンターの沖永賞のことで、私が勝手に労働法学界三冠と呼んでます

土岐論文では、障がい者支援事業の特質みたいなことには余り言及がないのですが、大星ビル管理最高裁判決以降の、いわゆる「労働密度の薄い夜勤時間帯」に関する現在までの学説判例は網羅されており、とても参考になります。同種事件を扱われている先生方には是非一読をお勧めしたい論文です。

ただ本件の場合、実は夜間の時間帯は必ずしも「労働密度が薄い」といえないし、労働者側はそういう主張でもなかったんですよね。本来三交代勤務であるべきところの三交代目に連続で入っている、という雰囲気の主張をしてました。この辺は介護労働の特質が絡みます。その辺はまた追って書きましょう。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

さざんか会事件解説⑧

昨日に続き、裁判を決定づけた援軍、準備書面で紹介された判例評釈の2人目、東大土岐准教授です。三冠王という紹介がかっこいい!スターの目に止まった裁判とのことで光栄でしかないです。

門外漢の私でも三冠王と聞けば名前も覚えたくなります。落合なのか村神なのか

さざんか会事件解説⑨

昨日の続きです。土岐三冠王から、労働密度が低い時間帯でも賃金は変わらないと評釈いただいたことが決定打になった(かも)。尚、原告として労働密度が低いといった覚えはなく、低くても認められるんだから今回は認められて当然!ということですね。

ます。某社会福祉法人元理事長から密度薄いことはないとお叱り受けました。

先行裁判でN氏が証拠の多くをすでに提示し、請求額8割の和解だったことや証人尋問で法人側のデキがよくなかったので、賃金面ではまさかでしたね。

グループホームの夜勤問題#


2024年8月28日

粛々と今日も書いていきます。障がい者グループホームの夜間支援には、夜間支援等体制加算というものがあります。これは現在6区分、(Ⅰ)~(Ⅵ)まであり、(Ⅰ)~(Ⅲ)が基本形、(Ⅰ)が夜勤、(Ⅱ)が宿直、(Ⅲ)がオンコールとなっています。

01_資料1_共同生活援助に係る報酬・基準について_1111

だから、グループホームが支援報酬として夜間支援等体制加算(Ⅰ)を貰っているのに、夜勤者に対して夜間の賃金を払ってないとしたら、これはおかしいだろということになります。実はさざんか会事件では、これが原告側のかなりベーシックな主張でした。

なんでこの話が判決書に全然出てこないかというと、裁判所は夜間支援に対する施設側への行政からの費用支給という側面は余り重視しなかったんですね。大星ビル管理事件判決及びその後の裁判例に照らすと、施設への支払がどうであれ夜勤の実態が問題だと、そういう審理の進め方をしてたわけです

ただ結局、実態としてもグループホームの夜勤における労務負荷は相応に重いものとされ、夜勤の労働時間性は地裁で全面的に認められました。ただ、賃金単価の認定部分では夜勤の労働密度を薄いとみるかのような説示もあり、一見矛盾するように見えるところもあります。ここの説明はまた後日

なお、夜間支援等体制加算とか、この後お話する障害程度区分の話なんかについては、はっきり言って私よりも原告ご本人の方が遥かに詳しいです。法曹関係の皆様も、是非ご本人のお話に注目して下さい。私自身、大変、勉強させて頂きました。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

さざんか会事件解説⑩

本裁判は、福祉職場の特徴について十分に議論されたとは言えません。判決や評釈は、夜間警備の延長線上の議論なんです。それだけ福祉GHの裁判例は希少です。

夜間警備経験もありますが、GH夜勤は警備業務+不確実性の高い対人業務なので労働密度が同等ではないです。

先生が下記で貼られた調査の通り、支援区分4以上の利用者の夜間支援では、

  • 排泄介助54%

  • 水分補給41%

  • 昼夜逆転等の支援33%

夜間1回の巡回だけで事足りるわけでなく、業界の人間なら証拠以前の問題だったわけです。生理現象を考えずして証拠だけで語る議論では、却って空想世界に陥るわけです。

そして、さざんか会が21時〜6時の間に勤務時間が1時間だけあるという異様な主張した背景は、実態と関係なく夜勤用の夜間支援等体制加算Ⅰの約16,000円が1時間配置だけで取得できるというルールの穴を狙ったものなのは、明らかでしたが、この制度上の欠陥は、判決で語れることはありませんでした。

さざんか会事件解説⑪

昨日の続きですが、先生に話し振られてるような、、、

障害者福祉サービス報酬と労基法の表裏一体性が裁判上では、あまり議論にならなかったのは残念です。厚生労働省が作成した報酬制度なので労基法は、かなり意識された制度と思っています。

しかし、上記の厚生労働省のQ&Aを見て、夜間4時間☓2の休憩時間を主張してくる最重度障害者GHがあるようには思えませんよね。

何重かの違反が見られます。そして、さざんか会に限らず業界にこの手法が蔓延していることには、このアカウント読まれている皆さんは、お気づきでしょう。

地裁判決における労働時間性認定#


2024年9月2日

さざんか会事件判決解説、もう少し続きます。てか、中々高裁判決の解説ができませんね。今日は地裁判決における夜勤時間の労働時間性の認定について、同業者の方にとって一番参考になるのは多分この話だと思います。

千葉地裁判決は「被告の運営するグループホームにおいては、…夜勤時間帯にも生活支援員が駐在する強い必要性があり、各施設につき1人の生活支援員が宿泊して勤務していたこと、入居者の多くは、知的障害を有し、中にはその程度が重い者や強度の行動障害を伴う者も含まれていたこと(続)」

