⚡主張書面と認否#
18 原告第5準備書面#
PDFの用意があります。
原告第5準備書面 目次
⑵ 被告には、従業員(通報者)に対し、調査報告をする債務が存在する
⑴ 行為の性質及びその対象が異なり、訴訟物の同一性は認められない
⑷ 被告が主張する法律構成等は、訴訟物が同一であるとの根拠にならない
⑵ 被告の主張は、紛争の蒸し返しを裏付ける根拠として不十分である
⑶ 前回訴訟において、本件規程3.6 ⑴ の違反を主張していない理由
⑷ 原告に共有した内容が、前回訴訟における争点化に影響を及ぼした
⑸ 前回訴訟において、契約に関する文書が証拠調べされなかった経緯
5 調査報告は、違反の有無を評価できる程度の内容を通知することが求められる
⑴ 本件内部通報制度は、従業員が安心して働ける環境を構築する目的もある
⑵ 制度の目的を実現するためには、適切な調査報告であることが不可欠である
⑶ 本件内部通報制度は、目的を実現するための具体的手段として機能している
6 本件規程3.6 ⑴ に違反する行為を正当化することはできない
⑴ 法令等や問題事項を特定していない情報であったとしても、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの通知事項を通知しなかったことの正当化にはならない
⑵ 通報者が通報情報として扱われない情報を告げていたとしても、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの通知事項を通知しなかったことの正当化にはならない
7 被告の調査報告において、本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する
⑴ 本件通報及び追加通報は、その通報の内容だけでも、調査の過程において該当するGSTの支払を特定できる程度の具体性を有する
⑵ 本件豪州企業に対するGSTの支払自体が、少なくとも違反するおそれのある行為であり、当該行為は不正行為等に該当する
⑶ 被告は、通報されたGSTの支払に対して是正措置及び再発防止策等を講じたにもかかわらず、原告に対しては、調査報告において、「コンプライアンス違反ではない」と通知した
⑷ 被告は、GST支払自体の適正性に加えてGST還付の任意性(法令上問題とならない事項)の調査を行い、原告に対し、GST還付の任意性に関する調査結果を結論として通知した
8 本件部長報告においても、本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する
⑴ 本件部長報告の内容は、本件規程に基づく調査結果等に実質的に該当する
⑵ 「2016年11月以降の法改正が施行された」との内容を原告に共有したが、現在に至るまで、当該法改正の存在自体が不明確である
⑶ 豪州子会社が被告のGST還付請求を代行して解決したとの内容を原告に共有したが、豪州子会社が当該代行した証拠が存在しない
原告第5準備書面
令和7年1月30日
東京地方裁判所民事部民事第19部に係 御中
目次
≪ 中略 ≫
1 本書に用いる用語の意味
本書に用いる用語の意味を次のとおり定義する。その他の用語については、本書に別段の定義のない限り、本件訴訟において提出された被告等が定める規定類、及び本件訴訟における主張書面に定義するところによる。
➀ 本件規程2.1の通報窓口に通報を行った従業員等又は通報を行おうとする従業員等を総称して、「従業員(通報者)」又は「通報者」という。
➁ 本書における「通報情報」は、同2.6に基づく事項による通報を除外した通報にかかる情報であることを前提としている。
➂ 同3.6 ⑴ に基づく通知を「本件規程に基づく調査結果等の通知」又は「調査報告」といい、同アないしウに基づく通知事項を「本件規程に基づく調査結果等」又は「調査報告」という。
➃ 原告が、原告第1準備書面第1の3 ⑴ において定義した「調査補助者に対する追加通報」の「調査補助者に対して本件規程1.2 ⑸ に定める「通報」をした行為をいう。」とあるのを「調査補助者に対して本件規程1.2 ⑸ に基づく「通報」、通報情報の追加、補足説明、付随情報又は関連情報を告げた行為をいう。」に改める。
2 本件規程3.5等の違反について
これまでの本件規程3.5等の違反に関連する主張を取り下げ、争わない。
3 「甲27」の未提出について
裁判所より指摘を受けた「甲27」の未提出について、その理由は、被告が原告に対し、人事部長承認済みのメールで、被告の社内文書を証拠として提出する行為が懲戒処分に該当する可能性があると通知したためである。
4 原告が開設したウェブサイトについて
本書は、ChatGPT を活用して作成しており、プロンプト及び応答をリンク先( https://minnanosaiban.github.io/eneos-saiban/chatgpt )に掲載している。
被告には、本件内部通報制度の活動において、従業員(通報者)に対し、調査報告をする債務が存在する。そして、その調査報告の内容は、行動基準第11項 ⑶ が求める「正確性及び遺漏のなさ」を満たすものでなければならない。( 後記2 )
原告の通報内容は、豪州企業に対してGST(消費税に相当する税)を支払っていたという内容である。( 後記7 ⑴ )
これは、豪州GST法や契約に違反する行為、又は少なくとも違反するおそれのある行為である。( 後記7 ⑵ )
なお、原告は、上司AがGSTの支払について契約内容を確認しないことに疑問を抱いてはいたものの、通報の際は、上司A個人の行為に問題があるとされないようにと配慮し、通報用フォームの「法令等違反を行った者・部署等」の欄を空欄にした。
被告は、原告の通報を受け、「≪ 本件豪州企業 ≫ がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する( 甲21 )」との契約を締結するほか、その他の措置を講じた。( 後記7 ⑶ )
これにもかかわらず、被告は、調査報告において、原告に対し、「コンプライアンス違反ではない」と通知し、通報されたGSTの支払に対して講じた是正措置及び再発防止策等を何ら通知せず、被告において原告に共有した内容は表9のとおりであった。
表9に列挙して示した内容を踏まえると、その内容には、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させないという方向性が一貫しており、被告に行動基準第11項 ⑶ に違反する行為が存在する。
そして、調査の過程において確認された「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」を表面化させない目的で、原告に対して不適切な情報を共有した行為は、本件内部通報制度を信頼して利用した原告に対し、精神的苦痛を生じさせるものであり、「通報者に対する不利益取扱い」に該当する。
以上により、被告に本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する。
表9.被告において原告に共有した内容(時系列順)
➀ | 被告は、通報されたGSTの支払に対して是正措置及び再発防止策等を講じたにもかかわらず、原告に対しては、調査報告において、「コンプライアンス違反ではない」と通知した。 | 後記第2の7 ⑶ |
➁ | GSTの支払に関して、「2016年11月以降の法改正が施行された」との内容を原告に共有したが、現在に至るまで、当該法改正の存在自体が不明確である。 | 後記第2の8 ⑵ |
➂ | 豪州子会社が被告のGST還付請求を代行して解決したとの内容を原告に共有したが、被告に対する豪州子会社の送金は確認できるものの、豪州子会社が当該代行した証拠がない。 | 後記第2の8 ⑶ |
➃ | GST支払分が被告に返金されたとの内容を原告に共有したが、「返金」という表現を用いず、「精算」という表現を用いることで、返金された理由を曖昧化している。 | 後記第2の8 ⑷ |
➄ | その後に講じた「≪ 本件豪州企業 ≫ がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する(甲21)」との契約を締結するという措置について、それを原告に通知しなかった。 | 後記第2の7 ⑶ |
➅ | 被告は、GST支払自体の適正性に加えてGST還付の任意性(法令上問題とならない事項)の調査を行い、原告に対し、GST還付の任意性に関する調査結果を結論として通知した。 | 後記第2の7 ⑷ |
➆ | 原告が問題提起の趣旨が還付手続きに関することではなく契約内容の確認にある旨を告げた際、調査補助者は、原告に対し、契約書の記載について調査を行わない旨を通知した。 | 後記第2の4 ⑶ |
➇ | 調査補助者は、原告に対し、GSTに関する定めがない契約に基づいて発注が行われたとの通知をしたが、支払済みのGSTが契約に基づいているか否かについては明言を避けた。 | 後記第2の4 ⑶ |
被告のCCOが、全従業員が閲覧できるイントラネットで、「コンプライアンスの徹底は不幸な社員を生まないためにも大切だと考えている」と表明し、被告の社長もこれに同調している。
すなわち、本件規程の遵守を含め、被告におけるコンプライアンスの徹底は、被告の従業員が安心して働ける環境を構築することでもある。
そして、適切な職場環境の構築は、本件内部通報制度の目的でもある。( 後記5 ⑴ )
原告が、原告自身が従事する業務に関する不安を解消すべく、本件内部通報制度を利用したところ、表9のとおり、被告の対応には、調査事項のすり替え、調査結果の隠蔽、不適切な情報提供といった複数の問題が存在した。
このことは、原告にさらなる不安感を与え、精神的苦痛を生じさせた。
このような被告の対応は、本件内部通報制度の趣旨に反するのみならず、従業員が安心して働ける環境を損なうものである。
以上により、被告に行動基準第12項 ⑶ の違反及び労働契約法第5条(安全配慮義務)の違反が存在する。
結果として、原告に対して不利益を及ぼし、損害賠償請求の根拠となる。
よって、被告は、原告に対し、民法第415条(債務不履行)に基づく損害賠償責任を負う。
本件規程を包括する上位規程であるENEOSグループコンプライアンス活動基本規程(以下「コンプライアンス活動基本規程」という。)は、法人である被告を主語とし、「自己が制定するコンプライアンスに関する規程類の定めを遵守し、コンプライアンスを徹底する。」と定める。
したがって、被告自身が制定する規程類において、法人たる被告の行動基準及び本件規程を遵守する義務が明確に定められていると解される。
仮に本件規程と上位規程との関係性を考慮しない場合であっても、本件規程は本件内部通報制度の運用を具体的に定めるものである。そして、その主語が被告の役員または従業員である場合であっても、本件内部通報制度における行為や判断は、法人としての被告の業務執行行為の一環といえる。
したがって、本件規程の主語が法人たる被告でない場合であっても、その遵守義務は法人たる被告に帰属する義務である。
よって、本件規程違反は、法人たる被告の違反として評価される。
⑵ 被告には、従業員(通報者)に対し、調査報告をする債務が存在する
労働契約法第7条により労働契約の内容となる「就業規則」は、就業規則という名称のものに限られず、労働条件を定めるもので規則規程として周知されているものであれば該当しうる。
労働基準法第89条の事項には、10号の「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」もあり、本件規程も被告の労働者たる従業員すべてに適用されている。
したがって、本件規程は、被告のいう就業規則として使用者たる会社と労働者たる従業員との間に効力を生ずる場合である。
本件規程は、労働者の側からは職場環境の改善の側面があり、労働条件に関わるものである。特に、労働者が法令等に違反する事実に関与するおそれを減少させる役割を果たしており、これは、労働契約法第5条(安全配慮義務)とも関連し、労働者の心理的安全を確保するために重要である。
仮に規程の趣旨が労働条件に関係しないとした場合であっても、会社が自ら一定の場合に一定の行為を具体的に行うことを定めて公表した以上、労働契約法第3条第4項に基づく誠実対応義務により合理的期待が生じる。
したがって、被告は、自ら定めた規程に基づき、要件に該当する者に対してそれを行う債務が存在する。
よって、本件規程3.6 ⑴ に基づき、被告には、本件内部通報制度の活動において、従業員(通報者)に対し、調査報告をする債務が存在する。
なお、本件規程に基づく調査結果等の通知又はそれと同等の場面において、従業員(通報者)に対し、調査の過程において確認された事実に関して誤った認識を促すなど、行動基準第11項 ⑶ に違反する行為が存在した場合、本件規程3.6 ⑴ の違反として評価される。
被告には、本件内部通報制度の活動において、本件規程3.6 ⑴ に定めるとおり、従業員(通報者)に対し、調査報告をする債務が存在する。そして、その調査報告の内容は、行動基準第11項 ⑶ が求める「正確性及び遺漏のなさ」を満たすものでなければならない。
よって、本件規程3.6 ⑴ の違反は被告の債務不履行を構成する。
⑴ 行為の性質及びその対象が異なり、訴訟物の同一性は認められない
前回訴訟争点1において問題とされた事項は、「本件通報及び追加通報について調査を行わなかった行為(不作為)による本件規程3.4 ⑴ の違反」等であるのに対し、本件訴訟において問題とされている事項は、「調査の過程において確認された事実に関して誤った認識を促す行為(作為)による本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反」である。
したがって、行為の性質(不作為と作為)及びその対象が異なり、本件訴訟と前回訴訟の訴訟物の同一性は認められない。
前回訴訟争点1において問題とされた事項は、被告が通報者に対して「通報を受け付けた旨及び調査を開始する旨」を通知したことよって生じる責任であるのに対し、本件訴訟において問題とされている事項は、被告が通報者に対して調査の過程において確認された事実に関して誤った認識を促す行為が存在したことによって生じる責任である。
したがって、責任が生じる原因も異なり、本件訴訟と前回訴訟の訴訟物の同一性は認められない。
前回訴訟争点1における請求の法律構成は、原告に対する信義則上の義務に違反したことを理由として債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求するものであるのに対し、本件訴訟における請求の法律構成は、本件規程に違反したことを理由として直接的な債務不履行に基づく損害賠償を請求するものである。
したがって、請求の法律構成も異なり、本件訴訟と前回訴訟の訴訟物の同一性は認められない
⑷ 被告が主張する法律構成等は、訴訟物が同一であるとの根拠にならない
ア 被告は、通報者に対して信義則上の義務を負う場合があることを理由に、本件訴訟も前回訴訟と同様に「信義則上の義務違反に基づく損害賠償請求」であると主張する。※1
しかし、既に述べたとおり( 前記2)、従業員(通報者)に対する義務は、信義則上の義務に限られず、本件規程及び本件規程の上位規程に基づく義務も存在する。
仮に本件訴訟が信義則上の義務違反を問うものを含む場合であっても、既に述べたとおり( 前記 ⑴ 及び ⑵ )、前回訴訟と本件訴訟で問題とされている事項は、行為の性質(不作為と作為)、その対象、および責任が生じる原因のいずれも異なる。
したがって、被告の主張する「本件訴訟と前回訴訟の訴訟物が同一である」との主張は、根拠を欠き、誤りである。
イ 本件訴訟と前回訴訟は、確かに同一の通報に端を発している。しかし、その通報の内容には複数の問題事項が存在する。その問題事項のそれぞれが独立して調査・判断の対象となる性質を有する。
したがって、通報が同一であることをもって、本件訴訟に既判力が及ぶとはいえない。
さらに、前回訴訟の控訴審判決では、以下の点について事実認定を行っていない。
● 被告が、本件豪州企業に対するGSTの支払自体が、法令等に照らして「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」に該当するか否かについての検証(以下「GST支払の適正性検証」)を行ったか否か
● 本件豪州企業に対するGSTの支払に関する契約において、契約終了日前後でGSTに関する表示に違いがあったか否か
以上の点について、前回訴訟控訴審判決は判断を下しておらず、本件訴訟の主要な争点とは異なる。
したがって、前回訴訟控訴審判決が本件訴訟の訴訟物の同一性を基礎づけるものとはなり得ない。
本件訴訟と前回訴訟は、以下の点で異なる。
➀ 行為の性質(前回訴訟は不作為、本件訴訟は作為)
➁ 対象(前回訴訟は調査を行わなかった行為、本件訴訟は誤った認識を促す行為)
➂ 責任が生じる原因(前回訴訟は調査開始の通知、本件訴訟は調査過程での誤認誘導)
➃ 請求の法律構成(前回訴訟は信義則上の義務違反を理由とする損害賠償請求、本件訴訟は本件規程違反を理由とする直接的な債務不履行責任)
また、本件訴訟と前回訴訟が同じ通報に端を発していたとしても、その通報の内容には複数の問題事項が存在し、それぞれが独立して調査・判断の対象となる。さらに、前回訴訟控訴審判決は、GST支払の適正性検証の存在について事実認定を行っていない。
よって、前回訴訟控訴審判決の既判力は、本件訴訟には及ばない。
本件訴訟において問題とされている事項は、「調査報告を行った事実(作為)」における問題であるから、前回訴訟で問題とされた事項である「調査を行わなかった事実(不作為)」等に対する判断について、事実上覆そうとするものではない。
⑵ 被告の主張は、紛争の蒸し返しを裏付ける根拠として不十分である
被告は、本件訴訟が信義則に違反する紛争の蒸し返しであるとの主張を展開しており、その根拠は次のとおりであると思われる。
➀ 前回訴訟は、主張書面の頁数や期日の回数が相当数に及び、原告には、その過程において、本件通報に関連する本件規程違反については、十分過ぎるほどの主張の機会が与えられていた。※2
➁ 原告は、前回訴訟を提起する前に、被告と本件豪州企業の間の契約の記載内容について、2015年(平成27年)に締結されたものと2018年(平成30年)に締結されたものとの違いを明確に認識していた。※3
➂ 本件部長報告は、原告の所属していた部署の担当者が当該部署の部長に対して報告をしたものに過ぎず、被告又は被告の調査補助者が原告に対して本件通報に関して通知又は情報共有をしたものではないので、被告又はその履行補助者が原告の主張を困難にしたわけではない。※4
しかし、上記の主張だけでは、本件訴訟における主張と同様の主張を前回訴訟において容易に主張できたことを裏付ける根拠として不十分である。
⑶ 前回訴訟において、本件規程3.6 ⑴ の違反を主張していない理由
本件訴訟で問題とされている事項が前回訴訟で争点化されなかった理由は次のとおりである。
原告は、調査補助者に対し、原告の問題提起の趣旨が還付手続きに関することではなく契約内容の確認にある旨を告げた。これに対し、調査補助者は、原告に対し、結論に関係がないとの理由で契約書の記載内容について調査を行わない旨を明確に通知した。※5
また、調査補助者は、当該GSTの支払に関する契約における契約終了日前後のGSTに関する表示に違いを通知した際、GSTに関する定めがない契約に基づいて発注が行われたとの通知をしたものの、支払済みのGSTが契約に基づいているか否かについては明言を避けた。さらに、調査補助者は、原告に対し、支払済みのGSTが契約に基づくものであるかどうかを検討したか否かについては言及しなかった。※6
原告は、調査補助者が原告に通知した内容により、調査の過程においてGST支払の適正性検証が行われなかったという誤った認識をしており、前回訴訟において、本件規程に基づく調査結果等の真偽に焦点が当たる余地がない。
そのため、原告は、前回訴訟において、本件通報及び追加通報に対する対応事項に関して網羅的に主張すべく多数の本件規程違反を主張したものの、本件規程3.6 ⑴ の違反については主張しなかった。
以上の事実を踏まえると、調査補助者の言動は、原告に対し、調査の過程においてGST支払の適正性検証が行われなかったという誤った認識を促す行為であり、被告に行動基準第11項 ⑶ に違反する行為が存在する。
表9に列挙して示して述べたとおり( 前記1 )、調査補助者が原告に通知した内容には(甲21、甲25)、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させないという目的が認められ、被告に本件規程3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する。
⑷ 原告に共有した内容が、前回訴訟における争点化に影響を及ぼした
表9に列挙して示した内容を踏まえると、その内容には、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させないという方向性が一貫している。
このことから、被告においては、原告に対し、調査の過程において確認された事実に関して誤った認識を促す意図が存在したと考えられる。
結果として、原告は、共有された内容に基づき、調査の過程においてGST支払の適正性検証が行われなかったという誤った認識を持つに至った。
これにより、前回訴訟における争点化に影響を及ぼした。
⑸ 前回訴訟において、契約に関する文書が証拠調べされなかった経緯
確かに、原告は、前回訴訟を提起する前、令和2年6月25日付及び同年7月9日付の文書により、当該GSTの支払に関する契約における契約終了日前後のGSTに関する表示に違いは認識していた。
しかし、当該文書は、支払済みのGSTが契約に基づいているか否かについては明言を避け、契約期間中に契約内容を変更できるかどうかについて示していなかった。さらに、その補足説明は、契約におけるGSTの支払に関する表示の違いを通知する文書であるにもかかわらず、GSTに関する定めがない契約に基づいて発注が行われたとの説明であり、誤認を引き起こしかねない補足説明である。※7
そのため、原告は、上記の通知を受けた時点およびその後においても、契約におけるGSTに関する表示の違いの理由を認識できなかった。
その後、被告は、原告に対し、訴訟に関する全ての行為についてオフィススペース及び会社貸与パソコン等を使用することを禁じていた。このことは被告も認めている。※8
上記の制約があったことから、原告は、前回訴訟において、会社貸与パソコンから令和2年7月9日付の文書を探し出して証拠として提出するという行為を行うことができなかった。
さらに、被告は、原告が被告と本件豪州企業との契約書の送付を求める文書送付嘱託申立書を裁判所に提出した際、証拠調べの必要性の不存在を主張し、契約書を送付しなかった。このことは被告も認めている。※9
以上の経緯により、前回訴訟において、契約に関する文書についての証拠調べがなされなかった。
ちなみに、前回訴訟控訴審判決が言い渡された後、原告は、令和2年7月9日付の文書を発見し、前回訴訟における「通報ではなく相談として取り扱った」との被告の主張に虚偽が含まれていたことを認識した。
この認識をきっかけに、原告は、上司Aのみならず、調査補助者が告げた内容にも虚偽が含まれる可能性を疑い、同時に提供されなかった様々な情報を整理して分析するに至った。
本件訴訟は、前回訴訟で問題とされた事項である「調査を行わなかった」等に対する判断を事実上覆そうとするものではない。
状況としても、少なくとも前回訴訟を提起する前までに、調査補助者が原告に通知した内容に疑念を抱かない限り、前回訴訟において本件訴訟における主張と同様の主張をすることは困難であった。
よって、本件訴訟における原告の主張は、信義則に反せず、許される。
5 調査報告は、違反の有無を評価できる程度の内容を通知することが求められる
⑴ 本件内部通報制度は、従業員が安心して働ける環境を構築する目的もある
被告等の企業ホームページでは、過去に発行したものも含め、「ESGデータブック(旧CSRレポート)」を公表している。これらは、過去から現在に至るまで、一貫して以下の内容が記載されている。
「JXTGグループでは、従業員を経営における重要ステークホルダーとして位置づけ、一人ひとりが安心して働き、能力を最大限発揮できるように、各種制度を整備しています。」
さらに、従業員との主要なコミュニケーション手段として本件内部通報制度を設置している旨も記載されている。※10
また、被告等のグループCCOマニフェストにおける被告等が目指すべき絵姿は、「コンプライアンスの重要性が組織の隅々までに根付くことにより、従業員が安心し、誇りを持って働ける環境を実現する。」である。
以上に照らすと、以下の関係性がある。
本件内部通報制度の適切な運用 |
↓
被告等のコンプライアンス体制を強化 |
↓
従業員が安心し、誇りを持って働ける環境を実現 |
したがって、本件内部通報制度は、本件規程1.1にその目的として定められている「被告等における不正行為等を早期に是正し、もって被告等のコンプライアンス体制を強化すること」とともに、従業員が安心して働ける環境を構築することにも寄与することを目的としていると解される。
⑵ 制度の目的を実現するためには、適切な調査報告であることが不可欠である
被告が引用している消費者庁が公表した「事業者における内部公益通報制度の意義」は、被告が省略した部分も示すと、「事業者が実効性のある内部公益通報対応体制を整備・運用することは、法令遵守の推進や組織の自浄作用の向上に寄与し、ステークホルダーや国民からの信頼の獲得にも資するものである。」である。被告の引用は、「事業者が実効性のある内部公益通報対応体制を整備・運用すること」という重要な前提条件が省略されている。※11
本件規程には、本件内部通報制度の目的が明確に定められているが、その実効性が欠けていれば、制度そのものが機能しない。どれだけ理念や目的が優れていても、実効性がなければ意味をなさない。そして、この実効性を確保するためには、従業員が制度を信頼できることが不可欠である。
この信頼を得るためには、調査報告において、従業員(通報者)が違反の有無を評価できる程度の内容を適切に通知することが不可欠である。
⑶ 本件内部通報制度は、目的を実現するための具体的手段として機能している
被告等が内部統制システムの一環で定めている規程類は、上位の規程から順番に示すと次のとおりである(以下を総称して、「被告内部統制システム」という。)。
➀ ENEOSグループのコーポレートガバナンスに関する基本方針(甲29)
➁ ENEOSグループ行動基準(甲2の1)
➂ 内部統制システムの整備・運用に関する基本方針(甲28)
➃ ENEOSグループコンプライアンス活動基本規程
➄ コンプライアンス規程(乙13)
➅ ENEOSグループ内部通報制度基本規程(乙14)
➆ コンプライアンスホットライン規程(乙1)、
以上の規程類は、被告等におけるイントラネットに掲示されており、被告等の全従業員が閲覧することが可能である。
また、上記 ➀ ➁ ➂ は、被告等の企業公式ホームページで公表されている。
行動基準第14項 ⑴ 、「コンプライアンス活動基本規程」及び「コンプライアンス規程」に基づくと、本件内部通報制度の利用は、コンプライアンス規程第4項の「コンプライアンスに関する行動規範」を実現するための具体的手段として機能していると解される。
なお、「コンプライアンスに関する行動規範」及び被告等における「コンプライアンス活動」は、コンプライアンス活動基本規程にも定められている。
被告内部統制システムにおける「コンプライアンスに関する行動規範」では、被告の役員及び従業員等が業務を遂行するに際して、
● 遵守すべき法令等を調査し、その内容を確認すること
● 法令等に照らし、当該法令等に違反した場合のリスクを把握すること
などを定めている。
既に述べたとおり( 前記 ⑶ )、本件内部通報制度の利用は、「コンプライアンスに関する行動規範」を実現するための具体的手段である。
また、被告は、従業員に対し、職制を通じて問題解決を図ったうえで解決できない場合に、本件内部通報制度を利用することを推奨している。
以上により、調査報告は、従業員(通報者)が違反の有無を評価できる程度の内容を通知することが求められる。
たとえば、被告が従業員(通報者)に対して次の内容を通知することで、従業員(通報者)は、業務を遂行するにあたり、法令等に照らして適切であるかどうかを自ら確認することが可能となる。
➀ 通報内容に関連する法令等、又はその有無
➁ 違反の有無を評価できる程度の根拠
➂ 通報内容に関連する是正措置及び再発防止策等
本件内部通報制度は、「被告等における不正行為等を早期に是正し、もって被告等のコンプライアンス体制を強化すること」とともに、従業員が安心して働ける環境を構築することにも寄与することを目的としていると解される。
その目的を達成するためには、制度が十分に実効性を備えていることが不可欠であり、実効性の確保には従業員からの信頼が重要である。
また、本件内部通報制度の利用は、「コンプライアンスに関する行動規範」を実現するための手段でもある。
本件内部通報制度の趣旨を踏まえると、調査報告は、従業員(通報者)が違反の有無を評価できる程度の内容を適切に通知することが求められる。
6 本件規程3.6 ⑴ に違反する行為を正当化することはできない
⑴ 法令等や問題事項を特定していない情報であったとしても、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの通知事項を通知しなかったことの正当化にはならない
本件規程は、従業員が通報する際に、通報者個人が「不正行為等」に関連する法令や問題事項を特定することを求めていない。
さらに、消費者庁が公表した「公益通報ハンドブック」においても、通報に求められるのは、その後の調査や是正等が実施できる程度の具体性であり、法令等の内容を指定する必要がないとされている。※12
実際、通報者が関連する法令や規則に精通していない場合や、該当する法令等を検索できない環境にある場合、通報情報において法令等を特定することは現実的に困難である。また、業務プロセスに問題があると感じていても、具体的な問題事項を特定することは難しい場合がある。
このような場合、通報者が無理に問題事項を特定しようとした結果、たとえば「部署内で何か怪しいことがあるようです」や「上司が嘘をついているようです」といった主観又は憶測に基づく通報となるおそれがある。
これに対し、被告は、調査の過程において、通報者が告げた具体的事実から関連する法令や問題事項を特定する手段を有している。また、被告がその特定に困難を感じた場合には、本件規程第2.5 ⑵ に基づく「通報情報に関する情報の照会、追加または補足説明」を求めることができる仕組みが整備されている。
以上を本件通報にあてはめると、原告がGSTの支払に関する事実を告げた本件通報において、「豪州のGST法に違反している」や「被告と支払先との契約に反する」などの具体的な法令や問題事項を原告が特定する必要はない。
仮に被告がGSTの支払に関連する法令等や問題事項の特定に困難を感じた場合でも、被告は調査の過程で同2.5 ⑵ に基づき原告に「通報情報に関する情報の照会、追加または補足説明」を求める対応を取ることが可能である。
以上により、通報者が通報の際に告げた情報が、法令等や問題事項を特定していない情報であったとしても、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの通知事項を通知しなかったことの正当化にはならない。
⑵ 通報者が通報情報として扱われない情報を告げていたとしても、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの通知事項を通知しなかったことの正当化にはならない
まず、本件規程で定義されている用語について整理する。
本件規程1.2 ⑸ に基づく「通報」とは、不正行為等を是正する目的で不正行為等の内容を告げる行為をいう。
同 ⑹ に基づく「通報情報」とは、通報にかかる情報をいう。
同 ⑼ に基づく「調査」とは、通報情報に関する事実を確認するための調査をいう。
既に述べたとおり( 前記 ⑴ )、通報情報において法令等や問題事項が特定されている必要はないが、その内容は、調査の過程において、通報情報に関する事実について、その事実の存在を確認できる程度の具体性が求められる。
被告が調査を行う流れとしては、次のとおりである。
➀ 通報者が告げた通報情報に関する事実の存在を確認する。
➁ 確認された事実が「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」に該当するか否かを検証する。
➂ その事実に該当する場合、被告は、通報者に対して、本件規程3.6 ⑴ アに基づく通知事項を適切に通知し、同イまたは同ウに基づく通知事項を通知する。これらの通知は、被告の通報者に対する債務 である。
通報者は、調査の過程で、様々な通報情報に関連する情報を告げることがあるものの、これらが必ずしも通報情報として扱われるわけではない。
ここで重要なのは、仮に通報者が調査の過程で調査補助者に対して告げた情報に通報情報として扱われなかった情報が存在したとしても、そのことが被告の本件規程3.6 ⑴ に基づく通知する義務に影響を及ぼさない点である。
次に、以上を本件通報に当てはめる。
本件通報は、GSTの支払の事実を告げた通報である。※13
本件通報を受け付けた被告は、調査の過程において、当該GSTの支払の事実の存在を確認する。そして、その存在が確認された事実が「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」に該当することが確認された場合は、被告は、原告に対し、同イ又は同ウに基づく通知事項を通知する義務がある。
また、原告は、本件通報の後、調査補助者に対し、被告と本件豪州企業との間で締結した契約の確認に関する状況や疑問事項を告げていた。※14
この情報や疑問事項は、通報情報として扱われなかったもようである。
しかし、このことが、原告に対する被告の本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウに基づく通知事項を通知する義務に影響しない。
以上により、通報者が通報情報として扱われない情報を告げていたとしても、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの通知事項を通知しなかったことの正当化にはならない。
調査の過程において通報情報に関する事実の存在が確認され、その事実が「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」に該当することが確認された場合、被告は、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウに基づく通知事項を通知しなかったことを正当化することはできない。
7 被告の調査報告において、本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する
⑴ 本件通報及び追加通報は、その通報の内容だけでも、調査の過程において該当するGSTの支払を特定できる程度の具体性を有する
ア 本件通報及び追加通報は、次のとおり、その通報の内容だけでも、調査の過程において該当するGSTの支払を特定できる程度の具体性を有する。
イ 原告は、平成28年9月14日の通報フォームに(本件通報の内容)、
「海外取引で支払った当社宛の請求書の金額について、付加価値税が含まれていた。(豪州、当時の為替で650万円)
その付加価値税の還付は豪州関連会社の ≪ 豪州子会社 ≫ に納付された。
なお、付加価値税分の金額は経費で計上されたままである。(コンサルタント費用・法人税に影響?)( 乙2 )」
と記載した。
原告が本件通報で告げた内容には、次のとおり、複数の問題事項が存在していた。※15
➀ 経費支払における、本件豪州企業に対するGSTの支払
➁ 上司Aの言動における、行動基準第11項 ⑶ に違反する行為
➂ 会計処理における、返金予定金額を費用勘定科目で計上する処理
これらのうち、➀ について、被告が豪州企業に対して約650万円の付加価値税(GST)を支払い、その後、その金額が経費計上されたという具体的事実が確認できる。
本件通報の後、原告は、調査補助者に対し、GSTの支払に該当する証憑台紙及び請求書を提出しており、被告は会計帳簿を調査することで、当該GSTの支払の事実の存在を確認することできる。※16
ちなみに、「納付された」との記載は、同月10日の原告と本件事業部の担当者との会話の中で、「豪州子会社が還付請求をした後、還付を受けていないが、納付をし、当該金額が入金された」との曖昧な内容が存在しため、その言葉をそのまま記載した。
ウ 原告は、平成30年11月27日の通報フォームに(追加通報の内容)、
「記載ミスのある請求書の額を支払ったことが原因と思われる経費の過払い( 75.473.10 豪ドル以上)に気づき、その旨を ≪ 上司A ≫ へ伝えた。( 乙9 )」
と記載した。※17
これについては、被告は、調査の過程において、該当するGSTの支払を特定している。※18
⑵ 本件豪州企業に対するGSTの支払自体が、少なくとも違反するおそれのある行為であり、当該行為は不正行為等に該当する
被告は、GSTの支払について、「GSTについて定める法令に基づいて支払う必要があるものであって、契約に基づいて支払う必要が生ずるものではない」と主張する。※19
しかし、豪州のGST法38条の1(以下「豪州GST法」という。)によれば、免税取引又はゼロ税率取引に課税することは許されず、取引そのものにGSTを課すことは法令に反すると解釈するのが適切である。
そして、「還付請求が可能だからGSTを請求しても問題ない」との解釈は、豪州GST法上適切でない。輸出取引では、豪州企業がGSTを請求すべきでなく、取引相手(海外の顧客)からGSTを徴収することなく、税務当局からGST還付を受ける仕組みが原則である。※20
ただし、契約で「実際に納税する支払義務者(pay)」を変更することはできないものの、「誰がその税を負担するか(bear)」については、契約に基づいて決定されることがある。※21
この点に関して、被告の主張は、GSTの課税における「支払義務(pay)」と「負担義務(bear)」の区別を無視している点で問題がある。
加えて、商慣行としても、実務においては、海外企業が日本企業である被告に対してGSTを請求することは、特殊な場合を除き、ほとんどない。このことは被告も認めている。※22
以上のとおり、本件豪州企業に対するGSTの支払自体が、豪州GST法や契約に違反する行為、又は少なくとも違反するおそれのある行為であり、当該行為は不正行為等に該当する。
⑶ 被告は、通報されたGSTの支払に対して是正措置及び再発防止策等を講じたにもかかわらず、原告に対しては、調査報告において、「コンプライアンス違反ではない」と通知した
平成29年2月7日、被告は、本件通報の後、調査補助者と上司Aが協議する形で調査を実施した。このことは被告も認めている。※23
この後、被告においては、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させていないものの、平成29年5月の本件豪州企業の請求から同年1月から4月にかけてのGST支払分を差し引くという措置を講じ、さらに、当該GSTの支払に関する契約の契約終了日の後、「≪ 本件豪州企業 ≫ がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する( 甲21 )」との契約を締結するという措置を講じた。※24
これは、本件豪州企業が被告にGSTを請求し、それを被告が支払っていたことが、豪州GST法上又は契約上適法ではないから、本件豪州企業が被告に返金するという是正措置を講じ、また、「本件豪州企業がGST込みで請求する権利を有する」という契約を締結することで違反が生じないよう再発防止策を講じたと考えられる。
すなわち、被告は、本件通報で通報されたGSTの支払に対して本件規程3.5に基づく是正措置及び再発防止策等を講じている。
これにもかかわらず、被告は、同年8月14日の調査報告において、原告に対して「コンプライアンス違反ではない」と通知し、通報されたGSTの支払に対して講じた是正措置及び再発防止策等を何ら通知しなかった。※25
⑷ 被告は、GST支払自体の適正性に加えてGST還付の任意性(法令上問題とならない事項)の調査を行い、原告に対し、GST還付の任意性に関する調査結果を結論として通知した
令和元年10月25日、被告は、追加通報に対する調査報告において、原告に対し、「GSTの還付は納税者の「権利」であり、「義務」ではない。したがって、GSTの還付をするか否かは任意であり、還付を受けないままであったとしても、不正行為等にはあたらない。( 乙12 )」と通知し、追加通報でも通報されたGSTの支払に対して講じた是正措置及び再発防止策等を何ら通知しなかった。※26
