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確率過程

キーワード:確率過程、マルコフ過程、マルコフ連鎖、定常分布、マルコフ決定過程、階差過程(ランダムウォーク)、ウィーナー過程、ポアソン過程、ガウス過程、隠れマルコフモデル、MCMC

要点

  • 確率過程は、時間(や空間)\(t\) で並べた確率変数の族 \(\{X_t\}_{t\in T}\)。1回の実現を標本路という。
  • マルコフ性(次の状態の分布が現在の状態だけで決まる)があると、分布の変化は遷移行列のべき乗 \(\mathbf{p}_t=\mathbf{p}_0P^{t}\) で書ける。既約で非周期なら定常分布に収束する。
  • ランダムウォーク・ウィーナー過程・ポアソン過程・ガウス過程・隠れマルコフモデル・マルコフ決定過程は、どれも「何が確率的に動くか」の違い。

確率過程とは

  • 添字 \(t\) が整数なら離散時間、実数なら連続時間。\(X_t\) のとる値の集合が状態空間。
過程 説明 式
マルコフ過程 直前の状態だけで次の状態の確率が決まる \(P(X_{t+1}\mid X_t,\dots,X_0)=P(X_{t+1}\mid X_t)\)
マルコフ決定過程(MDP) 行動を選ぶと、状態遷移と報酬が確率的に決まる \(P(S_{t+1}\mid S_t,A_t),\ \ R_{t+1}=r(S_t,A_t,S_{t+1})\)
階差過程(ランダムウォーク) 前の値に独立なノイズを足して進む \(X_{t+1}=X_t+\varepsilon_{t+1},\ \ \varepsilon_{t+1}\sim\mathcal{N}(0,\sigma^2)\)
ウィーナー過程(ブラウン運動) 連続時間で、増分が独立な正規分布 \(W_0=0,\ \ W_t-W_s\sim\mathcal{N}(0,\,t-s)\ (s<t)\)
ポアソン過程 一定の割合で事象が起きた回数 \(N_t\sim\mathrm{Poisson}(\lambda t)\)
ガウス過程 どの有限個の時点の値も多変量正規分布に従う \((f(t_1),\dots,f(t_n))\sim\mathcal{N}(\mathbf{m},K)\)
隠れマルコフモデル(HMM) 観測できない状態がマルコフ連鎖で推移し、観測はその状態から出る \(P(Z_1)\prod_tP(Z_{t+1}\mid Z_t)\prod_tP(X_t\mid Z_t)\)

マルコフ連鎖

状態が離散で時間も離散のマルコフ過程。\(P_{ij}=P(X_{t+1}=j\mid X_t=i)\) を並べた遷移行列 \(P\) は、要素が非負で各行の和が 1。

\[ \mathbf{p}_{t+1}=\mathbf{p}_tP,\qquad \mathbf{p}_t=\mathbf{p}_0P^{t},\qquad P^{m+n}=P^{m}P^{n}\ \ (\text{チャップマン–コルモゴロフ}),\qquad \mathbf{p}^{*}=\mathbf{p}^{*}P \]
  • \(\mathbf{p}_t\) は時刻 \(t\) の状態分布(行ベクトル)。\(\mathbf{p}^{*}\) が定常分布で、\(P\) の固有値 1 に対する左固有ベクトルを、和が 1 になるよう規格化したもの。
  • 既約(どの状態からどの状態へも行ける)かつ非周期(決まった周期で戻るだけ、ということがない)なら、定常分布は一意で、初期分布によらず \(\mathbf{p}_t\to\mathbf{p}^{*}\) となる。
  • 収束の速さは、1 以外で最大の固有値の絶対値 \(|\lambda_2|\) で決まる(誤差が \(|\lambda_2|^{t}\) で減る。固有値分解)。
  • 詳細釣り合い \(p^{*}_iP_{ij}=p^{*}_jP_{ji}\) が成り立てば、\(\mathbf{p}^{*}\) は定常分布になる(両辺を \(i\) について足すと \(\sum_ip^{*}_iP_{ij}=p^{*}_j\))。

2状態の例(A から B へ移る確率 \(\alpha\)、B から A へ移る確率 \(\beta\))。

\[ P=\begin{pmatrix}1-\alpha&\alpha\\\beta&1-\beta\end{pmatrix},\qquad \mathbf{p}^{*}=\Bigl(\frac{\beta}{\alpha+\beta},\ \frac{\alpha}{\alpha+\beta}\Bigr),\qquad P(X_t=\mathrm{A})=p^{*}_{\mathrm{A}}+\bigl(p_{0,\mathrm{A}}-p^{*}_{\mathrm{A}}\bigr)(1-\alpha-\beta)^{t} \]