特にグループホームFにおいては複数の入居者が頻繁に深夜又は未明に起床して行動し、その都度生活支援員が対応していたこと、原告は生活支援員としてはFほか3か所のグループホームで勤務していたことが認められる」として労働時間性を認めました。

「入居者の多くは、知的障害を有し、中にはその程度が重い者や強度の行動障害を伴う者も含まれていたこと」という認定は、被告の事業報告書に基づいています。これはネットで公開されており誰でも見ることができます。

事業報告書を見ると、入居者・利用者の障害程度区分が書いてあります。この区分は支援の必要性の観点から見た障害のレベルを示すもので、6が一番重く、1が一番軽いものとなっています。

で、この事件ではどうだったかというと、支援対象者は基本的には区分4~6の人ばかりでした。ですから、どういう人を支援してたかという「外枠」のレベルで、実は労働強度の強さは認定できる事案だったのですね。この地裁判決の説示のベースはこの点にあります。

ここでのポイントは、介護・障がい者支援の現場における労働密度は、対象者の要介護度・要支援区分によって、一定程度「定量化」することが可能であるという視点だと思います。障害の重い人ほど手厚い支援という「労働」が必要というのは感覚的にも理解しやすいことだと思います。

支援対象者の要介護度や要支援区分は客観的な書証によって認定しやすい点だと思うのですが、これを争点判断の先決問題として丁寧に認定している例は少ないように思います。今般の地裁判決も具体的数値までは認定していません。私としては、福祉労働の事案では常に意識されるべき点だと思います。

本日はここまでといたします。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

さざんか会事件解説⑫

さざんか会は重度知的障害者の支援に特化しており、全利用者が知的障害を有しています。判決は曖昧で誤解があります。また、強度行動障害への言及があります。強行については途中から重点化してとりあげました。新聞記者さんにも掲載前にネットの映像を見て貰いました。

私は転載した内容に同意しているわけでなく、適切な職員とハードがあれば強度行動障害の方をGHで支援することは可能と思います。但し、専門性と労働密度が必要です。

https://x.com/mkomukomu/status/1830013967391178983

強度行動障害者の地域移行は難しいのでは? - 世話人ブログ

上記の通りプロは尻込みする重度7対1のGH2箇所含め争ったわけで労働密度が高いことは業界の皆さんは承知でしょう。夜間記録が少ないのは、業務上加算をとるための最低限の記録しか認めてられてなかったためで記録が多いGHは、記録内容を私自ら指示したから多いんです。業務量とは関係ないんです。

さざんか会事件解説⑬

地裁判決は物議を醸しましたが、下記の点を私は、大変評価しています。法曹関係の方はここを読み取った解説は少ないようでしたが、実にシンプルな判断で、記録を見ずとも支援区分だけで、労働密度、実態は評価できると読み取れ今後、類似例に援用できると思われるからです。

本裁判は夜間業務について争われたわけで、賃金の担保である夜間支援体制加算Ⅰについては区分1~2、3、4~6の3段階で報酬が決まっており、区分4~6の利用者ばかりのさざんか会のGHを一律に評価することには報酬単価から考えても合理性があるものでした。

夜間支援等体制加算(グループホーム)をわかりやすく解説

しかし、本裁判4ホームで争われており、利用者数が違うホームの評価も焦点でした。単価表を計算すればわかるのですが、夜間の加算額は、支援員の人数に比例する単価になっており、利用者2人以上だと合計額はほぼ同じです。 利用者数に関わらず一律とした判断は報酬との一体性で合理的でした。

さざんか会事件解説⑭

一昨日、昨日の続きです。

専門的に言うと障害の重度、軽度、もしくは、中度、最重度と区別するケースもあり割と難しいです。

本裁判では賃金と公定報酬の表裏の都合で、障害者サービス受給者証の障害支援区分を基本にした議論をしています。

障害支援区分って何?

障害者GHの利用の場合は必ず支援区分があり、詳細を省きますが、報酬体系や設置基準が1~3と4~6で大きく分かれています。4以上を重度との認識で判決を解釈しております。

手帳を基準にした統計もあり複雑です。*支援区分*障害者年金*障害者手帳は別々に障害の重さを審査するんですよね。

支援区分→障害者福祉サービスを受けない方は、取得しない。手帳→身分証明や交通費等助成の意味合いが強く助成の少ない精神の取得率が低い。年金→無年金及び児童は審査されない。*自立支援医療で障害者と認定されることもあり、重度か軽度か「重さ」に一律の基準がないことは注意事項です。

裁判官への業界知識の伝え方#


2024年9月3日

さざんか会事件について、今日は昨日書かなかったツッコミについて2点。まず、「入居者の多くは、知的障害を有し」とある点。いやいや、障がい者グループホームなんだから、みんな障害ありますがな、と。原告ご本人も仰る、通りこれはちょっと?な説示でしたね。

もう一点「強度の行動障害を伴う者も含まれていたこと」。いやいや「強度行動障害」ですがな。術語ですよ、と。これ、最終準備書面で「強度行動障害の認定を受けている者が入居していた」と主張したんだけど、どうも裁判所に上手く伝わらなかったようですな。

この判決を書いた裁判官は、私の経験上だと、証拠として出せば学術論文なんかでも結構しっかり読んでくれる方ではあるので、やはり業界知識に関する書証は多少手間でもがっつり出さないといかんのだな、という教訓にしました。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

さざんか会事件解説⑮

業界用語がいかに世間には通じないのかw。強度行動障害について再説明します。判定シートを見てください。システマチックですが、合計10点以上の方が強度行動障害に判定されます。専門的な支援がないと社会生活が困難であると感じられますか?