本件通報及び追加通報で通報されたGSTの支払は、GSTの還付の有無ではなく、被告が本来支払う義務のないGSTを支払ったこと自体が問題である。
被告は、GST支払自体の適正性に加えてGST還付の任意性(法令上問題とならない事項)の調査を行い、原告に対し、GST還付の任意性に関する調査結果を結論として通知した。
平成29年8月14日及び令和元年10月25日の調査報告において原告に通知した内容は、原告に対して調査の過程においてGST支払の適正性検証が行われなかったという誤った認識を促す内容であり、被告に行動基準第11項 ⑶ に違反する行為が存在した。
表9に列挙して示して述べたとおり( 前記1 )、調査報告の内容には、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させないという目的が認められ、被告に本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する。
8 本件部長報告においても、本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する
⑴ 本件部長報告の内容は、本件規程に基づく調査結果等に実質的に該当する
本件部長報告は、形式的には調査補助者が通報者に対して通知するという本件規程3.6 ⑴ に基づく通知の形式を採っていないものの、平成29年8月14日の調査報告の後に、メールのCCに原告を含める形で共有されており、本件通報で通報されたGSTの支払に対する是正措置及び再発防止策等を報告するものである。このことは被告も認めている。※27
したがって、本件部長報告の内容は、本件規程に基づく調査結果等に実質的に該当する。
本件部長報告の内容は、次のとおり、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させないという方向性が一貫している。※28
⑵ 「2016年11月以降の法改正が施行された」との内容を原告に共有したが、現在に至るまで、当該法改正の存在自体が不明確である
本件部長報告においては、GSTの支払に関して、「2016年11月以降の法改正が施行された」との内容を原告に共有したが、現在に至るまで、当該法改正の存在自体が不明確である。
また、どのような法改正なのかも明らかではなく、オーストラリア税務局のウェブサイトで該当する情報を検索することも困難である。
原告は、当該法改正の具体的内容を明示するよう求釈明を行ったが、被告はこれに一切回答しなかった。※29
仮に法改正が実際に存在するのであれば、被告は合理的な説明を行うことが可能なはずである。しかし、これを避けていることから、当該法改正が存在しない可能性が高い。
したがって、被告は、存在しない法改正を持ち出すことで、GSTの支払がそもそもの法令等に基づかないものであるにもかかわらず、あたかも法改正によって生じたものであるかのように装っていた疑いがある。
⑶ 豪州子会社が被告のGST還付請求を代行して解決したとの内容を原告に共有したが、豪州子会社が当該代行した証拠が存在しない
本件部長報告においては、豪州子会社が被告のGST還付請求を代行して解決したとの内容を原告に共有したが、被告に対する豪州子会社の送金は確認できるものの、豪州子会社が当該代行した証拠がない。
この点、豪州子会社がGSTの還付請求を実際に行ったのか、あるいは被告の指示による不正な資金移動であるのかが問われるべきであり、現時点では後者の可能性が強く示唆される
なお、豪州子会社が被告分のGST額戻し入れとして送金した金額は、79,315.52 豪ドルである。このことは被告も認めている。※30
そして、その金額の内訳は、
● 被告が平成27年11に本件豪州企業に支払ったGST 75.473.10 豪ドル
● 被告が過去年度に豪州子会社に支払ったGST 3,842.42 豪ドル
である。
⑷ GST支払分が被告に返金されたとの内容を原告に共有したが、返金された理由を曖昧化している
本件部長報告においては、平成29年5月の本件豪州企業の請求から同年1月から4月にかけてのGST支払分を差し引く形で精算したという内容を原告に共有した。しかし、被告は本件豪州企業に対してGSTを支払う義務がない以上、この「精算」は実質的に返金にほかならない。
本件部長報告において報告した「精算」は、支払うべき金額と請求額と相殺しているのではなく、本件豪州企業が一度受け取った金銭を被告に返しているのであるから、「精算」よりも「返金」のほうがより的確な表現である。
したがって、被告は、「返金」という表現を用いず「精算」という表現を用いることで、本件豪州企業から返金された理由を曖昧化している。
本件部長報告において原告に共有した内容は、行動基準第11項 ⑶ が求める「正確性及び遺漏のなさ」を満たしているとはいえず、その真実性に疑義が生じる。そして、その内容は、本件規程に基づく調査結果等に実質的に該当するし、原告に対して調査の過程において確認された事実に関して誤った認識を促す内容である。
本件部長報告は実質的に調査報告であり、また、表9に列挙して示して述べたとおり( 前記1 )、その内容には、GSTの支払が法令等に基づかないものであることを表面化させないという目的が認められ、被告に本件規程3.6 ⑴ の違反、同3.11 ⑴ の違反及び行動基準第11項 ⑶ の違反が存在する。
これに対して、被告は、「原告の所属していた部署の担当者が当該部署の部長に対して報告をしたものに過ぎず、被告又は被告の調査補助者が原告に対して本件通報に関して通知又は情報共有をしたわけではない。」と主張する。※31
しかし、仮に本件部長報告が本件規程3.6 ⑴ に基づく通知の形式を採っていないことを理由に、本件規程に基づく調査結果等と同等であるものとして認められず、本件規程3.6 ⑴ の違反を免れるのであれば、これは、本件規程3.6 ⑴ の実効性を損なうおそれがある。
そのため、単に通知の形式が規定された方法と異なるという理由をもって、実質的に本件規程の適用を回避することは、本件規程の趣旨や実効性に反するものであり、到底許容されるべきではない。
1 被告準備書面(4)第2の1 ⑴ エ及び同 ⑵ イ(3頁以下)について
争う。原告の主張は、前記第2の2のとおりである。
争う。
原告第4準備書面までの主張の要旨としては、認める。
第1段落「本件規程は、各規程の」以下について、争う。
第2段落「本件規程が被告と」以下について、認める。
第3段落「よって、本件規程」以下について、争う。
イ 同イ(9頁) について
「行動基準は」以下について、争う。
ウ 同ウ(10頁) について
「内部統制基本法氏は」以下について、争う。
以上について、原告の主張は、前記第2の2のとおりである。
⑵ 同第2の2 ⑵(10頁以下) について
「答弁書第3の3」以下について、争う。原告の主張は、前記第2の3のとおりである。
⑶ 同第2の2 ⑶ (11頁以下)について
「答弁書第3の4」以下について、否認ないし争う。原告の主張は、前記第2の4のとおりである。第3段落「また、原告は」以下についての原告の主張は、前記第2の8のとおりである。
⑷ ア 同第2の2 ⑷ ア (12頁以下)について
第1段落及び第2段落「そもそも、一般に」以下について、否認ないし争う。
「支払済みのGSTの還付申請がされなかったりしたとしても、直ちにコンプライアンス違反となるわけでもない。」については否認する。これに対する主張は次のとおりである。
原告は、被告又は調査補助者に対し、「支払済みのGSTの還付申請がされなかった」こと自体を不正行為等として問題視する旨を一度も告げていない。※32
したがって、被告の主張には、原告の意図や事実関係を正確に反映しておらず、誤解を招くなど、不必要な混乱を生じさせる主張が存在する。
念のために説明すると、原告が平成28年1月7日に、上司Aに対して支払済みのGSTについて相談し、これに対して上司Aが対応する旨を告げていた。※33
その後、実際に対応がなされたのは、平成29年2月7日の調査補助者と上司Aとの協議の後である。このことは、被告も認めている。※23
以上のとおり、「還付申請がされなかった」に関して何らかの不正行為等が存在するとすれば、それは、原告が上司Aに対して本件豪州企業に対するGSTの支払について相談した際、上司Aの言動に行動基準第11項 ⑶ に違反する不正行為等が存在したことである。
その余に対する原告の主張は、前記第2の7 ⑵ のとおりである。
第3段落「したがって」以下について、「被告が効果的な再発防止策を実行しなかったとしても、本件規程3.5に違反するものではない。」については争わない。その余は否認ないし争う。原告の主張は、前記第2の6ないし8のとおりである。
イ 同 イ(13頁) について
「答弁書第3の5」以下について、否認ないし争う。原告の主張は、前記第2の6ないし8のとおりである。
ウ 同ウ(13頁以下) について
「前記1➀(c)に」以下について、否認ないし争う。原告の主張は、前記第2の8のとおりである。
⑸ 同第2の2 ⑸ について(14頁)について
「答弁書第3の6」以下について、争わない。
⑹ 同第2の2 ⑹ について(14頁以下)について
「以上からすると」以下について、争う。
「通報情報は」以下について、不知である。
「原告の求釈明の」以下について、争う。原告の主張は、前記第2の7 ⑷ のとおりである。
「そもそも」以下について、否認ないし争う。原告の主張は、前記第2の6ないし8のとおりである。
「前記第2の2」以下について、否認ないし争う。原告の主張は、前記第2の7 ⑵ のとおりである。
「原告の求釈明の」以下について、争う。原告の主張は、前記第2の8 ⑵ のとおりである。
第4の2 ⑸ (20頁以下)「しかも、被告内部通報制度は・・・目的としているわけではない。」ついては、争う。原告の主張は、前記第2の5のとおりである。その余は、認否を留保する。本書に対する被告の反論の後に認否を行う。
「乙第11号証の」以下について、否認する。被告が「容易に理解可能である」と主張しているので、本来は、被告が、「付加価値税_GMへの確認.xlsx」と題する Excel ファイルを提出すべきと考えるが、原告から補足説明をする。
平成29年7月25日に原告と調査補助者が面談を行い(甲16の4)、その後、原告は、同月27日、調査補助者に対し、「面談でお話しさせていただいたとおり、経緯を整理した内容を、後日、送付させていただきたいと存じます。(甲16の5)」と告げ、同月28日に「面談でお話しさせていただいた件について、確認する内容をまとめましたので送付いたします。(甲16の7)」と告げて、甲17のファイル及び当該 Excel ファイルを送付した。
甲17のファイルと当該 Excel ファイルは同様の形式であり、左側に事実を時系列でまとめ、右側にはその時系列に対応して洗い出した確認事項を記載している。「質問票」というよりも、チェックリストに近い形式である。※34
以上のとおり、平成29年8月14日の調査報告における「質問票」という記載しただけでは、「質問票」に該当する文書が特定できない。
「甲第20号証の」以下について、否認する。既に述べたとおり( 前記第2の8 ⑵ )、本件部長報告において「精算」と表現された措置は、実質的に「返金」の性質を有する措置であるにもかかわらず、「返金」の性質であることを伏せているため、GSTの支払が行われていた原因が曖昧化されている。
以上
文末脚注
1 答弁書第3の3、被告準備書面(2)第2の1 ⑵ イ、被告準備書面(5)第2の2 ⑵
2 答弁書第3の4
3 被告準備書面(2)第2の1 ⑸ キ
4 被告準備書面(5)第2の2 ⑶
5 甲25の2、令和元年12月2日、原告と調査補助者とのやり取り、「私が行った2016年1月7日の問題提起は「還付手続きに関すること」ではなく、「契約書の内容確認や ≪ 本件豪州企業 ≫ への照会で、請求書の記載に間違いがないかを確認をすること」です。」 甲25の5、令和元年12月20日、原告と調査補助者とのやり取り、「したがいまして、契約書上のGST条項の有無や記載内容については、結論に関係がありませんのでお調べしませんし、また ≪ 本件事業部 ≫内でそうした確認をしなかったことも特に不審なこととは認定いたしません。」
6 甲21の1、令和2年6月25日付の文書、「2015年1月にJXTGエネルギーと ≪ 本件豪州企業 ≫ との間で締結された契約書には、GSTに関する定めはありません。⑵ の契約が締結されるまでの間は、⑴ の契約に基づき発注が行われていました。」
7 以上につき、甲21の1及び甲21の3、令和2年6月25日付及び同年7月9日付の文書
8 原告第1準備書面第2の1 ⑸ 第1段落、被告準備書面(2)第2の1 ⑸ ア
9 原告第1準備書面第2の1 ⑸ 第4段落、被告準備書面(2)第2の1 ⑸ エ
10 以上につき、甲31、平成29年11月、JXTG REPORT CSRレポート 2017(14頁)
11 以上につき、被告準備書面(5)第4の2 ⑸
12 甲32、平成29年9月、公益通報ハンドブック(21頁)
13 乙2、平成28年9月14日の通報フォーム、「海外取引で支払った当社宛の請求書の金額について、付加価値税が含まれていた。(豪州、当時の為替で650万円) その付加価値税の還付は豪州関連会社の ≪ 豪州子会社 ≫ に納付された。なお、付加価値税分の金額は経費で計上されたままである。(コンサルタント費用・法人税
14 甲8ないし甲18 平成28年9月21日から平成29年7月31日まで、原告と調査補助者とのやり取り
15 乙2、平成28年9月14日の通報フォーム
16 甲8の4、平成28年10月3日、「Wordファイルのここに、本件GSTの金額が請求金額として記載されている請求書(甲3)や原告と上司Aとのやり取りが記載されているメールファイルを添付(甲4)を添付している。」の箇所に、本件豪州企業に対するGSTの支払に該当する証憑台紙と請求書を添付している。
17 乙9、平成30年11月27日の通報フォーム、「記載ミスのある請求書の額を支払ったことが原因と思われる経費の過払い( 75.473.10 豪ドル以上)に気づき、その旨を ≪ 上司A ≫ へ伝えた。」
18 乙12、令和元年10月25日の調査報告(5頁)、「ヒアリングの結果、≪ 本件事業部 ≫ 内で以下の費用については、JXAから返金を受ける形で還付対象GSTの精算を行ったことを確認できた。」
19 被告準備書面(5)第2の2 ⑷
20 以上につき、甲33の1、オーストラリアGST法38条の1、甲33の2、「オーストラリアの物品サービス税(GST)法制の分析」白鷗法学 第22巻2号(通巻第46号)(2016)(7頁、8頁、42頁)
21 甲34、平成28年6月29日、弁護士法人クレア法律事務所「英文契約書に関するQ&A」
22 訴状第2の4 ⑴ 、答弁書第4の4 ⑴ イ
23 原告第1準備書面第2の1⑶ 表6、被告準備書面(2)第2の1 ⑶
24 甲20の1、平成29年10月16日、本件部長報告の内容、甲21の1及び甲21の3、令和2年6月25日付及び同年7月9日付の文書
25 乙11、平成29年8月14日の調査報告
26 乙12、令和元年10月25日の調査報告(6頁)、「一般に、GSTの還付は納税者の「権利」であり、「義務」ではない。したがって、GSTの還付をするか否かは任意であり、還付を受けないままであったとしても、不正行為等にはあたらない。」
27 原告第2準備書面第1の3 ⑷ イ 、被告準備書面(3)第2の2 ⑸ イ
28 甲20の1、平成29年10月16日、本件部長報告の内容
29 令和6年11月25日付求釈明申立書第4の2、被告準備書面(5)第3-4の2
30 原告第2準備書面第1の2 ⑷ ア 、被告準備書面(3)第2の2 ⑸ ア
31 被告準備書面(5)第2の2 ⑷ ウ
32 乙2、平成28年9月14日の通報フォーム、甲8ないし甲18 平成28年9月21日から平成29年7月31日まで、原告と調査補助者とのやり取り、乙9、平成30年11月27日の通報フォーム、甲23、平成30年11月28日~平成31年3月20日、原告と調査補助者とのやり取り、甲25、原告と調査補助者とのやり取り、令和元年10月27日~令和2年1月24日
33 甲4、平成28年3月31日、原告と上司Aとのやり取り、「先日、1月7日にご説明させていただいた海外取引の付加価値税について、確認しなければならないことや必要な対応はありますでしょうか。」、「GSTの支払額をインボイスとともに当局に届けると、支払うべき税金(源泉税)からそのGST分減額されるとのことで、主な過去の支払い分については対応してもらっています。」
34 甲16の4、甲16の5、甲16の7、甲17、平成29年7月24日から同月28日、原告と調査補助者とのやり取り
17 第4回口頭弁論#
ENEOS側が認めない事実
🔸調査報告(乙10)について、調査報告がなされたこと自体が認識できない態様であること(第2の2 ⑴ エ)
🔸調査報告(乙11)について、調査報告で告げられている「質問票」が特定できないこと(第2の2 ⑴ オ)
🔸本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づいていたか否かを調査しなかったという誤った事実を認識させる通知を行っていたこと(第2の2 ⑴ ク)
🔸本件豪州企業に対するGSTの支払は、原告の手続によって支払われたものであること(第2の2 ⑵ イ)
🔸被告が原告に対して本件豪州企業へのGSTの支払がGSTに関する定めのない契約に基づくものであると認識させる回答をしたこと(第2の2 ⑵ ウ)
🔸本件部長報告において報告された支払ったGST分の「精算」は、実質、本件豪州企業から返金されたものであること(第2の2 ⑶ エ)
🔸本件部長報告において報告された「GSTの法改正」の存在が、オーストラリア税務局のウェブサイトで確認できないこと(第2の2 ⑶ キ)
🔸本件部長報告において、「預り金」としての性質であることを報告していない点が、報告の内容を不確かにしていること(第2の2 ⑷ ウ)
🔸豪州子会社が豪州から還付を受けていないにもかかわらず、還付金として本社に送金していること(第2の2 ⑷ エ)
16 被告準備書面(5)#
PDFの用意があります。
被告準備書面(5) 目次
⑴ 本件規程等の違反は被告の債務不履行又は不法行為を構成しないこと
⑵ 本件訴訟は前回訴訟の確定判決の既判力により遮断されること
第3-1 第1(被告の主張における「通報」と「通報情報」について)(1頁以下)について
第3-2 第2(調査事項に対応する「法令等」について)(2頁)について
第3-3 第3(本件規程3.5に定める是正措置及び再発防止策等の実行について)(2頁以下)について
1 第4の1(本件GSTの支払と契約内容の関係に関する認否について)(3頁)について
2 第4の2(「GSTの法改正」に該当する法改正について)(3頁)について
第5 原告第4準備書面第2(原告の主張)(3頁以下)に対する認否
1 第2の1(本件訴訟における原告及び被告の主張)(3頁以下)について
⑴ 第2の1 ⑴(原告が主張する被告の違反行為について)(3頁以下)について
2 第2の2(被告は・・・誤った事実を認識させていた。)(5頁以下)について
⑴ 第2の2 ⑴(本件豪州企業に対する...説明していた。)(5頁以下)について
⑵ 第2の2 ⑵(本件豪州企業への・・・回答を行っていた。)(8頁以下)について
⑶ 第2の2 ⑶(あたかも・・・原告に隠していた。)(9頁以下)について
被告準備書面(5)
令和6年12月17日
東京地方裁判所民事第19部に係 御中
目次
≪ 中略 ≫
本書に用いる用語の意味は、本書に別段の定義のない限り、被告の令和6年8月9日付の「被告準備書面 ⑷ 」(以下「被告準備書面 ⑷ 」という。)までの被告の主張書面に定義するところによる。
本件訴訟における原告の主張は、答弁書第3の1に整理したところではあるが、原告第1準備書面以降の原告の主張によって判然としなくなっているところがあるので、現段階において原告が主張していると思われるところを善解しつつ整理すると、次のとおりである。
➀ 被告は、次のとおり被告の社内規程等に違反した。
被告は、原告から本件通報又は追加通報を受けて、被告において被告から本件豪州企業に対するGSTの支払が被告と本件豪州企業の間の契約内容に基づくものでなかったという事実を把握した(注1)。
当該事実は、本件規程3.6 ⑴ アにいう「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」に該当する。
ところが、被告は、本件通報及び追加通報に係る本件規程3.6 ⑴ アに基づく調査結果の回答又は通知(乙第10号証・乙第11号証・乙第12号証)において、原告に対し、「コンプライアンス違反ではない」又は「不正行為等に該当しない」との通知をし、上記の事実を通知しなかった(注2)。
よって、被告は、本件規程3.6 ⑴ ア、行動基準(注3)第1項 ⑴ 、同第11項 ⑶ 、同第12項 ⑶ 、内部統制基本方針(注4)第5項 ⑴ 及び同 ⑷ に違反した(注5)。
被告は、原告から本件通報又は追加通報を受けて、被告において被告から本件豪州企業に対するGSTの支払が被告と本件豪州企業の間の契約内容に基づくものでなかったという事実を把握した(注6)。
当該事実は、本件規程3.6 ⑴ イにいう「法令等に違反する事実」又は同ウにいう「法令等に・・・違反するおそれのある事実」に該当する。
被告は、原告から本件通報又は追加通報を受けて、被告が本件豪州企業に対して支払ったGSTについて本件豪州企業から「返金を受け」たこと、2018年(平成30年)に被告と本件豪州企業の間で新たな契約を締結したこと(原告のいう「本件契約の措置」)、その他被告が本件豪州企業からGSTを請求されないための「何かしらの措置」を実行した(注7)。
これらの措置は、本件規程3.6 ⑴ イにいう「是正措置または再発防止策」又は本件規程3.6 ⑴ ウにいう「対応策」に該当する。
ところが、被告は、原告に対し、本件通報及び追加通報に関し、是正措置、再発防止策又は対応策を通知しなかった(注8)。
よって、被告は、本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウに違反した(注9)。
(c) 「本件部長報告」に係る行動基準第11項 ⑶ 等の違反
平成29年10月16日に、原告の所属していた部署(原告のいう「本件事業部」)の担当者が、当該部署の部長を宛先、原告らをCCにして、「過年度JXTGエネルギーの支払分については ≪ 豪州子会社 ≫ にて17年9月までに還付請求を実施。また ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額について、JXTGエネルギーへの戻入れも実施済み。」などと記載されていた電子メール(甲第20号証の1)(原告のいう「本件部長報告」)を送付した。
当該電子メールは、豪州税務当局から豪州子会社に対する還付と豪州子会社から被告に対する送金との関係について「判然としない」(注10)又は「不確かにしている」(注11)こと、当該電子メールに言及している還付が存在しなかった「可能性がある」(注12)又は「疑いが拭えない」(注13)こと、当該電子メールに言及している法改正が存在しない「可能性がある」こと(注14)など、「正確性に疑念がある」(注15)ものであったから、「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない(注16)。
よって、被告は、行動基準第1項 ⑴ 、同第11項 ⑶ 、同第12項 ⑶ 、内部統制基本方針第5項 ⑴ 及び同 ⑷ に違反した(注17)。
被告は、原告から本件通報又は追加通報を受けて、被告において被告から本件豪州企業に対するGSTの支払が被告と本件豪州企業の間の契約内容に基づくものでなかったという事実を把握した(注18)。
当該事実は、本件規程3.5にいう「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」に該当する。
被告は、2018年(平成30年)に被告と本件豪州企業の間で新たな契約を締結したこと(原告のいう「本件契約の措置」)のほかには、効果的な再発防止策を実行しなかった(注19)。
よって、被告は、本件規程3.5、行動基準第12項 ⑶ 、同第14項 ⑶ 、内部統制基本方針第5項 ⑴ 及び同 ⑷ に違反した(注20)。
➁ したがって、被告は、原告に対し、債務不履行(民法第415条)又は不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償責任を負う。
原告の主張が前記1のとおりであるとすると、これに対する被告の反論の要旨は、次のとおりである。
⑴ 本件規程等の違反は被告の債務不履行又は不法行為を構成しないこと
本件規程は、各規定の主語が「本規程の運用を統括する責任者は」、「従業員等は」、「通報者は」、「法務部長は」、「対応者は」等となっていることからも明らかなとおり、被告の各役員又は従業員の職務を規定するものであって、法人たる被告の義務を定めているのでもなければ、原告を含む被告の従業員に対する義務を定めているわけでもなく、その違反が債務不履行に基づく損害賠償責任を生ぜしめるような何らかの義務を定めたものでもない。すなわち、本件規程は、被告の会社組織内の自律的な規範にとどまるものであって、就業規則のように法人たる被告と原告を含む従業員との間に直接の権利義務又は債権債務を生ぜしめるものではない。
本件規程が被告と従業員の間に何らかの権利義務関係を生ぜしめるとすれば、本件規程によって(被告に内部通報制度が設けられることによって)、被告の従業員が内部通報制度の通報窓口に通報をしたときに、当該通報の具体的状況の如何によっては、被告が、当該従業員に対し、当該通報を受け、体制として整備された仕組みの内容、当該通報に係る相談の内容に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合がある、というものである(注21)。
よって、本件規程3.6 ⑴ ア(前記1 ➀(a))、同イ・ウ(前記1 ➀(b))、又は同3.5(前記1 ➀(d))の違反があったとしても、それだけでは被告の原告に対する債務不履行又は不法行為を構成するものではなく、被告が本件通報又は追加通報に関して原告に対して上記の信義則上の義務を負うと認められる場合であって、かつ被告が当該信義則上の義務に違反したと認められる場合でなければ、被告は、原告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負うものではない。
行動基準は、その「はじめに」「1.『ENEOSグループ行動基準』の位置づけ」に定めるとおり、「ENEOSグループで働く私たち」(すなわちENEOSグループ(被告を含む。)の役員及び従業員)が「実践すべき基準」であり、「事業活動における判断の拠り所」となるにとどまるものであって(甲第2号証の1)、法人たる被告の義務を定めているのでもなければ、原告を含む被告の従業員に対する義務を定めているわけでもなく、その違反が債務不履行に基づく損害賠償責任を生ぜしめるような何らかの義務を定めたものでもない。すなわち、行動基準も、就業規則のように法人たる被告と原告を含む従業員との間に直接の権利義務又は債権債務を生ぜしめるものではない。
よって、行動基準第1項 ⑴(前記1 ➀(a)・(c))、同第11項 ⑶(前記1 ➀(a)・(c))、同第12項 ⑶(前記1 ➀(a)・(c)・(d))又は同第14項 ⑶(前記1 ➀(d))の違反があったとしても、被告の原告に対する債務不履行又は不法行為を構成するものではない。
内部統制基本方針は、被告を含むENEOSグループにおいて業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)を整備・運用するうえでの「基本方針」を定めるものであり、被告の取締役が株式会社たる被告又はその株主に対して負っている義務又はその基本方針を定めるものではあっても(注22)、法人たる被告の義務を定めているのでもなければ、原告を含む被告の従業員に対する義務を定めているわけでもない。すなわち、内部統制基本方針も、就業規則のように法人たる被告と原告を含む従業員との間に直接の権利義務又は債権債務を生ぜしめるものではない。
よって、内部統制基本方針第5項 ⑴ 又は同 ⑷(前記1 ➀(a)・(c)・(d))の違反があったとしても、被告の原告に対する債務不履行又は不法行為を構成するものではない。
⑵ 本件訴訟は前回訴訟の確定判決の既判力により遮断されること
答弁書第3の3(9頁以下)に述べたとおり、前回訴訟における前回訴訟争点1に係る損害賠償請求も、本件訴訟における損害賠償請求も、本件通報及び追加通報に関して被告が原告に対する信義則上の義務に違反したことを理由として債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求するものであるから、訴訟物は同一である。
また、原告が「本件訴訟主要事実」(注23)として記載する各事実を含む前記1 ➀(a)・(b)・(d)に述べた各事実は、前回訴訟争点1に係る通報と同一の(本件通報及び追加通報)に関するものである以上は、同一の信義則上の義務の違反の評価根拠事実を新たに追加するものにとどまる。
加えて、答弁書第3の3(9頁以下)に述べたとおり、原告は、本件訴訟において、前回訴訟の控訴審の口頭弁論終結後に生じた新たな事由を主張しているわけでもない。
よって、答弁書第3の3(9頁以下)に述べたとおり、本件訴訟における原告の請求のうち前記1 ➀(a)・(b)・(d)に係るものは、確定した前回訴訟控訴審判決の既判力(民事訴訟法第114条第1項)によって遮断され、かつ理由がない。
答弁書第3の4(10頁以下)に述べたとおり、本件訴訟における原告の請求は、実質的には前回訴訟の蒸し返しにほかならず、前回訴訟において本件訴訟における請求をすることにも何ら支障はなかった。
具体的には、まず、被告準備書面 ⑵ 第2の1 ⑸ キ(9頁以下)に述べたとおり、前記1 ➀(b)に関しても、原告は、前回訴訟において原告のいう「本件訴訟主要事実」(原告に対して是正措置、再発防止策又は対応策を実施したとの通知をしなかったという事実(本件規程3.6 ⑴ イ又はウの違反))を主張することも、全く困難ではなかったはずである。
また、原告は、前記1 ➀(c)に係る行為によって、本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づかないという事実に対して講じられた措置を把握できない状況に置かれ、前記1 ➀(b)に係る事実を主張することが困難になったと主張したいもののようであるが(注24)後記 ⑷ ウに述べるとおり、そもそも、前記11(c)に係る行為は、原告の所属していた部署の担当者が当該部署の部長に対して報告をしたものに過ぎず(甲第20号証の1)、被告又は被告の調査補助者が原告に対して本件通報に関して通知又は情報共有をしたものではないので、被告又はその履行補助者が原告の主張を困難にしたわけでもない。
よって、答弁書第3の4(10頁以下)に述べたとおり、本件訴訟における原告の訴えのうち前記1 ➀(a)・(b)・(d)に係るものは、仮に確定した前回訴訟控訴審判決の既判力によって遮断されないとしても、信義則に照らして許されるものではなく(注25)、不適法である。
ア 本件規程3.6 ⑴ アの違反(前記1 ➀(a))同3.5の違反(前記1 ➀(d))の不存在
そもそも、一般に、GST(Goodsand Services Tax(物品サービス税/付加価値税)は、当該GSTについて定める法令に基づいて支払う必要があるものであって、契約に基づいて支払う必要が生ずるものではなく、契約の定めの有無・内容にかかわらず、法令上GSTの課税される取引であれば、GSTを支払う必要があるし、法令上GSTの課税されない取引であれば、GSTを支払う必要はない。そして、GSTが課税されるか否かは個別の取引の性質よって取引毎に異なるため、GSTの課税されない取引についてGSTを支払ったり、支払済みのGSTの還付申請がされなかったりしたとしても、直ちにコンプライアンス違反となるわけでもない(乙第10号証)。
よって、本件通報及び追加通報に関しても、被告から本件豪州企業に対するGSTの支払が被告と本件豪州企業の間の契約内容に基づくものであったか否かは、「不正行為等」があったか否かには直接の関係がないし、仮にGSTの支払が契約内容に基づくものでなかったという事実があったとしても、「不正行為等」があったことになるわけではない。
したがって、本件通報及び追加通報に関しては、本件規程3.6 ⑴ ア・同3.5にいう「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」がなかったのであるから、被告の調査補助者が、本件通報及び追加通報に係る調査結果の回答又は通知(乙第10号証・乙第11号証・乙第12号証)において、原告に対し、「コンプライアンス違反ではない」又は「不正行為等に該当しない」との通知をし、GSTの支払が契約内容に基づくものでなかったという事実を通知しなかったことも、本件規程3.6 ⑴ アに違反するものではないし、被告が効果的な再発防止策を実行しなかったとしても、本件規程3.5に違反するものではない。
イ 本件規程3.6 ⑴ イ・ウの違反(前記1 ➀(b))の不存在
答弁書第3の5(12頁以下)に述べたとおり、本件通報及び追加通報に関する調査結果は、本件規程3.6 ⑴ イにいう「法令等に違反する事実が確認された場合」又は本件規程3.6 ⑴ ウにいう「法令等に違反するおそれのある事実が確認された場合」のいずれでもなかったのであるから、被告が、原告に対し、本件通報及び追加通報に関し、是正措置、再発防止策又は対応策を通知しなかったことは、本件規程3.6 ⑴ イ又はウに違反するものではない。
前記1 ➀(c)に係る行為についていうと、甲第20号証の1の電子メール(原告のいう「本件部長報告」)は、原告の所属していた部署の担当者が当該部署の部長に対して報告をしたものに過ぎず、被告又は被告の調査補助者が原告に対して本件通報に関して通知又は情報共有をしたわけではない。
とすれば、仮に行動基準が被告の原告に対する義務を定めたものであると仮定しても、前記1 ➀(c)に係る行為は、被告又はその履行補助者が原告に対して行った行為でない以上は、被告においてそのような義務に違反したことになるものではない。
しかも、前記11(c)にいう電子メール(甲第20号証の1)は、単に、原告にとって、「判然としない」又は「不確か」な部分があったり、そこに言及されている事実が存在しない「可能性がある」又は「疑いが拭えない」と思えたりするというだけであって、「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたものでないことを示す客観的事実があるわけでもない。
答弁書第3の6(13頁以下)に述べたとおり、また確定した前回訴訟控訴審判決も判示をしているとおり(注26)、本件通報又は追加通報において原告が通報をした内容は、GSTの還付又はその会計処理に関する疑義であって、それによって原告が直接被害を受けるようなものではないから、被告が、原告に対し、当然に本件通報に適切に対応すべき信義則上の義務を負うということはできない。 よって、仮に本件通報又は追加通報に関する対応に本件規程等の違反があったと仮定しても、被告が、原告に対し、当然に本件通報又は追加通報に適切に対応すべき信義則上の義務に違反したということはできない。
以上からすると、前記 ⑶ により、本件訴訟における原告の訴えは、不適法として却下されるべきであり、そうでなくても、前記 ⑵、⑷ 又は ⑸ により、本件訴訟における原告の請求は、理由がないものとして棄却されるべきである。
原告の令和6年11月25日付の「求釈明申立書」(以下「原告求釈明申立書」という。)における原告の求釈明に対する被告の回答は、以下のとおりである。
第3-1 第1(被告の主張における「通報」と「通報情報」について)(1頁以下)について
「通報情報」は、「通報にかかる情報」であり(本件規程1.2 ⑹ )、「通報」は、「不正行為等を発見し、または不正行為等が行われている旨の報告を受けたとき」又は「不正行為等を内容とする職務命令を受けたとき」に、当該不正行為等の「内容を告げる行為」であるから(本件規程1.2 ⑸ )、「通報情報」とは、通報において告げられた不正行為等の内容たる情報を意味する。
よって、確定した前回訴訟控訴審判決も判示するとおり、「事実経過の説明として記載されたにすぎない事項や、調査の過程で調査補助者に告げたにすぎない疑問事項等が、当然に通報又は通報情報として調査の対象になるとはいえ」ないのであって(注27)(乙第3号証)、そのような事項等は、何らかの「不正行為等の内容」を「告げる」ものであって初めて「通報」に該当し、その「不正行為等の内容」たる情報が「通報情報」に該当する。
したがって、被告の主張において「通報」として扱っているのも、
・本件通報(原告が平成28年9月14日に本体内部通報制度の社内通報窓口の電子メールアドレス宛に行った内部通報)、及び
・追加通報(原告が平成30年11月27日に本件内部通報制度の社内通報窓口の電子メールアドレス宛に行った内部通報)
であり、被告の主張において「通報情報」として扱っているのも、
・本件通報に係る通報用フォーム(乙第2号証)に記載された情報及びその後に原告が調査補助者に提供した情報のうち、「不正行為等」に該当するか否かが問題となる行為)の内容たる情報(注28)、並びに
・追加通報に係る通報用フォーム(乙第9号証)に記載された情報及びその後に原告が調査補助者に提供した情報のうち、「不正行為等」に該当するか否かが問題となる行為)の内容たる情報(注29)
である。
なお、原告が原告第1準備書面第1の3 ⑴ ウ(5頁)において「調査補助者に対する追加通報」と定義するところのものは、本件通報後に原告が調査補助者に対して通知し又は質問した事項であるところ、直接には本件通報とは別途に何らかの「不正行為等」の内容を告げるものではなかったので、本件通報に付随又は関連する情報であるにとどまり、被告の主張においては、本件通報とは別個の「通報」とは扱っていないし、当該事項の内容たる情報も「通報情報」とは扱っていない。
第3-2 第2(調査事項に対応する「法令等」について)(2頁)について
原告の求釈明の内容は、訴訟関係を明瞭にするため(民事訴訟法第149条)のものとはいえないので、被告において回答する必要を認めない。
第3-3 第3(本件規程3.5に定める是正措置及び再発防止策等の実行について)(2頁以下)について
そもそも、「法令等に違反する事実が確認された場合」又は「法令等に違反するおそれのある事実が確認された場合」のいずれでもなかったのであるから、本件規程3.5に定める是正措置及び再発防止策の実行は必要でなかったのであるし、被告が原告のいう「本件豪州企業」との間で原告の指摘する内容の契約を締結したのも、本件規程3.5に定める是正措置又は再発防止策等として行ったわけではない。
被告が被告準備書面⑶第2の3⑹イ(14頁)において「否認する」と主張しているのも、上記の理由による。
第3-4 第4(本体GSTの支払について)(3頁)について
1 第4の1(本件GSTの支払と契約内容の関係に関する認否について)(3頁)について
前記第2の2 ⑷ アに述べたとおり、被告から本件豪州企業に対するGSTの支払が被告と本件豪州企業の間の契約内容に基づくものであったか否かは、「不正行為等」があったか否かには直接の関係がないし、仮にGSTの支払が契約内容に基づくものでなかったという事実があったとしても、「不正行為等」があったことになるわけではない。
被告が被告準備書面 ⑶ 第2の2 ⑶ (7頁) において「争う」と主張しているのも、上記の理由による。
2 第4の2(「GSTの法改正」に該当する法改正について)(3頁)について
原告の求釈明の内容は、訴訟関係を明瞭にするため(民事訴訟法第149条)のものとはいえないので、被告において回答する必要を認めない。
原告の令和6年11月25日付の「文書送付嘱託申立書」(以下「原告文書送付嘱託申立書」という。)における文書送付嘱託の申立て(以下「本件申立て」という。)について、以下のとおり被告の意見を述べる。
本件申立ては、却下されるべきである。
原告が原告文書送付嘱託申立書において送付を求めている文書(同申立書第1の1 ⑴ から ⑹ までに記載の文書及び第2の1 ⑴ 及び ⑵ に記載の文書)(以下「本件文書」という。)のうち、同申立書第1の1 ⑴ 及び同 ⑵ に記載の各文書は、被告が本件訴訟の書証として提出済みである(乙第13号証・乙第14号証)。
本件文書のうち、原告文書送付嘱託申立書第1の1 ⑶ に記載の文書(HDグループコンプライアンス方針)は、原告が本件訴訟を提起した後の令和6年4月に、被告のチーフコンプライアンスオフィサーが策定し、被告の社内ネットワークにおいて掲示されたものである。
よって、原告文書送付嘱託申立書第1の1 ⑶ に記載の文書は、本件訴訟の請求原因事実とは無関係であることが明らかなものであり、証拠調べをする必要性がない。