動かしてみる

  • \(\alpha=0.3,\ \beta=0.1\) のとき定常分布は \((0.25,\ 0.75)\) です。\(p_0=0.25\) に合わせると、\(t\) を動かしても確率が変わらなくなります(定常分布は、かけても変わらない分布)。
  • \(\alpha+\beta\) が 1 に近いほど \(\lambda_2=1-\alpha-\beta\) が 0 に近づき、ほぼ 1 ステップで定常分布に着きます。\(\alpha,\beta\) を小さくすると、収束がゆっくりになります。
  • \(\alpha=\beta=1\) にすると \(\lambda_2=-1\) で、A と B を交互に行き来するだけになり、収束しません(周期 2)。

マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)

  • 正規化定数が計算できない分布 \(p(\mathbf{x})\propto\tilde{p}(\mathbf{x})\)(例:ベイズ推定の事後分布)から標本を得るために、\(p\) を定常分布とするマルコフ連鎖を作る方法。
  • メトロポリス–ヘイスティングス法:提案分布 \(q(\mathbf{x}'\mid\mathbf{x})\) で候補を出し、次の確率で採択する。採択しなければ元の状態に留まる。
\[ a=\min\!\left(1,\ \frac{\tilde{p}(\mathbf{x}')\,q(\mathbf{x}\mid\mathbf{x}')}{\tilde{p}(\mathbf{x})\,q(\mathbf{x}'\mid\mathbf{x})}\right) \]
  • \(\tilde{p}\) の比しか使わないので、正規化定数が打ち消し合う。この採択ルールは詳細釣り合いを満たす。
  • ほかに、1変数ずつ条件付き分布から抽出するギブスサンプリングがある。初期の標本は捨て(バーンイン)、隣り合う標本には相関がある。

マルコフ決定過程(MDP)

マルコフ連鎖に行動と報酬を加えたもの。強化学習の問題設定(強化学習)。

\[ \begin{aligned} &\text{状態遷移確率} && p(s'\mid s,a)=\Pr(S_{t+1}=s'\mid S_t=s,\ A_t=a) \\[2mm] &\text{方策} && \pi(a\mid s)=\Pr(A_t=a\mid S_t=s) \\[2mm] &\text{報酬} && R_{t+1}=r(S_t,A_t,S_{t+1}) \\[2mm] &\text{リターン(累積割引報酬)} && G_t=\sum_{k=0}^{\infty}\gamma^{k}R_{t+k+1}=R_{t+1}+\gamma G_{t+1} \\[2mm] &\text{状態価値関数} && v_\pi(s)=\mathbb{E}_\pi\bigl[G_t\mid S_t=s\bigr] \\[2mm] &\text{行動価値関数} && q_\pi(s,a)=\mathbb{E}_\pi\bigl[G_t\mid S_t=s,\ A_t=a\bigr] \\[2mm] &\text{ベルマン方程式} && v_\pi(s)=\sum_{a}\pi(a\mid s)\sum_{s'}p(s'\mid s,a)\Bigl[r(s,a,s')+\gamma\,v_\pi(s')\Bigr] \end{aligned} \]
  • \(\mathcal{S}\):状態集合、\(\mathcal{A}\):行動集合、\(\gamma\in[0,1)\):割引率(遠い未来の報酬を割り引く。\(\gamma=1\) は有限の長さの問題でのみ使う)。
  • 方策 \(\pi\) を決めると、状態の列は遷移行列 \(P_{ij}=\sum_a\pi(a\mid i)\,p(j\mid i,a)\) のマルコフ連鎖になる。ベルマン方程式は、「今の価値 = 次の1歩の報酬 + 割り引いた次の状態の価値」という \(G_t=R_{t+1}+\gamma G_{t+1}\) の期待値版。

ランダムウォークとウィーナー過程

  • ランダムウォーク(階差過程):\(X_{t+1}=X_t+\varepsilon_{t+1}\)(\(\varepsilon\) は独立で同じ分布)。\(\varepsilon\sim\mathcal{N}(0,\sigma^2)\) なら \(X_t=X_0+\sum_{s\le t}\varepsilon_s\) の分散は \(t\sigma^2\)。分散は時間に比例し、標準偏差は \(\sqrt{t}\) に比例する。
  • ウィーナー過程 \(W_t\):\(W_0=0\)、増分が独立で \(W_t-W_s\sim\mathcal{N}(0,t-s)\)、経路は連続(ただしどこでも微分できない)。ランダムウォークの刻みを細かくした極限。
  • ドリフトつきブラウン運動(拡散過程)は確率微分方程式で書く。
\[ dX_t=\mu\,dt+\sigma\,dW_t \quad\Longrightarrow\quad X_t=X_0+\mu t+\sigma W_t\sim\mathcal{N}\bigl(X_0+\mu t,\ \sigma^2t\bigr) \]
  • 数値計算では \(\Delta t\) ずつ進める(オイラー–丸山法):\(X_{t+\Delta t}=X_t+\mu\Delta t+\sigma\sqrt{\Delta t}\,\varepsilon\)、\(\varepsilon\sim\mathcal{N}(0,1)\)。\(\sqrt{\Delta t}\) なのは、増分の分散が \(\Delta t\) に比例するため。
  • 拡散モデルは、データに少しずつノイズを足す過程をこの形の確率微分方程式で表し、逆向きにたどってデータを生成する(生成モデル)。