1. 強度行動障害

障害者GHでは、強度行動障害の利用者さんがいて、研修を受けた職員がいると重度障害者加算ⅠやⅡといった加算(報酬のボーナス)が生じます。障害者支援区分1~6とは別に+αなんです。支援区分6+強度行動障害がある方が臨時的な加算を除き最も単価が高い方になります。

共同生活援助(障害者グループホーム)の令和6(2024)年度報酬改定を解説

定員7人のGHで区分6+強行(略)の方ですと月45万〜50万円の報酬があるのですが、あろうことか裁判中に争点ホームの1つでその区分6+強行の方が朝亡くなって発見されたと伺いました。これだけの単価はどこへ消えたのか?それでも休憩が可能だと主張し続けるのか?高裁陳述書で批判しました。

インターバルについて、組合の力もあり、裁判時期はマイルド化していましたが、かつてのさざんか会のシフトの基本形は

Aパターン 15時~10時の夜勤が月〜木まで4連続で続く

Bパターン 15時~10時の夜勤の2連続の2交代で土日は日中の休憩がない

のいづれかでした。

5時間のインターバルで夜勤職員が通所との往復送迎している事業所も多く自損事故を起こしたり、安全配慮義務に問題があります。

私はBパターンが多かったのですが、土日祝は通所が休みなので利用者が外出しません。日勤が配置されないと月1回程度、土曜の朝~月曜の朝等、48時間ワンオペでした。

本裁判で仮眠時間の有無についてですが、唯一、証人尋問で私が24時間~48時間ワンオペ業務が続くことがり、生理的に全く睡眠を取らないことは困難、状況としては消防士の仮眠に近いと答えたのみです。

さざんか会のGHには仮眠室(職員室)が完備されており、それが誤訳されているように感じます。

日本とドイツの法的視点#


2024年9月6日

さざんか会事件解説続けます。今日から最低賃金法の話ですが、前提として理論の話です。大星ビル管理事件最高裁判決は、夜間仮眠時間を「労基法上の」労働時間として認める一方、労働契約に基づく賃金請求については否定しています。

大星ビル管理事件最高裁判決引用

「被上告人と上告人らとの労働契約においては、本件仮眠時間に対する対価として泊り勤務手当を支給し、仮眠時間中に実作業に従事した場合にはこれに加えて時間外勤務手当等を支給するが、不活動仮眠時間に対しては泊り勤務手当以外には賃金を支給しないものとされていたと解釈するのが相当である。」

「しかし、労基法一三条は、労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分について無効とし、無効となった部分は労基法で定める基準によることとし、労基法三七条は、法定時間外労働及び深夜労働に対して使用者は同条所定の割増賃金を支払うべきことを定めている。」

「したがって…本件仮眠時間が労基法上の労働時間と評価される以上、被上告人は本件仮眠時間について労基法一三条、三七条に基づいて時間外割増賃金、深夜割増賃金を支払うべき義務がある」

「労基法三七条所定の割増賃金の基礎となる賃金は、通常の労働時間又は労働日の賃金、すなわち、いわゆる通常の賃金である。この通常の賃金は…深夜ではない所定労働時間中に行われた場合に支払われるべき賃金であり、上告人らについてはその基準賃金を基礎として算定すべきである。」

この大星ビル管理事件の枠組みだと、仮眠時間等が事後的に労基法上の労働時間と認定された場合の基礎賃金は、通常の賃金ということになります。

ドイツにおける賃金請求権の法的根拠

先ず若干本題から逸れた話をします。この判断枠組み、ドイツ法だと大きく異なっています。これについては、皆川宏之「ドイツにおける賃金請求権の法的根拠」という大変重要な研究があります。

皆川宏之「ドイツにおける賃金請求権の法的根拠」引用

(※BGBというのはドイツ民法典のことですね)

「BGB612条は、その1項で「労務給付が、諸事情から報酬に対してのみ期待されうる場合には、報酬が黙示に合意されたものとみなす」とし、同2項で「報酬額が定められていない場合、報酬規程があるときには規程に従った報酬が、報酬規程を欠くときには通常の報酬が合意されたものとする」と定める。

量の面では、労働者が超過勤務…の形で、契約上で義務づけられた労働時間を超えて労働した場合に、当該超過勤務時間…の報酬について労働協約や労働契約に特に定めがないときには、やはりBGB612条1項により、当該超過勤務時間の労働に対して報酬請求権が根拠づけられうる。BGB612条2項で合意が擬制される「通常の報酬」の額は、個々の事 案の具体的な事情によって決まる。

一般には、該当する地域の同じ職業において相当する労働につき支払われる額であり、労務義務者の年齢、職業経験、家族状態、子どもの数、同じ使用者に対する勤続期間などが 考慮されることになるが、労働関係の場合には、協約賃金が通常の報 酬となることが多い。超過勤務時間に対する賃金としてBGB612条2項による通常の報酬が擬制される場合には、通常の労働時間に対する基 本給の額となる。」

ドイツ法だと民法典そのものに、賃金合意の補充規定があることが特徴的だと思います。本来は取締法規である労基法を直接の請求根拠とする日本の判例と似ていますが、実体法(BGB612Ⅰ)によって黙示の労働契約の成立を認めている点は、この認定に極めて消極的な日本の判例と大分異なりますね。

めんどくさい話をしましたが、今日はここまで。これは、今般の地裁の認定とか、橋本評釈の意義なんかと繋がる話になります。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

さざんか会事件解説⑯

法曹関係者は、さざんか会事件は大星ビル事件の続編のようにみているとのことです。労基法の基本原理、皆さんご存知ですね。労働契約の最低基準を定めた法律です。労基法未満の契約はすべて無効。では大星ビル事件は何が労基違反で無効だったのか?