本件文書のうち、原告文書送付嘱託申立書第1の1 ⑷ に記載の文書(第1回ENEOSコンプライアンス委員会における役員コミットメント)も、原告が本件訴訟を提起した後の令和6年7月に、HDグループコンプライアンス方針(同申立書第1の1 ⑶ に記載の文書)に基づいて被告の各役員が作成し、被告の社内ネットワークにおいて掲示されたものである。
よって、原告文書送付嘱託申立書第1の1 ⑷ に記載の文書も、本件訴訟の請求原因事実とは無関係であることが明らかなものであり、証拠調べをする必要性がない。
本件文書のうち、原告文書送付嘱託申立書第1の1 ⑸ 及び同 ⑹ に記載の各文書も、その日付がそれぞれ「令和6年10月29日付」又は「令和6年5月23日付」となっていることからも明らかなとおり、原告が本件訴訟を提起した後に電子メールをもって発信されたものである。
よって、原告文書送付嘱託申立書第1の1 ⑸ 及び同 ⑹ に記載の文書は、本件訴訟の請求原因事実とは無関係であることが明らかなものであり、証拠調べをする必要性がない。
本件文書のうち、原告文書送付嘱託申立書第1の1 ⑴ 及び同 ⑵ に記載の文書は、原告が、前記第2の10(c)の事実を証明するために送付を求めているものであると思われるところ(同申立書第2の3)、前記第2の2 ⑴ イ・同ウ・同⑷ウに述べたところからすると、仮に当該文書によって同申立書第2の3の「証明すべき事実」が証明されたとしても、被告の原告に対する債務不履行又は不法行為が成立するわけではない。
よって、原告文書送付嘱託申立書第1の2 ⑴ 及び同 ⑵ に記載の文書も、証拠調べをする必要性がない。
しかも、被告内部通報制度は、「ENEOSグループにおける法令等に違反する行為または違反するおそれのある行為・・・について、これを早期に是正」し、「もって、ENEOSグループのコンプライアンス体制を強化することを目的とする」ものであり(乙第1号証)、内部通報制度一般の意義も、「法令遵守の推進や組織の自浄作用の向上に寄与し、ステークホルダーや国民からの信頼の獲得にも資する」繋げることにあるのであって(注30)、通報者のために若しくは通報者に代わって通報に係る個別具体的な事実関係を調査すること又は通報者の納得若しくは満足を得ることを目的としているわけではない。
ところが、原告文書送付嘱託申立書第1の2 ⑴ 及び同 ⑵ に記載の文書は、「証明すべき事実」が証明されたとしても、被告の原告に対する債務不履行又は不法行為が成立するわけではないというだけでなく、被告内部通報制度の目的を逸脱して、被告が本件通報又は追加通報に関する調査を行った際の調査資料を開示させようとするものにほかならないから、本件申立てのうち原告文書送付嘱託申立書第1の2 ⑴ 及び同 ⑵ に記載の文書に係る部分は、濫用的な申立てであるといわざるを得ない。
以上のとおりであるから、本件申立ては、直ちに却下されるべきである。
第5 原告第4準備書面第2(原告の主張)(3頁以下)に対する認否
原告の令和6年11月25日付の「原告第4準備書面」(以下「原告第4準備書面」という。)の第2(原告の主張)(3頁以下)における原告の主張に対する被告の認否は、以下のとおりである。
1 第2の1(本件訴訟における原告及び被告の主張)(3頁以下)について
⑴ 第2の1 ⑴(原告が主張する被告の違反行為について)(3頁以下)について
争う。
なお、原告の主張の要旨は、前記第2の1に詳述したとおりである。
認める。
被告の主張の要旨は、前記第2の2に詳述したとおりである。
特に認否しない。
2 第2の2(被告は...誤った事実を認識させていた。)(5頁以下)について
⑴ 第2の2 ⑴(本件豪州企業に対する・・・説明していた。)(5頁以下)について
ア 第2の2 ⑴ ア(「被告の主張においては」以下)(5頁)について
概ね認める。
イ 第2の2 ⑴ イ(「既に述べたとおり」以下)(6頁)について
認める。
認める。
エ 第2の2 ⑴ エ(「表7の(ア)に」以下)(6頁)について
第1段落(「表7の(ア)に」以下)は認めるが、第2段落(「そのため」以下)は否認する。
オ 第2の2 ⑴ オ(「表7の(イ)に」以下)(6頁以下)について
原告第4準備書面5頁の表7の(イ)に示す通知事項(調査結果の通知)(乙第11号証)に、原告の引用する記載があること、当該通知事項に「質問票」の内容や日付が記載されていないこと、原告が被告と本件豪州企業との契約の内容について調査が行われたかどうかについて確認できない状況であったことは、それぞれ認めるが、その余は、否認する。
乙第11号証の電子メールに記載の「質問票」は、原告の調査補助者に対する2017年(平成29年)7月28日14時17分送信の電子メール(甲第16号証の7)に添付されていた「付加価値税_GMへの確認.xlsx」と題する Excel ファイルを意味し、甲第16号証の7に「もう一つの Excel ファイル」と記載されているところのものである。そして、そのことは、原告自らが甲第16号証の7の電子メールにおいて当該ファイルについて「(GMへ)確認する内容」であると記載していることからも容易に理解可能である。
カ 第2の2 ⑴ カ(「表7の(ウ)に」以下)(7頁)について
認める。
キ 第2の2 ⑴ キ(「調査補助者が」以下)(7頁)について
認める。
ク 第2の2 ⑴ ク(「以上のとおり」以下)(7頁)について
被告の調査補助者が原告に対して契約書を確認するという行為は意味がない行為である旨を説明していたことは認めるが、その余は否認する。
⑵ 第2の2 ⑵(本件豪州企業への・・・回答を行っていた。)(8頁以下)について
認める。
平成27年11月の支払手続によるGSTの支払については、認める。その余の支払については、「原告の支払手続による」ものか否かが不明であるため不知であるが、特に争わない。
否認する。
認める。
オ 第2の2 ⑵ オ(「以上のとおり」以下)(8頁以下)について
否認する。
⑶ 第2の2 ⑶(あたかも・・・原告に隠していた。)(9頁以下)について
ア 第2の2 ⑶ ア(「被告も認めるとおり」以下)(9頁)について
認める。
認める。
認める。
エ 第2の2 ⑶ エ(「そのため、本件豪州企業で」以下)(10頁)について
争う。
甲第20号証の1にも記載のあるとおり、「〔20〕17年1月~4月の当社へのGST請求分については、〔同年〕5月の請求から1~4月に支払済みのGSTを差し引く形で精算」したのであり、「〔20〕17年1月~4月の当社へのGST請求分」の「返金」を受けたわけではないので、「精算済み」のほうが「返金された」よりも適切な表現である。
事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
被告が何らかの事実を原告に「隠していた」などというのは、原告の邪推でしかない。
認める。
キ 第2の2 ⑶ キ(「そのため、原告と」以下)(10頁)について
不知である。
ク 第2の2 ⑶ ク(「以上のとおり」以下)(10頁以下)について
事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
被告が何らかの事実を原告に「隠していた」などというのは、原告の邪推でしかない。
⑷ 第2の2 ⑷(豪州子会社が・・・原告に隠していた。)(11頁以下)について
ア 第2の2 ⑷ ア(「被告の主張によって」以下)(11頁)について
認める。
イ 第2の2 ⑷ イ(「原告と」以下)(11頁以下)について
認める。
争う。
そもそも、「報告していないこと」が「不確かにしている」という因果関係が不明である。
否認し又は不知である。
豪州子会社が豪州税務当局から還付を受けていないなどというのは、原告の邪推でしかない。
オ 第2の2 ⑷ オ(「豪州子会社による」以下)(12頁)について
認める。
カ 第2の2 ⑷ 力(「以上のとおり」以下)(12頁)について
事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
被告が何らかの事実を原告に「隠していた」などというのは、原告の邪推でしかない。
第1段落(「被告は、原告に対し、以下のような」以下)は認めるが、第2段落(「被告は、原告に対して行動基準」以下)は否認する。
3 第2の3(前回訴訟の...許される。)(13頁以下)について
争う。
以上
15 文書送付嘱託申立書#
PDFの用意があります。
文書送付嘱託申立書
令和6年11月25日
東京地方裁判所民事部民事第19部に係 御中
原告は、頭書事件について、次のとおり文書送付嘱託を申し立てる。
本書に用いる用語の意味は、被告のコンプライアンスホットライン規程(乙1、本件規程)、令和6年8月9日付の原告第3準備書面までの原告の主張書面及び同日付の被告準備書面(4)までの被告の主張書面に定義するところによる。
1 文書の表示
⑴ コンプライアンス規程
⑵ ENEOSグループ内部通報制度基本規程
⑶ HDグループコンプライアンス方針
⑷ 第1回ENEOSコンプライアンス委員会における役員コミットメント
⑸ 令和6年10月29日付の文書「ENEOSグループ理念・行動基準の再確認について」
⑹ 令和6年5月23日付の文書「【通知】貴殿による私的提起の訴訟追行における行為について」
2 文書の所持者
〒110-8162 東京都千代田区大手町一丁目1番2号
ENEOS株式会社
上記代表者代表取締役社長 山口 敦治
3 証明すべき事実
⑴ 被告の従業員がコンプライアンスを徹底することを定めている規程が存在すること、及びその内容
⑵ 被告等における法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実に対する是正措置及び再発防止策等の実行は、従業員が安心し、誇りを持って働ける環境を実現するためでもあること
⑶ 原告が社内規程及び業務上の電子メール等を書証として提出した行為について、懲戒処分等の可能性があると通知されたこと
4 送付の必要性等
本件訴訟は、被告の内部通報制度及びその運用に関連する争点を含んでいる。
被告は、行動基準及び本件規程に定める是正措置及び再発防止策に関して、その実行及び通知について、法人としての義務を定めていないと主張している。また、仮に被告が原告の主張するような義務を何者かに対して負っている場合であっても、少なくともその義務は従業員に対して負っている義務ではないと主張している。さらに、行動基準及び被告等に適用されるべき規程類の遵守徹底を図る義務についても、従業員に対して負っている義務ではないとの主張を展開している。(注1)
しかしながら、被告は自らのコンプライアンス規程やENEOSグループ内部通報制度基本規程において、従業員全体にコンプライアンスの徹底を求める規定を設けており、さらに、コンプライアンス方針や役員コミットメントを公式文書や会議を通じて広く周知している。このことから、被告が従業員に対し行動基準及び本件規程に定める是正措置及び再発防止策を実行する義務を負うことは明らかである。
上記1に示す資料は、被告が行動基準及び本件規程に基づく義務を実行し、これを従業員に遵守させるべく求めている実態を確認するために不可欠なものである。特に、是正措置及び再発防止策に関する被告の義務の趣旨、及びその徹底を図る方針を明らかにするための重要な証拠資料として位置付けられる。
本件資料は、原告の主張の正当性を立証する上で必要不可欠であり、被告のコンプライアンス遵守及びその徹底に関する取組みの実態を明らかにするために必要である。
なお、上記1に示す資料については、原告がこれを提出することについて、被告から懲戒処分等の可能性がある旨の通知を受けている。そのため、本書において、上記1に示す資料の送付嘱託を申し立てる。
第2 被告と本件豪州企業との間で交わされた文書及び豪州子会社側の会計帳簿
1 文書の表示
⑴ 被告と本件豪州企業との間で、平成29年5月の本件豪州企業の請求から同年1月から4月にかけてのGST支払分を差し引く形で精算した際に交わされた書面、メール、又はその他のやり取りに関する記録
⑵ 豪州子会社が平成29年7月31日に、被告に 79,315.52 豪ドルを送金した際の会計仕訳が記帳されている豪州子会社側の会計帳簿
2 文書の所持者
豪州子会社は被告の全額出資子会社であるため、上記文書は被告が入手できるものと認められる。
〒110-8162 東京都千代田区大手町一丁目1番2号
ENEOS株式会社
上記代表者代表取締役社長 山口 敦治
3 証明すべき事実
⑴ 被告が本件豪州企業に対して支払ったGSTについて、被告と本件豪州企業との間で精算が行われた理由
⑵ 豪州子会社が被告に送金した 79,315.52 豪ドルが、豪州子会社が豪州税務当局から受け取った還付金であるという事実
4 送付の必要性等
本件訴訟の主要な争点の一つは、被告が本件規程3.6 ⑴ に基づく通知義務を適切に果たしたかどうか、さらに、その通知に関連する通報者に対する通知又は共有した情報が事実に基づき適正であったか否かである。本件においては、被告が原告に共有した情報の正確性が極めて重要である。
原告第4準備書面で述べたとおり(注2)、被告は、原告に対し、以下の情報を共有又は認識させた。
● 本件豪州企業へのGSTの支払は、GSTに関する定めのない契約に基づくものである。
● 本件豪州企業に対するGSTの支払は、平成28年11月以降のGST法改正を背景としたものであり、法的に問題がない。
● 豪州子会社が被告の還付請求を代行し、被告に対して 79,315.52 豪ドルを送金した。
しかし、これらの情報は正確性に疑念がある。この点を明確にするためには、被告と本件豪州企業との間で行われた精算に関する記録や、豪州子会社の会計帳簿の内容の確認が必要である。
被告が原告に対して共有した情報の不正確性は、原告に「本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づいていたか否かを調査しなかった」と誤認させる結果をもたらした。このことは、前回の訴訟において原告が「調査によって確認されている法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実に対する対応をしなかったこと」との主張を構築できなかった原因の一つである。
上記1に示す資料を通じて、被告の行為が行動基準第11項 ⑶ に違反するものであったか否かを確認することが可能となる。また、これにより、被告の通報者に対する通知内容が行動基準及び被告等に適用されるべき規程類に適合していたかを立証できる。
以上
14 求釈明申立書#
PDFの用意があります。
求釈明申立書
令和6年11月25日
東京地方裁判所民事部民事第19部に係 御中
当初事件について、原告は、被告に対し、次のとおり釈明を求める。
本書に用いる用語の意味は、被告のコンプライアンスホットライン規程(乙1、本件規程)、令和6年8月9日付の原告第3準備書面までの原告の主張書面及び同日付の被告準備書面(4)までの被告の主張書面に定義するところによる。
原告第4準備書面で述べたとおり(注1)、被告は、「原告が「本件訴訟主要事実」として記載する各事実も、原告のいう「前回訴訟主要事実」と同一の通報(本件通報)に関するものである以上は、同一の信義則上の義務の違反の評価根拠事実を新たに追加するものにとどまる。」と主張している一方で、通報又は通報情報に関して、紛争をめぐる事実関係の整理がなされていない。(注2)
被告の主張においては、調査補助者に対する追加通報に係る通報情報が本件規程1.2 ⑹ に定める「通報情報」として取り扱われているか否かが依然として不明確である。被告は、紛争をめぐる事実関係が明確にされない状態においたうえで、「同一の通報(本件通報)に関するものである」という主張を展開している。
被告の主張において、紛争をめぐる事実関係として、どの事項が本件規程1.2 ⑸ に定める「通報」として扱われているのか、また、どの事項が本件規程1.2 ⑹ に定める「通報情報」として扱われているのかを明らかにされたい。
被告の内部通報制度について定めた本件規程に定める規定により、本件規程3.6 ⑴ に定める通知の根幹的な目的は、「法令等」との適合性を検証し、必要な是正措置及び再発防止策等を実行する点にあることは明らかである。
原告の「被告は、原告に対し、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の有無の判断に影響しない事実について調査した結果を通知していた。」という主張に対し、被告は、理由を述べずに「否認する」と主張している。(注3)
調査事項と対応する「法令等」を明確化することは、被告の主張の正当性を裏付けるために不可欠である。また、調査事項が「法令等」に適合していない場合、調査そのものが本件規程の目的を果たしていない可能性がある。
被告における本件規程1.2 ⑼に定める定める「調査」の調査事項に対応する「法令等」、及び調査事項が本件規程1.1に定める目的を果たすために必要であったことを示す具体的根拠を明らかにされたい。
第3 本件規程3.5に定める是正措置及び再発防止策等の実行について
本件規程3.5に、調査の結果、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実が確認された場合に当該事実に対する是正措置及び再発防止策等を実施することを定めている。また、本件規程の前提である行動基準14項の ⑶ に、「私たちは、この行動基準に違反する事態が発生した場合、その原因を徹底して究明するとともに、効果的な再発防止策を定め、これを遂行します。」と定めている。
したがって、本件規程3.5に定める是正措置及び再発防止策等は、原因を徹底して究明したうえで検討した効果的な再発防止策である必要がある。
原告の「被告が再発防止策等として実行したことは、「豪州国外の顧客に対するサービス提供費用には、豪州GSTを課さない。なお、 ≪ 本件豪州企業 ≫ がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する。」という表示のある契約を結ぶという本件契約の措置を実行することにとどまっていた。」という主張に対し、被告は、理由を述べずに「否認する」と主張している。(注4)
被告が実行した本件規程3.5に定める是正措置及び再発防止策等を明らかにされたい。
平成26年4月1日から平成30年3月31日までの被告と本件豪州企業との取引に関して、被告と本件豪州企業との契約にGST等に関する定めが存在しないことは、甲第21号証のとおりであり、被告もこれを認めている。(注5)
この点に関して、以下の二点について明らかにされたい。
本件GSTの支払が契約内容に基づかないものであるという原告の主張に対し、被告は、本件規程3.6 ⑴ 違反の主張に対する認否と併せて一括して「争う」と主張している。(注6)
被告において、本件GSTの支払が契約内容に基づいて行われたとの認識であるのか、それとも契約内容に基づいていなかったとの認識であるのか、明らかにされたい。
被告と本件豪州企業との間で平成29年5月の本件豪州企業の請求から同年1月から4月のGST支払分を差し引く形で精算した理由について、本件部長報告においては、被告と本件豪州企業との契約における定めによるものではなく、「GSTの法改正」の存在によるものであると報告している。(甲20)
本件部長報告における「GSTの法改正」に該当する法改正が特定できないという原告の主張に対し、被告は、「否認する」と主張するものの、依然として「GSTの法改正」について具体的に示されていないことから、これを明らかにされたい。(注7)
以上
13 原告第4準備書面#
PDFの用意があります。
原告第4準備書面 目次
2 被告は、原告に対して行動基準第11項 ⑶ に違反する行為を行うことで、原告に「本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づいていたか否かを調査しなかった」という誤った事実を認識させていた。
⑴ 本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づいていたか否かを調査しなかったという誤った事実を認識させる通知を行い、さらに、契約書を確認するという行為は意味がない行為である旨を説明していた。
⑵ 本件豪州企業へのGSTの支払がGSTに関する定めのない契約に基づくものであると認識させる内容、少なくともそのような認識を促す内容の回答を行っていた。
⑶ あたかもGSTの支払に影響したGSTの法改正が存在するかのような情報を原告と共有することで、本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づかないという事実を意図的に原告に隠していた。
⑷ 豪州子会社が被告の還付請求を代行することで解決したという正当性が疑われる情報を原告と共有することにより、本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づかないという事実を意図的に原告に隠していた。
3 前回訴訟の確定判決の既判力が本件訴訟に及ばす、実質的な蒸し返しにも当たらない。また、本件訴訟における原告の主張は、信義則に反せず、許される。
原告第4準備書面
令和6年11月25日
東京地方裁判所民事部民事第19部に係 御中
目次
≪ 中略 ≫
本書に用いる用語の意味は、本書に別段の定義のない限り、被告のコンプライアンスホットライン規程(乙1、本件規程)、令和6年8月9日付の原告第3準備書面までの原告の主張書面及び同日付の被告準備書面(4)までの被告の主張書面に定義するところによる。また、引用文の一部で「 ≪ 豪州子会社 ≫ 」のように示している表記は、固有名詞を伏せたものであることを意味する。
原告第3準備書面までの原告の主張書面に記載している「甲27」を証拠として提出していない理由は、被告が原告に対し、人事部長承認済みのメールで、被告の社内文書を証拠として提出する行為が懲戒処分に該当する可能性があると通知したためである。
本件訴訟における原告の主張する被告の違反行為を整理すると以下のとおりである。
原告は、本件規程1.2 ⑼ に定める調査によって確認されている法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実について、それに対する被告の対応に以下の違反行為が存在したことを主張している。
被告は、本件規程3.6 ⑴ に基づく通知において、事実に反する内容を同アに定める通知事項として原告に通知した。また、以下に示す措置を実行したにもかかわらず、同イに定める通知事項又は同ウに定める通知事項を原告に通知しなかった。
● 被告が本件豪州企業に対して支払ったGSTについて本件豪州企業から返金を受けるために実行した措置、及び被告が本件豪州企業からGSTを再度請求されないために実行した措置。
● 被告と本件豪州企業との契約において、「豪州国外の顧客に対するサービス提供費用には、豪州GSTを課さない。なお、≪ 本件豪州企業 ≫ がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する。」という表示のある契約を結ぶために実行した措置。
被告は、本件規程3.6 ⑴ に基づく通知において、本件豪州企業に対するGSTの支払について「コンプライアンス違反ではない」と結論づけた旨を原告に通知したうえで、その是正措置及び再発防止策等に関して、行動基準11項の ⑶ に違反する情報を原告と共有した。
被告は、契約内容の共有方法又は支払手続における確認作業の改善などを通じて、契約内容に基づかない経費支払を未然に防ぐための本件規程3.5に定める是正措置および再発防止策を実行していない。
本件訴訟における被告の主張を整理すると以下のとおりである。
被告は、行動基準及び本件規程に定める是正措置及び再発防止策に関して、その実行及び通知について、法人としての義務を定めていないと主張している。また、仮に被告が原告の主張するような義務を何者かに対して負っている場合であっても、少なくともその義務は従業員に対して負っている義務ではないと主張している。さらに、行動基準及び被告等に適用されるべき規程類の遵守徹底を図る義務についても、従業員に対して負っている義務ではないとの主張を展開している。(注1)
被告は、原告の請求は前回訴訟の控訴審判決の既判力によって遮断されると主張している。また、仮に既判力が及ばない場合でも、原告は、原告の訴えは信義則に反し許されないと主張している。(注2)
被告は、本件通報に関する調査結果について、「法令等に違反する事実が確認された場合」又は「法令等に違反するおそれのある事実が確認された場合」のいずれでもないとして、本件規程3.6 ⑴ イ及びウに基づく通知は必要でないと主張している。(注3)
上記の「被告の違反行為1」、「被告の違反行為2」、「被告の違反行為3」、「被告の主張1」及び「被告の主張3」に関しては、別途、求釈明及び文書送付嘱託を申し立て、その回答を得た後に具体的な主張を述べる。
また、本書では、上記の「被告の主張2」に対して、主張を述べる。
2 被告は、原告に対して行動基準第11項 ⑶ に違反する行為を行うことで、原告に「本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づいていたか否かを調査しなかった」という誤った事実を認識させていた。
⑴ 本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づいていたか否かを調査しなかったという誤った事実を認識させる通知を行い、さらに、契約書を確認するという行為は意味がない行為である旨を説明していた。
ア 被告の主張においては(注4)、「結論づけられたもの」の存在、すなわち本件規程3.6 ⑴ に基づく通知は3回存在している。紛争をめぐる事実関係及び被告の主張の内容を整理すると、本件規程3.6 ⑴ に定める通知事項(調査報告の内容)と本件規程1.2 ⑹ に定める通報情報(通報の内容)との対応関係は、表7に示すとおりである。
表7.本件規程3.6 ⑴ に定める通知事項と本件規程1.2 ⑹ に定める通報情報との対応関係
(a)本件規程3.6 ⑴ に定める 通知事項(調査報告の内容) |
(b)本件規程1.2 ⑹ に定める 通報情報(通報の内容) |
|
(ア) | 平成28年12月28日の本件規程3.6 ⑴ に基づく通知に係る通知事項。 (乙10) |
平成28年9月14日から同年12月16日までの通報に係る情報。 (甲5、甲8ないし甲11) |
(イ) | 平成29年8月14日の本件規程3.6 ⑴ に基づく通知に係る通知事項。 (乙11) |
平成29年1月4日から同年7月31日の通報に係る情報。 (甲12ないし甲18) |
(ウ) | 令和元年10月25日の本件規程3.6 ⑴ に基づく通知に係る通知事項。 (乙12) |
平成30年11月27日から平成31年3月20日の通報に係る情報。 (甲22及び甲23) |
イ 既に述べたとおり(注5)、調査過程などにおいて調査補助者に対して告げた通報情報は、本件規程1.2 ⑹ に定める通報情報と実質的に同じである。また、同旨の内容は、消費者庁が公表した「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」5頁の注釈5にも記載されている。(乙1、注6)
そのため、調査過程などにおいて調査補助者に対して告げた通報情報も表7の(b)本件規程1.2 ⑹ に定める通報情報(通報の内容)に含まれる。
ウ また、本件規程は、通報者が具体的な法令名や条項を明示する旨を定めていない。一般的な通報も通報者が具体的な法令名や条項を明示する必要がないことが消費者庁のウェブサイトに記載されている。 (乙1、注7)
そのため、具体的な法令名や条項を明示していない通報情報も表7の(b)本件規程1.2 ⑹ に定める通報情報(通報の内容)に含まれる。
エ 表7の(ア)に示す通知事項(調査報告の内容)には、「直ちにコンプライアンス違反とはいえない」と記載されているものの、「経理部からの回答についてお送りします。」で始まる文章であり、何についてコンプライアンス違反とはいえないのかについては記載されていない。(乙10)
そのため、原告は、本件規程3.6 ⑴ に基づく通知(調査報告)がなされたという認識ができない状況である。
オ 表7の(イ)に示す通知事項(調査報告の内容)には、「提示いただいた質問票をもって、≪ 上司A ≫ に対して、事実確認および対応状況の確認を行った。」と記載されているものの、「質問票」の内容や日付が記載されていないため、「質問票」が特定できない。そもそも、「質問票」という名のつくものは存在していない。(乙11)
そのため、原告は、被告と本件豪州企業との契約の内容について本件規程1.2 ⑼ に定める調査が行われたかどうかについて確認できない状況である。
カ 表7の(ウ)に示す通知事項(調査報告の内容)には、被告と本件豪州企業との契約に関する記載は存在しなかった。さらに、原告が令和元年12月2日に、調査補助者に対して「私が行った2016年1月7日の問題提起は「還付手続きに関すること」ではなく、「契約書の内容確認や ≪ 本件豪州企業 ≫ への照会で、請求書の記載に間違いがないかを確認をすること」です。(甲25の2)」と告げた際、調査補助者が「契約書を確認するという行為は、先に述べた通り対応として意味がない行為ですので、行わなかったとしても対応を怠ったことにはなりません。(甲25の5)」などと説明して、明確に「契約書上のGST条項の有無や記載内容については、結論に関係がありませんのでお調べしません(甲25の5)」と通知した。(乙12、甲25の2、甲25の5)
キ 調査補助者が原告に対して令和2年6月25日付及び同年7月9日付の文書を送付した際にも、本件豪州企業に対するGSTの支払が契約に基づくものかどうかを検討したか否かについては言及せず、被告と本件豪州企業との契約について、平成27年に締結された契約と平成30年に締結された契約との違いについて通知することにとどめていた。(甲21)
ク 以上のとおり、被告においては、原告に対し、本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づいていたか否かを調査しなかったという誤った事実を認識させる通知を行い、さらに、契約書を確認するという行為は意味がない行為である旨を説明していた。
⑵ 本件豪州企業へのGSTの支払がGSTに関する定めのない契約に基づくものであると認識させる内容、少なくともそのような認識を促す内容の回答を行っていた。
ア 被告は、令和2年6月25日付の文書で、被告と本件豪州企業との契約を調べた結果を回答するものとして、「 ⑴ 2015年1月にJXTGエネルギーと ≪ 本件豪州企業 ≫ との間で締結された契約書には、GSTに関する定めはありません。⑵ の契約が締結されるまでの間は、⑴ の契約に基づき発注が行われていました。(甲21の1)」と回答した。(甲21の1)
イ 原告の支払手続による本件豪州企業に対するGSTの支払は、以下のとおりである。
● 平成27年4月の支払手続によるGSTの支払
● 平成27年11月の支払手続によるGSTの支払(甲3)
● 平成29年1月から4月の支払手続によるGSTの支払
ウ 上記アの被告の回答は、本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づいていたか否かについて明言を避けているものの、実際には原告の支払手続により本件豪州企業に対してGSTが支払われていたことから、原告に対して本件豪州企業へのGSTの支払がGSTに関する定めのない契約に基づくものであると認識させる内容となっており、少なくともそのような認識を促すものである。
エ さらに、契約内容におけるGST等に関する表示に関しては、令和元年12月20日に、調査補助者から、「ご指摘の前提である「契約書にGSTを課す記載がなかった場合、請求書に記載されているGSTは間違いです。」との ≪ 原告 ≫ さんの認識については、「3.添付ワードでいただいた確認事項について」 ⑴ で説明したとおり誤りです。(甲25の5)」との指摘を受け、原告の認識は誤解に基づくものと告げられていた。(甲25の5)
オ 以上のとおり、被告においては、原告に対し、本件豪州企業へのGSTの支払がGSTに関する定めのない契約に基づくものであると認識させる内容、少なくともそのような認識を促す内容の回答を行っていた。
⑶ あたかもGSTの支払に影響したGSTの法改正が存在するかのような情報を原告と共有することで、本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づかないという事実を意図的に原告に隠していた。
ア 被告も認めるとおり、表7の(ア)に示す通知情報を受けた被告においては、まず、平成29年2月7日、調査補助者と上司Aが協議を行い、その後、同年3月9日、GSTの業務を移管する旨の通知を行うことで、被告と本件豪州企業との間で締結された契約に関する情報から原告を遮断した。(注8)
ただし、平成29年10月16日の本件部長報告において、「 ≪ コンサルティング会社 ≫ に、2016年11月以降GSTの法改正により、非居住者であるJXTGエネルギ一に対するコンサルタント料の請求にはGSTは含まれないことを確認済み。よって、今後はGST込で請求を受けた場合には、上記の点を連絡の上、相手方に修正を依頼。なお、 ≪ 本件豪州企業 ≫ には上記の点を連絡し、17年1月〜4月の当社へのGST請求分については、5月の請求から1~4月に支払済みのGST分を差し引く形で精算済み。(甲20の1)」という情報については、原告と共有された。 (甲20の1)
イ 原告と共有された上記アの情報は、要約すると、平成28年11月以降のGSTの法改正により、GSTの課税対象外となったことを理由に、被告と本件豪州企業との間で、平成29年5月の本件豪州企業の請求から同年1月から4月にかけてのGST支払分を差し引く形で精算したという情報である。
ウ しかし、被告と本件豪州企業との契約にGSTに関する定めが存在していないことにより、被告は本件豪州企業に対してGSTを支払う義務を負っていない。(甲21)
エ そのため、本件豪州企業で報告されている「精算済み」は、正確には、本件豪州企業が誤って被告に請求したGST分が「返金された」ものである。契約に基づいた特定の支払と契約に基づいた特定の請求を相殺している行為ではないのであるから、「精算済み」よりも「返金された」のほうがより的確な表現である。
オ 要するに、「精算済み」という文言を使用した情報を原告に共有することで、本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づかないという事実を意図的に原告に隠していた。
カ さらに、原告と共有された上記アの情報は、被告と本件豪州企業との間でGST支払分を精算した理由について、「GSTの法改正」によるものであるという情報である。(甲20の1)
「GSTの法改正」については、原告が令和元年12月2日に、調査補助者に対して「今回の件に影響したとされる「2016年11月以降GSTの法改正」は、どの時点の何の法改正かを具体的に教えてください。(甲25の2)」と告げた際、調査補助者が「その法改正について調べて ≪ 原告 ≫ さんにお伝えすることが、「コンプライアンス違反ではない」という結論に影響しませんので法務部はそのような調査を行いません。(甲25の5)」と通知した。(甲25の2、甲25の5)
キ そのため、原告と共有された「GSTの法改正」の存在は、依然として確認できていない。
また、オーストラリア税務局(Australian Taxation Office (ATO))のウェブサイトで、「GST 2016 amendments」と検索しても、該当する「GSTの法改正」の存在が確認できない。(注9)
ク 以上のとおり、被告においては、被告と本件豪州企業との間で締結された契約に関する情報から原告を遮断したうえで、あたかもGSTの支払に影響したGSTの法改正が存在するかのような情報を原告と共有することで、本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づかないという事実を意図的に原告に隠していた。
⑷ 豪州子会社が被告の還付請求を代行することで解決したという正当性が疑われる情報を原告と共有することにより、本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づかないという事実を意図的に原告に隠していた。
ア 被告の主張によって認められたとおり、被告は、平成29年8月14日の調査報告において、本件豪州企業に対するGSTの支払についてコンプライアンス違反ではないと結論づけられた旨を通知した。(注10)
そのうえで、「業務を ≪ 本件事業部 ≫ 業務グループに移管した上で、還付可能であることを確認している付加価値税の還付を含め、今年度上期を目途に対応完了予定であることを確認した。(乙11)」という通知で、対応をしている旨を通知した。(乙11)
その後、平成29年10月16日の本件部長報告において、「過年度JXTGエネルギーの支払分については ≪ 豪州子会社 ≫ にて17年9月までに還付請求を実施。また ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額について、JXTGエネルギーへの戻入れも実施済み。(甲20の1)」、また、「 ≪ 豪州子会社 ≫ にて還付をうけた過去分のGSTのJXTGエネルギーへの戻し入れは、雑収入で計上。(甲20の1)」という情報を原告と共有した。(甲20の1)
さらに、被告も認めるとおり、豪州子会社が平成29年7月31日に被告に対して 79,315.52 豪ドルを送金した事実が存在する。(注11)
イ 原告と共有された情報においては、豪州子会社が被告へ送金した金銭が「預り金」としての性質であることを報告していないものの、原告は、豪州子会社が平成29年7月31日に被告に対して送金した金銭 79,315.52 豪ドルについて把握できる状況であり、原告と共有された情報は、 79,315.52 豪ドルが「被告への戻入れ」であるとの認識を原告に促すものである。
ウ さらに、原告と共有された情報において、豪州子会社が被告へ送金した金銭が「預り金」としての性質であることを報告していないことは、
● 豪州子会社が、豪州から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額(甲20の1)」として受けた金銭と
● 豪州子会社が、平成29年7月31日に被告に対して送金した金銭 79,315.52 豪ドルが
同一の支払手続についてのものであるか否かを不確かにしている。
エ そのため、豪州子会社が、豪州税務当局から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額(甲20の1)」として受けていないにもかかわらず、 豪州子会社が被告に対して、「過年度JXTGエネルギーの支払分(甲20の1)」、すなわち、被告が過去年度にGSTとして支払いをした金銭に該当するものとして送金した疑いが拭えない状況である。
オ 豪州子会社による被告への送金については、原告が令和元年12月2日に、調査補助者に対して「 ≪ 豪州子会社 ≫ の会計仕訳が預り金勘定科目で行われているかを確認していただき、利益移転が無いことを明確に示してください。(甲25の2)」と告げた際、調査補助者が「 ≪ 豪州子会社 ≫ の会計仕訳を調べることは、「コンプライアンス違反ではない」という結論に影響しませんので調査不要と判断しています。(甲25の5)」と通知した。(甲25の2、甲25の5)
カ 以上のとおり、被告においては、豪州子会社が被告の還付請求を代行することで解決したという正当性が疑われる情報を原告と共有することにより、本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づかないという事実を意図的に原告に隠していた。
被告は、原告に対し、以下のような情報を共有又は認識させた。
● 本件豪州企業へのGSTの支払は、GSTに関する定めのない契約に基づくものである。
● 本件豪州企業に対するGSTの支払は、平成28年11月以降のGST法改正を背景としたものであり、法的に問題がない。
● 豪州子会社が被告の還付請求を代行し、被告に対して 79,315.52 豪ドルを送金した。
被告は、原告に対して行動基準第11項 ⑶ に違反する行為を行うことで、原告に「本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づいていたか否かを調査しなかった」という誤った事実を認識させたうえ、原告を本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づかないという事実に対して講じられた措置を把握できない状況に置いていた。
3 前回訴訟の確定判決の既判力が本件訴訟に及ばす、実質的な蒸し返しにも当たらない。また、本件訴訟における原告の主張は、信義則に反せず、許される。
⑴ 本件訴訟訴訟物における通報と前回訴訟訴訟物における通報は同一関係にない。仮に同一の通報とみなすとしても、本件規程に基づく対応事項は、独立関係にあるだけでなく、その対象が異なるため、本件訴訟訴訟物と前回訴訟訴訟物は同一関係にない。
