マルチファクタースコア ― 7軸で「全方位の優等生」を探す
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「PERが低いから買い」「ROEが高いから買い」 ― 単一指標だけのスクリーニングは、思わぬ罠にはまりがちです。
本記事では、Value / Quality / Growth / Consensus / Sentiment / Momentum / Risk という 7 ファクターでマルチな評価を行っていきます。割安・高ROEで評価が高いのに株価は下落、評価が劣るのに上昇 ― そんな ファンダ評価と株価の逆転現象 を、ファンダ・需給・モメンタムを横並びにして定量的に読み解きます。
マルチファクターモデルとは ― 7 つの観点を並列で採点し、総合点に合成する
Fama-French、Carhart、Q-factor など機関投資家のクオンツモデルは「複数ファクターを並列スコア化して合成する」という共通構造を持ちます。本ダッシュボードは 7 ファクターを採用します。
| ファクター | 観点 | 主要指標 |
|---|---|---|
| Value | 割安度 | PER / PBR / EV/EBITDA / 配当利回り |
| Quality | 収益性・財務健全性 | ROE / ROA / 営業利益率 / 自己資本比率 |
| Growth | 過去の成長実績 | 売上高変化率 / 経常利益変化率 |
| Consensus | 将来予想の改善度 | 業績予想修正率 / 経常利益変化率(予想) / 3年売上成長率(予想) |
| Sentiment | 需給の熱量 | 出来高増加率 / 売買代金増加率 |
| Momentum | 株価のトレンド | 値上り率 / 52週安値からの上昇率 / MA乖離率 |
| Risk | リスク要素(低いほど良い) | 60日ボラティリティ / β(対日経平均) |
全ファクターが平均以上の銘柄はオールラウンダー(コア候補)、一つだけ突出して低い銘柄はその要因で敬遠する判断材料になる ― これがマルチファクター採点の利点です。
各指標は パーセンタイルランク化(0–100)(市場全体の中で何番目かを 0〜100 点に直す)してから単純平均し、総合スコアを合成します(スコア 70 以上が上位 30% の注目候補)。
主要6銘柄の「銘柄の性格」を見る
7 ファクターを並列で見るにはレーダーチャートが標準です。7 軸の 形のいびつさ で、銘柄の性格(攻め型・守り型・バランス型)が一目で分かります。

- キーエンスは Quality 一点突出の「典型的な高品質・割高銘柄」 ― 形が右上に偏る
- ソフトバンクGは Risk 軸だけ極端に凹んだ「高リターン高リスク型」
- KDDI・トヨタは全方位バランス型
| 銘柄 | 総合 | 形状の特徴 |
|---|---|---|
| ソフトバンクG | 54 | Momentum 99 / Sentiment 92 / Growth 83 と需給・業績が最強。Risk 0 = ほぼ最高ボラティリティが唯一の弱点 |
| 三菱UFJ | 53 | Momentum 73 / Sentiment 81 が強く、最近の銀行株上昇を反映。一方 Quality 32(銀行はROEが構造的に低い) |
| キーエンス | 55.7 | Quality 92(高ROEで別格)だが Value 6(PERが市場上位 6% = 割高) |
| KDDI | 56 | バランス型。Risk 69(低ボラ)で長期保有向き |
| トヨタ | 48 | 全ファクターが 34〜70 で突出した強みなし。Sentiment 12 / Momentum 42 から直近モメンタム弱め |
| ソニーG | 44 | Sentiment 23 / Momentum 42 と需給・モメンタムが低迷。Growth 18 で過去の成長実績も振るわない |
大型100銘柄の「全体序列」
レーダーが「個別銘柄の性格」を見るのに対し、ヒートマップは「全体序列」を見るツールです。TOPIX大型 100 銘柄内の総合スコア Top 20 を 7 ファクター別に色分けすると、どのファクターで稼いでいるかが一目で分かります。