大星ビル事件では、警備業で夜間の大半を仮眠時間(休憩時間とは別)と呼び、所定労働時間に算定せず別途手当(2,300円)を払っていたようです。ここまでは、本裁判(夜間1時間業務、8時間休憩に6000円の手当)と酷似ですね。「仮眠時間」が低額で労基違反で無効と判断されたようです。

両事件の類似
①所定時間外の膨大な「労働」時間があり、低額な手当支給。
②繁忙時は、申請で残業代が出る。さざんか会は、組合結成後、認める。

大星ビルの特徴
①仮眠は休憩外で勤務時間と認めている節がある。
②仮眠中、外出禁止等の指示が明文化。さざんか会は、組合結成後に指示を曖昧化。

さざんか会事件解説⑰

昨日に続き最高裁まで争われた類似事件、大星ビル事件(2002年)についてです。最高裁の判決は判例と呼ばれてその後の判決の規範になるわけですね。結果、実態は労働時間だった「仮眠時間」はすべて昼間の基本給☓夜間割増☓残業代として再計算せよとなったわけです。

実態としては、労働時間だけど契約上明記されてない時間帯の賃金をどう計算するか?さざんか会事件では、千葉地裁の段階では、大星ビル事件とは違う判断がされ別の計算方法で最低賃金以下だったことが高裁の焦点になったわけです。ただ昨日触れたように数点の大星ビル事件と違いがありました。

①夜間8時間は就業規則上明確に休憩と書かれていた。
②組合結成以降、夜間業務指示の痕跡を消そうと管理者側が努めていた。
しかし、少数の証拠と利用者の障害程度から管理者の指示命令下にあり労働時間であると判決がされました。法人側弁護士は厳しいと述べてます。

さざんか会事件解説⑱

黒葛原先生の話しがドイツにw私も裁判とは国際的なものだと初めて知りました!!これは、私たちの「援軍」となった学習院大学橋本教授の「評釈」がドイツ法を紐解いているからだそうです。ドイツの労基法の役割になるのがBGBのようです。

さざんか会事件解説⑲

昨日に続きドイツの労基法の役割を果たすBGBについてです。日本では具体的な労働契約がないが実態が労働時間だったと認められる場合は、本裁判も含め裁判例の積み重ねによって判断されているが、ドイツではBGBに明記されているとのことでしょうか。

私は法律に疎いので、この裁判は、勝って当然「定型」とすら思っていましたが、こう聞くと労基法の名文上は曖昧な部分を争っており、先人の努力によって「定型化」し、こういった結果が出たのだと知り感慨深いですね。

最賃法の適用と立証責任の相違#


2024年9月7日

今日も後ほど書きますが、少しドイツ法の話が続きます。なんでこれが必要かというと、8/23読売に載った橋本陽子先生の政策提言は、近年のドイツ労働判例のことを知らないと、提言の合理性が理解し難いところがあるからです。

さて、今日は橋本陽子教授の論文の内容を少し紹介します。以前も言及した「最近のドイツにおける労働時間法の展開について」(和田肇先生古稀記念論文集『労働法の正義を求めて』441頁以下)です。

この論文では、EU司法裁判所の労働時間把握義務に関する判断がドイツにどう影響を及ぼしたかという分析が主なんですが、その中で、ドイツにおける残業代請求訴訟の主張立証責任の構造が論じられている部分があります。

んで、すごく乱暴に要約すると「ドイツでは、労働契約に基づく残業代請求と、最低賃金法に基づく残業代請求とでは、労働者に求められる立証責任のレベルが異なり、後者の方がハードルが低い」とされているのですね

そんで、2021年6月29日連邦労働裁判所判決が紹介されています。これは、家庭で24時間介護を行う外国人介護労働者について、待機時間を含めて最低賃金が支払われなければならない、というものです。

橋本論文の引用

「連邦労働裁判所は、ブルガリア企業(注:この事件の使用者)と被介護者との間のサービス提供契約において、「24時間介護」が明記されていたことを重視し、原告と被告との間の労働契約では、週30時間の労働時間が合意されていたが、実際の労働時間が週30時間では足りないことは客観的に明らかであり、被告は、被介護者との合意したサービスを週30時間の労働時間の範囲で提供することが可能であったことを立証していない、と述べた。

本判決は、最賃法上の賃金請求訴訟について、完全な労働(Vollarbeit)であれ、労働待機であれ、待機勤務であれ、24時間介護を行っていたことのみを主張すれば足りるという点で、原告の立証責任を軽減していると評価されている。しかし、一日24時間、ドイツの最低賃金を支払わなければならないという負担は、外国企業にもドイツの私人にも現実的であるとはいえず、立法の手当が必要であることが指摘されている。」

で、この後に、日本の判例における労働時間認定は、ドイツにおける「最低賃金法上の労働時間」の認定のそれに近いことが指摘されています。大星ビル管理事件最判の書きぶりやその後の裁判例の傾向に照らせば、確かにそうでしょう。