ア まず、そもそも、既に述べたとおり(注12)、前回訴訟控訴審判決の既判力は、本件訴訟に及ばす、実質的な蒸し返しにも当たらない。
イ これに対して、被告の主張においては(注13)、本件通報に関して被告が原告に対する信義則上の義務に違反したことを理由として債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求するものである点が、本件訴訟訴訟物と前回訴訟控訴審判決の既判力の生じた訴訟物(以下、単に「前回訴訟訴訟物」という。)で同一であるという主張が存在する。
ウ そもそも、本件訴訟は、本件通報に関して被告が原告に対する信義則上の義務に違反したことを理由として債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求するものではない。したがって、被告の主張は誤りである。
エ 上記ウの点についてはひとまずおくとして、本件訴訟訴訟物と前回訴訟訴訟物との違いは、表8に示すとおりである。
表8.本件訴訟訴訟物と前回訴訟訴訟物との違い
※(ア)は、本件規程に基づく対応事項を示す。
※(イ)は、本件規程に基づく対応事項(ア)の対象を示す。
※(ウ)は、 紛争をめぐる通報及び通報情報を示す。
※(注)「役員等に対する報告」は、通報者に対する対応でない。また、実際には「再度、通報可能である旨の通知」は、調査報告の際に行われなかった。(乙1、乙10、乙11、乙12)
(a)本件訴訟訴訟物 | (b)前回訴訟訴訟物 | |
(ア) | 調査によって確認されている法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実について ・是正措置及び再発防止策等の通知 ・是正措置及び再発防止策等の実行 |
・調査の実施 ・調査を実施しない場合の通知 ・通報情報の管理 ・役員等に対する報告 ・再度、通報可能である旨の通知 (乙3) |
(イ) | ・調査によって確認されている法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実 | ・通報に係る情報 (注) |
(ウ) | ・本件通報、追加通報及び調査補助者に対する追加通報に係る通報情報 (表7の(b)で示した書証) |
・本件通報及び追加通報の2件の内部通報に係る通報情報 (乙2、甲5、甲22の1) |
オ 本件規程1.2 ⑼ に定める調査は、「「調査」とは、通報情報に関する事実を確認するための調査をいう。」という定めのとおり、調査の対象は「通報」そのものではなく、「通報情報」である。(乙1)
また、消費者庁が公表した「公益通報者保護法第 11 条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」に定める「公益通報対応業務」も、「「公益通報対応業務」とは、法第 11 条第1項に定める「公益通報対応業務」をいい、内部公益通報を受け、並びに当該内部公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務をいう。」という定めのとおり、調査の対象は「内部公益通報」そのものではなく、「内部公益通報に係る通報対象事実」である。(注14)
カ 端を発する行為が同じ本件通報であったとしても、通報者と調査補助者がやり取りをしている間に、新たな事実が発生したり、通報者が新たな事実に気づく場合がある。
また、本件規程2.5 ⑵ の定めのとおり、「通報情報の追加」という概念がある(乙1)
実際にも、原告と調査補助者がやり取りをしている間に、原告は、調査補助者に対し、新たに発生した事実を告げている。(甲10の2)
キ したがって、紛争をめぐる事実関係を明確にする際には、通報という行為だけでなく、通報情報の内容から事実関係を整理する必要がある。
ク これに対して、被告の主張においては(注15)、「原告が「本件訴訟主要事実」として記載する各事実も、原告のいう「前回訴訟主要事実」と同一の通報(本件通報)に関するものである以上は、同一の信義則上の義務の違反の評価根拠事実を新たに追加するものにとどまる。」という主張が存在する。
しかし、被告の主張においては、調査補助者に対する追加通報に係る通報情報が本件規程1.2 ⑹ に定める通報情報として取り扱われているか否かが依然として不明確である。被告は、紛争をめぐる事実関係が明確にされない状態においたうえで、「同一の通報(本件通報)に関するものである」という主張を展開している。
ケ 実際の事実関係としても、原告が調査補助者に対して、被告と本件豪州企業との間で締結された契約の確認に関する状況や疑念を明確に告げたのは、本件通報ではなく、平成29年1月4日以降の調査補助者に対する追加通報においてである。(甲5、甲8ないし甲18)
コ したがって、表8の(ウ)に示すとおり、本件訴訟訴訟物における通報及び通報情報と前回訴訟訴訟物における通報及び通報情報は同一関係にない。
サ 仮に、端を発する行為が同じ本件通報であること等を理由に、本件訴訟訴訟物における通報と前回訴訟訴訟物における通報を同一の通報とみなすとしても、本件規程に基づく対応事項は表8の(ア)に示すとおりであり、本件規程に基づく対応事項(ア)の対象は表8の(イ)に示すとおりである。
したがって、表8の(ア)に示す本件規程に基づく対応事項は、独立関係にあるだけでなく、その対象も異なる。
シ 以上により、本件訴訟訴訟物における通報と前回訴訟訴訟物における通報は同一関係にない。仮に同一の通報とみなすとしても、本件規程に基づく対応事項は、独立関係にあるだけでなく、その対象が異なるため、本件訴訟訴訟物と前回訴訟訴訟物は同一関係にない。
⑵ 原告は、被告による行動基準第11項 ⑶ に違反する行為により、調査によって確認されている法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在だけでなく、これに対する対応がなされたのか否かが把握できない状況に置かれていた。
ア まず、念のために申し添えると、被告の主張においては(注16)、「原告は、前回訴訟においては、・・・原告に対して是正措置、再発防止策又は対応策を実施したとの通知をしなかったこと(同規程3.6 ⑴ イ又はウの違反)については、主張していなかった」と認めており、「前回訴訟においては、・・・本件通報に関連する本件規程違反については、ほとんど網羅的な主張を行っていたはずである。」という主張は、矛盾が存在する主張である。
イ また、被告の主張においては(注17)、原告が前回訴訟において本件訴訟に関連する請求をする機会があったことの根拠として、主張書面の頁数や期日の回数を挙げている。
しかし、原告が前回訴訟において本件訴訟に関連する請求をする機会が与えられたかどうかは、主張書面の頁数や期日の回数に直接的に依存するものではない。
ウ 前回訴訟において本件訴訟における請求をする場合は、
● 調査を実施しない場合の通知をしなかったこと
● 調査によって確認されている法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実に対する対応をしなかったこと
を同時に主張する必要がある。
エ しかし、上記2で述べたとおり、被告は、原告に対して行動基準第11項 ⑶ に違反する行為を行うことで、原告に「本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づいていたか否かを調査しなかった」という誤った事実を認識させたうえ、原告を本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づかないという事実に対して講じられた措置を把握できない状況に置いていた。
オ また、原告の業務は契約締結に関するものではなく、契約書を閲覧できる立場にないため、契約期間中に契約内容を変更できるかどうかについては把握できない。
そのため、令和2年6月25日付及び同年7月9日付の文書で本件契約に関する情報が原告に提供されたとはいっても、その文書が提供された時点で、平成30年9月13日が締結日である本件契約の内容と、平成28年9月14日から平成29年8月14日までの本件内部通報制度の活動との因果関係を把握することは困難である。(甲21)
カ 以上のとおり、原告は、被告による行動基準第11項 ⑶ に違反する行為により、調査によって確認されている法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在だけでなく、これに対する対応がなされたのか否かが把握できない状況に置かれていた。
以上のとおり、被告は、原告に対して行動基準第11項 ⑶ に違反する行為を行うことで、原告に「本件豪州企業に対するGSTの支払が契約内容に基づいていたか否かを調査しなかった」という誤った事実を認識させており、原告が、前回訴訟において、
● 調査をせず、あるいは不十分であったこと
● 調査を実施しない場合の通知をしなかったこと
● 調査によって確認されている法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実に対する対応をしなかったこと
を同時に主張して一回的解決を図ることは困難である。
よって、前回訴訟の確定判決の既判力が本件訴訟に及ばす、実質的な蒸し返しにも当たらない。また、本件訴訟における原告の主張は、信義則に反せず、許される。
以上
12 第3回口頭弁論#
令和6年8月14日 11時30分
11 被告準備書面(4)#
被告準備書面(4)
令和6年8月9日
東京簡易裁判所民事第5室6係B 御中
目次
≪ 中略 ≫
第1 緒言
本書に用いる用語の意味は、本書に別段の定義のない限り、被告の令和6年7月25日付の「被告準備書面 ⑶ 」(以下「被告準備書面 ⑶ 」という。)までの被告の主張書面に定義するところによる。
第2 原告第3準備書面第1(原告の主張)に対する認否
原告の令和6年8月9日付の「原告第3準備書面」(以下「原告第3準備書面」という。)の第1(原告の主張)(2頁以下)における原告の主張に対する被告の認否は、以下のとおりである。
⑴ 第1の1 ⑴ (被告には...義務があること)(2頁以下)について
認める。
イ 第1の1 ⑴ イ(「要するに」以下)(2頁以下)について
認める。
ウ 第1の1 ⑴ ウ(「しかしながら」以下)(3頁)について
認める。
争う。
仮に被告が何者かに対して原告の主張するような義務を負っているとしても、少なくとも被告がその従業員(原告を含む。)に対して負っている義務ではない。
⑵ 第1の1 ⑵ (被告が・・・債務があること)(3頁以下)について
ア 第1の1 ⑵ ア(「被告は、被告の」以下)(3頁)について
認める。
イ 第1の1 ⑵ イ(被告は、行動基準」以下)(3頁以下)について
争う。
仮に被告が何者かに対して原告の主張するような義務を負っているとしても、少なくとも被告がその従業員(原告を含む。)に対して負っている義務ではない。
ウ 第1の1 ⑵ ウ(被告は、被告の」以下)(4頁)について
争う。
⑶ 第1の1 ⑶ (被告の・・・正当とはいえないこと)(4頁以下)について
ア 第1の1 ⑶ ア(「被告は、本件通報」以下)(4頁以下)について
認める。
イ 第1の1 ⑶ イ(「事実Aに関して」以下)(5頁)について
認める。
ウ 第1の1 ⑶ ウ(「しかしながら」以下)(5頁)について
事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
エ 第1の1 ⑶ エ(「事実Bに関して」以下)(5頁)について
否認する。
「追加通報に係る調査の結果」のみでは「判然としない」という限度で、認める。
カ 第1の1 ⑶ カ(「事実Cに関して」以下)(6頁)について
認める。
キ 第1の1 ⑶ キ(「しかしながら」以下)(6頁)について
一般論である限りにおいて、認める。
事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
争う。
コ 第1の1 ⑶ コ(「以上のとおり」以下)(6頁)について
争う。
争う。
争う。
争う。
第3 訂正後の原告第1準備書面・原告第2準備書面に対する認否
原告の令和6年8月9日付の「訂正申立書」(以下「原告訂正申立書」という。)による原告第1準備書面及び原告第2準備書面の訂正にもかかわらず(以下、原告訂正申立書による訂正後の原告第1準備書面及び原告第2準備書面を、それぞれ「原告第1準備書面」及び「原告第2準備書面」という。)、被告準備書面 ⑶ までの被告の主張書面における被告の認否及び主張に変更はない。
原告は、原告第2準備書面「はじめに」第3段落(3頁)において、甲第27号証以降の書証については、原告の主張に対する適切な認否が行われた後に文書送付嘱託を申し立てると述べ(原告訂正申立書2 ⑴ (2頁)、原告第3準備書面第1の2柱書第5段落(「引き続き」以下)(8頁)において、被告が準備書面において否認の理由を記載しない場合は、裁判所に対して文書送付嘱託を申し立てると述べている。
しかし、文書の送付を嘱託するためには、その文書につき証拠調べをする必要性があることを要するところ(民事訴訟法第181条第1項)、原告が原告第3準備書面第1の2以下において「明らかにすべき」と主張している「否認」又は「争う」の理由は、その理由の如何によって、本件訴訟の争点あるいは原告の主張に理由があるか否かの認定に影響を及ぼすものでない。
よって、原告がいかなる文書について文書送付嘱託を申し立てるかにかかわらず、証拠調べをする必要性がない。
したがって、仮に原告が文書送付嘱託を申し立てたとしても、当該申立ては直ちに却下されるべきである。
以上
10 原告第3準備書面#
原告第3準備書面 目次
⑴ 被告には行動基準及び本件規程を含む被告が定めた規程類の遵守の徹底を図る義務があること
⑵ 被告が、一定の場合に一定の行為を具体的に行うことを定め、これを公表した以上、被告には要件に該当する者に対してそれを行う債務があること
⑶ 被告の本件規程に定める調査によって「結論づけられたもの」は正当とはいえないこと
⑴ 事実A、事実B、事実Cに関する被告の認否の態様が不適切であること
⑵ 被告が本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていなかったという事実の存在を把握したことに関する被告の認否の態様が不適切であること
⑶ 被告が法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の有無の判断に影響しない事実について調査した結果を通知したことに関する被告の認否の態様が不適切であること
⑷ 違反A、違反B、違反Cに関する被告の認否の態様が不適切であること
原告第3準備書面
令和6年8月9日
東京簡易裁判所民事第5室6係B 御中
目次
≪ 中略 ≫
本書に用いる用語の意味は、本書に別段の定義のない限り、被告のコンプライアンスホットライン規程、令和6年7月19日付の原告第2準備書面までの原告の主張書面及び令和6年7月25日付の被告準備書面(3)までの被告の主張書面に定義するところによる。また、引用文の一部で「 ≪ 豪州子会社 ≫ 」のように示している表記は、固有名詞の伏せ字を意味する。
⑴ 被告には行動基準及び本件規程を含む被告が定めた規程類の遵守の徹底を図る義務があること
ア 被告は、行動基準及び本件規程に定める是正措置及び再発防止策に関する定めについて、
● 「法務部長」の職務を定めているもの、
● 「法務部長およびコンプライアンス責任者」の職務を定めているもの、又は
● ENEOSグループの役員及び従業員の義務を定めているもの
であるから、法人たる「被告」の「義務」を定めているのではないと主張するもののようである。(注1)
イ 要するに、被告は、行動基準及び本件規程に定める是正措置及び再発防止策に関して、その実行と通知について、「法務部長」や「コンプライアンス責任者」、「ENEOSグループの役員及び従業員」の職務や義務を定めているだけで、法人としての義務を定めていないと主張している。
ウ しかしながら、被告は、被告自らが定めて、被告の公式ホームページで公表している「内部統制システムの整備・運用に関する基本方針」に、
● 「ENEOSグループ理念」および「ENEOSグループ行動基準」については、ENEOSグループ各社共通の理念・行動基準としてこれを定め、その浸透・徹底を図る。(第5項 ⑴ )
● 当社とグループ会社の使命・目的、基本的役割、意思決定の権限体系等、ENEOSグループの運営に関する基本的な事項を規程類において定めるとともに、ENEOSグループ全体に適用されるべき規程類を整備・運用し、これら規程類のグループ各社における共有および遵守の徹底を図る。(第5項 ⑷ )
と定めている。(甲28)
エ したがって、被告には行動基準及び本件規程を含む被告が定めた規程類の遵守の徹底を図る義務がある。
⑵ 被告が、一定の場合に一定の行為を具体的に行うことを定め、これを公表した以上、被告には要件に該当する者に対してそれを行う債務があること
ア 被告は、被告の公式ホームページに、コンプライアンス体制を整備していることを公表し、「ENEOSグループは、グループ理念に「高い倫理観」を掲げるとともに、これをグループ行動基準に定め、コンプライアンスの徹底を図っています。」と表明している。(注2)
行動基準及び本件規程に定めるコンプライアンスホットラインは、被告におけるコンプライアンス体制の一環である。
イ 被告は、行動基準及び本件規程に定める是正措置及び再発防止策に関して、法人たる「被告」の「義務」を定めているのではないと主張しているけれども(注3)、行動基準及び本件規程に定めるコンプライアンスホットラインを含む被告におけるコンプライアンス体制は、法人全体としてのコンプライアンスの徹底を図るために設けられているものであり、その実行を怠ることは法人としての義務違反に他ならない。
ウ 被告は、被告の公式ホームページに、被告がコンプライアンスの徹底を図ることを表明したうえで、行動基準の内容及び本件規程に定めるコンプライアンスホットラインを整備していることを公表しており、被告が、一定の場合に一定の行為を具体的に行うことを定め、これを公表した以上、被告には要件に該当する者に対してそれを行う債務がある。
⑶ 被告の本件規程に定める調査によって「結論づけられたもの」は正当とはいえないこと
ア 被告は、本件通報及び追加通報に係る是正措置及び再発防止策に関して、
● 事実A に関しては、本件通報に係る調査の結果(乙3、乙10、乙11)、コンプライアンス違反ではない(法令等に違反するものではない)と結論づけられたもの、及び
● 事実B に関しては、追加通報に係る調査の結果(乙12の7頁)、「不正行為等には該当しない」「対応に懈怠は認められなかった」と結論づけられたもの であるとして、行動基準第14項 ⑶ 又は本件規程3.5に定める是正措置及び再発防止策の実行、及び本件規程3.6 ⑴ のイ及びウに定める通知事項の通知は必要でないと主張するもののようである。(注4)
事実Cに関しては、被告から主張が無いので、原告から説明する。
● 事実C に関しては、追加通報及び調査補助者に対する追加通報に係る調査の結果(乙12の5頁及び6頁)、本件支払手続における支払金額 836,601 豪ドルを示したうえで、「ヒアリングの結果、≪ 本件事業部内 ≫ で以下の費用については、≪ 豪州子会社 ≫ から返金を受ける形で還付対象GSTの精算を行ったことを確認できた。(乙12の5頁)」「具体的には、≪ 本件事業部内 ≫ は豪州のGSTについて税務コンサルタントおよび社内関係部署に不明点を照会し、該当するGSTの請求書について調査し、≪ 豪州子会社 ≫ からJXTGエネルギーが負担したGST相当額の返金を受けるという手続きをとっており、この対応に不備は認められない。(乙12の6頁)」と結論づけられたもの
である。
イ 事実A に関して、原告と調査補助者との間のやり取りのなかで、被告と本件豪州企業との間で締結した契約に関する内容が存在していたことは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりである。(注5)
ウ しかしながら、被告のいう「本件通報に係る調査の結果」は、本件支払手続をした行為のどの点が、「コンプライアンス違反ではない(法令等に違反するものではない)」と結論づけられたものであるのかが分からず、全く判然としない内容である。(乙11)
エ 事実B に関して、被告は、「不正行為等には該当しない」「対応に懈怠は認められなかった」と結論づけられたものであると主張しているけれども、該当の箇所は、上司Aが還付手続で対応する旨を説明をした行為について、その説明の内容が「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報であるか否かを評価したものではない。(乙12の7頁)
オ また、被告のいう「追加通報に係る調査の結果」は、「被通報者を含めた ≪ 本件事業部 ≫ においては、GSTに関する問題提起を受けてから、間違いのない対応を期して社内経理部門、 ≪ 豪州子会社 ≫ 経理部門および税務コンサルタントに照会を行っており、対応に時間を要したことについては理解できる。」と通知しているけれども、照会先が経理部であるのかという点すら判然としないというだけでなく、何について照会したのかが分からず、全く判然としない内容である。(乙12の7頁)
カ 事実C に関して、調査補助者は、追加通報及び調査補助者に対する追加通報に係る調査の結果(乙12の5頁及び6頁)に対する原告の質問に回答する際、「 ≪ 豪州子会社 ≫ の会計仕訳を調べることは、「コンプライアンス違反ではない」という結論に影響しませんので調査不要と判断しています。さらに言えば、≪ 豪州子会社 ≫ の財務諸表については、会計監査人である ≪ コンサルティング会社 ≫ から適正意見を得ていますので、勘定科目についてこれ以上お調べする必要はないと判断しています。」と回答した。(甲25の5 ⑻ )
キ しかしながら、財務諸表は企業の経営状態や財務状況を総合的に示すためのものである。会計監査人の適正意見は、一般的に財務諸表が公正に表示されているという保証であり、特定の取引に係る不正を完全に排除するものではない。
ク そのため、豪州子会社による被告への送金が不正であるか否かを判断するためには、豪州子会社が本件支払手続で支払った本件GSTについて、豪州から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額」として受け取ったことに関する取引記録を確認する必要がある。
ケ このように一般的な対応を考えても、上記カの調査補助者による回答は、追加通報及び調査補助者に対する追加通報に係る調査の結果が不合理な内容であることを示すものである。(甲25の5 ⑻ )
コ 以上のとおり、本件通報、追加通報及び調査補助者に対する追加通報に係る調査の結果が判然としない内容又は不合理な内容であることにより、被告が原告に対して従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を伏せた疑いがが否定できない点について、被告の本件規程に定める調査によって「結論づけられたもの」は、正当性を担保するための根拠が不十分である。
サ よって、被告の本件規程に定める調査によって「結論づけられたもの」は正当とはいえないから、この「結論づけられたもの」によって、行動基準第14項 ⑶ 又は本件規程3.5に定める是正措置及び再発防止策の実行、及び本件規程3.6 ⑴ のイ及びウに定める通知事項の通知は必要でないとはならない。
ア 被告に違反A、違反B、違反Cが存在し、これらの行為が行動基準又は本件規程に違反する行為であることは、原告が既に述べたとおりである(注6)。
イ 被告において法令等に違反する行為が存在したことにより、被告において規程類の遵守の徹底がなされていたとはいえないから、被告に、行動基準違反及び本件規程違反に加え、内部統制システムの整備・運用に関する基本方針の第5項 ⑴ 及び ⑷ の違反が存在する。
ウ 以上により、被告に、行動基準第1項 ⑴ 、同第11項 ⑶ 、同第12項 ⑶ 、同第14項 ⑶ 、本件規程3.5、同3.6 ⑴ 、内部統制システムの整備・運用に関する基本方針の第5項 ⑴ 及び同 ⑷ の違反が存在する。
エ よって、被告について、債務不履行に基づく責任又は不法行為に基づく責任が成立し、原告は、被告に対して、1円の支払いを求める。
民事訴訟規則79条3項より、相手方の主張する事実を否認する場合には、その理由を記載しなければならない。そして、相手方の法律上の主張を認めない場合には、「争う」と答弁することとされている。
しかしながら、被告準備書面(3)における認否においては、否認する事実に関し、本来記載されるべき否認の理由が記載されていない。また、法律上の主張と事実に関する主張を区別せず、一括して「争う」と認否するなど、民事訴訟規則にのっとった認否がなされていない。
被告に対しては、被告準備書面(3)における認否について訂正する等して、再度、民事訴訟規則にのっとった認否を求める。
また、裁判所に対しては、被告から信義に従い誠実な認否がなされた後に、必要な訴訟手続を経て、口頭弁論を終結されることを求める(民事訴訟法2条)。
引き続き、被告の準備書面において否認の理由が記載されない場合、原告は、裁判所に対して文書送付嘱託を申し立てる。
⑴ 事実A、事実B、事実Cに関する被告の認否の態様が不適切であること
ア 事実A に関する被告の認否は、本件支払手続に係る支払の内容が、被告と本件豪州企業との間で締結したGSTに関する定めが存在していない契約の内容に基づいていない支払であったことについて、法律上の主張と事実に関する主張を区別せず、一括して「争う」と認否している。(注7)
被告は、本件支払手続に係る支払の内容、及び被告と本件豪州企業との間で締結した契約の内容を把握しているはずであるから、事実が異なるのであれば否認し、本件支払手続に係る支払の内容が被告と本件豪州企業との間で締結した契約の内容に基づいていたのか否かを明らかにすべきであるし、正しいのであれば「認める」との認否がなされるべきである。
イ 事実B に関する被告の認否は、被告における本件支払手続に対する対応が、上司Aが原告に対して説明した内容のとおりに対応していなかったことについて、「否認する」と認否している。(注8)
原告に対して通知していないだけで、実際には上司Aが原告に対して説明した内容のとおりに対応していたのであれば、被告は否認の理由として、本件支払手続に対する対応の内容を明らかにすべきである。
ウ 事実C に関する被告の認否は、豪州子会社が本件支払手続で支払った本件GSTについて、豪州から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額」として受けていないにもかかわらず、 平成29年7月31日に被告に対して送金した可能性があることについて、「否認する」と認否している。(注9)
● 豪州子会社が、豪州から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額」として受けた金銭(甲20)と
● 豪州子会社が、平成29年7月31日に被告に対して送金した金銭 79,315.52 豪ドル(甲27)が
同一の支払手続についてのものであるか否かが判然としないことは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりであるところ(注10)、豪州子会社が本件支払手続で支払った本件GSTについて、豪州から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額」として受けていないにもかかわらず、 平成29年7月31日に被告に対して送金した可能性があることは、間違いのないことである。
オ それでも、被告が否認するのであれば、被告は、本件支払手続で支払った本件GSTについて、豪州から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額」として受け取ったことに関する取引記録を保有しているはずであるから、否認の理由として、本件支払手続で支払った本件GSTについて、豪州から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額」として受けたことを明らかにすべきである。
⑵ 被告が本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていなかったという事実の存在を把握したことに関する被告の認否の態様が不適切であること
ア 被告が本件通報に応じて調査補助者と上司Aが協議するという調査を実施した後に、本件豪州企業からGSTを請求されないための何かしらの措置を実行し、被告と本件豪州企業との間で締結したGSTに関する定めが存在していない契約の契約終了日の後に、本件契約の措置を実行したことについて、被告は、その事実を認めるものの、被告が本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていなかったという事実の存在を把握したことについて、「否認する」と認否している。(注11)
イ 日本企業が豪州企業からGSTを請求された場合に、契約書におけるGSTに関する条項を確認したうえで、豪州企業と直接コミュニケーションを取り、GSTの請求に関して確認するという業務プロセスは、一般的な作業である。
ウ したがって、原告から本件通報及び調査補助者に対する追加通報を受けた被告が、本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていたのか否かを確認していないということは、非常に考えにくい。
エ それでも、被告が否認するのであれば、被告は、否認の理由として、被告が本件豪州企業からGSTを請求されたことについて何を調査したのかを明らかにすべきである。
⑶ 被告が法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の有無の判断に影響しない事実について調査した結果を通知したことに関する被告の認否の態様が不適切であること
ア 被告は、被告が原告に対して法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の有無の判断に影響しない事実について調査した結果を通知したことについて、「否認する」と認否している。(注12)
イ しかしながら、原告が既に述べ、被告も認めている本件調査報告1及び本件調査報告2における通知の内容からすると(注13)、被告が原告に対して法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の有無の判断に影響しない事実について調査した結果を通知したことは、間違いのないことである。
ウ それでも、被告が否認するのであれば、被告は、否認の理由として、被告が調査した結果に関係する法令等を示すべきである。
⑷ 違反A、違反B、違反Cに関する被告の認否の態様が不適切であること
ア 違反A に関する被告の否認については(注14)、上記 ⑵ イ及びウで述べたとおり、被告が本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていたのか否かを確認していないということは非常に考えにくいところ、それでも、被告が本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていなかったという事実の存在を把握していたことを否認するのであれば、被告は、否認の理由として、被告が本件豪州企業からGSTを請求されたことについて何を調査したのか等を明らかにすべきである。
イ 違反B に関する被告の否認については(注15)、上記 ⑴ エで述べたとおり、本件部長報告の内容からすると、豪州子会社が本件支払手続で支払った本件GSTについて、豪州から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額」として受けていないにもかかわらず、 平成29年7月31日に被告に対して送金した疑いが否定できない点について、本件事業部の実務担当者に対しても通知している本件部長報告の内容が「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報であることは間違いのないことである。
ウ また、本件部長報告における「2016年11月以降GSTの法改正」に該当する法改正が特定できないから(甲20)、本件部長報告の内容が「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報であることは間違いのないことである。
エ それでも、被告が本件部長報告の内容が「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報であることを否認するのであれば、被告は、否認の理由として、豪州子会社が本件支払手続で支払った本件GSTについて、豪州から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額」として受けたこと、また、「2016年11月以降GSTの法改正」に該当する法改正を明らかにすべきである。
オ 違反C に関する被告の否認については(注16)、被告における支払手続に係る支払の内容が契約内容に基づいていない事態を未然に防ぐための効果的な再発防止策とは、契約内容の共有方法又は支払手続における確認作業などの業務プロセスを適正化することであることは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりであるところ(注17)、原告に対して通知していないだけで、実際には再発防止策を実行していたのであれば、被告は否認の理由として、被告が実行した効果的な再発防止策を明らかにすべきである。
⑸ 被告における業務プロセスがかかわるトラブルに関する状況に関する被告の認否の態様が不適切であること
ア 被告は、被告において業務プロセスがかかわるトラブルが発生した際、そのトラブルの原因を究明せずに、特定の個人に問題があることがトラブルの原因とする記録をすることが可能な状況であること、及び被告の人事評価制度において、特定の個人に問題があることがトラブルの原因であることを補足するような記録として、根拠なく個人に問題があるとするコメント、抽象的に個人に問題があるとするコメント又は個人の人間性に問題があるとするコメントを記録することが可能な状況であることについて、「否認する」と認否している。(注18)
イ しかしながら、原告の担当していた債権回収業務において、多額(多数)の債権未回収というトラブルが発生した際に、「業務遂行にあたっての基本姿勢、教育が出来ていない。債権回収業務において催促を怠り多額の回収漏れを発生させた。GMへの相談・承諾なしにGM承認済みのメールを発信した。先輩社員への相談時、ノートも取らずに同じ質問を何度も繰り返した等々、これまでにどのような教育を受け業務を遂行してきたのか理解に苦しむ。自分の業務内容を理解していないもしくは理解しようとしていないと思われる場面も見受けられた。上司の指示や周囲のアドバイスを素直に受け入れない傾向もあり、より事態を悪化させた面もあった。自分の業務の省力化を最優先させ問題を引き起こす傾向も見られた。」という記録を作成した実績があることは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりであるところ(注19)、上記アで述べた被告における業務プロセスがかかわるトラブルに関する状況は、特定の個人の問題以外の原因を究明することなく、特定の個人に問題があることがトラブルの原因とする記録をすることが可能であるという点について、間違いのないことである。
ウ また、「使用者が、労働者の人事評価をするに際して、逐一、その裏付けとなる具体的な根拠事実を示す義務があるなどとは解されない(乙320)」から、被告の人事評価制度において、特定の個人に問題があることがトラブルの原因であることを補足するような記録として、根拠なく個人に問題があるとするコメント、抽象的に個人に問題があるとするコメント又は個人の人間性に問題があるとするコメントを記録することが可能であることは間違いのないことである。
エ それでも、被告が否認するのであれば、被告は、否認の理由として、例えば、トラブルの原因が原告の業務遂行にあたっての基本姿勢だけであったこと、又は業務プロセスに問題があるのか否かを検討した結果を実務担当者に対して共有したこと等を明らかにすべきである。
被告の令和6年7月25日付の被告準備書面(3)に対する原告の認否は、以下のとおりである。なお、以下1ないし3以外については、特に認否しない。
ウ 「本件規程3.6 ⑴ の文言」以下(14頁15行目以下)、
について、争う。原告の主張は上記第1の1 ⑴ のとおりである。
について、争う。原告の主張は上記第1の1 ⑶ のとおりである。
「ただし、原告は」以下(18頁10行目以下)について、争う。
被告は、原告第2準備書面において行動基準第1項 ⑴ 、同第11項 ⑶ 、同第12項 ⑶ 、同第14項 ⑶ 及び本件規程3.5の違反を主張する部分が新たに請求原因事実を追加するものであるとして、時機に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきであると主張している。
しかし、原告第2準備書面において主張した上記の部分は、それにつき、被告が直ちに認否できない性質のものではない。また、原告第2準備書面において主張した行動基準は、行動基準は、本件規程の前提であり、このことは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりである。(注21)
本来なら、紛争の一回的解決を図ることが理想ではあるが、法律構成の主張の追加を理由に却下されることとなれば、原告は、却下される法律構成で、別途、訴訟を提起することを検討せざるを得ない。
以上
09 被告準備書面(3)#
被告準備書面(3)
令和6年7月25日
東京簡易裁判所民事第5室6係B 御中
目次
≪ 中略 ≫
本書に用いる用語の意味は、本書に別段の定義のない限り、被告の令和6年5月23日付の「被告準備書面(2)(以下「被告準備書面(2)」という。)までの被告の主張書面に定義するところによる。
原告の令和6年7月19日付の「原告第2準備書面」(以下「原告第2準備書面」という。)の第1(原告の主張)(3頁以下)における原告の主張に対する被告の認否は、以下のとおりである。
1 第1の1(行動基準及び本件規程の解釈について)(3頁以下)について
⑴ 第1の1 ⑴ (行動基準は・・・拠り所となるものであること)(3頁以下)について
認める。
⑵ 第1の1 ⑵ (「事実に基づき、正確に、遺漏なく」・・・対象であること)(4頁)について
認める。
⑶ 第1の1 ⑶ (被告は、・・・通知をする義務があること)(5頁)について
ア 第1の1 ⑶ ア(「本件規程3.6 ⑴ に」以下)(5頁)について
認める。
認める。
争う。
エ 第1の1 ⑶ エ(「以上のとおり」以下)(5頁)について
本件規程3.6 ⑴ に定める通知の内容が、正当であることはもちろんのこと、行動基準第11項 ⑶ に定める「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成された情報であることが求められることについては、認めるが、その余については、争う。
本件規程3.6 ⑴ の文言からも明らかなとおり、本件規程3.6 ⑴ は、調査終了時の「法務部長」の職務を定めているのであって、法人たる「被告」の「義務」を定めているのではない。
⑷ 第2の1 ⑷ (被告は、・・・実行する義務があること)(6頁)について
ア 第1の1 ⑷ ア(「本件規程3.5に」以下)(6頁)について
認める。
認める。
争う。
エ 第1の1 ⑷ エ(「以上のとおり」以下)(6頁)について
本件規程3.5に定める是正措置及び再発防止策等の内容が、正当であることはもちろんのこと、行動基準第11項 ⑶ に定める「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成された情報であることが求められることについては、 認めるが、その余については、争う。
本件規程3.5の文言からも明らかなとおり、本件規程3.5は、「対応者」、すなわち「法務部長およびコンプライアンス責任者」(本件規程3.4 ⑵ )の職務を定めているのであって、法人たる「被告」の「義務」を定めているのではない。
2 第1の2(通報情報に関する事実について)(7頁以下)について
⑴ 第1の2柱書(「本件通報、追加情報」以下)(7頁)について
特に争わない。
⑵ 第1の2 ⑴ (通報情報及びこれに対する調査補助者の応答)(7頁以下)について
ア 第1の2 ⑴ ア(「原告が平成28年9月14日」以下)(7頁)について
認める。