- ディフェンシブ(JT・アステラス製薬)と需給・業績の強い銘柄(SOMPOHD・ソフトバンク)が混在
- 業種最大手(ENEOSなど)でも総合 50 で Top 20 圏外 ― 業種大手とマルチファクター評価は別物
- 見るべきは総合スコアの高さより どのファクターで稼いでいるか ― ディフェンシブ型・需給型・業績型はリスクの性格が違う
元売3社で「割安だけでは決まらない」
石油元売 3 社は そろって割安(Value 70〜92) ですが、総合スコアは コスモ 55・出光 53・ENEOS 50 と僅差で、序列を分けるのは Quality・Growth と需給(Sentiment / Momentum) です。7 ファクターで見直すと、各社が「どこで稼ぎ、どこが弱いか」が一目で分かります。

- コスモエネHD: 3 社で最割安(Value 92)+コンセンサス良好(Consensus 68)で総合は 3 社最高の 55。ただし Quality 41 / Growth 19 と質・成長が弱く、需給も Sentiment 65(売買は活発)に対し Momentum 42 と株価の勢いは中位 ― 割安が総合点を押し上げても、価格はまだ追いついていない
- ENEOS: Value 70 / Quality 32 と地味だが、Growth 54 + 需給(Sentiment 77 / Momentum 61)で「動いている」。経常利益変化率 +408% という実績がモメンタムを支える ― ただしこの +408% は前期の在庫評価損が反転した「見かけの回復」 で、Growth スコアを実態以上に押し上げている点には注意
- 出光興産: 需給が 3 社で最も強い(Sentiment 88 / Momentum 77) ― モメンタム先行で買われている型。割安(Value 74)だが Quality 30 / Growth 22 と質・成長は弱め。総合 53
| 銘柄 | 総合 | Value | Qual. | Growth | Cons. | Sent. | Mom. | Risk |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| コスモエネHD | 55 | 92 | 41 | 19 | 68 | 65 | 42 | 59 |
| ENEOS | 50 | 70 | 32 | 54 | 22 | 77 | 61 | 32 |
| 出光興産 | 53 | 74 | 30 | 22 | 25 | 88 | 77 | 54 |
💡 元売 3 社は そろって割安(Value 70〜92)でも総合は僅差。差を生むのは 質(Quality)・成長(Growth)・需給(Sentiment / Momentum) ― 最割安のコスモ(総合最高)も Quality 41 / Growth 19 が弱く Momentum 42 と中位で、割安だけでは株価の勢いに直結しない。ファンダだけ・需給だけでは見えない構図が一目で分かるのがマルチファクター採点の価値。
まとめ
- 単一指標スクリーニングの落とし穴(バリュー・トラップ / 成長停止 / 過熱)を 7 ファクター統合採点 で自動回避できる
- レーダーチャートが標準的な可視化。7 軸の形のいびつさで銘柄の性格(攻め型・守り型・バランス型)が一目で分かる
- 石油元売3社は 割安(Value)はそろって高いが総合は僅差 ― 質・成長・需給の差で序列がつき、最割安のコスモ(総合最高 55)でも Momentum は中位で株価の勢いに欠ける
- 使い方は 総合スコアの高さより「どのファクターで稼いでいるか」(型)を見ること ― ディフェンシブ型・需給型・業績型はリスクの性格が違う
公開サイトで試す
7軸のうち、ROE・利益率・自己資本比率といった財務の軸は、有価証券報告書の数値で、公開サイトでも並べて見られます。株価やモメンタムなど、価格に基づく軸は含みません。有報ベースなので、記事の数値とは、期や定義が異なる場合があります。
Python コード
本記事のチャート画像・アプリ・データ取得・成形スクリプトは、すべて GitHub に公開しています。データは提供元の利用規約により再配布できませんが、データを各自取得すれば、この記事と同じものが再現できます(動かし方はリポジトリの README 参照)。
📌 自作アプリ紹介
7 ファクター(Value / Quality / Growth / Consensus / Sentiment / Momentum / Risk)のレーダーチャートを銘柄ごとにブラウザで並べて表示します。銘柄コードを入力するだけで記事中のスコアボードが自分の環境でそのまま動き、「全方位優等生」候補を対話的に絞り込めます。