その上で、ドイツ判例の日本法への示唆について、次のように述べられています。

「他方で、ドイツでも、最賃法については、日本のように、労働時間性が厳格に解されるようになっており、介護分野については、最賃法の特則が定められているほか、現在、かかる特則の適用されない、居宅で介護を行う労働者を念頭において、さらなる最賃法の適用除外の可能性について議論されるようになっている。日本においても、実質的に最賃水準の賃金について、割増賃金の請求が争われているケースも少なくないように思われる。裁判例の分析を踏まえたうえで、望ましい労働時間規制について検討を深める必要がある。今後の課題としたい」(引用ここまで)

橋本教授のご紹介に係るドイツの法制度は、労働時間の証明責任と残業代の制度そのものについて、いわば所得水準による一定のグラデーションがあること、そして低所得労働者については証明責任の軽減という形で救済が認められやすくなっている点において、示唆に富むものと思われます。

私、この論文は今年2月のジュリストの橋本評釈が出た後に読んだんですが、こういう問題意識を元々お持ちであったのであれば、あの地裁判決はその問題意識にドストライクだったんだろうなあ、と思いました。

あと、前提として、ドイツの雇用はいわゆるジョブ型雇用であることは念頭に置く必要があります。もっとも、日本でも、福祉労働の分野では資格の種別が細かく存在し、介護・支援の対象者の区分も明確なので、相当程度ジョブ型に接近している面はあると思います。本日はここまで

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

さざんか会事件解説⑳

船橋市議会が急展開でなんだか私も動揺しておりますが、速報とじっくりした事件解説を交互にやっていくのがこのアカウントの特徴です。黒葛原先生の解説は、私たちの援軍となった学習院大学橋本教授の評釈の深掘りですね。

『労働法の正義を求めて』というタイトル。私たちが求めていたのは『正義』だったんだと高昇感が湧きます。本裁判、地裁判決が最低賃金以下だったことが1つの論点でしたが、ドイツ類似裁判で最低賃金程度の支払いを求めるならハードルが低いということでしょうか

グループホーム職員の夜勤時間帯の労働時間性と割増賃金請求権—社会福祉法人A事件

さざんか会事件解説㉑

長いと思いましたが、先生の解説を5連リポストです。
ドイツの居宅介護の裁判。
①事業者と利用者の間で24時間契約。
②事業者と職員の間で週30時間=1日4時間ちょいの契約。
1対1の状況ですから労働密度は高くないですが残りの時間は最低賃金での支払いが命じられた。

この事業者による二重契約。さざんか会事件でも見られるのですが、裁判中は思いつかなかったw証拠を入手したので行政や議員を行脚するために拡散体制に入りましたw それはさておき、拘束時間について最低賃金で判決がでる場合と基本給の延長で判決がでるケースがあるということですね

この二重の給与構造がありなのかがさざんか会事件での法曹界の議論の対象のようですが、 私が気になるのはドイツの最賃です。1ユーロ130円☓9,50ユーロ(いづれも2021年前半)=1235円w日本で言う底辺労働の賃金ではない。尚、最新の最賃は円安もあり2000円近いです。

最低賃金 (ドイツ)

さざんか会事件解説㉒

今日も4連リポストです。橋本教授のドイツの類似裁判の紹介と解説ですね。私の立場で気になるのは、ここで語られる介護報酬がどの程度だったのかですね。日本のように公定価格なのか?別なのか?報酬額から労使分配がいかほどか賃金の適切さを評価する必要はないのか?

というのもさざんか会事件では、重度オンリーの障害者GHの夜間報酬は処遇改善や船橋市の地域単価を計算する16,000円ぐらいあるので、最賃以下の判決は?労使分配の意味でも不適切だと控訴理由書で書いたので。

さざんか会事件解説㉓

なるほどドイツの裁判では、低賃金労働者では証拠は多く示さなくてよく、高賃金ならはガンガン示せという形式で「救済」してるのか。あとジョブ型雇用というキーワードですね。福祉業界も近年資格化されてきたので、サビ管なんてジョブ型に近いかも

さざんか会事件とその論点#


2024年9月28日

さざんか会事件の解説、若干、再開しましょうね。例の、地裁の最低賃金に関する説示を見て行きましょう。この事件で一番物議を醸したところで、その後、別のところで「業界に激震が走った」なんて話も耳にしました。

まずは地裁の説示を引用しましょう。

地裁判決引用

「夜勤時間帯が全体として労働時間に該当するとしても、労働密度の程度にかかわらず、日中勤務と同じ賃金単価で計算することが妥当であるとは解されない。」

「日中勤務と比べて労働密度の薄い夜勤時間帯の勤務について、契約において特に労働の対価が合意されているような場合においては、割増賃金算定の基礎となる賃金単価について前記(3)のように解することが労基法37条の上記の趣旨に直ちに反するものとは解されない。」

「被告の運営するグループホームにおいては、入居者の多くが知的障害を有し、中にはその程度が重い者や強度の行動障害を伴う者も含まれていたことが認められるものの、入居者も夜間は基本的に就寝していると解される。また、夜間支援記録…によれば、具体的な業務の発生する頻度にはグループホームごとに差があることが認められ、このことからは、常駐する生活支援員の労働密度が一律に高かったとは認められない。本件事実関係の下においては、夜勤手当の支給額として約定された6000円を基礎とすることが相当であり、これと異なる旨をいう原告の主張は採用することができない。以上によれば、被告における夜勤時間帯の割増賃金算定の基礎となる賃金単価は、750円となる。なお、最低賃金に係る法規制は全ての労働時間に対し時間当たりの最低賃金額以上の賃金を支払うことを義務付けるものではないから、泊まり勤務に係る単位時間当たりの賃金額が最低賃金を下回るとしても、直ちに泊まり勤務の賃金額に係る合意の効力が否定されるものとは解されない。」