原告が本件通報にあたって通報用フォームの「法令等違反を行った者・部署等」の欄を空欄にしたことは、 認めるが、その余は、不知である。
認める。
エ 第1の2 ⑴ エ(「原告が、調査補助者に対する」以下)(8頁)について
認める。
オ 第1の2 ⑴ オ(「調査補助者が」以下)(8頁以下)について
認める。
⑶ 第1の2 ⑵ (事実A 原告が本件支払手続をした行為)(9頁以下)について
争う。
原告が原告のいう「本件支払手続」をした行為は、本件通報に係る調査の結果、コンプライアンス違反ではない(法令等に違反するものではない)と結論づけられたものである(乙第3号証・乙第10号証・乙第11号証)。
よって、答弁書にも述べたとおり(注1)、本件通報に関する調査結果は、「法令等に違反する事実が確認された場合」又は「法令等に違反するおそれのある事実が確認された場合」のいずれでもなかったのであるから、本件通報について、本件規程3.6 ⑴ イ及びウに基づく通知は必要でない。
⑷ 第1の2 ⑶ (事実B 上司Aが還付手続で対応する旨を説明した行為)(10頁以下)について
認める。
否認する。
ウ 第1の2 ⑶ ウ(「また、被告においては、本件調査報告1」以下)(10頁)について
否認する。
エ 第1の2 ⑶ エ(「また、被告においては、上記アの」以下)(10頁)について
認める。
争う。
上司Aが還付手続で対応する旨を説明した行為は、追加通報に係る調査の結果、「不正行為等には該当しない」「対応に懈怠は認められなかった」と結論づけられたものである(乙第12号証〔7頁〕)。
カ 第1の2 ⑶ カ(「以上のとおり」以下)(10頁以下)について
争う。
追加通報に関する調査結果も、「法令等に違反する事実が確認された場合」又は「法令等に違反するおそれのある事実が確認された場合」のいずれでもなかったのであるから、上司Aが還付手続で対応する旨を説明した行為は、本件規程3.5又は行動基準第14項(3)に定める是正措置及び再発防止策の実行は必要でない。
⑸ 第1の2 ⑷ (事実C 豪州子会社が金銭の流れが判然としない金銭を送金した行為)(11頁)について
ア 第1の2 ⑷ ア(「豪州子会社が」以下)(11頁)について
認める。
イ 第1の2 ⑷ イ(「被告においては」以下)(11頁)について
認める。
認める。
エ 第1の2 ⑷ エ(「本件部長報告は」以下)(11頁)について
原告のいう「本件部長報告」のみでは「判然としない」という限度で、 認める。
否認する。
否認する。
キ 第1の2 ⑷ キ(「豪州子会社が」以下)(12頁)について
事実上の主張としては 否認し、法律上の主張としては争う。
ク 第1の2 ⑷ ク(「以上のとおり」以下)(12頁)について
争う。
3 第1の3(被告の行動基準及び本件規程に違反する行為について)(12頁以下)について
⑴ 第1の3柱書(「本件通報、追加通報及び」以下)(12頁)について
争う。
⑵ 第1の3 ⑴ (被告が、・・・把握していたこと)(13頁以下)について
認める。
イ 第1の3 ⑴ イ(「本件調査対応協議の後」以下(13頁)について
認める。
認める。
エ 第1の3 ⑴ エ(「被告と本件豪州企業との間で」以下)(13頁)について
認める。
オ 第1の3 ⑴ オ(「契約終了日が」以下)(13頁)について
認める。
カ 第1の3 ⑴ カ(「そのため」以下)(13頁以下)について
認める。
キ 第1の3 ⑴ キ(以上のとおり」以下)(14頁)について
否認する。
ク 第1の3 ⑴ ク(「本件規程1.2(1)に」以下)(14頁)について
否認する。
ケ 第1の3 ⑴ ケ(「少なくとも」以下)(14頁)について
否認する。
⑶ 第1の3 ⑵ (被告が、・・・通知したこと)(14頁以下)について
ア 第1の3 ⑵ ア(「本件内部通報制度の目的は」以下)(14頁以下)について
本件内部通報制度の目的が、被告等における法令等に違反する行為又は違反するおそれのある行為を早期に是正することであることについては、認めるが、その余については、争う。
認める。
ウ 第1の3 ⑵ ウ(「上記イのとおり」以下)(15頁)について
否認する。
エ 第1の3 ⑵ エ(「原告に対して」以下)(15頁)について
事実上の主張については 否認し、法律上の主張については争う。
⑷ 第1の3 ⑶ (違反A・・・伏せた行為)(15頁以下)について
ア 第1の3 ⑶ ア(「調査補助者は」以下)(15頁以下)について
認める。
イ 第1の3 ⑶ イ(「また、調査補助者は、原告の質問に」以下)(16頁)について
認める。
ウ 第1の3 ⑶ ウ(「また、調査補助者は、原告に対して」以下)(16頁)について
認める。
否認する。
否認する。
カ 第1の3 ⑶ カ(「以上により」以下)(16頁以下)について
⑸ 第1の3 ⑷ (違反B・・・通知した行為)(17頁以下)について
ア 第1の3 ⑷ ア(「本件部長報告は」以下)(17頁)について
認める。
認める。
否認する。
エ 第1の3 ⑷ エ(「本件部長報告は、『過年度」以下)(17頁)について
原告のいう「本件部長報告」のみでは「判然としない」という限度で、 認める。
オ 第1の3 ⑷ オ(「そのため、本件部長報告の」以下)(17頁)について
事実上の主張としては 否認し、法律上の主張としては争う。
否認する。
キ 第1の3 ⑷ キ(「そのため、この点についても」以下(18頁)について
事実上の主張としては 否認し、法律上の主張としては争う。
ク 第1の3 ⑷ ク(「以上により」以下)(18頁)について
争う。
⑹ 第1の3 ⑸ (違反C・・・実行しなかった行為)(18頁以下)について
否認する。
否認する。
ウ 第1の3 ⑸ ウ(「被告において」以下)(18頁以下)について
一般論としては 認める。
エ 第1の3 ⑸ エ(「以上により」以下)(19頁)について
争う。
4 第1の4(原告が・・・被った精神的損害)(19頁以下)について
⑴ 第1の4 ⑴ (被告の行動基準違反及び本件規程違反)(19頁以下)について
(ア)第1段落(「被告は」以下)(19頁)について
事実上の主張としては 否認し、法律上の主張としては争う。
本件規程3.6 ⑴ の文言からも明らかなとおり、本件規程3.6 ⑴ は、調査終了時の「法務部長」の職務を定めているのであって、法人たる「被告」の「義務」を定めているのではない。
本件規程3.5の文言からも明らかなとおり、本件規程3.5も、「対応者」、すなわち「法務部長およびコンプライアンス責任者」(本件規程3.4 ⑵ )の職務を定めているのであって、法人たる「被告」の「義務」を定めているのではない。
行動基準の文言からも明らかなとおり、行動基準も、「ENEOSグループで働く私たち」、すなわち被告を含むENEOSグループの役員及び従業員の義務を定めているのであって、法人たる「被告」の「義務」を定めているのではない。
(イ)第2段落(「かつ」以下)(19頁)について
認める。
イ 第1の4 ⑴ イ(「ところが」以下)(19頁)について
争う。
ウ 第1の4 ⑴ ウ(以上により」以下)(19頁以下)について
争う。
⑵ 第1の4 ⑵ (業務プロセスがかかわるトラブルに関する状況)(20頁以下)について
ア 第1の4 ⑵ ア(「債権回収業務の」以下)(20頁)について
(ア)第1段落(「債権回収業務の」以下)(20頁)について
一般論としては 認める。
(イ)第2段落(「原告が債権回収業務を」以下)(20頁)について
原告が被告のSI推進事業部SI品質保証グループに所属していた平成23年度(2011年度)に、原告の担当していた債権回収業務において、多額(多数)の債権未回収というトラブルが発生したことについては、 認めるが、その余については、否認する。
イ 第1の4 ⑵ イ(「多数の債権未回収が」以下)(20頁)について
一般論としては 認める。
ウ 第1の4 ⑵ ウ(「しかし」以下)(20頁)について
被告における平成23年度(2011年度)を評価対象期間とする原告の人事評価において、能力評価における「上司コメント」として、原告が「債権回収業務において催促を怠り多数の回収漏れを発生させた」とのコメントがあったこと、当該人事評価における原告の能力評価において、評価項目のすべてがe評価のゼロ点であったこと、当該人事評価における原告の実績評価において、評価項目のすべてがd評価の1点であったことは、いずれも 認めるが、その余は、否認する。
エ 第1の4 ⑵ エ(「上記ウの」以下)(20頁)について
認める。
オ 第1の4 ⑵ オ(「上記エの」以下)(20頁)について
不知である。
カ 第1の4 ⑵ カ(「上記オに」以下)(21頁)について
不知である。
キ 第1の4 ⑵ キ(「以上のとおり」以下)(21頁)について
否認する。
ク 第1の4 ⑵ ク(「さらに」以下)(21頁)について
否認する。
⑶ 第1の4 ⑶ (原告が被った精神的損害)(21頁)について
ア 第1の4 ⑶ ア(「経費支払業務の際に請求内容の」以下)(21頁)について
(ア)第1段落(経費支払業務の際に請求内容の」以下)(21頁)について
一般論としては 認める。
(イ)第2段落(「原告が上司Aに対して」以下)(21頁)について
否認する。
(ウ)第3段落(「経費支払い業務の際に契約内容を」以下)(21頁)について
否認する。
イ 第1の4 ⑶ イ(「上記 ⑵ で」以下)(21頁以下)について
否認する。
ウ 第1の4 ⑶ ウ「さらに」以下)(22頁)について
否認する。
エ 第1の4 ⑶ エ(「以上の状況のなか」以下)(22頁)について
争う。
オ 第1の4 ⑶ オ(「原告は」以下)(22頁)について
事実上の主張としては 否認し、法律上の主張としては争う。
5 第1の5(まとめ)(22頁)について
争う。
6 第1の6(本件訴訟における原告の主張は許される)(22頁以下)について
⑴ 第1の6 ⑴ (既判力が..当たらない)(22頁以下)について
ア 第1の6 ⑴ ア(「前回訴訟における」以下)(22頁)について
概ね 認める。
イ 第1の6 ⑴ イ(「一方で」以下)(22頁以下)について
本件訴訟における原告の主張の要約であると思われるため、 特に認否はしない。
ただし、原告は、請求原因事実として、訴状においては「被告に本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの違反が存在する」(注2)と主張し、原告第1準備書面でも「被告に本件規程3.6 ⑴ イ又はウに定める事項を通知しなかったことについての本件規程違反が存在する」(注3)と主張していたのであるから、原告が原告第2準備書面において行動基準第1項 ⑴ 、同第11項 ⑶ 、同第12項 ⑶ 、同第14項 ⑶ 及び本件規程3.5の違反を主張する部分は、新たに請求原因事実を追加するものである。
これは、前回訴訟の訴訟物と本件訴訟の訴訟物が同一ではないという原告の立場からすると、訴えの追加的変更(民事訴訟法第143条)になるはずである。
また、前回訴訟の訴訟物と本件訴訟の訴訟物が同一であるという被告の立場からすると、同一の信義則上の義務の違反の評価根拠事実を新たに追加するものであり、弁論終結の直前になって攻撃方法を追加的に提出するものであるから、時機に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきである(民事訴訟法第157条第1項)。
ウ 第1の6 ⑴ ウ(「したがって」以下)(23頁)について
争う。
エ 第1の6 ⑴ エ(「また、被告が」以下)(23頁)について
争う。
オ 第1の6 ⑴ オ(「また、原告が」以下)(23頁以下)について
争う。
カ 第1の6 ⑴ カ(「よって」以下)(24頁)について
争う。
⑵ 第1の6 ⑵ (本件訴訟における...許される)(24頁以下)について
ア 第1の6 ⑵ アまず」以下)(24頁)について
争う。
イ 第1の6 ⑵ イ(「この点をおくとしても」以下)(24頁)について
事実上の主張としては 否認し、法律上の主張としては争う。
ウ 第1の6 ⑵ ウ(「調査補助者は、原告に対して」以下)(24頁)について
認める。
エ 第1の6 ⑵ エ(「「実際には」以下)(24頁)について
否認する。
オ 第1の6 ⑵ オ(「調査補助者は、令和元年」以下)(24頁以下)について
認める。
カ 第1の6 ⑵ カ(「原告は」以下)(25頁)について
原告が、前回訴訟において、「調査をせず、あるいは不十分であったこと」等について信義則上の義務違反の存在を主張したことについては、 認めるが、その余については、不知である。
キ 第1の6 ⑵ キ(「被告が」以下)(25頁)について
認める。
ク 第1の6 ⑵ ク(「原告が前回訴訟を」以下)(25頁)について
原告が前回訴訟を提起する前に甲第21号証における調査補助者による通知の内容を分析できたことは、認めるが、その余は、否認する。
ケ 第1の6 ⑵ ケ(「被告訴訟代理人が」以下)(25頁)について
被告訴訟代理人が令和3年8月31日に原告に対して伝えた内容については、概ね認めるが、その余については、否認する。
コ 第1の6 ⑵ コ(「なお」以下)(25頁以下)について
不知である。
サ 第1の6 ⑵ サ(「前回訴訟の過程において」以下)(26頁)について
認める。
シ 第1の6 ⑵ シ(「前回訴訟に関しては」以下)(26頁)について
争う。
ス 第1の6 ⑵ ス(「よって」以下)(26頁)について
争う。
第3 原告第2準備書面第2による「補正」後の原告の主張に対する認否
原告は、原告第2準備書面の第2(被告準備書面(2)の第2に対する認否)(26頁以下)の中で、原告第1準備書面における原告の主張の一部を「部分的に補正」しているが、被告準備書面(2)における被告の認否及び主張に変更はない。
以上
08 原告第2準備書面#
原告第2準備書面 目次
⑴ 行動基準は、本件規程の前提であり、本件規程に定める対応事項を実行するか否かの判断の拠り所となるものであること
⑵ 「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報を通知するという不正行為等も、本件規程等に定める再発防止策の対象であること
⑶ 被告は、被告が従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実を把握した場合に、本件規程3.6 ⑴ に定める通知をする義務があること
⑷ 被告は、被告が従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実を把握した場合に、当該事実に対する徹底した原因究明及び効果的な再発防止策を実行する義務があること
⑷ 事実C 豪州子会社が金銭の流れが判然としない金銭を送金をした行為
⑴ 被告が、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を把握していたこと
⑵ 被告が、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の有無の判断に影響しない事実について調査した結果を通知したこと
⑶ 違反A 原告に対して従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を伏せた行為
⑷ 違反B 是正措置及び再発防止策等に関して「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報を通知した行為
⑸ 違反C 法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実に対する徹底した原因究明及び効果的な再発防止策を実行しなかった行為
4 原告が被告の行動基準違反及び本件規程違反によって被った精神的損害
原告第2準備書面
令和6年7月19日
東京簡易裁判所民事第5室6係B 御中
目次
≪ 中略 ≫
本書に用いる用語の意味は、本書に別段の定義のない限り、本件規程、原告の訴状及び原告第1準備書面に定義するところによる。同様に、上記の書面に別段の定義のない限り、被告が定義する用語の意味を用いる。また、引用文の一部で「 ≪ 本件事業部 ≫ 」のように示している表記は、固有名詞の伏せ字を意味する。
被告は、令和6年5月23日、原告が2024年4月22日の第1回口頭弁論期日に社内規程及び業務上の電子メール等を書証として提出したことを確認したとして、原告に対して懲戒処分を通告している。現在のところ、どの書証が懲戒処分の対象となっているのかについて、被告から明らかにされていない。
そのため、甲27以降の書証については、原告の主張に対する被告の適切な認否が行われた後に、文書送付嘱託を申し立て、その後に提出する。
参考として、本件訴訟における全ての主張書面及び前回訴訟における判決書の内容は、https://minnanosaiban.github.io/hotline に掲載している。
⑴ 行動基準は、本件規程の前提であり、本件規程に定める対応事項を実行するか否かの判断の拠り所となるものであること
ア 被告が公表している「ENEOSグループ行動基準(以下「行動基準」という。)1」は、事業活動を通じて「ENEOSグループ理念」を実現し、社会的責任を果たしていくために実践すべき基準であり、「ENEOSグループ理念」では、「誠実・公正であり続けることを価値観の中核とし、高い倫理観を持って企業活動を行います。」と表明している。
また、行動基準は、被告におけるすべての社内規程類の前提として位置づけられており、被告の事業活動における判断の拠り所となるものである。(注2)
イ すなわち、行動基準は、本件規程の前提であり、また、本件規程に定める対応事項を実行するか否かの判断の拠り所となるものである。
⑵ 「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報を通知するという不正行為等も、本件規程等に定める再発防止策の対象であること
ア 行動基準1項の ⑴ に、「私たちは、コンプライアンス(法令・契約・社内規程類等の遵守)を徹底し、社会規範に適切に対応します。」と定めている。
また、行動基準11項の ⑶ に、「私たちは、業務上必要なすべての記録および報告を、事実に基づき、正確に、遺漏なく、かつ適時に作成します。」と定めている。
また、行動基準14項の ⑴ に、「私たちは、この行動基準に違反する又は違反するおそれのある行為を発見した場合、上司への報告、関係部署への相談又は内部通報制度の利用により、その解決を図ります。」と定めている。
また、本件規程1.1に、不正行為等とは、被告等における法令等に違反する行為または違反するおそれのある行為をいうと定めている。
また、本件規程1.2 ⑴ に、法令等とは、国内外の法令、契約、定款および規程類をいうと定めており、法令等に行動基準が含まれていることは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりである。(注3)
イ すなわち、「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報を通知するという不正行為等も、行動基準14項の ⑶ に定める再発防止策、及び本件規程3.5に定める是正措置及び再発防止策の対象である。
ウ なお、本件訴訟において問題となっている売買契約に基づかない支払をするという不正行為等も、行動基準14項の ⑶ に定める再発防止策、及び本件規程3.5に定める是正措置及び再発防止策の対象である。
⑶ 被告は、被告が従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実を把握した場合に、本件規程3.6 ⑴ に定める通知をする義務があること
ア 本件規程3.6 ⑴ に、「法令等に違反する事実が確認された場合」又は「法令等に違反するおそれのある事実が確認された場合」に、被告が通報者に対して、当該事実に対する是正措置及び再発防止策、又は対応策を本件規程3.6 ⑴ に定める通知事項として通知することを定めている。
また、行動基準11項の ⑶ に、「私たちは、業務上必要なすべての記録および報告を、事実に基づき、正確に、遺漏なく、かつ適時に作成します。」と定めている。(注4)
イ すなわち、本件規程3.6 ⑴ に定める通知は、事実に基づいていること、正確であること、遺漏ないこと、かつ適時に実行することが前提である。
ウ 従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実についての本件規程3.6 ⑴ に定める通知の内容が「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成された情報であるか否かは、業務プロセスがかかわるトラブルを未然に防ぐ対策が取られているかという点について、行動基準12項の ⑶ に定める「私たちは、相互の対話および円滑な意思疎通を通じて、働きやすい職場環境を確保・維持するよう努めます。」という事項に影響を与える。
エ 以上のとおり、被告は、被告が従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実を把握した場合に、本件規程3.6 ⑴ に定める通知をする義務がある。かつ、その通知の内容は、正当であることはもちろんのこと、行動基準11項の ⑶ に定める「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成された情報であることが求められる。
⑷ 被告は、被告が従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実を把握した場合に、当該事実に対する徹底した原因究明及び効果的な再発防止策を実行する義務があること
ア 本件規程3.5に、調査の結果、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実が確認された場合に当該事実に対する是正措置および再発防止策等を実施することを定めている。
また、行動基準14項の ⑶ に、「私たちは、この行動基準に違反する事態が発生した場合、その原因を徹底して究明するとともに、効果的な再発防止策を定め、これを遂行します。」と定めている。(注5)
イ すなわち、本件規程3.5に定める是正措置および再発防止策等は、その原因を徹底して究明すること、かつ再発防止策は効果的であることが前提である。
ウ 従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実についての原因究明及び再発防止策を実行しているか否かは、業務プロセスがかかわるトラブルを未然に防ぐ対策が取られているかという点について、行動基準12項の ⑶ に定める「私たちは、相互の対話および円滑な意思疎通を通じて、働きやすい職場環境を確保・維持するよう努めます。」という事項に影響を与える。
エ 以上のとおり、被告は、被告が従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実を把握した場合に、当該事実に対する徹底した原因究明及び効果的な再発防止策を実行する義務がある。そして、その原因及び再発防止策等の通知の内容は、正当であることはもちろんのこと、行動基準11項の ⑶ に定めるとおり、「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成された情報であることが求められる。
本件通報、追加通報及び調査補助者に対する追加通報に係る情報(通報情報)に関する事実を大きく分けると、
● 事実A 原告が本件支払手続をした行為(甲3)
● 事実B 上司Aが還付手続で対応する旨を説明をした行為(甲4)
● 事実C 豪州子会社が金銭の流れが判然としない金銭を送金をした行為(甲27)
の3つであった。(以下、それぞれ、「事実A」、「事実B」、「事実C」という。)
ア 原告が平成28年9月14日又は同年10月3日に、本件規程2.1⑴アに定めるメールアドレス又は調査補助者に対して、原告が本件豪州企業に対して本件GSTを支払う手続を行った事実(甲3)、これに関連する原告と上司Aとのやり取りの内容(甲4)、及び本件GSTの金額が請求金額として記載されている請求書の内容(甲3)を告げるメールを送信したことは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりである。(注6)
イ 原告は、上司Aが契約内容を確認しないという行為が意図的であると感じてはいたものの、本件通報の際に上司A個人に問題があるとされないようにと配慮して、通報用フォームの「法令等違反を行った者・部署等」の欄(乙2)を空欄にした。(注7)
ウ また、原告は、調査補助者に対する追加通報の際、「上司Aが契約内容を確認しようとしない」と告げるのではなく、「契約締結時、契約書に付加価値税を請求額に含めないことを記載することについて、相手企業に依頼することができるのか(甲14の2)」、「契約時に、“税抜きで請求” という契約は行えないのか?(甲15の1)」及び「海外取引の際、付加価値税と合わせて支払わなくてはならないのはどのようなケースか?(甲17の1)」と告げていた。(注8)
エ 原告が、調査補助者に対する追加通報において、調査補助者に対し、被告と本件豪州企業との間で締結した契約の確認に関する状況を告げていたことは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりである。(注9)
オ 調査補助者が、上記エの通報情報に対して、「追加でいただいた疑問含め、対応検討させていただきます。(甲14の1)」及び「打ち合わせを行う場合は、また別途日程を設定させていただきます。(甲18の1)」と返答し、また、以下の枠内の事項(甲23の8)を「調査の対象となる事項」として提示していたことは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりである。(注10)
≪ 中略 ≫
2.調査の対象となる事項
以下の点について、「コンプライアンス違反があったか否か」について調査し回答します。
≪ 中略 ≫
⑴ 適切な是正措置が取られたのか。
1.⑵ のとおり、適切な遠付処理および当社帳簿への費用計上処理が完了しているかについて確認します。2018年12月13日付で ≪ 原告 ≫ 様からいただいたメール(Re:コンプライアンス違反となる事象の有無とその理由・根拠の確認について)の➀、➄、➅、➈、➉および ⑪ 対応する趣旨です。
≪ 中略 ≫
⑶ 「契約書に付加価値税の扱いについて明記するべきではないか。」との疑問に答える。
『調査の対象となる事項(調査スコープ)」の「 ⑵ 支払い義務が無い可能性を認識しているにも関わらず、その可能性の確認をせずに付加価値税の支払いをしていることは、“問題ない” のかどうかを確認」については、これでお答えできると考えます。
≪ 中略 ≫
※注 上記の「➀、➄、➅、➈、➉ および ⑪ 対応する趣旨です。」という記載について、「➀」は、本件事業部において被告と本件豪州企業との間で締結した契約の内容を確認していない事実を意味しており、また、「⑤」は、被告が本件豪州企業に対して役務対価の金額とGSTの金額を合わせた金銭を支払い続けていた事実を意味している(甲22の3)。
ア 被告において、本件豪州企業に対してコンサルタントの役務対価と本件GST 75,473.10 豪ドルを合わせた金額 836,601.06 豪ドルを支払うための手続をした行為が存在していたところ(本件支払手続)、その支払の内容は、被告と本件豪州企業との間で締結したGSTに関する定めが存在していない契約の内容に基づいていない支払であった。(注11)
イ 本件規程1.2 ⑴ に定めるの法令等は、国内外の法令、契約、定款および規程類をいうのであるから、原告が本件支払手続をした行為は、本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていなかった点について、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実が存在したということである。
ウ 以上のとおり、原告が本件支払手続をした行為は、本来であれば、本件規程3.5又は行動基準14項の ⑶ に定める是正措置及び再発防止策を実行する対象である。
ア 上司Aは、原告が上司Aに対して本件支払手続により本件豪州企業にGSTを支払っていたことを報告した際、原告に対し、「GSTの支払額をインボイスとともに当局に届けると、支払うべき税金(源泉税)からそのGST分減額されるとのことで、主な過去の支払い分については対応してもらっています。今後、同様に豪州企業からGST込みで請求された場合には 豪州子会社 に送付して手続きをしてもらう方向で整理します。(甲4の3)」と説明していた。なお、上記の「主な過去の支払い分」とは、本件支払手続で支払をした本件GSTの支払のことである。(注12)
イ しかし、実際には、被告においては、本件支払手続について、上記アの説明の内容のとおりに対応していなかった。
ウ また、被告においては、本件調査報告1又は本件調査報告2の後においても、本件支払手続について、上記アの説明の内容のとおりに対応していない。
エ また、被告においては、上記アの説明の内容のとおりに対応しないことにした旨を通知することもしていない。
オ 上司Aが還付手続で対応する旨を説明をした行為は、その説明の内容が「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報である点について、行動基準1項の ⑴ 及び11項の ⑶ に違反するおそれがあるため、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実が存在したということである。
カ 以上のとおり、上司Aが還付手続で対応する旨を説明をした行為は、本来であれば、本件規程3.5又は行動基準14項の ⑶ に定める是正措置及び再発防止策を実行する対象である。
⑷ 事実C 豪州子会社が金銭の流れが判然としない金銭を送金をした行為
ア 豪州子会社が、平成29年7月31日、被告に対して 79,315.52 豪ドルを送金した。被告側における入金処理の摘要欄は、「≪ 豪州子会社 ≫ に対する雑収入請求 JXTGエネルギー分のGST額戻し入れ 2014、2015年度のGST還付額(JXTGエネルギー分)(甲27)」13である。(注14)
イ 被告においては、平成29年10月16日、部長報告を実施しており(以下「本件部長報告」という。)、本件部長報告は、「≪ 豪州子会社 ≫ にて還付をうけた過去分のGSTのJXTGエネルギーへの戻し入れは、雑収入で計上。(甲20の1)」と通知していた。(注15)
ウ 要するに、本件部長報告は、豪州子会社が平成29年7月31日に被告に対して送金した金銭 79,315.52 豪ドルについて(甲27)、「≪ 豪州子会社 ≫ にて還付をうけた過去分のGSTのJXTGエネルギーへの戻し入れ」の金銭であると通知していた(甲20)。
エ 本件部長報告は、「過年度JXTGエネルギーの支払分については ≪ 豪州子会社 ≫ にて17年9月までに還付請求を実施。また ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額について、JXTGエネルギーへの戻入れも実施済み(甲20の1)」と通知しているところ、
● 豪州子会社が、豪州から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額」として受けた金銭(甲20)と
● 豪州子会社が、平成29年7月31日に被告に対して送金した金銭 79,315.52 豪ドル(甲27)が
同一の支払手続についてのものであるか否かが判然としない。(注16)
オ そのため、 豪州子会社が本件支払手続で支払った本件GSTについて、豪州から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額」として受けていないにもかかわらず、 平成29年7月31日に被告に対して送金した可能性がある。
カ 要するに、豪州子会社が平成29年7月31日に被告に対して送金した行為は、豪州子会社が金銭の流れが判然としない金銭を送金をした行為といえる。
キ 豪州子会社が金銭の流れが判然としない金銭を送金をした行為は、不正な送金をした可能性がある点、及びこれに関する本件部長報告の内容が「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報である点について、会計原則、行動基準1項の ⑴ 及び11項の ⑶に違反するおそれがあるため、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実が存在したということである。
ク 以上のとおり、本来であれば、本件部長報告は、本件規程3.5又は行動基準14項の ⑶ に定める是正措置及び再発防止策を実行する対象である。
本件通報、追加通報及び調査補助者に対する追加通報に係る情報(通報情報)を受け、従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を把握した被告において、
● 違反A 原告に対して従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を伏せた行為、
● 違反B 是正措置及び再発防止策等に関して「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報を通知した行為、及び
● 違反C 法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実に対する徹底した原因究明及び効果的な再発防止策を実行しなかった行為
が存在した。(以下、それぞれ、「違反A」、「違反B」、「違反C」という。)
⑴ 被告が、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を把握していたこと
ア 被告が、平成29年2月7日に、調査補助者と上司Aが協議するという調査を実施し(本件調査対応協議)、調査補助者が、同年7月に、原告に対し、本件調査対応協議の実施した旨を通知したことは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりである。(注17)
イ 本件調査対応協議の後、本件豪州企業が被告にGSTを請求していたのは、平成29年4月までであったことは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりである。(注18)
ウ 要するに、被告は、本件調査対応協議を実施した平成29年2月7日から約2カ月強の間に、本件豪州企業からGSTを請求されないための何かしらの措置を実行した。
エ 被告と本件豪州企業との間で締結したGSTに関する定めが存在していない契約の契約終了日が平成30年3月31日であることは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりである。(注19)
オ 契約終了日が定められていることにより、平成30年3月31日より前に、被告と本件豪州企業との間の契約にGSTに関する定めを追加することは、不可能であるか、相当の手順が必要となる。
カ そのため、被告は、平成30年3月31日の後の同年9月13日に、「 豪州国外の顧客に対するサービス提供費用には、豪州GSTを課さない。なお、≪ 本件豪州企業 ≫ がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する。」という表示のある契約を結ぶという本件契約の措置を実行した。(注20)
キ 以上のとおり、被告は、本件調査対応協議を実施した平成29年2月7日から約2カ月強の間に、本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていなかったという事実の存在を把握した。
ク 本件規程1.2 ⑴ に定める法令等は、国内外の法令、契約、定款および規程類をいうのであるから、被告は、本件調査対応協議を実施した平成29年2月7日から約2カ月強の間に、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を把握したということである。
ケ 少なくとも、被告は、どこかのタイミングで、本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていなかったという事実、すなわち、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を把握していた。(注21)
⑵ 被告が、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の有無の判断に影響しない事実について調査した結果を通知したこと
ア 本件内部通報制度の目的は、被告等における法令等に違反する行為または違反するおそれのある行為を早期に是正することであるから、本来であれば、
● 事実A 原告が本件支払手続をした行為について(甲3)、本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていなかった点、
● 事実B 上司Aが還付手続で対応する旨を説明をした行為について(甲4)、その説明の内容が「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報である点、及び
● 事実C 豪州子会社が金銭の流れが判然としない金銭を送金をした行為について(甲27)、不正な送金をした可能性がある点、及びこれに関する本件部長報告の内容が「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報である点
が本件規程3.5又は行動基準14項の ⑶ に定める是正措置及び再発防止策を実行する対象である。
イ ところが、被告は、本件調査報告1及び本件調査報告2において、それぞれ、「業務を本件事業部 業務グループに移管した上で、還付可能であることを確認している付加価値税の還付を含め、今年度上期を目途に対応完了予定であることを確認した。(乙11)」、「一般に、GSTの還付は納税者の「権利」であり、「義務」ではない。したがって、GSTの還付をするか否かは任意であり、還付を受けないままであったとしても、不正行為等にはあたらない。(乙12の6頁)」又は「豪州のGST還付制度を利用して還付を受けられるすべての金額について、2017年9月までに還付を受け対応を完了している。(乙12の6頁)」という点について本件規程3.6 ⑴ に定める通知をしていた。(注22)
ウ 上記イのとおり、被告は、原告に対し、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の有無の判断に影響しない事実について調査した結果を通知していた。
エ 原告に対して法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を伏せるために、あるいは本件規程に定める対応をしたと見せかけるために、被告が、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の有無の判断に影響しない事実について調査した結果を通知をしたのであれば、被告の行為は、不合理かつ悪質である。
⑶ 違反A 原告に対して従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を伏せた行為
ア 調査補助者は、本件調査報告1及び本件調査報告2の際、原告に対し、本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていたのか否かに関して通知していなかった。(注23)
イ また、調査補助者は、原告の質問に回答する際にも、「当社と ≪ 本件豪州企業 ≫ 間の契約書について確認するように再三お求めですが、これを行う必要はないものと判断しています(甲25の5)」、「契約書上のGST条項の有無や記載内容については、結論に関係がありませんのでお調べしません(甲25の5)」及び「契約書を確認するという行為は、先に述べた通り対応として意味がない行為です(甲25の5)」などと通知して、本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていたのか否かに関して通知していなかった。(注24)
ウ また、調査補助者は、原告に対して社内SNS投稿について回答した際、被告と本件豪州企業との契約内容について、2015年(平成27年)に締結されたものと本件契約の措置によって締結されたものとの違いを通知することにとどめており、契約内容にGST等に関する表示が追加された理由及び本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていたのか否かに関して通知していなかった。(注25)