動かしてみる

  • 刻み数 \(n\) を 5 から 100 に増やすと、折れ線の経路がなめらかになり、ウィーナー過程の経路に近づきます。それでも帯(\(\mu t\pm\sigma\sqrt{t}\))と終点 \(X_T\) の分布は変わりません。
  • \(\sigma\) を大きくすると、帯が \(\sqrt{t}\) の形に広がります(直線的ではなく、最初に速く広がる)。\(\mu\) は帯全体を傾けます。
  • 下の「標本路 24 本の平均・標準偏差」は、標本が少ないため理論値(\(\mu T\)、\(\sigma\sqrt{T}\))から揺れます。

ポアソン過程

  • 区間 \((0,t]\) に事象が起きる回数 \(N_t\):\(N_0=0\)、増分は独立で定常、\(N_t\sim\mathrm{Poisson}(\lambda t)\)。\(\mathbb{E}[N_t]=\mathbb{V}[N_t]=\lambda t\)。
  • 事象と事象の間隔は、独立に指数分布 \(\mathrm{Exp}(\lambda)\)(平均 \(1/\lambda\))に従う。
  • 例:毎時 \(\lambda=2\) 件の割合で起きる事象が、30 分間に 1 回も起きない確率は、\(N\sim\mathrm{Poisson}(1)\) より \(e^{-1}\approx0.368\)。

ガウス過程

  • 関数 \(f(t)\) そのものの確率分布。どんな有限個の入力 \(t_1,\dots,t_n\) をとっても、\((f(t_1),\dots,f(t_n))\) が多変量正規分布 \(\mathcal{N}(\mathbf{m},K)\) に従う。
  • 平均は平均関数 \(m(t)\)、共分散はカーネル(共分散関数) \(K_{ij}=k(t_i,t_j)\) で決まる。\(K\) は半正定値でなければならない。近い入力ほど値が似るように \(k\) を選ぶ。
  • 観測が得られたら、多変量正規分布の条件付き分布(確率分布・ベイズの定理)を計算するだけで予測の平均と不確かさが得られる(ガウス過程回帰)。

隠れマルコフモデル(HMM)

観測できない状態 \(Z_t\) がマルコフ連鎖で推移し、観測 \(X_t\) はその時刻の \(Z_t\) だけから決まる。

\[ P(X_{1:T},Z_{1:T})=P(Z_1)\prod_{t=1}^{T-1}P(Z_{t+1}\mid Z_t)\prod_{t=1}^{T}P(X_t\mid Z_t) \]
  • パラメータ:初期分布 \(P(Z_1)\)、遷移確率 \(a_{ij}=P(Z_{t+1}=j\mid Z_t=i)\)、出力確率 \(b_j(x)=P(X_t=x\mid Z_t=j)\)。
問題 内容 解く方法
評価 観測列の確率 \(P(X_{1:T})\) を求める 前向きアルゴリズム
復号 最も確からしい状態列を求める ビタビアルゴリズム
学習 \(a_{ij}\)、\(b_j\) を観測から推定する Baum–Welch(EM アルゴリズム)
  • 前向きアルゴリズムは \(\alpha_t(j)=P(X_{1:t},Z_t=j)\) を漸化式 \(\alpha_t(j)=\Bigl[\sum_{i}\alpha_{t-1}(i)\,a_{ij}\Bigr]b_j(X_t)\) で求める。全状態列(\(K^{T}\) 通り)を足し上げる代わりに、計算量が \(O(TK^2)\) で済む。
  • 音声認識の古典的な枠組み(音声処理)。ニューラルネットワークによる系列モデルの前身にあたる。

試験の着眼点

  • マルコフ性:次の状態の分布は現在の状態だけで決まる。遷移行列は行の和が 1。
  • 定常分布は \(\mathbf{p}^{*}=\mathbf{p}^{*}P\)。既約かつ非周期なら一意で、そこへ収束する。収束の速さは第2固有値。
  • ランダムウォークの分散は \(t\) に比例。ウィーナー過程の増分は \(\mathcal{N}(0,t-s)\)。\(dX=\mu\,dt+\sigma\,dW\) はウィーナー過程そのものではなく、ドリフトつきの拡散過程。
  • ポアソン過程:回数は \(\mathrm{Poisson}(\lambda t)\)、間隔は \(\mathrm{Exp}(\lambda)\)。
  • MDP = マルコフ連鎖 + 行動 + 報酬。ベルマン方程式は \(v_\pi\) の再帰式。
  • ガウス過程 = 任意の有限個の点が多変量正規分布。HMM の3つの問題は、評価・復号・学習。
  • MCMC は正規化定数が不要。採択確率は \(\tilde{p}\) の比で決まる。

参考