以上が、千葉地裁判決の賃金単価に関する説示です。高裁の説示と対比するために申しますと、ざっくり3つのことを言ってます。

① 夜勤の単価は昼間と変えてよい、

② 本件では単価を変える合意がある、

③ 変更される単価は最低賃金以下でもよい

高裁は今年7月の判決でこれを引っくり返していますが、そのポイントは②の部分でした。①夜勤の単価は予め契約で「趣旨と目的」を明確にしているなら変えて良いが、②本件ではそういう合意をしていたと認められない、と言ったのですね。そして③については判断してません。

この説示の中で、夜勤の労働密度が一様でない、という認定箇所がありますが、これは、約2年の請求期間の中に、5ヵ月ほど、区分2の入居者しかいない施設にいた期間があった事実を拾ったのだと思います。

私もここ(区分2の人しかいない施設での勤務期間)の労働密度は突かれっかなーと思っていたのですが、仮にあるとすれば、その施設の在籍期間について労働時間性そのものを否定するかなと思ってたんですよね(そうすると和解案の水準にかなり近かった)。まさかこういう判決になるとは思いませんでした。

この判決は、労働側弁護士はもとより研究者からの評判も悪かったようで、橋本陽子教授は最高裁判決に違反すると断言し、土岐准教授も同様に判旨に疑問ありとの評釈をなさっています。これは以前に少しご紹介しました。

使用者側を主になさる弁護士による好意的な評釈もあるのですが、そこでも大星ビル管理事件の射程から外れている新しい判断ではあるという評価ではあり、ともかくも従来の理論的な道筋からは些か飛躍した判断ではある、というのがおおよその評価だったのではないかと思います。

私の理解では①の昼夜別賃金OK、というのは元々大星ビル管理最判でも含意されている内容であり、そこはそんなに目新しい判断ではないと思うのですね。これは東京高裁判決についても言えることで、ぶっちゃけ地裁でこちらが勝ってれば、そんなに注目されるような事件でもなかったんじゃないかと思います

実際戦った労働側弁護士の立場からすると、この地裁判決は、②昼夜別賃金の合意、という点に関する事実審理を全く行わないまま、就業規則上夜勤手当の定めがあるということだけを根拠にその合意の認定をしてしまったことが、最大の問題点だったと思います

この事件で使用者側は、元々「夜間に仕事はしていない」と主張して夜勤時間の労働時間性それ自体を争ってたわけですから、夜勤手当があるとしても、そこが労働時間であることを前提とする手当であるはずがない、そこが、控訴審での労働側の主要な主張になりました。

地裁判決の問題点として今一つ指摘できるのは、労働密度に関する事実認定が一貫していないことです。労働時間性のところではそれなりに仕事してたと認定しつつ、賃金単価のところでは労働密度は薄いとか言っちゃっている。これはダメでしょと。

実態としても、そりゃ区分2の人なら夜中寝てるかもしれませんが、区分5・6の人とか、強度行動障害のある人なんかだと、夜間覚醒は当然も当然、夜勤者は寝るどころか休む間もないのが常態のはずなので、そこが最低賃金以下でいいわけねえだろというのがこちらの感覚ではありました。

そもそも夜間支援等体制加算(Ⅰ)は「夜勤」の加算であり「宿直」の加算ではないのですよね。(Ⅰ)を取ってる事業所では、本来は、三交代制で夜勤者が法定労働の8時間働く、というのが本来的な在り方・働き方になるはずなので、どうもそこんとこ、分かってもらえなかったのかな、という印象でした。

高裁は結局、昼夜別賃金の合意はないとして、事実認定でばっさり斬っちゃったので、介護・障がい者支援労働の特質を深掘りするような展開にはなりませんでした。が、実際のところ、本件の残された問題はこの種の労働の「労働密度」を誰がどう評価し、そして賃金に反映させるか、という点だと思います。

ここからは、東京高裁判決が示した別賃金の「趣旨と内容」という要件の読み方、先に紹介した橋本論文に出てくるドイツの介護労働に関する労働法制、そもそも要介護・要支援という立場にある人々を社会がどれくらいケアするか、という、社会の在り方そのものが関わる話になります。それはまた他日

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

黒葛原先生、相当、お忙しかったようで久しぶりのさざんか会事件の解説再開です。地裁判決のこの部分は私も大変、批判的に見ていますが、裏を返せばGH業務というもの実態を伝える力が原告側として弱かったのかなと反省する部分でもあります。

この判決の基準になったのは夜間支援記録というものだけなんですよね。夜間支援記録というのは加算取得上、最低限の記録を残せという指示で各ホームで定型の記録を残すように指示されていたんですよ。『隠された』記録も多くあり、例えば24時間癲癇発作記録をつけている利用者もいるんですね。

生活支援とは対人業務だけでなく家事業務も含まれ、7対1ワンオペで日勤も置かないホームもあり、夜間に掃除や洗濯等も相当行われています。また21時〜6時の間、大人がずっと寝ているわけがなく5時間程度の睡眠で平気な人間なんてざらにいます。大半が寝ているとは生理現象からみて空想的です。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

言いたいことが出きました!この裁判『賃金は時間帯によって変えていい』ここがクローズアップされていて、これ自体は否定しません。そして、その根拠に『労働密度』の判断が注目を浴びています。しかし、裁判所には労働密度を判断できる機能があるのか?数々の解説を見渡した結果の疑問です