エ しかし、実際には、被告は、本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていなかったという事実、すなわち、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を把握していた。(注26)
オ 要するに、被告は、原告に対して法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を伏せていた。
カ 以上により、被告が、原告に対して従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を伏せた行為について、被告に行動基準1項の ⑴ 、11項の ⑶ 、12項の ⑶ 及び本件規程3.6 ⑴ 違反が存在する。
⑷ 違反B 是正措置及び再発防止策等に関して「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報を通知した行為
ア 本件部長報告は、本件事業部の部長宛ての報告ではあるけれども、原告を含む経費支払の実務を行う担当者など、管理職以外の社員とも共有している。また、本件部長報告の内容に関して、別途、実務担当者向けの説明会等を実施するなどもしていない。
イ 要するに、本件部長報告は、本件支払手続を含む海外企業に付加価値税を支払っていたという事実が発生したことに対する是正措置及び再発防止策等を本件事業部の部長に対して報告するとともに、本件事業部の実務担当者に対しても通知しているものである。
ウ なお、本件部長報告においても、本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていなかったという事実の存在を伏せていた。(注27)
エ 本件部長報告は、「過年度JXTGエネルギーの支払分については ≪ 豪州子会社 ≫ にて17年9月までに還付請求を実施。また ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額について、JXTGエネルギーへの戻入れも実施済み(甲20の1)」と通知しているところ、
● 豪州子会社が、豪州から「 ≪ 豪州子会社 ≫ への還付額」として受けた金銭(甲20)と
● 豪州子会社が、平成29年7月31日に被告に対して送金した金銭 79,315.52 豪ドル(甲27)が
同一の支払手続についてのものであるか否かが判然としない。(注28)
オ そのため、本件部長報告の内容は、「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報である。
カ また、本件部長報告は、「2016年11月以降GSTの法改正により、非居住者であるJXTGエネルギ一に対するコンサルタント料の請求にはGSTは含まれないことを確認済み(甲20の1)」と通知しているところ、「2016年11月以降GSTの法改正」に該当する法改正が特定できない。そもそも、「2016年11月以降GSTの法改正」に該当する法改正が存在しない可能性がある。(注29)
キ そのため、この点についても、本件部長報告の内容は、「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報である。
ク 以上により、被告が、従業員の業務遂行にかかわる是正措置及び再発防止策等に関して「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報を通知した行為について、被告に行動基準1項の ⑴ 、11項の ⑶ 及び12項の ⑶ 違反が存在する。
⑸ 違反C 法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実に対する徹底した原因究明及び効果的な再発防止策を実行しなかった行為
ア 被告は、本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていなかったという事実、すなわち、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を把握した。(注30)
イ ところが、原告が知らされた内容からすると、被告が再発防止策等として実行したことは、「豪州国外の顧客に対するサービス提供費用には、豪州GSTを課さない。なお、 ≪ 本件豪州企業 ≫ がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する。」という表示のある契約を結ぶという本件契約の措置を実行することにとどまっていた。(注31)
ウ 被告において、海外企業に対する経費支払は本件豪州企業に対する経費支払以外も多く存在する。被告における支払手続に係る支払の内容が契約内容に基づいていない事態を未然に防ぐための効果的な再発防止策とは、契約内容の共有方法又は支払手続における確認作業などの業務プロセスを適正化することである。本件契約の措置を実行しただけでは、効果的な再発防止策を実行したとはいえない。
エ 以上により、従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実に対する徹底した原因究明及び効果的な再発防止策を実行しなかった行為について、被告に行動基準12項の ⑶ 、14項の ⑶ 及び本件規程3.5の違反が存在する。
4 原告が被告の行動基準違反及び本件規程違反によって被った精神的損害
ア 被告は、被告が従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実を把握した場合に、本件規程3.6 ⑴ に定める通知をする義務、又は行動指針14項の ⑶ 及び本件規程3.5に定める徹底した原因究明及び効果的な再発防止策を実行する義務がある。
かつ、これに関する通知の内容は、正当であることはもちろんのこと、行動基準11項の ⑶ に定める「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成された情報であることが求められる。
イ ところが、本件通報、追加通報及び調査補助者に対する追加通報に係る情報(通報情報)を受け、従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を把握した被告において、
● 違反A 原告に対して従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を伏せた行為、
● 違反B 是正措置及び再発防止策等に関して「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報を通知した行為、及び
● 違反C 法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実に対する徹底した原因究明及び効果的な再発防止策を実行しなかった行為
が存在した。
ウ 以上により、被告に、行動基準1項の ⑴ 、11項の ⑶ 、12項の ⑶ 、14項の ⑶ 、本件規程3.5及び3.6 ⑴ 違反が存在する。
ア 債権回収業務の際に請求書を発行するという業務プロセスは、一般的な作業である。
原告が担当した債権回収業務は、被告が主催する研修の受講料を回収するものであり、その研修の受講料は1人当たり 25,000 円で、1回の開催で16名が受講し、多い時は1週間に2回開催され、これが毎週行われた月もあった。
請求書を発行しない業務プロセスで受講料の回収を行っており、回収方法も整備していなかったため、受講者側が受講料を振り込む際に、受講者個人名で振込、所属する会社名で振込、数名分を振込、研修名で振込、又は単に振込を失念している等、振込をする側によって様々であった。受講料が 25,000 円で一律であり、受講者の連絡先を取りまとめていなかったことから、受講料が入金されても該当する受講者を特定することが困難なときも多かった。
上記のような業務プロセスであったことから、原告が担当する前について、1年以上も回収されない受講料もあった。
当時の上司は、原告が担当する前に回収できていない受講料の債権データを会計システムから取り消したうえで、多額(多数)の債権未回収というトラブルが発生したことについて、原告の業務遂行にあたっての基本姿勢ができていないなどとした。
イ 多数の債権未回収が発生したということは、従業員に課した業務プロセスに問題があることが否定できない状況であるといえる。
ウ しかし、特定の個人の問題以外の原因を究明することなく、被告においては、原告が「債権回収業務において催促を怠り多額の回収漏れを発生させた」として、原告の人事評価について、能力評価のランク項目の全てがe評価のゼロ点、及び実績評価の評価項目の全てがd評価の1点とする措置をとった。
エ 上記ウの評価点の評価コメントは、「業務遂行にあたっての基本姿勢、教育が出来ていない。債権回収業務において催促を怠り多額の回収漏れを発生させた。GMへの相談・承諾なしにGM承認済みのメールを発信した。先輩社員への相談時、ノートも取らずに同じ質問を何度も繰り返した等々、これまでにどのような教育を受け業務を遂行してきたのか理解に苦しむ。自分の業務内容を理解していないもしくは理解しようとしていないと思われる場面も見受けられた。上司の指示や周囲のアドバイスを素直に受け入れない傾向もあり、より事態を悪化させた面もあった。自分の業務の省力化を最優先させ問題を引き起こす傾向も見られた。」であった。
オ 上記エの評価コメントを受けた原告側から補足を述べると、「GMへの相談・承諾なしにGM承認済みのメールを発信した」という上記エのコメントについては、メールの発信は、原告のメールアドレスからではあるけれども、GMが業務の対応を任せたチームリーダーと共に文章を作成して、チームリーダーの承認のもと、メールで送信したものである。
カ 上記オに加えて補足を述べると、「自分の業務の省力化を最優先させ問題を引き起こす傾向」という上記エのコメントについては、原告が保有する「JDLA Deep Learning for ENGINEER」等の資格で示されるとおり、原告は、以前からIT関連に関して知見があり、その知見を活用して業務の省力化を図ったものである。上司のコメントは、その省力化を原因として、どのような問題が発生したのかを示していない。
キ 以上のとおり、被告においては、業務プロセスがかかわるトラブルが発生した際、特定の個人の問題以外の原因を究明することなく、特定の個人に問題があることがトラブルの原因とする記録をすることが可能な状況である。
ク さらに、「使用者が、労働者の人事評価をするに際して、逐一、その裏付けとなる具体的な根拠事実を示す義務があるなどとは解されない(乙332)」から、被告の人事評価制度において、特定の個人に問題があることがトラブルの原因であることを補足するような記録として、根拠なく個人に問題があるとするコメント、抽象的に個人に問題があるとするコメント又は個人の人間性に問題があるとするコメントを記録することが可能な状況である。
ア 経費支払業務の際に請求内容の疑問について契約内容を確認するという業務プロセスは、一般的な作業である。
原告が上司Aに対して本件支払手続により本件豪州企業にGSTを支払っていたことを報告した際、これに対する上司の説明には、被告と本件豪州企業との契約内容から本件GSTを支払う義務があるかどうかについて確認する意向が認められなかった。(甲4)
経費支払業務の際に契約内容を確認するという業務プロセスが行えない状況は、支払う義務がない金銭を支払うトラブルが発生するおそれが存在する状況である。
イ 上記 ⑵ で述べたとおり、被告においては、業務プロセスがかかわるトラブルが発生した際、特定の個人の問題以外の原因を究明することなく、特定の個人に問題があることがトラブルの原因とする記録をすることが可能な状況である。
ウ さらに、上記 ⑵ で述べたとおり、被告においては、特定の個人に問題があることがトラブルの原因であることを補足するような記録として、根拠なく個人に問題があるとするコメント、抽象的に個人に問題があるとするコメント又は個人の人間性に問題があるとするコメントを記録することが可能な状況である。
エ 以上の状況のなか、原告が本件内部通報制度に相談したところ、上記 ⑴ で述べたとおり、被告が従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を把握した後の被告の行為は、行動基準及び本件規程に違反する行為であった。
オ 原告は、被告の行動基準違反及び本件規程違反によって、業務プロセスに問題があることによりトラブルが発生するおそれが存在する状況の際に解決策がないという不安を抱かざるを得ないという精神的損害を被った。
よって、被告について、債務不履行に基づく責任又は不法行為に基づく責任が成立し、原告は、被告に対して、1円の支払いを求める。
⑴ 既判力が本件訴訟に及ばす、実質的な蒸し返しにも当たらない
ア 前回訴訟における前回訴訟争点1に係る損害賠償請求の訴訟物は、原告が既に述べ、被告も認めるとおりであるところ、前回訴訟控訴審判決は、本件内部通報制度における調査は通報者のためにされるものではないから、被告の調査等の対応に関し、原告に対する信義則上の義務違反があったということはできないとした判決である。(注33)
イ 一方で、本件訴訟における原告の主張は、被告が、本件規程1.2 ⑸ に定める通報を受けて本件規程1.2 ⑼ に定める調査を実施した結果、本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていなかったという事実、すなわち、法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実の存在を把握し、当該事実に対する是正措置、再発防止策又は対応策として、被告が本件豪州企業からGSTを請求されないための何かしらの措置、及び「豪州国外の顧客に対するサービス提供費用には、豪州GSTを課さない。なお、≪ 本件豪州企業 ≫ がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する。」という表示のある契約を結ぶという本件契約の措置を実行したという事実が存在したところ、被告に、
● 違反A 原告に対して従業員の業務遂行にかかわる法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を伏せた行為、
● 違反B 是正措置及び再発防止策等に関して「事実に基づき、正確に、遺漏なく」作成されたとはいえない情報を通知した行為、及び
● 違反C 法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実に対する徹底した原因究明及び効果的な再発防止策を実行しなかった行為
が存在したことにつき、被告において、行動基準1項の ⑴ 、11項の ⑶ 、12項の ⑶ 、14項の ⑶ 、本件規程3.5及び3.6 ⑴ 違反が存在することである。
ウ したがって、本件訴訟訴訟物は、前回訴訟控訴審判決の既判力の生じた訴訟物と同一関係になく、また、本件訴訟における原告の主張が実質的な蒸し返しにも当たらないことは明らかである。
エ また、被告が通報を受け付けた後に調査を実施しない場合の違反、及び被告が法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実を把握した後に通知及び再発防止策等を実行しない場合の違反は、同一の通報(本件通報)に関する対応事項であっても、それぞれ互いに独立した関係であるため、それぞれ別個の違反であることからしても、本件訴訟訴訟物は、前回訴訟控訴審判決の既判力の生じた訴訟物と同一関係にない。
オ また、原告が既に述べたとおり34、本件訴訟訴訟物が前回訴訟控訴審判決と矛盾関係にある場合に当たらず、前回訴訟控訴審判決が本件訴訟の訴訟物の先決関係にある場合にも当たらない。
カ よって、前回訴訟控訴審判決の既判力は本件訴訟に及ばず、原告の主張が既判力によって遮断されることはない。また、本件訴訟における原告の主張は、前回訴訟の実質的な蒸し返しにも当たらない。
ア まず、そもそも、上記 ⑴ で述べたとおり、本件訴訟における原告の主張は、前回訴訟の実質的な蒸し返しに当たらない。
イ この点をおくとしても、原告が、前回訴訟において、本件訴訟における訴訟物と同様の主張をして一回的解決を図ることは、困難であった。
ウ 調査補助者は、原告に対して社内SNS投稿について回答した際、被告と本件豪州企業との契約内容について、2015年(平成27年)に締結されたものと本件契約の措置によって締結されたものとの違いを通知することにとどめており、契約内容にGST等に関する表示が追加された理由及び本件支払手続で支払をした本件GSTの支払が契約内容に基づいていたのか否かに関して通知していなかった。(注35)
エ 「実際には、被告は、是正措置、再発防止策又は対応策を実行したのではないか」という仮説を立てた場合に、原告第1準備書面第2の1 ⑶ 「表6.被告と本件豪州企業との間で締結した契約に関する経緯」(13頁以下)で示しているとおりに辻褄が合うところ、甲21における調査補助者による通知の内容は、時系列表を作成するなどして綿密に分析をしないと、両契約の違いの理由が浮かび上がってこないような態様である。(注36)
オ 調査補助者は、令和元年12月20日、原告に対し、「当社と ≪ 本件豪州企業 ≫ 間の契約書について確認するように再三お求めですが、これを行う必要はないものと判断しています(甲25の5)」、「契約書上のGST条項の有無や記載内容については、結論に関係がありませんのでお調べしません(甲25の5)」及び「契約書を確認するという行為は、先に述べた通り対応として意味がない行為です(甲25の5)」等を通知していた。(注37)
カ 原告は、上記オの調査補助者による通知の内容を言葉どおりに受け取っていたため、前回訴訟において、本件規程に定める対応事項のうち、「調査をせず、あるいは不十分であったこと」等について信義則上の義務違反の存在を主張した。(注38)
キ 被告が、令和3年5月26日に、原告に対して、訴訟に関する全ての行為についてオフィススペース及び会社貸与パソコン等を使用することを禁じていたことは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりである。(注39)
ク 原告が前回訴訟を提起する前に、甲21における調査補助者による通知の内容を分析することができたとはいえ、そのためには、前回訴訟を提起する前に、上記オの調査補助者による通知の内容の真偽を疑う過程が必要である。しかしながら、原告が調査補助者による通知の内容について逐一真偽を疑うべきとはいえない。
ケ 被告訴訟代理人が令和3年8月31日に、原告に対して「就業時間外に、会社から貸与を受けているPC端末等を利用することなく、御自身の私用の端末のみを利用して、御自身の御記憶を頼りに、準備書面の作成、証拠の準備等を行っていただくほかないことになります。」と伝えたけれども、記憶を頼りに準備書面の作成、証拠の準備等を行うことは現実的ではない。
コ なお、原告は、前回訴訟における上告受理の申立てをした後に、前回訴訟争点1の「役員等への報告を適正に行っていなかったこと(乙340)」について、本件通報が本件規程2.3に定める相談ではなく本件規程1.2 ⑸ に定める通報であると伝えられたことを僅かに思い出したため、通報者に対する義務を負わないとしても、本件規程1.1に定める不正行為等に該当するのではないかと考えてメールファイルを確認したところ、甲7の2及び甲21の3を発見した。
サ 前回訴訟の過程において、被告が、令和4年6月7日付の「文書送付嘱託の申立てに対する意見書」において、原告の主張に理由があるか否かの認定に影響を及ぼさないことを理由に、契約内容等について証拠調べの必要性の不存在を主張していた。そして、「具体的に何を調査したのか、及び何を調査しなかったのか」が明らかになっていないことは、原告が既に述べ、被告も認めるとおりである。(注41)
シ 前回訴訟に関しては以上のとおりであったことから、原告が、前回訴訟において、本件訴訟における訴訟物と同様の主張をして一回的解決を図ることは、困難である。
ス よって、本件訴訟における原告の主張は、前回訴訟の実質的な蒸し返しにも当たらないことはもちろんのこと、信義則に反せず、許される。
被告の令和6年5月23日付の「被告準備書面(2)」の第2における被告の主張に対する原告の認否は、以下のとおりである。また、被告が否認している箇所について、部分的に補正する。
特に認否しない。
第2の1 ⑵ イの第2段落以下について、「答弁書にも」から「同一である。」まで(4頁及び5頁)については、争う。
被告の従業員が内部通報制度の通報窓口に通報をしたときに、被告にどのような義務を負う場合があるのかについての原告の主張は、上記第1の1のとおりである。
また、被告の従業員が内部通報制度の通報窓口に通報をしたときに、信義則上の義務を負う場合があるのか否かについての原告の主張は、原告第1準備書面第2の1 ⑴ のとおりである。
前回訴訟における前回訴訟争点1に係る損害賠償請求、及び本件訴訟における損害賠償請求が同一関係にあるのか否かについての原告の主張は、上記第1の6 ⑴ のとおりである。
第2の1 ⑵ について、上記以外については、特に認否しない。
原告第1準備書面第2の1 ⑶ 第1段落(12頁22行目以下)の「前回訴訟において把握できなかった情報は、」を「前回訴訟において、原告及び被告が裁判所に提出した準備書面及び書証から把握できなかった情報は、」に改める。
第2の1 ⑶ イの第2段落について、「表6に記載する事実のうち下線部分の事実は」以下(6頁13行目以下)については、否認ないし争う。
被告が法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を把握していたことは、上記第1の3 ⑴ のとおりである。これにより、被告は、被告が本件豪州企業からGSTを請求されないための何かしらの措置、及び本件契約の措置を実行した。
第2の1 ⑶ について、上記以外については、特に認否しない。
原告第1準備書面第2の1⑷ 第2段落(14頁21行目以下)の「何かしらの措置又は本件契約の措置を実行したことを知らされない状況であった。」を「被告が何かしらの措置又は本件契約の措置を実行した時期又は検討した時期に、これを知らされない状況であった。」に改める。
第2の1 ⑷ アの第2段落について、「原告の主張するような」以下(6頁18行目以下)については、否認ないし争う。
第2の1 ⑷ について、上記以外については、特に認否しない。
原告第1準備書面第2の1 ⑸ 第6段落16頁3行目以下の「前回訴訟主要事実について、信義則違反であるか又は本件規程違反であるかという法的観点の指摘をしていない。」を「紛争の一回的解決という観点から、信義則違反であるか、または本件規程違反であるかという法的観点の指摘をしていない。」に改める。
第2の1 ⑸ エの第2段落について、「ただし」以下(8頁)の裁判所が原告の文書送付嘱託の申立てを却下したことについては、不知である。
第2の1 ⑸ オの第2段落について、「確定した」以下(8頁)の被告が通報者に対して調査の内容を提示する必要があるか否かについては、争わない。
第2の1 ⑸ カの第2段落について、「前回訴訟第一審判決及び」以下(9頁)については、認める。
第2の1 ⑸ キの第2段落について、「それによって原告のいうところの」から「困難ではなかったはずである。」まで(10頁4行目以下)については、否認ないし争う。その余は、認める。これに対する原告の主張は、上記第1の6 ⑵ のとおりである。
第2の1⑸ について、上記以外については、特に認否しない。
第2の2 ⑴ オの第2段落について、「労働契約法」以下(11頁)の本件規程が労働者の「労働条件」を定めているものであるのか否かについては、争わない。
被告は、「労働条件に関わる」という原告の主張を曲解して、「本件規程は、労働者の「労働条件」を定めているものではない。」と主張しているが、原告は、本件規程について、すなわち、本件内部通報制度における活動について、労働者の側からは職場環境の改善の側面があり、労働条件にかかわりがあることを主張している。
第2の2 ⑴ について、上記以外については、特に認否しない。
特に認否しない。
第2の2 ⑶ ウの第2段落について、「とすれば、」から「とはいえない。」まで(13頁1行目以下)については、否認ないし争う。その余は、認める。
本件支払手続に係る支払の内容が契約条項又は租税条約などの法令等に基づいていたのか否かという調査事項を調査することは、まさしく、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の有無の判断に影響する事実を確認することである。一方で、上記第1の3 ⑵ のとおり、被告は、原告に対し、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の有無の判断に影響しない事実について調査した結果を通知していたのであり、被告の行為は、不合理かつ悪質である。
第2の2 ⑶ について、上記以外については、特に認否しない。
特に認否しない。
第2の2 ⑸ エの第2段落について、「「コンプライアンス」以下(14頁)については、被告が「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」が存在しない旨を通知したつもりであったのであれば、被告がその通知をしたつもりであったことを認める。
第2の2 ⑸ カの第2段落について、「答弁書にも」以下(15頁)については、否認ないし争う。
被告が法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を把握していたことは、上記第1の3 ⑴ のとおりである。また、被告が本件規程3.6 ⑴ に定める通知をする義務があることは、上記第1の1 ⑶ のとおりである。
第2の2 ⑸ について、上記以外については、特に認否しない。
特に認否しない。
以上
07 第2回口頭弁論#
令和6年5月27日 11時30分
06 被告準備書面(2)#
被告準備書面(2)
令和6年5月23日
東京簡易裁判所民事第5室6係B 御中
目次
≪ 中略 ≫
本書に用いる用語の意味は、本書に別段の定義のない限り、被告の令和6年4月19日付の「被告準備書面(1)」(以下「被告準備書面(1)」という。)までの被告の主張書面に定義するところによる。
原告の令和6年5月17日付の「原告第1準備書面」(以下「原告第1準備書面」という。)の第2における原告の主張に対する被告の認否は、以下のとおりである。
1 第2の1(本件訴訟における・・・遮断されないこと)(10頁以下)について
⑴ 第2の1⑴(答弁書における・・・解釈にすぎない)(10頁以下)について
ア 第1段落(「被告は、本件訴訟における」以下)(10頁)について
争う。
イ 第2段落(「最高裁平成30年」以下)(10頁)について
争う。
ウ 第3段落(「そして」以下)(10頁)について
認める。
エ 第4段落(「そこで」以下・表5を含む。)(10頁以下)について
争う。
オ 第5段落(「被告における」以下)(11頁)について
被告には、本件内部通報制度の運用を定める本件規程が存在していること、本件通報が、不正行為等によって直接被害を受けた者が不正行為等を通報した場合ではないことについては、それぞれ認めるが、その余は、事実上の主張については否認し、法律上の主張については争う。
力 第6段落(「よって」以下)(11頁)について
意味が不明であるため、認否を留保する。
⑵ 第2の1(2)(原告の主張が・・・遮断されることはない)(11頁以下)について
ア 第1段落(「本件規程に」から「既判力が生じている。」まで)(11頁以下)について
認める。
イ 第2段落(「前回訴訟控訴審判決の」以下)(12頁)について
争う。
答弁書にも述べたとおり(注1)、本件規程は、会社組織内における自律的な規範にとどまるものであって、被告と従業員の間に直接の権利義務又は債権債務を生ぜしめるものではない。本件規程が被告と従業員の間に何らかの権利義務関係を生ぜしめるとすれば、本件規程によって(被告に内部通報制度が設けられることによって)、被告の従業員が内部通報制度の通報窓口に通報をしたときに、当該通報の具体的状況の如何によっては、被告が、当該従業員に対し、当該通報を受け、体制として整備された仕組みに基づいて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合がある、というものである。
とすれば、原告が「前回訴訟主要事実」として掲げる各事実も、それぞれが個別に被告が従業員たる原告に対して負う義務に違反したこと又は被告が従業員たる原告に対して負う債務を履行しなかったことを意味するものではない。むしろ、被告が、従業員たる原告からの本件通報を受けて、原告に対し、前述のような信義則上の義務を負っていた可能性があるところ、原告が「前回訴訟主要事実」として掲げる各事実は、当該信義則上の義務の違反の評価根拠事実となりうるにとどまるし、同様に、原告が「本件訴訟主要事実」として記載する各事実も、原告のいう「前回訴訟主要事実」と同一の通報(本件通報)に関するものである以上は、同一の信義則上の義務の違反の評価根拠事実を新たに追加するものにとどまる。
よって、答弁書にも述べたとおり(注2)、前回訴訟における前回訴訟争点1に係る損害賠償請求も、本件訴訟における損害賠償請求も、被告が原告に対して本件通報に関して負っている同一の信義則上の義務に違反したことを理由として、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求するものであるから、訴訟物は同一である。
ウ 第3段落(「そして」以下)(12頁)について
争う。
工 第4段落(「さらに」以下)(12頁)について
争う。
オ 第5段落(「以上により」以下)(12頁)について
争う。
力 第6段落(「よって」以下)(12頁)について
争う。
⑶ 第2の1(3)(甲21の3の・・・事実について)(12頁以下)について
ア 第1段落(「本件訴訟で」以下・引用部分を含む。)(12頁以下)
甲第21号証の3が前回訴訟において書証として提出されていなかったこと、甲第21号証の3の電子メールに、原告の引用する内容の記載があることは、それぞれ認めるが、その余は、否認する。
イ 第2段落(「被告と」以下・表6を含む。)(13頁以下)について
表6に記載する事実のうち下線部分以外の事実は認めるが、その余は、事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
表6に記載する事実のうち下線部分の事実は、原告の主張するような因果関係によるものではないし、原告の主張するような「推定」も働かない。
⑷ 第2の1(4)(原告における・・・関係について)(14頁以下)について
ア 第1段落(「表6で」以下)(14頁)について
事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
原告の主張するような因果関係によるものではないし、原告の主張するような「推定」も働かない。
イ 第2段落(「しかし」以下)(14頁)について
原告のいう「本件調査対応協議」が実施されたこと、原告のいう「GST業務移管通知」がなされたこと、GST業務移管通知に基づく業務移管によって、原告は被告と本件豪州企業の間で締結した契約に関する情報から遮断された状態になったことは、それぞれ認めるが、その余は、不知であり又は否認する。
ウ 第3段落(「さらに」以下)(14頁)について
認める。
エ 第4段落(「甲21の3に」以下)(15頁)について
認める。
オ 第5段落(「上記の状況であったため」以下)(15頁)について
不知である。
⑸ 第2の1(5)(本件訴訟における・・・許される)(15頁以下)について
ア 第1段落(「甲21の3に」以下)(15頁)について
甲第21号証の3が前回訴訟において証拠として提出されていないこと、被告が原告に対して私的な訴訟の追行のためにオフィススペース、会社貸与パソコン等を使用することを禁止していたことは、それぞれ認めるが、その余は、不知である。
イ 第2段落(「確かに」以下)(15頁)について
認める。
ウ 第3段落(「原告は」以下)(15頁)について
認める。
エ 第4段落(「これに対し」以下)(15頁)について
認める。
ただし、被告が前回訴訟において被告と本件豪州企業の間の契約書を送付しなかったのは、前回訴訟の第一審の裁判所が令和4年10月27日の第8回弁論準備手続期日において原告の文書送付嘱託の申立てを却下したからである。
オ 第5段落(「本件調査に係る」以下)(15頁以下)について
認める。
確定した前回訴訟控訴審判決も判示するとおり、「本件規程上、調査とは、通報情報に関する事実を確認するための調査と定義され(〔本件規程〕1.2(9))、これは法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の確認を目的とするものと解される((本件規程)3.5参照)から、必ずしも上記各事実の判断に影響しない事実までもが調査の対象になるとは解されず、また、調査の具体的方法についても、通報者の希望に沿って行うなどとも規定されていないから、被告の合理的裁量に委ねられている」のであるから(注3)、被告は、本件通報に関する調査についても、原告に対し、「具体的に何を調査したのか、及び何を調査しなかったのか」を提示する必要もなかった。
カ 第6段落(「そして」以下)(16頁)について
前回訴訟の第一審及び控訴審の各裁判所が原告のいう「本件調査」に係る調査事項について釈明権を行使しなかったことは認めるが、その余は否認する。
前回訴訟第一審判決及び前回訴訟控訴審判決のいずれも、原告の主張する事実として原告のいう「前回訴訟主要事実」を明示的に摘示したうえ(注4)、原告のいう「前回訴訟主要事実」のそれぞれについて、「信義則上の義務違反があったということはできない」(注5)、「信義則上の義務違反であるなどとは到底いえない」(注6)、「信義則上の義務違反があったものとすることはできない」(注7)などと明示的に判示している。
キ 第7段落(「前回訴訟における」以下)(16頁)について
争う。
原告による被告の社内SNSにおける2020年(令和2年)3月27日の投稿(甲第21号証の1)、被告の調査補助者から原告に対する同年6月25日付の「社長SNS『大田さんの輪』への投稿内容に関する回答について」と題する文書(甲第21号証の1)、原告から被告の調査補助者に対する同月29日発信の電子メール(甲第21号証の2)、及び被告の調査補助者から原告に対する同年7月9日付の「2020年6月29日付Eメールへの回答」と題する文書(甲第21号証の3)での遣り取りは、原告が被告の調査補助者に対して被告と本件豪州企業の間の契約書の記載内容について繰り返し質問をし、被告の調査補助者がこれに回答するというものとなっていたのであるから、原告は、かかる遣り取りを通じて、被告と本件豪州企業の間の契約の記載内容について、2015年(平成27年)に締結されたものと2018年(平成30年)に締結されたものとの違いを明確に認識したはずであり、それによって原告のいうところの「是正措置、再発防止策又は対応策」を「実行した」(注8)という事実も当然認識できたはずである。そして、原告が前回訴訟を提起したのは令和3年5月31日であるから、前回訴訟において原告のいう「本件訴訟主要事実」(原告に対して是正措置、再発防止策又は対応策を実施したとの通知をしなかったという事実(本件規程3.6(1)イ又はウの違反))を主張することも、全く困難ではなかったはずである。
ク 第8段落(「よって」以下)(16頁)について
争う。
2 第2の2(被告について・・・成立すること)(16頁以下)について
⑴ 第2の2⑴(本件規程を・・・債務の存在)(16頁以下)について
ア 第1段落(「被告は」以下)(16頁)について
認める。
イ 第2段落(「本件内部通報制度が」以下)(16頁)について
一般論としては認める。
ウ 第3段落(「労働契約法第7条により」以下)(16頁)について
一般論としては認める。
エ 第4段落(「労働基準法第89条の」以下)(16頁)について
争う。
オ 第5段落(「本件規程も」以下)(16頁)について
争う。
労働契約法第7条にいう「就業規則」と労働基準法第89条にいう「就業規則」とは同じものを意味すると解され(注9)、労働契約法第7条によれば、就業規則は、「労働条件が定められている」ものであることを要すると解されるところ、本件規程は、労働者の「労働条件」を定めているものではない。
力 第6段落(「仮に本件規程の」以下)(17頁)について
争う。
⑵ 第2の2(2)(本件規程に定める・・・について)(17頁以下)について
ア 第1段落(「本件規程1.2(9)では」以下)(17頁)について
認める。
イ 第2段落(「ここで」から「3つであった」まで)(17頁)について
特に争わない。
ウ 第3段落(「上記のうち」以下)(17頁)について
特に認否しない。
⑶ 第2の2(3)(「通報情報に・・・調査」についての考察)(17頁以下)について
ア 第1段落(「原告は」以下)(17頁)について
認める。
イ 第2段落(「これに対し」以下)(17頁以下)について
認める。
ウ 第3段落(「原告と調査補助者との」以下)(18頁)について
事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
確定した前回訴訟控訴審判決も判示するとおり、「被告の内部通報における調査等は、基本的に、不正行為等を早期に発見、是正して被告等の業務の適正化を図るためのもの」であり(注10)、「本件規程上、調査とは、通報情報に関する事実を確認するための調査と定義され(〔本件規程〕1.2(9))、これは法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の確認を目的とするものと解される(〔本件規程〕3.5参照)から、必ずしも上記各事実の判断に影響しない事実までもが調査の対象になるとは解され」ない(注11)。とすれば、原告のいう「本件支払手続」をした行為に関する調査事項にも、当然には「支払の内容が契約条項又は租税条約などの法令等に基づいていたのか否かについて確認する事項が含まれていた」とはいえない。
⑷ 第2の2(4)(「通報情報に・・・調査」についての考察、つづき)(19頁)について
ア 第1段落(「被告も」以下)(19頁)について
第1文(「被告も」以下)は認めるが、第2文(「このような状況のなかで」以下)は、事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
イ 第2段落(「売買契約において」以下)(19頁)について
第1文(「売買契約において」以下)は認めるが、第2文(「一方で」以下)は、事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
ウ 第3段落(「仮に」以下)(19頁)について
争う。
⑸ 第2の2(5)(本件規程3.6(1)に違反する行為の存在)(20頁以下)について
ア 第1段落(「本件支払手続を」以下)(20頁)について
被告と本件豪州企業の間で締結した契約において役務提供対価にGSTを課す旨の定めが存在していなかったこと、被告が本件通報及び原告のいう「調査補助者に対する追加通報」を受けた後に、調査補助者が原告のいう「上司A」と原告のいう「本件調査対応協議」をしたこと、「本件調査対応協議」の後に、被告と本件豪州企業の間で締結した契約において役務提供対価にGSTを課さない旨の定めが置かれたことは、それぞれ認めるが、その余は、事実上の主張については否認し、法律上の主張については争う。
イ 第2段落(「以上により」以下)(20頁)について
事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
原告の主張するような事実は存在しないし、原告の主張するような「推認」も相当でない。
ウ 第3段落(「本件規程3.6(1)アに」以下)(20頁)について
認める。
エ 第4段落(「この点」以下)(20頁)について
否認する。
「コンプライアンス違反ではない」又は「いずれも不正行為等に該当しない」との調査結果を報告することは、まさしく「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」が存在しない旨を通知するものにほかならない。
オ 第5段落(「取引上の社会通念に照らすと」以下)(21頁)について
事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
力 第6段落(「以上より」以下)(21頁)について
意味が不明であるが、少なくとも結論については争う。
答弁書にも述べたとおり(注12)、本件通報に関する調査結果は、「法令等に違反する事実が確認された場合」又は「法令等に違反するおそれのある事実が確認された場合」のいずれでもなかったのであるから、本件通報について、本件規程3.6(1)イ及びウに基づく通知は必要でない。
キ 第7段落(「よって」以下)(21頁)について
