K-means クラスタリング ― 教師なし学習が分けた「決算の型」
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「商社っぽい決算」「いかにも成長株らしい数字」。決算の "型" は、つい主観で語ってしまいます。では、銘柄名も業種も伏せて 10 個の数値だけ を機械に渡し、「似た者どうし」に勝手に分類させたら、どんな型が出てくるでしょうか。
本記事は k-means クラスタリング(正解を教えずに、似たものを機械が勝手にまとめる=教師なし学習)で 287 銘柄の決算を分類し、データだけが描く「決算の型」を発見します。そしてこの分析の中核 ENEOS が、どの型に入るのかを見ます。
K-means で「決算の型」を見つける
記事 3-1 で設計した 10 次元の数値特徴量(売上・営利・税引前・純利・包括の YoY、配当成長、営業利益率、純利益率、セグメント数、主力依存度)をそのまま使います。z-score で正規化し、k-means で似た決算どうしを自動でグループ分けします(正解ラベルは与えません)。

- シルエットは K=2 と K=3 がほぼ同じくらい良く(0.30 前後)、K≧4 で 0.19 以下に低下 ― 決算は本質的に「少数の型」に分かれる
- ほぼ互角の 2 と 3 のうち、本記事は K=3 を採用。2 つだと「高収益 vs その他」で終わるが、3 つにすると型がもう一段見えるため
型マップで「3 つの決算プロファイル」を観測
10 次元の特徴量を、PCA(多くの次元を 2 次元に圧縮して見る手法)で平面に映します。軸そのものに決まった意味はありませんが、近い決算ほど近くに置かれる ので、型のまとまりが見えます。

| 型 | 社数 | 性格(実数値の平均) |
|---|---|---|
| A 急回復・高成長 | 41 | 純利 YoY +147%・包括 +234%・営利 +124% / 利益率は中位(営利 8.6%) |
| B 高収益・集中 | 36 | 営業利益率 31.8%・純利益率 24.7% が突出 / 単一セグメント(1.2) |
| C 平均・安定 | 210 | 1 桁成長・平均的マージン・多角化(2.9 セグメント)= 大多数 |
- 業種コードを一切使っていないのに、右に「急回復」・上に「高収益」・中央に「平均」 という構造が自動で現れます
- 決算の 73%(210/287)は "平均型"。突出するのは「急回復」と「高収益」の 2 つの裾 だけ ― これ自体が発見です
- ENEOSは右端の 型A(急回復)、任天堂も型A、丸紅・双日・ソニーG は中央の型C に位置します
型プロファイルで「各型の正体」を確認
各型が 10 指標で 母集団平均からどれだけ離れているか(標準偏差)を見ると、型の正体がくっきりします。

- 型A 急回復:YoY 系がすべて赤(純利 +1.9σ・営利 +1.7σ…)。利益率は平均並み ― 「水準は普通だが伸び率が突出」
- 型B 高収益:営業利益率 +2.3σ・純利益率 +2.2σ が突出し、セグメント数 −0.9σ(単一事業)。「専業で稼ぐ高マージン型」
- 型C 平均:全指標がほぼ 0σ。市場の大多数を占める "ふつうの決算"
ENEOS ― 機械学習が下した「急回復型」の判定
ENEOSは型A(急回復)、しかも 右端の極端な位置 に置かれました。背景は 2026/3 期の 継続事業ベース営業利益 +339.8% という急回復です。ただし k-means が捉えたのは 「伸び率の型」 であって利益の実力の大きさではなく、この伸び率には 前期の落ち込みからの反動 が含まれます。
記事 1-3 で見た「純利益 5,371 → 2,261 億の半減(ピークアウト)」の、ちょうど 反転局面 を、k-means が 教師なしで「急回復型」と分類 した形です。「ピーク → 反落 → 急回復」という市況循環(シクリカル)の波が、銘柄名を伏せた数値だけから "型" として浮かび上がります。
ただし 型A = 次も安泰、ではありません。急回復は在庫評価差益や特需など 一過性要因 で起きることも多く、ENEOSの +339.8% も、当期の利益水準自体は実力ベースでも堅調(同社開示の在庫影響除き 4,744 億)な一方、「急回復」の振れ幅は前期の在庫評価損が反転した分だけ大きく見えています。利益の質(記事 2-3 アクルーアル)やセグメント(記事 2-6 で見た高OPM事業の正常化)と併せて、割り引いて読む 必要があります。クラスタリングは「型を当てる」道具であって、「未来を当てる」道具ではありません。
まとめ
- 10 次元の決算特徴量を k-means(教師なし学習) で分類。シルエット係数から K=3 を採用
- 287 銘柄は A 急回復・高成長(41)/ B 高収益・集中(36)/ C 平均・安定(210) の 3 型に分かれた ― 業種コード不使用でも構造が自動的に現れる
- 決算の 73% は "平均型"。投資妙味のある裾は「急回復」と「高収益」の 2 つだけ、という地図が描けた
- ENEOSは急回復型の右端。1-3 で見たピークアウトの反転局面を、データだけが "型" として捉えた。ただし急回復の持続性は利益の質・セグメントと併読が必須
公開サイトで試す
「急回復型」と判定されたENEOSを、元売の出光興産・コスモと並べて、利益率・ROE・キャッシュフローを見比べられます。クラスタリングの結果は含みません。有報ベースなので、記事の数値とは、期や定義が異なる場合があります。
Python コード
本記事のチャート画像・データ取得・成形スクリプトは、すべて GitHub に公開しています。クラスタリングの計算方法(特徴量の正規化・シルエットによる K 決定・k-means・PCA可視化)は、リポジトリの README にまとめています。データは提供元の利用規約により再配布できませんが、データを各自取得すれば、この記事と同じものが再現できます。