結果でなく経過から考えると裁判当初、労働密度について争っておらず労働時間制を争っていました。判決で突然密度が〜と裁判長が書かれました。異業種の方が福祉業務の労働密度を証拠で評価できるか?否が答えです。密度の評価には多角的な物差しが必要で、夜間支援記録のみで判断できません。

私も障害支援区分やサービス報酬で密度が決まると単純化して日々、業務を考えていませんが、膨大な情報量の蓄積や積み重ねで作られた労働密度の指標である支援気分を軽視して、裁判上で提示された小数の証拠で労働密度を論じる法曹関係者のが多いことには違和感ばかりでした。また論じます。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

黒葛原先生も誤解があると思います。流石にさざんか会では、区分2の利用者はほぼいないです。当該ホームはJホームの話しですが、ここでも全員区分4以上だったかと思います。下記の理由で他のホームより労働密度が低く争点になるのではと原告側は予想していました。

①老朽化により閉鎖間近で、利用者数5人→3人になり、実験的に夜勤未配置の曜日あり。

②ワンルームタイプで日常的に職員の目が入る必要がない可能性。

但し、就業時間前から朝食準備の必要性があったり色々、おかしいんですよね。私は旧耐震で、緊急避難対策に常駐が必要と主張しました。

ここらへんは法曹関係者の常識と福祉事業者の常識の違いですね。

私は地裁が高裁と同じ判決だとしても勃興する障害者グループホームで同様の「不正」事業者の多数いることがこの判決の意義の『大きさ』だと思っています。

だからこその読売新聞の実名報道だと思います。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

地裁判決で私が批判的に見ているのは、労働時間性の証拠を持って労働密度を語ることです。これは次元の違う議論です。本裁判で争われた4ホームを労働密度で並べると私の主観でも報酬単価でも頭文字でTN、S、TK、Jの順です。最難度は、判決で目立つSではない。

地裁判決と似た勘違いの解説。経営書院さんフォローいただいているので心苦しいw Sホームだけ忙しいとおもわれているがTNの労働密度が高いことはさざんか会が認定していて、請求時期のあとに夜間休憩時間を8h→6hに唯一縮小解釈しています。歴然と証拠があるんです。

仮眠室(職員室)があるからほとんど休憩と解説されているが、TNは、これが真逆で職員室の片隣の利用者居屋と扉を開けると繋がる構造で夜間開放して利用者の癲癇発作を確認しいており、反対隣はマジックミラーで居室内を確認できる構造でこちらが夜間支援記録の対象でした。素人の想像なんです。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

ここがさざんか会事件の『悪質性』ですね。報酬は宿直用の6000円程度でなく夜勤用の16,000円程度を受けながら労働密度が低い、勤務時間は1時間だと主張する。この部分の指摘は判決や報道では十分ではないです。GHそのもの存在意義が問われる問題だと思います。

よりこの問題が根深い所がですね。さざんか会の宮代理事長はかつてグループホーム学会副代表を務めていて『学会』はグループホーム設置マニュアルという刊行物を出しており、ここにかかれている夜間帯も労務管理は断続的勤務を提案していたり、厚労省通知に準じていました。

設置マニュアルを発行している出版社社長もさざんか会の評議員をしております。彼らが周囲に『勧めている』設置方法と自分たちの運営が全く違うものなんですよね。これは学会そのもの信頼性を問う事件だと私は認識しております。

夜勤の休憩時間を巡る課題#


2024年10月19日

さざんか会事件の解説続き。しばらく休んでましたが今日はちょこっとだけ。休憩の位置付けについてです。労働法の理屈だと、休憩時間は労働からの完全な解放が保障されなければなりません。グループホームの夜勤はワンオペのところも多いので、休憩をどう扱うか、しばしば問題になります

厚労省の令和3年3月31日付通知「夜間支援従事者の休憩時間中は、原則として入居者からの連絡・相談等への対応は行わない旨を利用者やその家族に説明するとともに…入居者から連絡・相談等があった場合、休憩時間終了後に対応する旨を伝えることで足りる旨を事前に夜間支援従事者に伝達しておくこと」

ちなみに、この厚労省通知はさざんか会事件の一審のかなり早い段階で原告側証拠として出しています。夜間支援等体制加算(Ⅳ)~(Ⅵ)の位置付けを理解する上でも重要な通知です

障害福祉サービス等指定基準・報酬関係Q&A

休憩に関する上記通知内容を利用者側から見た場合、夜間支援従事者の休憩時間中は支援者がいない、極端に言えばネグレクトされている状態に置かれる、ということになってしまいます。ですから、この通知はここで終わってはいないわけです。

厚労省通知は「利用者の状態像等から、1人の夜間支援従事者では上記による適切な休憩時間の確保が困難な場合においては、夜間支援従事者の休憩時間に係る交代要員を別途確保する必要がある。」としています。これに対応する加算が(Ⅳ)~(Ⅵ)になります。

休憩時間の労働法的な定義(労働からの完全な解放)に照らすと、加算(Ⅰ)を取ってる施設を夜間ワンオペで回すという人員配置の在り方自体、ちょっと無理があるのではないかな、というのが私の考えです。職員の健康か、障がい者の安全か、どちらかが必ず犠牲になってしまう。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