争う。
不知である。
⑺ 第2の2(7)(被告の責任)(22頁)について
争う。
以上
05 原告第1準備書面#
原告第1準備書面 目次
⑵ 訴状において定義した「本件通報」という用語の意味の変更について
⑶ 「本件通報」及び「本件通報に係る情報」を区別することについて
⑴ 答弁書における ④ → ④´ の対応付けは、被告独自の解釈にすぎない
⑷ 原告における情報把握の状況と前回訴訟主要事実との関係について
2 被告について債務不履行又は不法行為に基づく責任が成立すること
⑴ 本件規程を定めて本件内部通報制度を整備したことによる債務の存在
⑵ 本件規程に定める「通報情報に関する事実を確認するための調査」について
⑶ 「通報情報に関する事実を確認するための調査」についての考察
原告第1準備書面
令和6年5月17日
東京簡易裁判所民事第5室6係B 御中
目次
≪ 中略 ≫
本書に用いる用語の意味は、本書に別段の定義のない限り、本件規程及び原告の訴状に定義するところによる。同様に、上記の書面に別段の定義のない限り、被告が定義する用語の意味を用いる。
また、原告及び上司Aが平成27年4月1日から平成30年3月31日に所属していた部署を以下「本件事業部」又は「本件グループ」といい、被告の豪州子会社を以下、単に「豪州子会社」という。引用文の一部で「≪ 本件豪州企業 ≫」のように示している表記は、固有名詞の伏せ字を意味する。
「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」5頁の注釈5には、「内部公益通報を「受け付ける」とは、内部公益通報受付窓口のものとして表示された連絡先(電話番号、メールアドレス等)に直接内部公益通報がされた場合だけではなく、例えば、公益通報対応業務に従事する担当者個人のメールアドレス宛てに内部公益通報があった場合等、実質的に同窓口において内部公益通報を受け付けたといえる場合を含む。」と記載されている。
本件規程3.4 ⑵ では、法務部長を「対応者」というと定め、対応者たる法務部長が調査を行うにあたり、調査を補助する者として選任した者が「調査補助者」であると定めている。そして、本件規程3.4 ⑶ では、対応者たる法務部長及び選任された調査補助者は、通報情報を相互に開示する旨が定められている。実務上としても、被告も認めるとおり1、被告は、被告が本件規程2.1 ⑴ アに定める法務部長宛の電子メールアドレスに対する通報を受け付けた後の対応について、通報情報の追加を通報する宛先を調査補助者のみにするように制限している(甲6)。
すなわち、調査過程などにおいて調査補助者に対して通報情報の追加を告げる行為は、本件規程1.2 ⑹ に定める「2.1の通報窓口に対してなされた通報」と実質的に同じである。
以上により、調査過程などにおいて調査補助者に対して告げた通報情報は、本件規程1.2 ⑹ に「通報情報とは、2.1の通報窓口に対してなされた通報にかかる情報をいう。」と定める「通報情報」と実質的に同じである。
⑵ 訴状において定義した「本件通報」という用語の意味の変更について
訴状においては、「本件通報」という用語の意味を、「本件GSTの支払いに関連する事実、疑念、確認事項又は疑問事項などの情報を通報する通報を総称して「本件通報」という。」と定義していた2。一方で、答弁書においては、平成28年9月14日に通報した通報のみを意味するようである3。
上記 ⑴ のとおり、調査過程などにおいて調査補助者に対して通報情報の追加を告げる行為は、本件規程1.2 ⑹ に定める「2.1の通報窓口に対してなされた通報」と実質的に同じであるけれども、本件訴訟における混乱を避けるために、本書以降に用いる「本件通報」という用語の意味を答弁書に定義する用語の意味に変更する。
⑶ 「本件通報」及び「本件通報に係る情報」を区別することについて
本件規程においては、通報する行為である「通報」、及び通報に係る情報である「通報情報」を区別している。同様に、公益通報者保護法においても、「公益通報」及び「通報対象事実」を区別している。
本件規程に定める対応事項は、通報者や通報という行為に対する対応(通報の受付及び調査結果の通知等)、及び通報情報という行為に係る内容に対する対応(調査、是正措置、再発防止策及び対応策)がある。そのため、「本件通報の調査」、「本件通報について報告」又は「本件通報について対応」というような表現をしてしまうと、紛らわしい表現又は不正確な表現になりやすい。
上記の理由により、被告に対しては、本件規程又は公益通報者保護法等と同様に、「本件通報」及び「本件通報に係る情報」を区別して主張することを求める。
用語 | 用語の意味 | |
---|---|---|
ア | 「本件通報」 | 原告が平成28年9月14日に、本件規程2.1⑴ に定める本件内部通報制度の社内通報窓口の電子メールアドレス宛に本件規程1.2 ⑸ に定める「通報」をした行為をいう。(乙2) |
イ | 「追加通報」 | 原告が平成30年11月27日に、本件規程2.1 ⑴ に定める本件内部通報制度の社内通報窓口の電子メールアドレス宛に本件規程1.2 ⑸ に定める「通報」をした行為をいう。(乙9) |
ウ | 「調査補助者に対する追加通報」 | 原告が平成28年10月3日から平成29年7月31日及び平成30年12月12日から令和2年1月24日に、調査補助者に対して本件規程1.2 ⑸ に定める「通報」をした行為をいう。(甲8ないし18、22、23及び25) |
エ | 「本件調査」 | 被告が本件通報、追加通報及び調査補助者に対する追加通報に対して本件規程1.2 ⑼ に定める「調査」を実施した行為を総称していう。 |
オ | 「本件調査報告1」 | 被告の法務グループが平成29年8月14日に、原告に対して本件規程3.6 ⑴ に定める「調査結果等の通知・報告」をした行為をいう。(乙11) |
カ | 「本件調査報告2」 | 被告の法務2グループが令和元年10月25日に、原告に対して本件規程3.6 ⑴ に定める「調査結果等の通知・報告」をした行為をいう。(乙12) |
キ | 「本件是正措置等」 | 被告が本件調査を実施したことにより確認された法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実に対する本件規程3.6 ⑴ イ又はウに定める是正措置、再発防止策又は対応策を総称していう。 |
用語 | 用語の意味 | |
---|---|---|
ア | 「本件支払手続」 | 原告が平成27年11月6日に、本件豪州企業に対してコンサルタントの役務対価と本件GST 75,473.10 豪ドルを合わせた金額 836,601.06 豪ドルを支払うための手続をした行為をいう。(甲3) |
イ | 「還付手続対応説明」 | 上司Aが平成28年3月31日に、原告に対して本件支払手続に係る支払の内容に関する対応事項を説明した行為をいう。なお、説明に係る内容は甲4に記載する内容である。(甲4) |
ウ | 「本件調査対応協議」 | 調査補助者が平成29年2月7日に、本件調査のなかで、上司Aと協議した行為をいう。なお、原告は、協議に係る具体的な内容を知らされていない。(甲15の2及び乙34) |
エ | 「GST業務移管通知」 | 本件グループの担当者が平成29年3月9日に、GSTの業務を本件グループから他のグループに移管する旨を通知する電子メールを送信した行為をいう。なお、GSTの業務とは、具体的にどのような業務を指すのかは、未だに、不明である。(乙35) |
オ | 「何かしらの措置」 | 被告が平成29年4月に、被告が本件豪州企業からGSTを請求されないための措置を実行した行為をいう。なお、ここでいう「何かしら」とは、措置の実行に係る合理的6かつ具体的な内容をいう。原告は、措置の実行に係る合理的かつ具体的な措置の内容を知らされていない。(甲21) |
カ | 「金銭の流れが一部不明瞭な送金」 | 豪州子会社が平成29年7月31日に、被告に対して79,315.52 豪ドルを送金した行為をいう。(甲27) |
キ | 「本件契約の措置」 | 被告が平成30年9月13日に、「豪州国外の顧客に対するサービス提供費用には、豪州GSTを課さない。なお、本件豪州企業がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する。」という定めが存在する被告と本件豪州企業との間の本件契約を締結した行為をいう。なお、被告と本件豪州企業との間で締結した契約には、本件契約が締結されるまでの間、GSTに関する定めは存在していなかった。(甲21) |
ク | 「社内SNS投稿」 | 原告が令和2年3月27日に、本件SNSに対して投稿した行為をいう。なお、投稿に係る内容は甲26に記載する内容である。(甲26) |
ケ | 「本件通知」 | 調査補助者が令和2年6月25日及び同年7月9日に、原告に対して、本件契約に係る契約の内容、本件契約の措置を実行する前に被告と本件豪州企業との間で締結した契約の内容、及び本件豪州企業が被告に対してGSTを請求していたのは平成29年4月までであった事実を、社内SNS投稿に係る内容に対する回答として通知する電子メールを送信した行為をいう。(甲21) |
年月日 | 用語 | 訴訟番号 | |
---|---|---|---|
ア | 平成27年11月16日 | 「本件支払手続」 | 甲3 |
イ | 平成28年3月31日 | 「還付手続対応説明」 | 甲4 |
ウ | 平成28年9月14日~ 平成29年7月31日 |
「本件通報」及び「調査補助者に対する追加通報」 | 乙2及び甲8ないし18 |
エ | 平成29年2月7日 | 「本件調査対応協議」 | 甲15の2及び乙37 |
オ | 平成29年3月9日 | 「GST業務移管通知」 | 乙38 |
カ | 平成29年4月 | 「何かしらの措置」 | 甲21 |
キ | 平成29年7月31日 | 「金銭の流れが一部不明瞭な送金」 | 甲27 |
ク | 平成29年8月14日 | 「本件調査報告1」 | 乙11 |
ケ | 平成30年9月13日 | 「本件契約の措置」 | 甲21 |
コ | 平成30年11月27日~ 令和2年1月24日 |
「追加通報」及び「調査補助者に対する追加通報」 | 甲22、23、25及び乙9 |
サ | 令和元年10月25日 | 「本件調査報告2」 | 乙12 |
シ | 令和2年3月27日 | 「社内SNS投稿」 | 甲26 |
ス | 令和2年6月25日及び令和2年7月9日 | 「本件通知」 | 甲21 |
原告の主張 | 被告の主張 | ||
---|---|---|---|
ア | 本件規程1.2 ⑸ に定める「通報」について | 本件通報(乙2)、追加通報(乙9)及び調査補助者に対する追加通報(甲8ないし18、22、23及び25)。 | 本件通報(乙2)及び追加通報(乙9)。 |
イ | 本件規程1.2 ⑹ に定める「通報情報」について | 上記の通報に係る情報。 | 上記の通報に係る情報。 |
ウ | 本件規程1.2 ⑼ に定める「通報情報に関する事実」について | 本件支払手続(甲3)、他。 | 不明。 |
エ | 本件規程1.2 ⑼ に定める「調査」に係る調査事項について | 本件支払手続(甲3)に係る支払の内容が契約条項又は租税条約などの法令等に基づいていたのか否かについて確認する事項が含まれていたと推定される。 | 不明。 |
オ | 本件規程3.6 ⑴ に定める「調査結果等の通知・報告」について | 本件調査報告1(乙11)及び本件調査報告2(乙12)。 | 乙10について、本件規程3.6 ⑴ に定める調査報告であるか否かが不明瞭。 |
カ | 本件規程3.6 ⑴ ア に定める「法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実」の存在について | 本件支払手続(甲3)に係る支払の内容が契約内容に基づいていないという不正行為等の事実が存在した(甲21)。 | 不明。 |
キ | 本件規程3.6 ⑴ イ又はウに定める是正措置、再発防止策又は対応策について | 何かしらの措置及び本件契約の措置を実行した(甲21)。 | 不明。 |
⑴ 答弁書における ④ → ④´ の対応付けは、被告独自の解釈にすぎない
被告は、本件訴訟における原告の主張を合理的に解釈するとして、答弁書において、④ → ④´ の対応付けを示しているものの9、当然ながら、これは、被告独自の解釈にすぎないというべきものである。
最高裁平成30年2月15日第一小法廷判決・集民258号43頁(以下「最高裁平成30年判決」という。)は、相談窓口制度の利用者に対する信義則上の義務を負う場合と、相談窓口制度の運用を定める規程類の存在の有無との関係を示していないところ、本件規程のような社内規程が存在しない場合でも、信義則上の義務違反が適用される可能性があると考えられる。
そして、どのような相談の申出があった場合にいかなる措置を講ずるべきかについては、最高裁平成30年判決以降の類似の裁判例の集積によって、具体的に明らかになっていくと考えられていたところ、前回訴訟第一審判決は、「不正行為等によって直接被害を受けた者等が、不正行為等を通報した場合は格別(最高裁平成30年2月15日第一小法廷判決・集民258号43頁参照)、そうでない限り、被告が、通報者個人に対し、当然に信義則上、調査等をする法的義務を負うということはできないというべきである。」と判示した10。
そこで、上記のふたつの判決から、内部通報制度を整備している会社が、通報に係る通報の内容等に応じて適切に対応していない場合、その違反行為に適用しうる法令等を整理すると、表5(マトリクス表)のとおりである。
表5.内部通報制度における違反行為に適用しうる法令等
不正行為等によって直接被害を受けた者が、不正行為等を通報した場合 | 不正行為等によって直接被害を受けた旨を告げる通報ではない場合 | |
内部通報制度の運用を定める社内規程が存在する場合 | ケース1 信義則及び社内規程の違反を適用 |
ケース3 社内規程違反を適用 |
内部通報制度の運用を定める社内規程が存在しない場合 | ケース2 信義則違反を適用 |
ケース4 - |
被告における法令遵守体制は、本件内部通報制度の運用を定める本件規程が存在している状況である。また、本件是正措置等の実行は、被告が本件支払手続に係る支払の内容に関する契約内容を把握したことにより実行したものであるため、不正行為等によって直接被害を受けた者が、不正行為等を通報した場合ではない。そして、被告は、本件内部通報制度において、通報に係る通報の内容等に応じて適切に対応していないところ、被告の違反行為は、表5のケース3に該当する。
よって、被告の違反行為は、本件規程違反が適用される。
本件規程に定める対応事項のうち、
● 調査をせず、あるいは不十分であったこと
● 調査を実施しない場合の通知をしなかったこと
● 通報情報の厳重な管理を行わなかったこと
● 役員等への報告を適正に行っていなかったこと
● 再度、通報可能であることの通知をしなかったこと
(以上を総称して、以下「前回訴訟主要事実」という。)についての信義則上の義務違反の不存在については、前回訴訟控訴審判決の既判力が生じている。
前回訴訟控訴審判決の既判力の生じた訴訟物は上記のとおりであるのに対し、本件訴訟訴訟物は、被告が、本件規程1.2 ⑸ に定める通報を受けて、本件規程1.2 ⑼ に定める調査を実施した結果、法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実が確認され、当該事実に対する是正措置、再発防止策又は対応策として何かしらの措置及び本件契約の措置を実行したにもかかわらず、被告は、原告に対し、本件規程3.6 ⑴ イ又はウに定める事項を通知しなかったこと(以下「本件訴訟主要事実」という。)についての本件規程違反の存在についてであるところ、同一関係にないことは明らかである。
そして、本件訴訟主要事実は、不正行為等によって直接被害を受けた者が、不正行為等を通報した場合ではないところ、表5でも説明できるとおり、前回訴訟控訴審判決の信義則上の義務違反の不存在と、本件訴訟の本件規程違反の存在は非両立ではなく、本件訴訟訴訟物が前回訴訟控訴審判決と矛盾関係にある場合に当たらない。
さらに、前回訴訟の訴訟物が本件訴訟の訴訟物の前提となっているわけではない以上、前回訴訟控訴審判決が本件訴訟の訴訟物の先決関係にある場合に当たらない。
以上により、前回訴訟控訴審判決の既判力が本件訴訟に作用しない。
よって、前回訴訟控訴審判決の既判力は本件訴訟に及ばず、原告の主張が既判力によって遮断されることはない。
本件訴訟で提出した書証のうち、前回訴訟において提出されなかった証拠は、甲21の3に記載している内容であり、その内容のうち、前回訴訟において、原告及び被告が裁判所に提出した準備書面及び書証から把握できなかった情報は、以下の枠内の下線の部分である。
1 質問:契約書の記載内容A契約
回答:
締結日:2015年1月19日
有効期間:2014年4月1日から2016年3月31日(2年間)。以降いずれか一方当事者からの90日前予告がない限り自動延長。
GST等に関する表示:記載なし
2 質問:契約書の記載内容B契約
回答:
締結日:2018年9月13日
有効期間:いずれか一方の当事者から解約の意思表示がない限りは無期限
GST等に関する表示:豪州国外の顧客に対するサービス提供費用には、豪州GSTを課さない。なお、 本件豪州企業 がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する。
被告と本件豪州企業との間で締結した契約に関する経緯について、上記の枠内の下線の情報を得たことにより推定される事実は、表6の下線部分である。
表6.被告と本件豪州企業との間で締結した契約に関する経緯
平成28年9月14日~ 平成29年7月31日 |
原告が本件通報及び調査補助者に対する追加通報をした。 |
平成29年2月7日 | 調査補助者が本件調査対応協議を実施した。 |
平成29年4月 | 被告は、本件調査対応協議を実施した結果、被告と本件豪州企業との間で締結した契約において役務提供対価にGSTを課す旨の定めが存在しないことを把握し、本件支払手続に係る支払の内容が当該契約に基づいていないという事実を確認したものの、契約終了日まで契約内容の変更ができないため、何かしらの措置を実行した。 これにより、本件豪州企業が被告にGSTを請求していたのは、この時点までであった。 |
平成30年3月31日 | 被告と本件豪州企業との間で締結したGSTに関する定めが存在していない契約の契約終了日(※注)。 |
平成30年9月13日 | この時点では、被告と本件豪州企業との間で、役務提供対価にGSTを課す旨の定めが存在する契約を結ぶことができる状況であったため、本件契約の措置を実行した。 |
※注 甲21の1には、本件契約が締結されるまでの間は、GSTに関する定めが存在していない契約に基づき発注が行われていた旨が記載されている。しかし、乙12の1頁に記載されている内容から、本件豪州企業が関わったプロジェクトは、平成30年3月に終了したと思われる。そのため、契約の自動延長ではなく、契約が終了した可能性がある。
⑷ 原告における情報把握の状況と前回訴訟主要事実との関係について
表6で示した経緯からすると、被告は、本件調査対応協議を実施した結果、被告と本件豪州企業との間で締結した契約において役務提供対価にGSTを課す旨の定めが存在しないことを把握し、本件支払手続に係る支払の内容が当該契約に基づいていないという事実を確認したため、当該事実に対する本件是正措置等として何かしらの措置及び本件契約の措置を実行したと推定される。
しかし、本件調査対応協議を実施した後に(甲15の2及び乙311)、GST業務移管通知がなされ(乙312)、これにより、原告は、被告と本件豪州企業との間で締結した契約に関する情報から遮断された状態になったことから、被告が何かしらの措置又は本件契約の措置を実行した時期又は検討した時期に、これを知らされない状況であった。
さらに、調査補助者は、原告からの本件調査報告2に係る通知の内容に対する質問に回答する際、原告に対し、「当社と ≪ 本件豪州企業 ≫ 間の契約書について確認するように再三お求めですが、これを行う必要はないものと判断しています。」などと説明して(甲25の5)、原告を被告と本件豪州企業との間で締結した契約に関する情報から遮断した。
甲21の3に記載している内容を通知した本件通知の際にも、調査補助者は、原告に対し、本件支払手続に係る支払の内容が契約条項又は租税条約などの法令等に基づいていたのか否かについて通知していない(甲21の3)。
上記の状況であったため、原告は、被告が本件是正措置等として何かしらの措置及び本件契約の措置を実行したことが認識ができず、前回訴訟においては、本件訴訟主要事実ではなく、前回訴訟主要事実である「調査をせず、あるいは不十分であったこと」という視点で主張した。
甲21の3に記載している内容は、前回訴訟控訴審判決を言い渡した後に、原告が会社貸与パソコンで確認した内容であるため、前回訴訟において、証拠として提出していない。これについては、被告が令和3年5月26日に、原告に対して、訴訟に関する全ての行為についてオフィススペース及び会社貸与パソコン等を使用することを禁じていたという事情があった。
確かに、被告が原告に対して、訴訟に関する行為について会社貸与パソコン等を使用することを禁じていたとはいっても、甲21の3に記載している内容は、前回訴訟の提起前に、被告が原告に対して通知していた内容ではある。
原告は、前回訴訟においても、被告と本件豪州企業との間で締結した契約に関する主張をしており、被告と本件豪州企業との間の契約書の所持者である被告にその契約書の送付を嘱託することを申し立てをする令和4年4月15日付の「文書送付嘱託申立書 ⑴ 」を提出していた13。
これに対し、被告は、令和4年6月7日付の「文書送付嘱託の申立てに対する意見書」において、原告の主張に理由があるか否かの認定に影響を及ぼさないとして、証拠調べの必要性の不存在を主張し、文書を送付しなかった14という経緯があった。
本件調査に係る調査事項については、依然として、「具体的に何を調査したのか、及び何を調査しなかったのか」が判然としていない状況であり、未だに、その調査事項について、被告から提示されていない。
そして、前回訴訟第一審判決及び前回訴訟控訴審判決は、前回訴訟において、本件調査に係る調査事項について釈明権を行使しておらず、また、紛争の一回的解決という観点から、信義則違反であるか、または本件規程違反であるかという法的観点の指摘をしていない。
前回訴訟における情報把握の状況は以上のとおりであるから、原告が前回訴訟において、本件訴訟における訴訟物と同様の主張をして、一回的解決を図ることは、困難であったといえる。
よって、本件訴訟における原告の主張は、信義則に反せず、許される。
2 被告について債務不履行又は不法行為に基づく責任が成立すること
⑴ 本件規程を定めて本件内部通報制度を整備したことによる債務の存在
被告は、被告等の取締役および使用人(従業員)の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制の一環として、本件内部通報制度を整備・運用している(甲28)。また、本件規程1.2 ⑴ に定める「法令等」には、グループ行動基準も含まれている(甲2)。
本件内部通報制度が適切に運用されているか否かは、従業員が職務を執行するための環境及び従業員の職場環境に影響する。
労働契約法第7条により労働契約の内容となる「就業規則」は、就業規則という名称のものに限られず、労働条件を定めるもので規則規程として周知されているものであれば該当しうる。
労働基準法第89条の事項には10号の「当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」もあり、本件規程も当該事業場の労働者すべてに適用されるから、被告のいう就業規則として使用者たる会社と労働者たる従業員との間に効力を生ずる場合である。
本件規程も、労働者の側からは職場環境の改善の側面があり、労働条件に関わるものである。
仮に本件規程の趣旨が労働条件に関係しないとした場合であっても、会社が自ら一定の場合に一定の行為を具体的に行うことを定めて公表した以上、会社は要件に該当する者に対してそれを行う債務がある。
⑵ 本件規程に定める「通報情報に関する事実を確認するための調査」について
本件規程1.2 ⑼ では、「調査とは、通報情報に関する事実を確認するための調査をいう」と定めている。調査過程などにおいて調査補助者に対して告げた通報情報は、本件規程1.2 ⑹ に定める「通報情報」と実質的に同じであることは、上記第1の2 ⑴ のとおりである。すなわち、本件調査の対象は、本件通報、追加通報及び調査補助者に対する追加通報に係る情報(通報情報)に関する事実である。
ここで、本件通報、追加通報及び調査補助者に対する追加通報に係る情報(通報情報)に関する事実を大きく分けると、
● 事実A.原告が本件支払手続をした行為(甲3)、
● 事実B.上司Aが還付手続対応説明をした行為(甲4)、及び
● 事実C.豪州子会社が金銭の流れが一部不明瞭な送金をした行為(甲27)
の3つであった。
上記のうち事実A、本件支払手続をした行為に関する調査事項はどのようなことであったか、以下、考察する。
⑶ 「通報情報に関する事実を確認するための調査」についての考察
原告は、調査補助者に対する追加通報において、調査補助者に対し、被告と本件豪州企業との間で締結した契約の確認に関する状況を告げていた15(甲10ないし17、22及び23)。
これに対し、調査補助者は、「追加でいただいた疑問含め、対応検討させていただきます。(甲14の1)」及び「打ち合わせを行う場合は、また別途日程を設定させていただきます。(甲18の1)」と返答し、また、以下の枠内の事項を「調査の対象となる事項」として提示していた(甲23の8)。
≪ 中略 ≫
2.調査の対象となる事項
以下の点について、「コンプライアンス違反があったか否か」について調査し回答します。
≪ 中略 ≫
⑴ 適切な是正措置が取られたのか。
1.⑵ のとおり、適切な遠付処理および当社帳簿への費用計上処理が完了しているかについて確認します。2018年12月13日付で ≪ 原告 ≫ 様からいただいたメール(Re:コンプライアンス違反となる事象の有無とその理由・根拠の確認について)の➀、➄、➅、➈、➉および ⑪ 対応する趣旨です。
≪ 中略 ≫
⑶ 「契約書に付加価値税の扱いについて明記するべきではないか。」との疑問に答える。
『調査の対象となる事項(調査スコープ)」の「 ⑵ 支払い義務が無い可能性を認識しているにも関わらず、その可能性の確認をせずに付加価値税の支払いをしていることは、“問題ない” のかどうかを確認」については、これでお答えできると考えます。
≪ 中略 ≫
※注 上記の「➀、➄、➅、➈、➉ および ⑪ 対応する趣旨です。」という記載について、「➀」は、本件事業部において被告と本件豪州企業との間で締結した契約の内容を確認していない事実を意味しており、また、「⑤」は、被告が本件豪州企業に対して役務対価の金額とGSTの金額を合わせた金銭を支払い続けていた事実を意味している(甲22の3)。
原告と調査補助者との調査過程におけるやり取りは上記のとおりであるから、本件支払手続をした行為に関する調査事項には、本件支払手続に係る支払の内容が契約条項又は租税条約などの法令等に基づいていたのか否かについて確認する事項が含まれていたと推定される。
⑷ 「通報情報に関する事実を確認するための調査」についての考察、つづき
被告も認めるとおり16、実務上、海外企業が被告に発行する請求書において、海外企業が被告に対してGSTを請求することは、特殊な場合を除いてほとんどない。このような状況のなかで、本件豪州企業が被告に対してGSTを請求していたという事実が存在すれば、売買契約においてGSTに関する定めが存在するという特殊な事情があるかどうかを確認する必要があるのは当然である。
売買契約において役務提供対価にGSTを課す旨の定めが存在する場合は、当然、GSTを支払う義務がある。一方で、売買契約において役務提供対価にGSTを課す旨の定めが存在しないにもかからわず、支払義務がないGST分の金銭を支払っていたような場合は、その支払の行為自体が法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実であるのはもちろんのこと、契約条項又は租税条約などの法令等に基づかない支払の行為は、従業員が不正なキックバックを受け取るような不正行為を生ずるおそれがある。
仮に原告が本件通報、追加通報又は調査補助者に対する追加通報において、契約内容の確認の必要性について告げていないとしても、被告は、被告等の取締役および使用人(従業員)の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制の一環として、本件内部通報制度を整備・運用していること(甲28)、また、本件規程の目的について、被告等における法令等に違反する行為または違反するおそれのある行為を早期に是正し、もって被告等のコンプライアンス体制を強化することである旨が定められていること(本件規程1.1)からすると、本件支払手続をした行為に関する調査事項には、本件支払手続に係る支払の内容が契約条項又は租税条約などの法令等に基づいていたのか否かについて確認する事項が含まれていたと推定される。
本件支払手続をした行為に関する調査事項は、上記で推定されるとおりであるところ、証拠で明らかになっている事実としても、被告と本件豪州企業との間で締結した契約において役務提供対価にGSTを課す旨の定めが存在していなかったという事実が存在し(甲21)、また、被告が本件通報及び調査補助者に対する追加通報を受けた後に調査補助者が上司Aと本件調査対応協議をしたという事実が存在し(甲15の2及び乙317)、さらに、本件調査対応協議の後に、被告が本件豪州企業からGSTを請求されないための何かしらの措置及び本件契約の措置を実行したという事実が存在する(甲21)。
以上により、本件調査に係る調査事項には、本件支払手続に係る支払の内容が契約条項又は租税条約などの法令等に基づいていたのか否かを確認するという事項が存在しており、被告は、本件調査を実施した結果、被告と本件豪州企業との間で締結した契約において役務提供対価にGSTを課す旨の定めが存在しないことを把握し、本件支払手続に係る支払の内容が当該契約に基づいていないという事実を確認したため、当該事実に対する本件是正措置等として何かしらの措置及び本件契約の措置を実行したと推認するのが相当である。
本件規程3.6 ⑴ アに定める「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実の有無」という通知事項は、法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実の存在ついて、当該事実が存在しない場合はその旨を通知し、存在した場合はその旨を通知するものである。
この点、被告は、答弁書において、「コンプライアンス違反ではないなどとする調査結果報告」及び「いずれも不正行為等に該当しない旨の調査結果報告」という調査報告の内容の存在を主張しているものの、法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実が存在したのか否かについては言及していない18。
取引上の社会通念に照らすと、売買契約において税金の支払に関する定めが存在することは一般的な認識であるところ、調査補助者は、原告からの本件調査報告2に係る通知の内容に対する質問に回答する際、原告に対し、「契約書を確認するという行為は、先に述べた通り対応として意味がない行為ですので、行わなかったとしても対応を怠ったことにはなりません。」などと説明しており(甲25の5)、係る説明の内容が著しく不合理であることからすると、調査補助者は、原告に対し、実際の事実に反して、法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実が存在しないかのように説き伏せるために不合理な内容を説明したと推認するのが相当である。
以上により、法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実の存在を伏せていた調査結果報告1及び調査結果報告2は、本件規程3.6 ⑴ アの通知事項が不正である点につき、本件規程3.6 ⑴ に違反する行為である。そして、不正な本件規程3.6 ⑴ アの通知事項に続いて、本件規程3.6 ⑴ イ又はウに定める事項を通知しなかったことも、本件規程3.6 ⑴ に違反する。
よって、被告に本件規程3.6 ⑴ イ又はウに定める事項を通知しなかったことについての本件規程違反が存在する。
かつて、原告が業務プロセスの問題について上司に報告していたにもかかわらず、その問題が原因でトラブルが発生した際、トラブルの原因を原告個人のみの問題として処理されたことがあった。
原告は、上記と同様の事態になることをおそれて本件内部通報制度を利用したものの、これに対して被告が行ったことは、原告を被告が本件調査により把握した契約内容に関する情報から遮断することであった。
このような被告の対応により、原告は、業務プロセスの問題が適正化されない不安を感じながら職務を執行するという精神的損害が生じた。
よって、被告について、債務不履行に基づく責任又は不法行為に基づく責任が成立し、原告は、被告に対して、1円の支払いを求める。
1 第3の「1 本件訴訟における原告の主張」(5頁以下)について
⑴ 第1段落 「原告の令和6年」以下については、否認する。下記 ⑷ 以下のとおり、原告の主張の要旨としては不正確であるため、否認する。
⑵ 第2段落 「➀ 被告は、被告の」以下については、認める。
⑶ 第3段落 「② 原告は、平成28年」以下については、認める
⑷ 第4段落ないし第6段落 「③ 被告は、本件通報を」以下については、否認する。原告が行った本件規程1.2 ⑸ に定める通報は、本件通報、追加通報、調査補助者に対する追加通報であり、本件通報だけではないため否認する。本件訴訟における原告の主張の要旨は、上記第2の1 ⑵ 第2段落のとおりである。
⑸ 第7段落及び第8段落 「しかし、一般に」以下については、争う。これに対する原告の主張は、上記第2の2 ⑴ のとおりである。
⑹ 第9段落 「もっとも、一般に」以下については、否認する。最高裁平成30年判決は、「上記申出の具体的状況いかんによっては、当該申出をした者に対し、当該申出を受け、体制として整備された仕組みの内容、当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される。」と判示している。被告の解釈による対応付けは、「当該申出に係る相談の内容等に応じて」に対応するものが抜けているため、不正確である。
⑺ 第10段落及び第11段落 「そこで、本件訴訟における」以下については、否認する。これに対する否認の理由は、上記第2の1 ⑴ のとおりである。
2 第3の「2 前回訴訟における原告の主張と判決の確定」(7頁以下)について
第1段落の「原告が被告の本件内部通報制度の通報窓口に対して行った本件通報を含む2件の内部通報について、被告の対応が本件規程の規定に違反しているために信義則上の義務に違反したとして」については、否認する。その余は、認める。
上記第1の2 ⑶ 第2段落で述べたとおり、「本件通報を含む2件の内部通報について」について、「通報について対応」という表現は、紛らわしい表現又は不正確な表現である。また、前回訴訟第一審判決書第3の2 ⑴ ア (23頁19行目以下)は、原告の主張について、「原告が通報窓口担当者に伝えた内容は、特段の理由がない限り、全て通報情報であり、被告は、内部通報を行った従業員である原告に対し、通報情報に関する事実を確認するための調査を行う信義則上の義務を負うなどとした上で、」と記載しており、被告の主張は、正確とはいえないため否認する。
3 第3の「3 前回訴訟の確定判決の既判力による遮断」(9頁以下)について
争う。これに対する原告の主張は、上記第2の1 ⑵ のとおりである。
4 第3の「4 信義則に違反する紛争の蒸し返し」(10頁以下)について
⑴ 第1段落 「確かに、原告は」以下について、「本件通報を含む2件の内部通報に関する被告の対応に信義則違反があったことの理由として」については、上記2と同様の理由により否認する。その余は、認める。
⑵ 第2段落 「しかし、原告は」以下について、「前回訴訟においては」以下については、上記2と同様の理由に加えて、「ほとんど網羅的な主張」という表現も曖昧な表現であるため否認する。その余は、認める。
⑶ 第3段落ないし第5段落 「そして、原告は」以下について、「原告には、前回訴訟において」以下については、否認ないし争う。その余は認める。これに対する否認の理由及び原告の主張は、上記第2の1 ⑶ ないし ⑸ のとおりである。
5 第3の「5 本件規程3.6⑴イ・ウの違反の不存在」(12頁以下)について
⑴ 第1段落 「本件規程3.6 ⑴ イ・ウ」以下については、認める。
⑵ 第2段落 被告が「法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実」が存在しない旨を通知したつもりであったのであれば、被告がその通知をしたつもりであったことを認める。ただし、太字の「本件通報に関する調査結果は」以下については、否認ないし争う。被告は、法令等に違反する事実又は違反するおそれのある事実の存在を把握したのであるから、その事実の存在を伏せるのではなく、本件規程3.6 ⑴ イ及びウに定める通知事項を通知するべきである。
⑶ 第3段落 前回訴訟第一審判決書における判示についての記述としては認めるけれども、そもそも、前回訴訟と本件訴訟の主要事実が異なっており、前回訴訟においては、是正措置及び再発防止策等を実行した事実を提示していないため、前回訴訟控訴審判決は、法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実が存在したのか否かという点から判断していないと考える。
⑷ 第4段落 争う。これに対する原告の主張は、上記第2の2のとおりである。
6 第3の「6 信義則上の義務の違反の不存在」(13頁以下)について
現在のところ、信義則上の義務の違反で争う予定がないため、認否を留保する。
7 第3の「7 結論(被告の主張)」(14頁)について
争う。
8 第4(15頁以下)以下について
⑴ 第4の4カ「確かに、被告の法務部長は」(17頁)以下については、現在のところ、本件規程3.2 ⑴ の違反で争う予定がないため、認否を留保する。被告の法務部が、本件通報が本件規程に基づく通報であると認識していたことが、甲7により示されているので、被告が本件規程3.2 ⑴ に違反していたことは明らかではある。なお、甲7の内容は、前回訴訟において、証拠として提出されていない。
⑵ 第6(22頁)については、争う。
⑶ 上記 ⑴ 及び ⑵ 以外は、特に認否しない。
上記9頁の表4「本件規程に定める事項と当事者の主張との対応表」のとおり、被告の主張は、不明な点や曖昧な主張が散見されている。裁判所におかれましては、適切な釈明権の行使をお願い申し上げる。
以上
04 第1回口頭弁論#
令和6年4月22日 11時30分
03 被告準備書面(1)#
被告準備書面(1)
令和6年4月19日
東京簡易裁判所民事第5室6係B 御中
本書に用いる用語の意味は、本書に別段の定義のない限り、被告の令和6年4月15日付の「答弁書」(以下「答弁書」という。)に定義するところによる。
原告の令和6年4月12日付の「訴状訂正申立書」(以下「訴状訂正申立書」という。)による訴状の訂正にもかかわらず(以下、訴状訂正申立書による訂正後の訴状を「訴状」という。)、答弁書における被告の認否及び主張に変更はない。
02 答弁書#
答弁書
令和6年4月15日
東京簡易裁判所民事第5室6係B 御中
目次
≪ 中略 ≫
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
1 原告の請求を却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
原告の令和6年2月19日付の「訴状」(以下「訴状」という。)の第2によれば、原告の主張の要旨は、次のとおりであると思われる。
➀ 被告は、被告の「コンプライアンスホットライン規程」(以下「本件規程」という。)(乙第1号証)に基づいて内部通報制度(以下「本件内部通報制度」という。)を設けているところ(注1)、本件規程3.6⑴の規程は、次のとおり定めている(注2)。
「⑴ 法務部長は、調査の終了後、被通報者および調査協力者の名誉、信用、プライバシー等に十分配慮したうえで、実名通報者に対して、次の事項(以下総称して「調査結果等」という。)を通知する。ただし、通報者が通報を望まない場合、通報者への通知が困難である場合その他やむを得ない理由がある場合は、この限りではない。
ア.〔略〕
イ.法令等に違反する事実が確認された場合は、その是正措置および再発防止策
ウ.法令等に違反するおそれのある事実が確認された場合は、その対応策
エ.〔略〕」
➁ 原告は、平成28年9月14日に、本件規程2.1⑴に定める本件内部通報制度の社内通報窓口の電子メールアドレス宛に、原告の関与の下に被告がオーストラリアの法律事務所(以下「本件豪州企業」という。)との取引に関して支払った金額に同国の付加価値税(以下「GST」という。)が含まれていたことなどについて、内部通報(以下「本件通報」という。)を行った(注3)(乙第2号証)。
➂ 被告は、本件通報を受けて、是正措置、再発防止策又は対応策を実施したにもかかわらず、原告に対し、当該事実を通知しなかった(注4)。
➃ よって、被告は、本件規定3.6⑴イ又はウに違反した。
➄ したがって、被告は、原告に対し、債務不履行(民法第415条)又は不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償責任を負う。
しかし、一般に、会社の社内規程・社内規則は、労働基準法において就業規則の必要的記載事項とされている事項(同法第89条各号)の定めが就業規則として使用者たる会社と労働者たる従業員との間に効力を生ずる場合、会社と労働組合の間の労働条件等に関する合意が同法第14条に基づく労働協約として会社と従業員との間に効力を生ずる場合などを除いては、会社組織内における自律的な規範であるに過ぎず、会社と従業員の間に何らかの権利義務関係・債権債務関係を生ぜしめるものではないところ、本件規程も、就業規則、労働協約等の一部を構成するものなどではないので、仮に被告が本件規程に違反したとしても、直ちに被告が従業員たる原告に対する何らかの義務に違反し又は何らかの債務を履行しなかったことになるものではない。
よって、仮に被告が本件規程3.6⑴イ又はウに違反していたと仮定しても、当該違反の事実によって、直ちに被告の原告に対する債務不履行又は不法行為となるものではない。
もっとも、一般に、会社が内部通報制度を設けている場合において、従業員が当該内部通報制度の通報窓口に通報をしたときは、当該通報の具体的状況の如何によっては、会社は、当該従業員に対し、当該通報を受け、体制として整備された仕組みに基づいて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解されている(注5)。
そこで、本件訴訟における原告の主張を合理的に解釈すると、上記の原告の主張は、次の主張を含むものであると思われる。
④´ 被告は、本件通報について、本件内部通報制度に基づいて適切に対応すべき信義則上の義務を負っていたところ、本件規程3.6 ⑴ イ又はウに違反したことは、かかる信義則上の義務の違反を構成する。
原告は、令和3年5月31日に、東京地方裁判所において被告に対する損害賠償請求訴訟を提起しており(東京地方裁判所令和3年(ワ)第〇〇〇〇〇号損害賠償請求事件)(以下「前回訴訟」という。)、原告は、前回訴訟においても、原告が被告の本件内部通報制度の通報窓口に対して行った本件通報を含む2件の内部通報について、被告の対応が本件規程の規定に違反しているために信義則上の義務に違反したとして、債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償責任を負うとの主張(以下「前回訴訟争点1」という。)をし、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求していた(乙第3号証(注6))。
そして、前回訴訟の第一審裁判所は、令和4年12月22日に判決(以下「前回訴訟第一審判決」という。)を言い渡しているところ(乙第3号証)、前回訴訟第一審判決は、前回訴訟争点1について、本件通報を含む2件の内部通報に関する被告の対応について、信義則上の義務違反があったとはいえないと判示し(乙第3号証(注7))、その他の争点についても原告の主張はいずれも採用できないとしたうえで、被告は、原告に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負わないと結論付け(乙第3号証(注8))、原告の請求を棄却した(乙第3号証(注9))。
原告は、前回訴訟の第一審の判決を不服とし、令和5年1月4日、東京高等裁判所において控訴を提起したが(東京高等裁判所令和5年(ネ)第〇〇〇号損害賠償請求控訴事件)、前回訴訟の控訴審裁判所は、同年6月15日に判決(以下「前回訴訟控訴審判決」という。)を言い渡し(乙第4号証)、前回訴訟控訴審判決は、前回訴訟争点1に関するものを含め、原判決である前回訴訟第一審判決の認定及び判断のとおりであるとして、控訴人たる原告の請求は理由がないと結論付け(乙第4号証(注10))、原告の控訴を棄却した(乙第4号証(注11))。
原告は、前回訴訟控訴審判決も不服とし、令和5年6月28日、最高裁判所において、上告を提起するとともに(最高裁判所令和5年(ネオ)第〇〇〇号上告提起事件)(乙第5号証)、上告受理の申立てをした(最高裁判所令和5年(受)第〇〇〇号上告受理申立事件・令和5年(受)第〇〇〇〇号)(乙第6号証)。上告については、原告が、同年8月28日に、その全部を取り下げたが(乙第7号証)、上告受理申立てについては、最高裁判所が、令和6年1月25日に、上告審として受理しない旨の決定をした(乙第8号証)。これによって、前回訴訟控訴審判決が確定している。
前回訴訟控訴審判決が確定したことにより、前回訴訟の訴訟物の内容をなす権利・法律関係の存否の判断について既判力を生じているため(民事訴訟法第114条第1項)、前回訴訟の控訴審の口頭弁論終結後に生じた新たな事由がない限り、後訴裁判所は、前回訴訟控訴審判決と矛盾する判断をすることが許されなくなり、これを前提として後訴の審判をしなければならないし、前回訴訟の当事者である本件訴訟の原告及び被告も、前回訴訟控訴審判決が判断した権利・法律関係の存否を争うことは許されなくなっている。
この点、前回訴訟における前回訴訟争点1に係る損害賠償請求も、本件訴訟における損害賠償請求も、本件通報に関して被告が原告に対する信義則上の義務に違反したことを理由として債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求するものであるから、訴訟物は同一であるし、原告は、本件訴訟において、前回訴訟の控訴審の口頭弁論終結後に生じた新たな事由を主張しているわけでもない。
よって、本件訴訟における原告の請求は、確定した前回訴訟控訴審判決の既判力によって遮断され、かつ理由がない。
確かに、原告は、前回訴訟においては、本件通報を含む2件の内部通報に関する被告の対応に信義則違反があったことの理由として、調査をせず又は調査が不十分であったこと(本件規程1.2 ⑼ 又は3.4の違反)、調査を実施しない場合の通知をしなかったこと(同規程3.1 ⑴ の違反)、通報情報の厳重な管理を行わなかったこと(同規程3.12の違反)、役員等への報告を適正に行っていなかったこと(同規程3.2 ⑴ 又は3.6 ⑶ の違反)、原告に対して再度の通報が可能であるとの通知をしなかったこと(同規程3.6 ⑴ エの違反)、本件通報を理由に不利益な取扱いをしたこと(同規程2.4 ⑴ 又は3.11 ⑴ の違反)など、多数の本件規程違反を主張していたものの(乙第3号証(注12))、本件訴訟において主張している、原告に対して是正措置、再発防止策又は対応策を実施したとの通知をしなかったこと(同規程3.6 ⑴ イ又はウの違反)については、主張していなかった(乙第3号証)。
しかし、原告は、本件通報後の平成30年11月27日にも、本件内部通報制度の社内通報窓口の電子メールアドレス宛に、本件通報に関連する事実について内部通報(以下「追加通報」という。)を行っており(乙第3号証(注13)・乙第9号証)、前回訴訟においては、本件通報及び追加通報の2件の内部通報に関する被告の対応について、被告に信義則違反があったことの理由として、上記のとおり多数の本件規程違反を主張していたのであり、本件通報に関連する本件規程違反については、ほとんど網羅的な主張を行っていたはずである。
そして、原告は、前回訴訟において、第一審においては、令和3年5月31日付「訴状」(合計11頁)から、同年8月10日付「原告準備書面 ⑴ 」(合計8頁)、同年10月1日付「原告準備書面 ⑵ 」(合計73頁)、令和4年1月21日付「原告準備書面 ⑶ 」(合計50頁)、同年4月15日付「原告準備書面 ⑷ 」(合計4頁)、同年5月13日付「原告準備書面 ⑸ 」(合計9頁)、同年6月13日付原告準備書面 ⑹ 」(合計3頁,別紙18頁)、同年7月1日付「原告準備書面⑺」(合計35頁)まで、控訴審においては、令和5年1月4日付「控訴状」(合計1頁)から、同年3月17日付「控訴理由書」(合計28頁)、同月31日付「控訴理由書⑵」(合計22頁)、同年4月14日付「控訴理由書 ⑶ 」(合計36頁)まで、合計約300頁にも及ぶ膨大な主張を行い、その間、第一審においては、令和3年7月8日の第1回口頭弁論期日から令和4年10月27日の第3回口頭弁論期日まで、3回の口頭弁論期日と8回の弁論準備手続期日が、控訴審においては、令和5年4月18日の1回の口頭弁論期日が、それぞれ行われており、原告には、前回訴訟において、少なくとも本件通報に関連する本件規程違反については、十分過ぎるほどの主張の機会があった。
とすれば、本件訴訟における原告の請求は、実質的には前回訴訟の蒸し返しにほかならず、前回訴訟において本件訴訟における請求をすることにも何ら支障はなかったのであるから、仮に本件訴訟における原告の請求が、確定した前回訴訟控訴審判決の既判力によって遮断されないとしても、本件訴訟における、原告の訴えは、信義則に照らして許されるものではない(注14(最高裁判所昭和51年9月30日判決、最高裁判所民事判例集30巻8号799頁))。
よって、本件訴訟における原告の訴えは、確定した前回訴訟控訴審判決の既判力によって遮断されないとしても、不適法である。
本件規程3.6 ⑴ イ及びウは、それぞれ「法令等に違反する事実が確認された場合」又は「法令等に違反するおそれのある事実が確認された場合」に通知を必要とするものである(乙第1号証)。
この点、本件通報の調査を担当した被告の法務グループは、本件通報について、平成28年12月28日、原告に対し、直ちにコンプライアンス違反とはいえないなどと回答し(乙第3号証(注15)・乙第10号証)、平成29年8月14日、原告に対し、電子メールにて、本件通報について、コンプライアンス違反ではないなどとする調査結果報告(以下「本件調査報告」という。)をしており(乙第3号証(注16)・乙第11号証)(なお、被告は、追加通報についても、令和元年10月25日、原告に対し、口頭及び書面にて、いずれも不正行為等に該当しない旨の調査結果報告をしている(乙第3号証(注17)乙第12号証))、本件通報に関する調査結果は、「法令等に違反する事実が確認された場合」又は「法令等に違反するおそれのある事実が確認された場合」のいずれでもなかったのであるから、本件通報について、本件規程3.6 ⑴ イ及びウに基づく通知は必要でない。
なお、本件規程3.6(エ)も、「不正行為等が是正されない場合、不正行為等が再発するおそれがある場合、または通報を行ったことを理由とした不利益な取扱いを受けた場合は、再度、通報窓口に通報することが可能であること」を通知するものと規定しているところ、原告は、前回訴訟において、本件通報に関する被告の対応について、被告が本件規程3.6(エ)にも違反したと主張していた。しかし、確定した前回訴訟控訴審判決は、やはり、本件調査報告が不正行為等(法令等に違反する行為又は違反するおそれのある行為)がないとするものであったことを理由として、「不正行為等が是正されない場合」及び「不正行為等が再発するおそれがある場合」についての「再度、通報窓口に通報することが可能であること」の通知は必要ないと判示している(乙第3号証(注18))。
よって、本件規程3.6 ⑴ イ及びウに基づく通知は必要でない以上、被告は、被告が原告に対して通知をしていなかったとしても、本件規程3.6 ⑴ イ及びウの違反とはならない。
本件内部通報制度について定めた本件規程では、その目的について、被告及び被告のグループ会社(以下「被告等」という。)における不正行為等(法令等に違反する行為又は違反するおそれのある行為)を早期に是正し、もって被告等のコンプライアンス体制を強化することである旨が規定され(同規程1.1)、調査の結果、法令等に違反する事実等が確認された場合は、是正措置及び再発防止策等を検討し、速やかにこれらを実行する(同規程3.5)などと規定されている一方、通報者に対しては、通報を理由とした不利益取扱いの禁止(同規程2.4.3.11)や調査結果等の通知(同規程3.6 ⑴ )が定められるにとどまっていることに照らすと、本件内部通報制度における調査その他の対応は、基本的に、不正行為等を早期に発見、是正して被告等の業務の適正化を図るためのものであって、通報者個人のためにされるものではないというべきである。
とすれば、不正行為等によって直接被害を受けた者が不正行為等を通報した場合は格別(注19)、そうでない限り、被告が、通報者個人に対し、当然に本件通報に適切に対応すべき信義則上の義務を負うということはできないというべきである。そして、本件通報において原告が通報をした内容は、GSTの還付又はその会計処理に関する疑義であって、それによって原告が直接被害を受けるようなものではないから、被告が、原告に対し、当然に本件通報に適切に対応すべき信義則上の義務を負うということはできない。
以上については、確定した前回訴訟控訴審判決も、同旨の判示をしている(注20)。
よって、仮に本件通報に関する被告の対応に本件規程3.6 ⑴ イ又はウの違反があったと仮定しても、被告が、原告に対し、当然に本件通報に適切に対応すべき信義則上の義務に違反したということはできない。
以上からすると、前記4により、本件訴訟における原告の訴えは、不適法として却下されるべきであり、そうでなくても、前記3、5又は6により、本件訴訟における原告の請求は、理由がないものとして棄却されるべきである。
特に認否しない。
⑴ 第2の2⑴(「被告は」以下)(2頁)について
認める。
「本件当時」というのが、原告が訴状第2の4⑷(3頁)にいう「本件通報」がなされた当時を意味するという前提で、認める。
3 第2の3(被告における業務の適性等を確保するための体制)(2頁)について
認める。
⑴ 第2の4⑴(平成27年11月6日(2015年))(2頁以下)について
ア 第1段落(「原告は、平成27年11月6日」平成27年11月6日」以下)(2頁以下)について認める。
イ 第2段落(「実務上」以下)(3頁)について第1文は認めるが、第2文は不知である。
⑵ 第2の4⑵(平成28年1月7日(2016年))(3頁)について
認める。
⑶ 第2の4⑶(平成28年3月31日(2016年))(3頁)について
原告が平成28年3月31日に上司Aに対して本件GSTの支払に関して確認する電子メールを送付したことは認めるが、その余は、原告の解釈又は心理についての主張であるため、不知である。
⑷ 第2の4⑷(平成28年9月14日(2016年)(3頁以下)について
ア 第1段落(「原告は、平成28年9月14日」以下)(3頁)について
概ね認める。
イ 第2段落(「上記メールアドレスは」以下)(4頁)について
認める。
ウ 第3段落(「被告が本件規程2.1⑴アに」以下)(4頁)について
概ね認める。
エ 第4段落(「本件規程1.2⑸は」以下)(4頁)について
認める。
オ 第5段落(「上記で述べた」以下)(4頁)について
不知である。
カ 第6段落(「ちなみに」以下)(4頁以下)について
事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
確かに、被告の法務部長は、本件通報に係る通報情報を、本件規程3.2⑴各号に列挙する関係役員等に報告していなかったが、それは、法務部長が、本件通報を、本件規程1.2⑸にいう「通報」ではなく、同規程2.3にいう「相談」として取り扱ったためであり、前回訴訟の確定判決も、本件通報の内容が「将来的に法人税法等の法令違反に該当する可能性があるのか、分からないため、相談させていただきたい。」というものだったこと(乙第2号証)に照らすと、かかる取扱いも不合理なものではないと判示している(乙第3号証(注21))。
⑸ 第2の4⑸(平成28年10月3日(2016年))(5頁)について
ア 第1段落(「原告は、平成28年10月3日」以下)(5頁)について
認める。
イ 第2段落(「本件通報においては」以下)(5頁)について
認める。
ウ 第3段落(「そのため、原告は」以下)(5頁)について
不知である。
⑹ 第2の4⑹(平成28年12月16日(2016年))(5頁)について
上司が部下に対して契約内容を確認する行為を咎める事態が発生したことは不知であるが、その余は概ね認める。
⑺ 第2の4⑺(平成28年12月28日(2016年)~平成29年1月6日(2017年))(5頁以下)について
ア 第1段落(「調査補助者は、平成28年12月28日」以下)(6頁)について
認める。
イ 第2段落(「原告は、平成29年1月4日及び同月5日」以下)(6頁)について
概ね認める。
ウ 第3段落(「原告は、上司Aが」以下)(6頁)について
不知である。
⑻ 第2の4⑻(平成29年7月20日(2017年))(6頁)について
認める。
⑼ 第2の4⑼(平成29年7月28日(2017年))(6頁以下)について
ア 第1段落(「上記⑻で述べた」以下)(7頁)について
不知である。
イ 第2段落(「原告は、同年7月28日」以下)(7頁)について
認める。
ウ 第3段落(「上記メールを」以下)(7頁)について
認める。
⑽ 第2の4⑽(平成29年8月14日(2017年))(7頁)について
認める。
⑾ 第2の4⑾(平成29年10月16日(2017年))(7頁以下)について
第1文は認めるが、第2文は不知である。
⑿ 第2の4⑿(平成30年9月13日(2018年))(8頁)について
認める。
⒀ 第2の4⒀(平成30年11月27日(2018年)~平成31年3月20日(2019年))(8頁)について
ア 第1段落(「本件調査報告1において」以下)(8頁)について
原告が平成30年11月27日に本件規程2.1⑴アに定めるメールアドレス宛に内部通報(追加通報)を行ったことは認めるが、その余は不知である。
イ 第2段落(「その後」以下)(8頁)について
認める。
⒁ 第2の4⒁(令和元年10月25日(2019年))(9頁)について
認める。
⒂ 第2の4⒂(令和元年10月29日~12月20日(2019年))(9頁以下)について
概ね認める。
⒃ 第2の4⒃(令和2年3月27日(2020年))(10頁)について
認める。
⒄ 第2の4⒄(令和2年6月25日及び同年7月9日(2020年))(10頁)について
認める。
5 第2の5(被告の本件規程違反の存在)(10頁以下)について
⑴ 第2の5⑴(本件規程3.6 ⑴ について)(10頁以下)について
認める。
⑵ 第2の5⑵(被告の本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウ違反の存在)(11頁以下)について
ア 第2の5⑵ア(「上記第3の4 ⑷ ~ ⑺ 、⑼ 及び⒀で述べたとおり」以下)(11頁)について
概ね認める。
イ 第2の5⑵イ(「上記同⑽及び⒁で述べたとおり」以下)(11頁)について
認める。
ウ 第2の5⑵ウ(「上記同⑿及び⒄で述べたとおり」以下)(11頁以下)について
認める。
エ 第2の5⑵エ(「上記ウで述べた」以下)(12頁以下)について
(ア)第1段落(「上記ウで述べた」以下)(12頁以下)について
否認する。
(イ)第2段落(「これにもかかわらず」以下)(13頁)について
認める。
事実上の主張としては否認し、法律上の主張としては争う。
理由は、前記第3の5に詳述したとおりである。
不知である。
争う。
前回訴訟の確定判決が正当に認定及び判断しているとおり、被告は、原告による本件通報及び追加通報のいずれについても、本件内部通報制度に基づいて極めて真摯かつ丁寧に対応しており(注22)、当然のことながら本件規程にも何ら違反していない(注23)。
本件訴訟における原告の訴えが不適法であること及び原告の請求に理由がないことは、いずれも明白であるから、被告としては、貴庁において、速やかに弁論を終結し、速やかに訴え却下又は請求棄却の判決を下されるよう、強く要望するものである。
以上
01 訴状#
令和6年2月19日
東京簡易裁判所 御中
目次
≪ 中略 ≫
被告は、原告に対し、金1円の金員を支払え。
本書に用いる用語の意味は、本書に別段の定義のない限り、被告が定める「コンプライアンスホットライン規程」(甲1。以下「本件規程」という。)において定義するところによる。
⑵ 原告は、被告の従業員である。原告は、本件当時、被告において、経費の支払い業務に従事していた。
被告は、国内外の法令、定款、社内規程及び企業倫理の遵守に関するグループ行動基準を定め(甲2)、〇〇〇〇〇グループのコーポレートガバナンスに関する基本方針を制定し、通報窓口および対応体制を含む自社及び子会社等から成る企業集団の業務の適正等を確保するための体制を整備して、これらを被告の公式ホームページで公表している。
被告における通報窓口および対応体制は、コンプライアンスホットライン制度(以下「本件内部通報制度」という。)という名称であり、被告が本件規程を定めて、これを運用している。
原告は、平成27年11月6日、オーストラリアの法律事務所(以下「本件豪州企業」という。)に対してコンサルタントの役務対価とオーストラリアの物品サービス税であるGST 75,473.10 豪ドル(以下「本件GST」という。)を合わせた金額 836,601.06 豪ドルを支払う手続きを行った(甲3)。
実務上、海外企業が被告に発行する請求書において、海外企業が被告に対してGSTを請求することは、特殊な場合を除いてほとんどない。原告は、本件豪州企業に対して本件GSTを支払う義務があるのか否かを確認することを失念していた。
原告は、本件豪州企業に対して本件GSTを支払う義務がないかもしれないことに気が付いた。そのため、原告は、平成28年1月7日、直属の上司(以下「上司A」という。)に対し、本件豪州企業に対して本件GSTを支払う手続きを行ったことを報告した(甲4)。
決算期のため、原告は、平成28年3月31日、上司Aに対し、本件GSTの支払いに関して確認するメールを送信した。これに対し、上司Aの回答は、経費支払いに関する内容であるにもかかわらず、被告と本件豪州企業との契約内容から本件GSTを支払う義務があるのか否かについて確認する意向が認められないなど不明瞭な点があった。(甲4)
そのため、原告は、上司Aの回答に原告を誤導する意図を感じており、後になってから、原告が契約内容の確認を取らずに支払い手続きをしたなどと叱責を受けるおそれを抱いていた。
原告は、平成28年9月14日、本件規程2.1 ⑴ アに定めるメールアドレスに対し、本件豪州企業に対して本件GSTを支払う手続きを行った事実、及びこれに関連する上司Aらから伝えられた内容を通報するメールを送信した(甲5。以下、本件GSTの支払いに関連する事実、疑念、確認事項又は疑問事項などの情報を通報する通報を総称して「本件通報」という)。
上記メールアドレスは、本件内部通報制度における社内窓口の法務部長宛のメールアドレスとして本件規程2.1 ⑴ アに定められているものの、実務上は、内部通報の受付窓口のメールアドレスとして機能しているメーリングリストである。
被告が本件規程2.1 ⑴ アに定めるメールアドレスに対する通報を受け付けた後は、通報情報の追加を通報する宛先に法務部長を含めないなど、通報の宛先を本件規程3.4⑵に定める「調査補助者」(以下「調査補助者」という。)のみにするように制限されている。(以上につき、甲6)
本件規程1.2 ⑸ は、「通報」について、(発見した不正行為等を)是正する目的でこの内容を告げる行為をいうと定義しており、また、本件規程1.2 ⑼ は、「調査」について、通報情報に関する事実を確認するための調査をいうと定義している(甲1)。一般的な通報も「公益通報の対象となる事実については、具体的な法令名や条項を明示する必要はありませんが、通報が「公益通報」に該当するか否か判断できる程度に、またその後の調査や是正等が実施できる程度に具体的な事実を知らせる必要があります」と消費者庁のウェブサイトに記載されているとおりである。
上記で述べた本件規程の内容により、原告は、通報者が具体的な法令違反や不適切であるか否かの評価を指摘する必要がない、又は指摘する権限がないという理解をしていたことから、本件豪州企業に対して本件GSTを支払う手続きを行った事実、及びこれに関連する上司Aらから伝えられた内容を本件通報に係る情報(以下、本件通報に係る事実、疑念、確認事項又は疑問事項などの情報を総称して「本件通報情報」という。)として告げるに留め、上司Aが部下に対して虚偽の内容を伝えているという疑念、及び本件豪州企業に対する支払いが契約に基づいているか否かなどの評価、確認事項又は疑問事項を本件通報情報として告げていなかった。
ちなみに、法務部は、平成28年9月14日の通報について、本件規程に基づく通報であると認識していたものの(甲7)、通報があった旨を関係役員等に報告していなかったため、被告は、本件規程3.2 ⑴ に違反している。
原告は、平成28年10月3日、調査補助者に対し、本件GSTの金額が請求金額として記載されている請求書や上記 ⑶ で述べた原告と上司Aとのやり取りが記載されているメールファイルを添付して本件通報情報の追加を告げるメールを送信した(甲8)。
本件通報においては、平成28年10月3日の時点で、本件豪州企業に対して本件GSTを支払う手続きを行った事実を通報していた。加えて、GSTに関しては、実務上、海外企業が被告に発行する請求書において、海外企業が被告に対してGSTを請求することは、特殊な場合を除いてほとんどない。
そのため、原告は、原告から通報窓口又は調査補助者に対して、本件豪州企業に対する支払いが契約に基づいているか否かなどの評価、確認事項又は疑問事項を告げなくても、本件規程上の調査において、被告と本件豪州企業との契約内容から本件GSTを支払う義務があるのか否かについて確認する作業が行われるものと考えていた。
原告は、調査補助者からの報告を待っている状態であった(甲9)。原告が調査補助者からの報告を待っている間に、上司Aが部下に対して、契約内容を確認する行為を咎める事態が発生したため、原告は、平成28年12月16日、調査補助者に対し、上司Aが契約書の提示を求められることを理由に税務に関する疑問事項について税務グループに照会しない意向であると思われる旨及びこの上司の意向が起因となって発生する可能性がある問題事項を本件通報情報の追加として告げるメールを送信した(甲10)。
調査補助者は、同日、上記のメールに返信するかたちで、原告に対し、「ご連絡内容についても、経理部に申し伝えますので、もう少々お時間をいただきたく存じます。(原文ママ)」と返信した(甲11)。
⑺ 平成28年12月28日(2016年)~平成29年1月6日(2017年)
調査補助者は、平成28年12月28日、原告に対し、本件通報情報に関して、今後の対応を伝えるメールを送信した(甲12)。
原告は、平成29年1月4日及び同月5日、調査補助者に対し、調査補助者から伝えられた内容から本件通報情報に関して確認できた事項と確認できていない事項を整理した内容を伝えるメールを送信した。本件通報情報に関して確認できていない事項として上記メールに記載していた内容は、被告と本件豪州企業との契約に関する事項である。原告は、上記メールのなかで、調査補助者に対し、契約内容の確認に関する状況を伝え、「契約締結時、契約書に付加価値税を請求額に含めないことを記載することについて、相手企業に依頼することができるのかどうか?(原文ママ)」と伝えていた。(甲13)
原告は、上司Aが契約内容を確認しないという行為が意図的であると感じていたものの、上司A個人の問題とされないようにと配慮して、調査補助者に対し、上司Aが部下に対して虚偽の内容を伝えている疑念を通報するような通報情報ではなく、上記のように契約内容の確認に関する状況や契約内容に関して確認できていない事項を伝えるような通報情報を本件通報情報の追加として告げた。
調査補助者が原告に対して「追加でいただいた疑問も含め、対応検討させていただきます。(原文ママ)」と通知した平成29年1月5日のメールから(甲14)、本件通報情報に関する連絡が半年以上も途絶えていたため、原告は、同年7月20日、調査補助者に対し、本件規程3.1 ⑴ に規定する「調査を実施しない場合はその旨および理由」の通知を依頼するメールを送信した(甲15)。
調査補助者は、上記のメールの後の原告と調査補助者とのメールのやり取りや面談のなかで、原告に対し、同年2月7日に法務グループのGMと上司Aとの間で協議を実施していたことを通知した。
上記⑻で述べた平成29年2月7日に行った協議について、その内容や結果については通知されていなかったこと、また、原告と調査補助者との面談において、原告が本件通報情報に関する確認事項のたたき台を作成することになっていたことから、原告は、上司Aが本件通報情報の具体的内容について把握をしていないという理解をしていた。
原告は、同年7月28日、調査補助者に対し、本件通報情報に関する確認事項のたたき台として作成した Excel ファイルを添付したメールを送信した(甲16)。その Excel ファイルの一番上には、平成28年1月7日にコンサルタント費用の請求額に付加価値税 75,473.10 豪ドルが含まれていたことを報告した事実に加えて、「契約時に、"税抜きで請求"という契約は行えないのか?、海外取引の際、付加価値税と合わせて支払わなくてはならないのはどのようなケースか?(原文ママ)」という確認事項を記載していた(甲17)。
上記メールを受信した調査補助者は、同日、原告に対し、追加の資料提供を依頼して、打ち合わせの日程を設定する場合があることを通知するメールを送信した(甲18)。
調査補助者の依頼により、原告が本件通報情報に関する確認事項のたたき台を作成して提出したにもかかわらず、調査補助者は、原告との打ち合わせ等を行わないままに、平成29年8月14日、原告に対し、本件通報情報に関する調査結果を報告するメールを送信した(以下「本件調査報告1」という。)。
本件調査報告1のメールには、「本件は既にコンプライアンス違反では無いことが確認されているため、制度の趣旨と異なることから、具体的な個別の事項については、回答を差し控えさせていただきます。(原文ママ)」と記載されていた。(以上につき、甲19)
平成29年10月16日、本件通報情報に関する措置と思われる内容の部長報告が行われた 。被告の豪州子会社が被告に対して「戻入れ」として送金した金銭は、コンサルタント費用として一般管理費で計上している被告が過去に支払った豪州GSTに係る還付金であると解釈される内容が含まれる部長報告ではあるものの、還付金の金額を示さないなど会計処理について報告する部長報告としては不明瞭な点があった 。(甲20)
被告は、平成30年9月13日、「豪州国外の顧客に対するサービス提供費用には、豪州GSTを課さない。なお、本件豪州企業がGSTを課すべきと判断すれば、GST込みで請求する権利を有する。」という内容が記載されている被告と本件豪州企業との間の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。被告と本件豪州企業との間の契約に関しては、本件契約が締結されるまでの間、GSTに関する定めは存在していなかった。
原告は、令和2年6月25日まで、上記の契約内容について通知されていなかった。(以上につき、甲21)
⒀ 平成30年11月27日(2018年)~平成31年3月20日(2019年)
本件調査報告1において何を調査したのか分からなかったことに加え、被告の豪州子会社が被告の代わりに本件GSTの支払いに係る還付金を受領したようにみせかけるために、被告の豪州子会社が被告に対して送金したのではないかという疑念を抱いたため、原告は、平成30年11月27日、本件規程2.1 ⑴ アに定めるメールアドレスに対し、本件豪州企業に対して本件GSTを支払う手続きに関連して発生した一連の事実を通報するメールを送信した(甲22)。
その後、原告と調査補助者は、平成31年3月20日までメールのやり取りを行った。そのメールのやり取りにおいても、本件GSTの支払いに係る契約内容についての議論があり、原告は、「2016年1月にGSTを支払っていることに気が付いていたのに、なぜ、2017年4月まで同様にGSTの支払をしていたのか?契約書の記載は確認をしているのか?(原文ママ)」と指摘していた。(甲23)
調査補助者は、令和元年10月25日、原告に対し、本件通報情報に関する調査結果を報告する面談をした(以下「本件調査報告2」といい、本件調査報告1と併せて「本件各調査報告」という。)。
被告は、上記 ⑴ で述べた本件豪州企業に対する 836,601.06 豪ドルの経費支払い以外の経費支払いについてGSTが課されていたか否かを調査していた。調査による結論は、「一般に、GSTの還付は納税者の「権利」であり、「義務」ではない。したがって、GSTの還付をするか否かは任意であり、還付を受けないままであったとしても、不正行為等にはあたらない。(原文ママ)」であった。(以上につき、甲24)
原告は、令和元年10月29日、同年12月2日及び同月10日、調査補助者に対し、本件各調査報告についての質問として、本件GSTの支払いに係る契約内容、及び豪州子会社が被告に対して送金した際の豪州子会社側の会計帳簿の内容について質問をした。これに対し、調査補助者は、同月3日及び同月20日、原告に対し、原告の質問事項について回答をした。
本件GSTの支払いに係る契約内容についての調査補助者の回答は、「取引に税金が課されるか否かについては、民間同士の合意である契約書ではなく、国((本件豪州企業)との取引であればオーストラリア国家)が決めることです。したがいまして、契約書上のGST条項の有無や記載内容については、結論に関係がありませんのでお調べしませんし、また、※※事業部内でそうした確認をしなかったことも特に不審なこととは認定いたしません。「真摯に対応した」という記載については、被通報者が※※事業部長にも報告し、経理部や税務部門にも展開して納得が得られており、また豪州GSTについて還付を受けているという事実をもって認定しました。まず、契約書を確認する行為は、先に述べた通り対応として意味がない行為ですので、行われなかったとしても対応を怠ったことになりません。また、(本件豪州企業)への照会の時期についても、税務アドバイザーの意見を得てから照会をかけるという方法は適切です。(「(本件豪州企業)」と「※※」以外は原文ママ)」という回答であった。なお、本当に税務アドバイザーの意見を得ていたのか否かについては、その証拠が無いため、今もなお不明である。
ちなみに、豪州子会社が被告に対して送金した際の豪州子会社側の会計帳簿の内容についての調査補助者の回答は、「(豪州子会社)の会計仕訳を調べることは、「コンプライアンス違反ではない」という結論に影響しませんので調査不要と判断しています。(「(豪州子会社)」以外は原文ママ)」であった。(以上につき、甲25)
原告は、令和2年3月27日、「社長・大田さんの輪」と題する被告の社内SNS(以下「本件SNS」という。)に、コンプライアンスホットライン制度の本件各調査報告の内容について疑問を呈する投稿をした(甲26)。
調査補助者は、令和2年6月25日及び同年7月9日、原告に対し、上記⒃で述べた原告の本件SNSへの投稿内容についての回答として、上記⑿で述べた被告と本件豪州企業との間で締結された契約の内容、及び本件豪州企業が被告に対してGSTを請求していたのは平成29年4月までであった旨を通知するメールを送信した(甲21)。
本件規程3.6 ⑴ は、本件内部通報制度における調査結果等の通知・報告について定めており、その内容は以下のとおりである(甲1)。
3.6 調査結果等の通知・報告
⑴ 法務部長は、調査の終了後、被通報者および調査協力者の名誉、信用、プライバシー等に十分配慮したうえで、実名通報者に対して、次の事項(以下総称して「調査結果等」という。)を通知する。(中略)
ア.法令等に違反する事実または違反するおそれのある事実の有無
イ.法令等に違反する事実が確認された場合は、その是正措置および再発防止策
ウ.法令等に違反するおそれのある事実が確認された場合は、その対応策
エ.(中略)
ア 上記第3の4⑷~⑺、⑼及び⒀で述べたとおり、原告は、被告に対し、本件豪州企業に対して本件GSTを支払う手続きを行った事実、本件GSTの支払いに係る契約内容に関する確認事項又は疑問事項、及び本件GSTの支払いに係る契約内容を確認していないことについて疑念を本件通報情報として告げていた。
イ 上記同⑽及び⒁で述べたとおり、被告は、原告に対し、本件各調査報告において、コンプライアンス違反ではないことが確認されていることにより具体的な個別の事項の回答は差し控える旨、及びGSTの還付を受けないままであったとしても不正行為等にはあたらない旨を報告した。被告は、原告に対して本件規程3.6 ⑴ イ又はウに定める通知をしない場合に該当する内容の調査報告を行ったことにより、本件規程3.6 ⑴ イに定める「是正措置および再発防止策」又は同ウに定める「対応策」を通知しなかった。
さらに、上記同⒂で述べたとおり、被告は、原告に対し、本件各調査報告に対する原告の質問事項についての回答として、契約書上のGST条項の有無や記載内容については調査しない旨、及び契約書を確認する行為は意味がない行為であるとして、契約書を確認しなかった行為を不審な行為や対応を怠った行為として認定しない旨を通知していた。
ウ 上記同⑿及び⒄で述べたとおり、甲21の内容によると、被告は、平成30年9月13日、本件契約を締結していた。被告と本件豪州企業との間の契約に関しては、本件契約が締結されるまでの間、GSTに関する定めは存在していなかった。GSTの請求については、何かしらの措置を行ったことにより、本件豪州企業が被告に対してGSTを請求していたのは平成29年4月までであった。
被告と本件豪州企業との契約の経緯について甲21の内容から整理すると、以下のとおりである。
平成26年4月1日 | 契約内容にGSTに関する定めが存在していない契約(以下「本件契約の前に契約した契約」という。)の有効開始日。 |
平成27年11月6日 | 原告が本件豪州企業に対して本件GSTを支払う手続きを行った。(本件通報情報) |
平成28年4月1日 | 本件契約の前に契約した契約が自動延長。 |
9月14日 | 原告が本件規程に定めるメールアドレスに対して本件通報をした。 |
平成29年2月7日 | 調査補助者が被通報者と協議を行った。 |
4月まで | この時点まで本件豪州企業が被告に対してGSTを請求していた。 |
8月14日 | 本件調査報告1を行った。 |
平成30年4月1日 | 本件契約の前に契約した契約が自動延長。 |
9月13日 | 被告がGSTに関する契約内容を記載した本件契約を締結した。 |
11月27日 | 原告が本件規程に定めるメールアドレスに対して本件通報をした。 |
令和元年10月25日 | 本件調査報告2を行った。 |
エ 上記ウで述べた被告が本件契約を締結した事実、及び本件豪州企業が被告に対してGSTを請求していたのは平成29年4月までであった事実からすると、本件豪州企業に対するGSTの支払いが契約に基づいていないこと、又は契約に基づいていないおそれがあることを、被告が本件通報を受けたことにより把握したから、是正措置、再発防止策又は対応策を実行したことが明らかである。
これにもかかわらず、被告は、本件各調査報告又は本件契約を締結した前後において、原告に対し、本件契約を締結した事実及び被告が本件豪州企業からGSTを請求されないために実行した是正措置、再発防止策又は対応策を本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウに定める事項として通知していなかった。
オ したがって、被告に本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの違反が存在する。
被告の本件規程3.6 ⑴ イ又は同ウの違反により、原告に対して業務の適正化に関する通知が行われなかったことから、原告は、業務を遂行するなかで本来行うべき業務プロセスを行うことができないなど、業務の適正等が確保できなかったという認識をしており、精神的苦痛が続いていた。
よって、被告について、民法第415条の債務不履行に基づく責任又は民法第709条の不法行為に基づく責任が成立し、原告は、被告に対して、1円の支払いを求める。
以上
証拠方法
「請求の原因」の事実を明らかにする書証は、被告が原告に対して、訴訟に関する行為について被告が原告に貸与するパソコン端末を使用することを認めた後、追って提出する。
付属書類
1 訴状副本 1通
2 資格証明書 1通