さざんか会事件解説、再開です。ナンバリングを忘れていた。今、何番なのか?ここですね。私もご家族の方から伺う限りさざんか会の契約書に職員の休憩時間が明記されておらず通知に違反する疑いが強まっています。9月議会の岩井議員の質問はこれを踏まえたものです。

岩井議員が福祉サービス部長を激しく追及したネグレクト問題です。私は、利用者が少数でもどんな区分でも休憩ができないと主張するほど原理主義ではないんですが、最重度、強度行動障害の利用者が夜間放置できるならなぜ約16000円も夜間単価が設定されているのか?です。

私ね。さざんか会顧問弁護士とのやりとりでも書いたようにさざんか会を批判すること=あるべき姿を伝えているんです。戸田先生は夜間支援体制加算Ⅳを取得して報酬をあげながらワンオペを克服する基本構造に挑戦すべきで求人出して集まらないならまだしもその痕跡はない。

夜勤賃金と合意#


2024年11月1日

さて、超久しぶりにさざんか会事件の解説を書きます。高裁判決が夜勤時間帯について通常の賃金と異なる時間給の定めを置くための要件とした別段の合意の「趣旨と内容」について。実は最近また似たような事件をお受けしたので、深掘りしなくちゃとなりました。

東京高裁の説示は「労働契約において、夜勤時間帯について日中の勤務時間帯とは異なる時間給の定めを置くことは、一般的には許されないものではないが、そのような合意は趣旨及び内容が明確となる形でされるべきであ(る)」というものです。結果、本件はこの合意がないとして、原告勝訴になりました。

ここでの夜勤時間帯というのは、低密度労働の時間帯を念頭に置いていることは明らかだと思います。証拠で出した土岐准教授の論文の影響を如実に感じる説示ですね。

この説示を障がい者グループホームの労働時間に当てはめる場合、夜勤がそもそも「低密度」と言えるかどうかという点は問題になると思います。これまで述べたように加算(Ⅰ)は「夜勤」に付くもので宿直とは違うので、質的に昼間勤務より低負担かというと、必ずしもそうではないという面があります。

たとえば、夜勤時間中、入居者がてんかん発作を起こして緊急に病院に運び込む必要が出たような場合、その実働の時間の対価は通常の賃金をもってすべきことは明らかであるように思います。別段の合意の存在をもって、そういう時間についてまで低廉な賃金にしていいのか、ここは問題になり得ます

そう考えると「趣旨及び内容」の中身は実は必ずしもフラットではなく、実際には労働密度に応じた適正な賃金算定の余地があるものでなければならないのではないかと思うのですね。ここは、東京高裁判決の先に積み残された課題だと思います。この説示の先に合意の内容規制が含まれているのかどうか

私自身は、過重労働の可及的抑制という労基法37条の趣旨に照らせば、別賃金合意については内容的な合理性が要求されると考えます。法律行為一般の有効要件(適法性要件)に照らしてみても、そう解するべきではないかな、と。

このように解すると、夜間の入居者対応が常態化しているようなグループホームでは、仮に夜勤について別段の賃金の合意があっても、労働密度が「通常の賃金」に対するそれと同等であるという事実を主張した上で、通常の賃金での請求ができると考える余地があります。

今後、労働密度の低い時間帯について別賃金の合意をするという手法がどれだけ広がるかは未知数ですが、今後、こういう争点が生まれるかもしれません。今日はここまで。

なお、先月亀戸労基署が公表した送検事例は、この「別賃金の合意」を考える上で重要です。民事上の有効性はもとより労基法上の取締を掻い潜れるかという視座も必要になるので、あんまりこの合意を活用しようなどとは思わない方がいいんじゃないかな、というのが私の印象です。

個別に残業単価設定 割増率満たさず不払い 亀戸労基署・送検

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

黒葛原先生も難治性癲癇の問題に気づかれたようです。夜間絶え間ない支援が必要な理由の1つは、毎日のように癲癇発作がある方への重責発作への備えと発作記録をつけるという必要性があり、強度行動障害の支援以上に決定的な事由でした。この問題も取り上げたい課題でした。

この癲癇発作見守りの問題がTNホームの労働密度を語る上で重要で、毎日発作がある方の見守りをするために職員室と隣室が扉一つで繋がる構造になってました。さざんか会は、利用者に合わせた設計図を作っていたんですよ。それでいてそれが休憩だと未だに主張してるわけです。

実際、私が夜勤の日には、午前3時台に発作が集中していて、0時〜1時の勤務時間とは何の関係もなかったわけ。しかも通院先に提出するために毎日記録にとってますよw医療関係者も『嘘』は知ってますよ。それでも休憩と主張する人間が、障害のプロのはずがないですよね。

原告のコメント

@tad61487さんのポスト

ここら辺が今後のさざんか会の労務管理を考える上で極めて大切ですね。時間帯によって違う賃金設定は認められるのか?判決に認められると書かかれており、さざんか会は二度の判決でこの文言を強調していました。原告側も和解協議で大筋これを認めていたとも書きましたね。

実際、私の今の職場含めて夜勤専属職員として非常勤職員を配置し、職員を入れ替えで実態として、夜勤と昼間の賃金が別設定しているGHが多いです。しかし、さざんか会は、高賃金の常勤職員を夜勤に配置しており、重度障害者支援に特化した労働密度が高い現場なんです。

判決後、さざんか会理事は、時間帯別の賃金合意が認められると主張し、顧問弁護士は『最低賃金以下の合意』も認められると発言しましたが、新たな賃金合意作ってないんです。未だに違法な夜間休憩時間を主張しているだけです。賃金引き下げの余地がないということです。

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